あの後、殺せんせーの面影を探して教室へと戻った。
そこには全員分の卒業証書と卒業アルバム、生徒それぞれへのアドバイスブックが置いてあった。冒頭は漫画から入る読みやすい配慮。
ただ、溜まった疲労もあって読みながら寝落ちしてもたしまったのだが。残りは時間をかけてじっくり読もうと決めた。まさか校舎で夜を明かすとは思わなかった。
早朝目が覚めて外を見ると、早咲きの桜が小さく強く揺れていた。
「君達には……納得できない事もあるかもしれん。暫くは注目されて大変だと思うし……機密事項の口止めなども頼む事だろう。勿論、出来る限り君等を守るが……俺から先に謝らせてくれ」
「烏間先生、平気ッスよ。俺等も上手い事平穏におさまるよう努力するから」
「烏間先生を困らせたくないしね」
「その代わり皆の希望があるんですが、今日の椚ヶ丘の卒業式には出させて下さい。本校舎の皆との戦いの日々も……殺せんせーと作った大事な思い出だから」
仲良くしてもらっていた生徒も約三名いるので、折角だから卒業式で同じ学校の生徒として最後に顔を合わせたい。付き合いはこれからも続くと思うが。
「……ああ。手配しよう。その為に俺はここにいるんだからな」
「全員起立!!」
「烏間先生、ビッチ先生、本当に色々教えて頂きありがとうございました」と全員で深々と一礼する。
卒業式は学校が閉鎖されている為、市民会館で行われるらしい。
(お父さんとお母さん、心配しとるやろーなぁ)
制服を持ってきてもらわねば。
*
そうして執り行われた卒業式。
「卒業おめでとう」
「ありがとうございます!」
理事長である學峯直々に卒業証書を受け取る。
「君とはこの先も付き合いが続くかもしれないね」
「……へっ?あ、そ、そうですね!」
驚いた。そんな事を言われるとは思わなかったからだ。學峯の事だからもしかすると学秀との交際の事をしっているのかもしれない。まぁ友達関係のままであったとしても学秀との交流は続いているだろうから、そちらかもしれないが。
「理事長先生も色々頑張ってくださいね」
「ああ、ありがとう」
「では」
一礼して壇上を降りる。
卒業式は滞りなく進み、幕を下ろした。
この後は政府のバスによって送り届けられる予定だ。両親と少しだけ会話を交わして、バスへと向かう……筈だったのだが。
「……げぇ」
そこに待ち構えていたのはマスコミだ。特ダネの為に我先にとこぞって群がっている。
パシャパシャと炊かれるフラッシュに耳障りな声。しかしそれを押しのけE組を守るように囲む者達がいた。学秀達五英傑が率いるA組だった。
「なっ……何だ君達は。ジャマするな!!」
「見ての通り卒業生だよ。テメーらこそ人の花道ジャマすんじゃねぇ」
「君達の強引な取材姿勢には僕等も随分迷惑した。編集してネットに告発しようかね〜」
「全員顔覚えたしな、ギシャシャシャ」
何とも心強い事か。流石は普段から多くの生徒を牽引しているだけある。
「さ……僕等に隠れて。駐車場までエスコートしよう」
何故か約一名神崎に絡みに行く者がいたが。ついでに杉野からがしりと手首を掴まれ阻止されていた。
「大半が今日で縁もゆかりも無くなるとはいえ、仮にも同じ学校で学んだ生徒だ。見捨てれば支配者の僕の恥になる」
あんなにE組を目の敵にしていた学秀が今、同じ学校の生徒としてE組を庇おうとしてくれている。それが嬉しくて、思わず口角が上がった。
「赤羽。君だけは
「別にいいけど、浅野クンの固い頭じゃ全部理解は難しいかな〜」
(何やかんやで仲良さげだな、いい事だ)
うんうん、と心の中で頷く。
そうこうしているうちに皆バスへ乗り込んでいく。
「さぁ、君で最後だよ棗ちゃん」
「皆の事守ってくれてありがと。学秀くん、皆」
バスへ乗り込む前に礼を告げると、学秀は柔らかく微笑む。
「理由はさっき言った通りだけど、あとはまぁ棗ちゃんもいるからね。放っておくわけにはいかないだろう」
「えへへ……でも、E組と学秀くん達が仲良くなってくれて嬉しい」
「別に仲良くなったつもりはないが……」
「棗ちゃんが嬉しいならそれでもいいか」と学秀は言った。
「名残惜しいけど、時間がないんだろう?また後でゆっくり話をしよう」
「うん!」
「その前に少しいいかな」
「ん?」
学秀の手が棗の右頬に添えられる。何だろうと不思議に思い見つめていると、そのまま顔が近づき左頬にふにっと柔らかい感触が。
「!?!?!?」
何が起こったのか一瞬理解出来ずにフリーズした。今何をした。頬に当たったものは。まさか唇か。
「ちょちょちょっと!?な、なに……!?み、皆見てるよ!?ま、マスコミの人達も来てるのにー!!」
「はは、すまない」
「ビックリしたわ!!なんかもう色々と吹っ飛ぶくらいビックリした!!」
瀬尾達も唖然としているではないか。人前でこんな事をしてどういうつもりなのだこの男は。……嫌ではなかったが。
「もー……ほんとに……」
唇を押し当てられた頬を手で押さえてじとりと学秀を見る。
「その顔もかわいいね」
「……はぁ。じゃ」
この男には敵わない。棗は思わず溜息をつき、バスへと乗り込む……その前に。
「!」
ぎゅっと学秀に抱き着く。
「……また後で、ね……」
「ああ」
短い抱擁のち、今度こそバスへと乗り込む。
「ちょっとー、今の何!?」
「ラブラブじゃん!!」
乗り込んで早々クラスメイト達からの注目を浴びた。人前であんなやり取りをしたのだから当たり前だが、居た堪れない。
「私だってビックリしたんだよー!!こんなに人がいっぱいいるのにあんな事されるなんて……」
「牽制のつもりだったんじゃない?」
「そ、そーなの?」
「歌さんも罪な女だね」
「えぇ……?」
戸惑いつつ、座席へ着く。車内のカーテンの隙間から外を見れば、取材陣と沢山の生徒達。そして学秀達の姿が見える。
今日で椚ヶ丘ともお別れだ。
とはいえ、それに対しての寂しさはあまりない。仲のいい者とは連絡先を交換しているし、今後もメッセージのやり取り等交流が続くだろうから。
(3月から高校生かぁ……)
これから巡ってくるだろう沢山の新しい出来事が、今は楽しみで仕方がない。
次で最後になるかと思います。