【完結】その生徒、暗殺者に非ず。   作:クリオネf。t

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"好き"を筆にのせて

 帰宅して一息つく。今頃クラスメイト達は東奔西走している事だろう。待つ事しか出来ないのは歯痒さもあるが、きっとそれが自分に与えられた役目なのだ。

 テレビはどのチャンネルに変えても殺せんせーの話題で持ち切りだ。新しい情報を得る為にテレビに釘付けになっていた棗だったが、突如スマホの着信を知らせるバイブレーションが鳴り響いた。竹林からの連絡が来たのかと覗いたディスプレイには学秀の名前が表示されている。

 

「!!」

 

 咄嗟に自室へ向かい、通話ボタンを押した。

 

「もしもし学秀くん?」

『棗ちゃん。中継を見たけど、大丈夫なのかい』

 

 どうやら先程棗達が映されていた生中継を見たようで、心配の滲んだ声色で問いかけてくる。

 

「うん、私は大丈夫。今は家に戻って大人しくしてるところ」

『そうか……父さんもつい会見の為に家を空けてる。まぁあの人の事だから心配する必要はないんだけど』

「そうだよね、こんな事態になったわけだし会見あるよね。なんか凄い大変な事になったな……」

 

 元々世界の命運をかけた暗殺計画なのだから、いずれはこうなる運命ではあったのだろうが。今に始まった事ではないが、あまりにも現実味がなさすぎる。

 

『……今報道されている事が、E組の抱えていた秘密なんだな』

「うん。でもね、先生は政府の人達が言ってるような悪い人じゃないよ。証明は難しいけど」

『君が言うならそうなんだろうね。実際今年のE組の成長は並のものではなかったし、相当腕のいい教師だったんだろう』

「うん、いい先生だよ。凄く尊敬してるんだ」

 

 自分を信じてくれる者の存在は本当に心強い。学秀との会話で、改めてそう感じた。

 

「私達、まだまだやる事が残ってるの。それが終わったら、この一年の事聞いて欲しいな」

『分かった。くれぐれも無茶はしないように。君に何かあったら僕は悔やんでも悔やみきれないからね』

「うん、ありがと学秀くん。……大好き」

『! ……僕も。愛しているよ、棗ちゃん』

「……それじゃ、またね」

『ああ。君の話、楽しみにしてる。またね』

 

 ピ、と通話を切る。学秀と話をしていて少しだけ気持ちが落ち着いた。

 

 (恋人って偉大だな……ううん、学秀くんだから偉大なのかも)

 

 リビングへ戻った時、報道番組には丁度學峯の会見の様子が映し出されていた。

 

『怪物を学校に受け入れるなんて!!』

『あまつさえ生徒に銃を持たすのを容認するなんて!!』

『子供達の心に傷を残すとは考えなかったんですか!!』

 

「いや寧ろピンピンしとるがな〜」

 

 画面越しに聞こえてくる記者達の声を聞きながら暢気にそうツッコミを入れた。

 

『教育者なら命をかけて守るべきだった筈です!!貴方が怪物と戦ってでも!!』

 

「理事長先生途中からたまに暗殺参加しとったがな〜」

 

 多忙の身ではあるので頻繁ではなかったが、あの日の対決以降ちょくちょく殺せんせーの元へ訪れ暗殺をしかける姿を見た事がある。

 

 (というか、ガチで自分の命をかけようとしてたからなぁ理事長先生)

 

 今こうやって好き放題言ってる取材陣達の中に同じように命をかけられる人間が果たしてどれくらい存在するのだろう。同じ立場に立った時、彼等は同じように自らの命を差し出せるのか。聞いてみたいものである。

 

『生徒の教育にプラスになると判断したから雇ったまで。あの怪物が優れた教師でなかったらとっくにクビを切っている。それだけの事です』

 

 學峯はそれだけ言うと速やかに離席した。その堂々たる出で立ちは、流石学秀の父親であると言う他ない。

 

「そう言えばあれから暫く経ったけど、皆からの連絡ないなぁ」

 

 そう独り言をこぼした時、スマホから「棗さん棗さん!」と声がした。

 

「りっちゃん!どーしたの、皆は?」

「それが……」

 

 律の話によると、クラスメイト達は皆司令本部へ連れて行かれたそうだ。聞けば、暗殺完了まで保護下に置くという名目上の監禁に近い状況になっているらしい。

 

「もしかしてここにも来る……?」

「いえ、話を聞く限り棗さんは本部の方々から『戦力外』と見做されているようで……放っておいても大丈夫だろうと」

「大草原不可避」

 

 まさかの戦力外扱い。確かにその通りだが。しかし忘れてはいけない。存在を認知されているのに見向きもされないという立場はある意味最強であるいうことを。

 

「折角だし好き放題させてもらおうかな!」

 

 とは言え一人だと出来る事は限られる。監禁されているクラスメイト達の事はもしかすると烏間やイリーナがどうにかするかも知れない。

 

「それなら私は殺せんせーの良さを伝える信仰伝道師的存在になってやるぜ!」

「し、信仰伝道師ですか?」

「うん!!まぁ正直それでも先生の良さを分からない人も沢山いると思うよ。でも、分かる人は分かる筈!!少なからず親しみを持ってくれる人はいる!!てなわけで、先生のお茶目なところを世界に発信だ!!というか先生の尊さを全世界に共有したい!!」

「一体何をどうするおつもりなのですか?」

「先生がエロ本の山の上で一心不乱に読み漁ってるところを流す!!」

「ええっ!?」

「りっちゃん……エロはね、国境を越えるんだよ……」

 

 確かにそれに関しては万国共通する部分もあり、親しみを感じる者もいるのかもしれない。しかし。

 

「よ、よく分かりませんが、殺せんせーが恥ずかしい思いをするのでは??」

「うーん……確かに名誉棄損かな……でもなぁ、一部の人だけでも殺せんせーに親しみを感じてくれたら私は嬉しいんだけど」

「確か棗さん、描き溜めた殺せんせーのイラストがあるのでは?今このタイミングでSNSにアップするというのはどうでしょう」

「ソレダーーッ!!」

 

 分身して授業を行う殺せんせー。かき氷を食べる殺せんせー。水の中に落とされそうになって焦る殺せんせー。この一年、色んな殺せんせーの絵を描いた。

 

「これで先生に愛着を持ってくれる人が少しでも増えたらいいな」

 

 勿論「美化されている」と思う者もいるかもしれない。しかしそれが事実かどうかは分からなくても、それでも構わないと思えるくらい棗の描く殺せんせーを好きだと思ってもらえたなら、きっとそれは見てくれた人達が「殺せんせーが好き」と言ってくれているのと同義だ。

 大好きな殺せんせー。お茶目でかわいい先生の姿を皆にもお裾分けしたい。そんな気持ちでSNSでの発信を開始した。例えすぐに結果が出なくともいい。大きく拡がらなくともいい。焦る必要は無い。ただ、殺せんせーへの愛を最大限込めて。

 

「これがきっと私の武器なんだ」

 

 ストックホルム症候群だとか可哀想だとか、そう思うのならば好きにするがいい。それでも私は殺せんせーが大好きだぞと、声高らかにここで叫ぶのだ。




律は烏間から聞いた情報を棗に伝えている。
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