【完結】その生徒、暗殺者に非ず。   作:クリオネf。t

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オラに文才を分けてくれ。



決戦の時

 突如として、目の前のケーキが砕かれた。

 何が起こったのか一瞬では飲み込めず、皆唖然としている。

 

「ハッピーバースデー」

 

 現れたのは白装束を身に纏う柳澤。そして謎の黒服の男。

 

「クサレ脳ミソ……!」

「柳沢……!!」

「機は熟した。世界一残酷な死をプレゼントしよう」

 

 柳沢の後ろに立つ黒服の男が、「先生、僕が誰だか分かるよね」と殺せんせーに問う。

 

「改めて生徒達にも紹介しようか。彼がそのタコから『死神』の名を奪った男だ。そして、今日からは彼が新しい『殺せんせー』だ」

 

 黒服の男の服は弾け飛び、禍々しく悍ましい姿がそこに鎮座していた。殺せんせーよりも大きな身体。まさに「化物」と呼ぶに相応しい姿だろう。

 

「こ……こいつがあの……俺等を襲った二代目『死神』?前は顔だけだったのに……全身がバケモンになってんじゃねーか!」

「そのタコと同じ改造を施しただけさ。違う点は……彼が自ら強く望んでこの改造を受けた事だ。不出来なイトナや義妹(いもうと)とはわけが違う。想像出来るだろうか。人間の時ですら一人で君達を圧倒した男が、比類なき触手と憎悪を得たその破壊力を」

 

 その瞬間、とてつもない衝撃波が棗達を襲った。逃げる暇さえない攻撃だった。

 

衝撃波(ソニックブーム)さ。彼の触手は初速からマッハ2を出す。最高瞬間速度は……マッハ40!!」

 

 マッハ40。それは殺せんせーのマッハ20を遥かに上回る速度であった。あの殺せんせーですら攻撃を防ぐ事で手一杯になっている。

 

「この狭いバリアの中では最高速度までは出せんがな。要するに基本性能が倍という事。『二代目』の超人的な動体視力と直感力は触手によって増幅され、超音速の世界にも容易く順応した。素人の子供と違ってあっという間に触手に慣れた。そこにいる『触手』がそうであったようにな」

 

 果たしてそれは慣れていいものなのか。人体に触手を植え付けられるだなんて人権を与えられていない事と等しいとすら思えるのに。

 

「最大の違いはあのタコやお前達と違い、継続的運用を考慮に入れない触手設計。要するに彼はメンテナンスの必要がない使い捨てだ」

 

 それでも柳沢にとっては使い捨て。それだというのに力を強く求めて自ら人を捨てる。何が彼をそうさせるかは分からないけれど、彼にはそれしか無かったのだろう。そして柳沢は周囲の人間を慮る事を知らず、自分の価値を自らの成果でしか感じる事が出来ないのだ。

 

 なんて可哀想。

 

 その一言に尽きた。彼等は可哀想な生き物なのだ。

 

「寿命は三ヶ月も無い代わりに凄まじいエネルギーを引き出すよう調整出来た。勿論死ぬ時も爆発する危険は無い仕組みだ。ハハハハハ!!安全で完璧な兵器だろう!!」

 

 救いようが無さすぎて最早怒りすら湧いてこなかった。

 

「……そうやっていつも……他人ばかり傷つけて……自分は安全なところから……!!」

 

 姉の婚約者だった男だ。茅野の柳沢に対する怒りは他の誰よりも大きいのだろう。それが言葉のひとつひとつに滲み出ていた。

 柳沢は何を考えているのかよく分からない無の表情を浮かべる。

 

「……そう思うかね?」

 

 そうして柳沢が取り出したのは、触手細胞の入った注射機だった。それを自ら首に刺し、細胞を注入していく。

 

「俺に死の覚悟が無いと……そう思うかね?」

 

 柳沢のような怪物の覚悟する死など、そんなものに価値は1ミリたりともない。そんな覚悟をしたところで彼の行った数々の所業が帳消しになる筈がないのだから。

 

「命などもうどうでもいい。俺から全てを奪ったお前さえ殺せれば」

 

 よくもそんな事が言えたものだ。

 違う。奪ったのは殺せんせーではない。そもそも奪われてすらいない。私利私欲のまま振る舞い平気で他者を傷つけ、何かを分け与える事すらしなかった柳沢自身の身から出た錆。全てはそれでしかないのだ。

 結局のところ、最初から何も持っていないのが柳沢という怪物なのだ。

 触手細胞を打ち込んだ柳沢の姿は人の形は保ったまま、みるみるうちに化物へと変化する。

 

「関節、筋繊維、脊髄、神経。全身でなくとも要所に触手を少しずつ埋め込めば、人間の機能を保ったまま超人になれる」

「!!」

 

 柳沢の放つ光に、殺せんせーの皮膚が硬直していく。

 

「無惨に死ねモルモット……愛する生徒に一生の傷が残るように!!」

「なんのっ!!」

 

 それでも二代目の素早い攻撃を何とか弾き受け流す。

 

「…………。……皆さん、さっきの授業で言い忘れていた事があります。いかに巧みに正面戦闘を避けてきた殺し屋でも、人生の中では必ず数度全力を尽くして戦わねばならない時がある。先生の場合……それは今です!!」

 

 一撃一撃が衝撃波(ソニックブーム)を生む規格外の闘い。常人である棗達にその動きは全く見えなくとも、なんとか判るのは殺せんせーが圧倒的に押されているという事実。

 

 倍の速度を持つ「二代目」の攻撃と、体も頭脳も超人となった「柳沢」の援護(サポート)

 

「絶望だろうモルモット!!二人×触手×天才×憎悪の力!!お前ごときの力をとうに超えているぞ!!」

 

 捉えられない音速バトル。次元の違い過ぎる闘い。烏間すら手を出せない音速の対決。増してや棗達が何か出来よう筈もない。

 

 (でも大丈夫。私は先生を信じたい。……信じる。殺せんせーは負けない!!)

 

「負けるな殺せんせー!!ファイト!!」

 

 場違いかもしれなくとも、自分にはこれしか出来ないから。これが少しでも殺せんせーの活力になってくれたらいい。

 そして殺せんせーの動きに僅かな変化が出始めていた。

 

「……躱し……始めてる?」

 

 今まで攻撃を受け流していただけだった殺せんせーが、少しずつ「二代目」の攻撃を躱し始めたのだ。

 

「フン、ならばこれはどうだ!!」

 

 柳沢が再び光を放つ。しかし殺せんせーはそれを土を使って防いだ。戦力差を工夫で埋めて示す姿は、まさに手本を見せる教師の姿。

 

「こればかりはっ……年季の差です!!」

 

 激しいぶつかり合いは続く。

 

「道を外れた生徒には……今から教師の私が責任を取ります。だが柳沢、君は出ていけ。ここは生徒が育つ為の場所だ。君が立ち入る資格は無い!!」

「……まだ教師なぞを気取るかモルモット。……ならば試してやろう。分からないか?我々が何故()()タイミングを選んで来たのか」

 

 「二代目」の影が生徒達を覆う。

 

「パワー重視の全開攻撃を躱せない生徒達を標的(ターゲット)に、全員死ぬまで繰り出し続ける」

「いけないッ……」

 

 殺せんせーは死んでも生徒を守る。彼等の狙いはそれだったのだ。なんと卑劣な。

 

「守るんだよな?先生って奴は」

 

 「二代目」による攻撃で棗達がダメージをくらう事はなかった。しかしそれはつまり、二代目「死神」の全力の一撃を全て殺せんせーが受けたという事。

 

「殺せんせー!!」

「教師の鑑だなモルモット!!自分一人なら逃げれるだろうこの強撃を……生徒を守る為に正面から受けるとは」

 

 (前は自分の事しか大事に出来ない生き物だって罵ってた癖に)

 

 やはりバケモノ思考の生き物の頭は都合のいいように出来ているのだ。

 

「さぁ『二代目』、次だ!!」

 

 それから何度も何度も生徒を狙い飛んでくる攻撃を、殺せんせーはひたすらに受け続けた。

 

標的(ターゲット)と生徒が一緒にいれば……()()()()のは当然の答えだ。不正解だったんだよ、今夜校舎(ここ)に入って来たお前等の選択はな」

「やめろ柳沢!!これ以上生徒を巻き添えにするな!!さもなくば……」

 

 烏間が柳沢を止めようと銃を向けるが、敢えなく攻撃をくらってしまった。

 

「黙って見てろ、国家の犬。お前はもう俺にすら勝てはしない」

「……く……」

 

 全く、好き勝手な事ばかり言ってくれる。反吐が出そうだ。

 

「どんな気分だ!!?だ〜い好きな先生の足手まといになって絶望する生徒を見るのは!!」

 

 絶望などするものか。大切なものを守りたいのは先生だろうが生徒だろうが変わらない。大切なものがあれば守ろうとするのが人間だ。

 

 (自分以外に守りたい存在のないお前みたいな哀れな生き物見てたら絶望する気すら失せるわ!)

 

「分かったか、お前の最大の弱点はな……」

「なわきゃないでしょう!!正解か不正解かなど問題じゃない!!彼等は命がけで私を救おうとし!!その過程が!!その心が教師にとって最も嬉しい贈り物だ!!弱点でも足手まといでもない!!生徒です!!全員が……私の誇れる生徒達です!!」

 

 そうだ、そうなのだ。棗達は殺せんせーの生徒。誰に何をどう言われようとも、生徒ったら生徒なのだと胸を張って言える。

 

「……っそれに……生徒を守るのは、教師の当たり前の義務ですから……!!」

「そうかそうか。だがな、その義務も我々の手で否定される。お前は間も無く力尽き……そこまでして守った生徒も……俺の手で全員嬲り殺す。お前が我々の人生を破壊してまで手に入れた一年。その全てが無駄だったと否定してやる。それでようやく……我々の復讐は完成する」

 

 自業自得で破滅の一途を辿っている癖に。そんな事をしたところで、自らの矮小さが証明されるだけだというのに。

 

「では続けるぞ。ちゃんと守れよ、可愛い生徒を」

 

 その時、「二代目」に向けて対先生BB弾が放たれた。そして前に躍り出る人物が一人。

 

「逃げて殺せんせー!!時間稼ぐからどっか隠れて回復を!!」

 

 茅野は向かってきた「二代目」の触手攻撃をナイフで受け流す。

 

「ほう。流石は元・触手持ち。動体視力が残っていたか」

「よすんです茅野さん!!」

 

 いくら動体視力が残っていると言えどあくまで茅野は人間で、相手は怪物。いつまで持つか分からないし、下手をすればすぐに殺されてしまうかもしれない。

 

「……ずっと、後悔してた。私のせいで皆が真実を知っちゃった事。クラスの楽しい時間を奪っちゃった事。……だからせめて……守らせて。先生の生徒として」

 

 そんな事誰も気にしていない。いつかは知らなければならなかった事だ。遅かれ早かれ真実を知る事になっていた筈なのだから。

 

「君の行動は正しかったんです!!あのお陰で皆が本当に大事な事を学べたのだから!!」

 

 茅野があの選択をしていようとしていまいと、彼女がそう決めて選んだ道だ。正しいだとか間違いだとかは無いのだ。

 

「『二代目』」

 

 柳沢は親指を下に向けて合図した。

 これはまずい、誰もがそう思った時にはもう遅く、「二代目」の触手が容赦なく茅野の腹部を貫通する。茅野の身体が力無く地面へと落ちる。

 

「ぉえっ……」

 

 初めて人間の胴体が貫かれ息絶える光景を目の当たりにした棗は思わずえずいた。

 

「はははははははははははははは!!姉妹揃って俺の前で死にやがった!!本当に迷惑な奴等だな!!姉の代用品として飼ってやっても良かったが……生憎穴の空いたアバズレには興味無くてね」

 

 どこまで行っても人の心が一欠片もないロクデモナシだ。怒りと吐き気を抑えるのに精一杯な棗は、口元を手で押えながら柳沢を睨みつける。

 そして……殺せんせーの顔は見るまでもなく、あの日のド怒りの表情だった。

 

「それだ。我を忘れて感情が歪めば……触手生物の全身は真っ黒に染まる!その色でなくてはフルパワーは出せない。つまり闇の黒こそが破壊生物の本性なのだ。ふざけた黄色の偽善者面で過ごした一年を……お前自ら全否定した事になる。大いに満足だ」

 

 それは違う。確かに黒い姿は殺せんせーの本心からの怒り。だがいつもの殺せんせーも、縞模様もピンク色も、全てがありのままの殺せんせーの一面なのだ。柳沢は自身が醜い生き物だから、醜さだけが本性だと思えるのだ。

 

「そして……ボロボロのお前の渾身のド怒りも、真の力を出す『二代目』によって否定される」

 

 「最後の攻撃だ」と、柳沢は「二代目」に注射器を打ち込んだ。それだけで衝撃波が飛んでくる。

 

「離れよう!!」

 

 渚が茅野を抱えながら言う。

 

「僕等から注意が逸れているうちに!!ここにいたら確実に巻き添えだ!!」

 

 渚の言葉に渋る者もいたが、皆一斉にその場から離れた。

 

「……地獄のような一年だった……だが、今終わる」

 

 殺せんせーに放たれる一点攻撃。そこには……白い光が見えた。しかし触手は変わらず黒。否、黄色。赤。緑。青。白。全ての感情を、全ての過去を、全ての命を全て混ぜて、純白の光となっているのだ。

 

「……教え子よ。せめて安らかな……卒業を」

 

 強大な光が「二代目」を包み、柳沢をも巻き込む。柳沢の飛ばされた先は対触手用のバリアがあった。体内の重要な器官のほとんどに触手細胞を埋め込んで強化した柳沢の身体。ただで済む筈はなかった。きっと、因果応報だ。

 それから「二代目」の身体も。

 

 彼は、安らかな最期を向かえられたのだろうか。




敗者席で何話すんだろうか、鷹岡と柳沢は。喧嘩になりそうな気もするし意気投合しそうな気もするし……
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