クラス全員が大きな山場を越えた三月。
「第二志望以内で全員合格おめでとうございます!!見事に第二の刃までで仕留めましたね!!」
殺せんせーが物凄い速さで拍手をしている。触手独特のペタペタとした音が鳴っていた。生徒が無事に進学先が決まった事で、殺せんせーも肩の荷が下りたようだ。かくいう棗も第一志望の国立上野学芸高校に無事受かり一安心している身である。
「本来この後進路相談の予定でしたが……その前に先生、是非やりたい事があります」
うずうずとした様子の殺せんせーに、クラッカーの準備までしている生徒がちらほら。宴ムードかと思いきや。
「編集作業です」
すかさず「何でだよ!!」というクラスの総ツッコミが入る。先生もクラスメイトも絶好調だ。何よりである。
「勿論、卒業アルバムを作るんです。E組だけの!!」
確かに学校全体の正式な卒業アルバムは烏間が担任という事で既に作成されている。国家機密である殺せんせーを載せるわけにはいかないので当然ではあるが、それは少し寂しいものでもある。
「ちょいちょいマッハで写り込んではいる。バレない程度に」
「……これじゃ心霊写真だな」
「でもミ○ケみたいでちょっとオモロい」
「僕等は殺せんせーを知っているからそう思えるけど、本校舎生徒からしたら恐怖だと思うよ歌さん」
確かに何も知らない本校舎生徒がこれに気がついたら心霊写真以外の何物でもなく、恐怖を覚える者もいるかもしれない。気づく程まじまじと見る生徒がどのくらいいるかは不明だが。
「だからちゃんとこの写真を使いたいんです!!」
教卓に置かれた山のような写真。一年間スキをついては撮影しコツコツ貯め込んだ自撮り写真である。その数、実に3万枚強。
「この中から皆でベストの思い出写真を選定しましょう!!」
ベタな写真は正規のアルバムで充分使っているので意外性のある写真がいいのではという方向性になり、そういう事ならと殺せんせーはクラスメイトの意外な一面を切り取った写真を並べていく。
クールビューティーな速水がペットショップで猫を抱いて破顔している写真や、夜の校舎でエアギターをする三村、姫系の服のみを試着する片岡、飛び出て来たゴキブリに乙女のような反応をする村松の写真まで。
「速水さんと猫の組み合わせとか神やん。プリンセスメグちゃんも尊すぎる」
「ちょっ、棗やめてくれる?」
「恥ずかしすぎる……」
それから夜中の校庭を全裸で走り回る岡島の写真もあった。
「虎男何してんの??」
本当にこれに関しては何がしたいんだ。開放的になりたかったのだろうか。棗には到底辿り着けない領域である。
「……いつか君が警察のお世話にならん事を祈っとくね」
「やめろ!!お前のその顔はなんか心に来るんだよ!!……というか、ひょっとしてこの中には俺のスゲーヤバい写真も入ってんじゃねーのか?」
「既にめちゃくちゃヤバい写真なのにそれ以上って何??」
もしかすると一人遊びでもしていたのだろうか。一瞬そう考えてやめた。
クラスメイト達は恐らく自分の黒歴史もあの大量の写真の中に入っているのだろうと察知し、血眼になって自分の写真を探し始める。それを横目に「編集作業に熱がこもってきましたねぇ」とほくほくしている殺せんせー。温度差が凄い。
やいのやいのと騒がしいクラスメイト達をぼんやり眺めていたら、肩にポンと殺せんせーの手が乗る。何故か顔がピンク色で、にやにやしていた。
「棗さんは出不精ですから意外性のある写真が中々撮れませんでしたが、君の分もちゃんとありますよ」
「え、私の分ですか?」
自分の意外性のある一面とはなんなのだろうか。自分の事だからというのもあるが、全く心当たりがない。気になって差し出された写真を見ると、それはいつぞやのクリスマスデート中の一幕であった。
「どわあああああ!?!?!?エ!?!?あの時いたんですか殺せんせー!?!?」
それは昼食時に喫茶店で学秀君からあーんをされた時の写真。殺せんせーは腕だけが写っていて、ご丁寧にハートの形になっている。
「うお、何だこれ!!歌川お前、浅野とデートしたのかよ!!てか、付き合ってんのか!?いつの間に!?」
くわっと目をかっぴらいた岡島が声を上げる。その気迫が何だか少し怖い。
「え、何何、棗ちゃんついに浅野クンと付き合ったの?うわ、浅野クン見た事ない顔であーんしてんじゃんウケる(笑)」
「へぇ〜、デートとは中々やるではないか〜」
揶揄うのが好きなカルマと中村コンビがすかさず茶々をいれてくる。
「こ、この時はまだ付き合ってなかったよ!!付き合い始めたのはバレンタインの時からで……」
「付き合ってなかった時でこれなんだ……」
「というか付き合ったなら言ってよ〜」
「聞かれんかったけん……」
わざわざ大々的に報告する事でもない。勿論、限られた数人には交際を始めた事を報告しているが。
「ヌルフフフ、まだまだありますよ」
「クリスマスデートの時の写真ばっかり!?というかダメじゃないですか先生!!他の生徒ならまだしも学秀くんですよ!?バレちゃうかも知れないじゃないですか!!先生は国家機密なんですから気をつけてください!!」
怒るところはそこじゃないだろ、とクラスからの総ツッコミが入った。
「デート以外にもありますよ。これは体育祭の借り物競争にてお姫様抱っこで棗さんを抱え走る浅野君、同じく体育祭にて棗さんの頬を弄りながら思わず吹き出す浅野君、こちらは学園祭一日目終了後に棗さんの上目遣いに狼狽える浅野君、同じく棗さんの満面の笑みに狼狽える浅野君……」
「ほぼ浅野メインみてーになってんじゃねーか!」
全くもって前原の言う通りである。これでは『E組生徒の意外な一面!!〜浅野学秀を添えて〜』になってしまう。
「いえ、棗さんと浅野君二人が主役です」
「だからアイツはA組だって……」
「いやー、でもこのクラスの生徒で誰かとお付き合いをしているのは棗さんくらいなので……それにクラスが違うからこその良さが……」
その気持ちは大変理解出来るのだが、いざ自分が当事者になるとむず痒い気持ちになる。
「……」
しかしまぁよく撮れている。流石殺せんせーと言ったところか。マジマジと手元の写真を見つめながら、棗は殺せんせーに問いかけた。
「殺せんせー……あの。学秀くんと私の写真、データとかってありますか?」
「ええ、勿論ありますが……はっ、もしかして消せと!?」
そんな事は勿体ない、二人のラブラブ写真は自分が家宝にするのだと必死になる殺せんせーと、それを冷ややかな目で見つめるクラスメイト達。
「い、いやそうじゃなくてですね……えっと、データ送ってもらえないかなって思って」
「にゅ?」
ぱちくりと豆のような目を瞬かせ面食らった表情を浮かべる殺せんせー。
「私達お互い自撮りしないからツーショット写真とか持ってなくて。それに、凄く良く撮れてるから思い出に欲しいな……なんて」
学秀はよく「棗ちゃんこっち向いて」と言って棗の写真を撮るので、棗単体の写真なら恐らく学秀のスマホのフォルダにそれなりの量があるのだろうが。
「そういう事でしたらお任せください!!」
「あ、で、でもデートの写真は卒アルには載せないで貰えると……照れるので……」
「分かりました、デートの写真は載せません!」
その後も「撮り溜めた量では足りない」と追加で写真を撮る流れになり、何故か色んな画像をした。挙句の果てには巨大カバンに詰められ一日かけ世界30ヶ国を巡り、計何十万枚にも及ぶ写真を撮った。
帰ってきた頃には皆疲れ果てヘトヘトになっていた。言い出しっぺの殺せんせーが一番へばっていた事は言うまでもない。
(疲れたけど、楽しかったな)
今この時、この瞬間しか出来ない貴重な体験。もう二度と経験出来ない特殊な一年。一生忘れることはないだろう。
そしてその日の夜の事だった。
巨大な一筋の光が――椚ヶ丘学園旧校舎へと放たれたのは。
限られた数人→杏子、竹林、律、殺せんせー、茅野