【完結】その生徒、暗殺者に非ず。   作:クリオネf。t

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イリーナ先生

「あー…今日から来た、外国語の臨時教師を紹介する」

「イリーナ・イェラビッチと申しますぅ、皆さんよろしく!!」

 

 (え、えっちで綺麗な人だ…!)

 

 棗のイリーナへの第一印象はこれであった。棗は恋愛的嗜好ならば男女共変わらないくらいだが、性的嗜好ではどちらかというと女性の方に魅力を感じる性質なのである。

 美人で、ナイスバディなお姉さん。はっきり言って物凄く好みであった。ちなみに棗は巨乳好きである。

 烏間の説明によると、彼女が赴任したのは本格的な外国語に触れさせたいとの、学校の意向だそうで。

 

「英語の半分は彼女の受け持ちで文句は無いな?」

「…仕方ありませんねぇ」

 

「にゅるふ…」と殺せんせーはイリーナにデレデレである。流石の棗にも分かるくらいデレデレだ。しかし、気持ちはよく分かる。

 

「ああ…見れば見るほど素敵ですわぁ。その正露丸みたいなつぶらな瞳。曖昧な関節。私、虜になってしまいそう…!」

「いやぁ、お恥ずかしい…」

 

 ベタベタと殺せんせーに密着するイリーナと、デレデレ全開な殺せんせー。女子生徒たちは皆、『()()がツボな女なんていないから』と思った。

 

「確かに殺せんせーってゆるキャラみたいでかわいいもんなぁ…」

 

 棗がそう独りごちると、周囲の目がバッ!!と一斉に棗の方を向く。コイツマジか、みたいな顔をされて、棗は思わず首を傾げた。

 

「え……な、なに??」

 

 思わぬ注目を集めた棗は脳内パニックになる。何が何だか分からずに混乱するばかりだ。その視線もすぐになくなったが。

 

 (何だったんだろ……)

 

 この時は疑問に思ったが、まぁいいかと棗は思った。こういうことは割とすぐにどうでも良くなる棗の性質である。

 

 

 休み時間。

 暗殺サッカーなるものをしていた殺せんせーと生徒たちの元へ、イリーナが駆け寄ってきた。厳密に言うと殺せんせーの元へ駆け寄ってきた、の方が正しいが。

 

「烏間先生から聞きましたわ。すっごく足がお速いんですって?」

「いやぁ、それほどでもないですねぇ」

「お願いがあるの。一度本場のベトナムコーヒーを飲んでみたくて。私が英語を教えている間に買ってきてくださらない?」

「お安い御用です。ベトナムに良い店を知ってますから」

 

 デレデレになりながら浮遊し、マッハでベトナムへと向かった殺せんせー。その瞬間、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。

 

「…で、えーと。イリーナ…先生?授業始まるし、教室戻ります?」

 

 磯貝がイリーナへ話しかけると、今までの媚びていた態度とは違う冷たい声が返ってくる。

 

「授業?…ああ。各自適当に自習でもしてなさい」

 

 そう言って煙草に火をつけ吸い始める。

 

 (おお…アニメのキャラみたいや…)

 

 他の生徒たちが呆然とする中、棗は能天気にそんな感想を抱く。煙草を吸う金髪美女。まるで某探偵漫画に登場する敵組織の幹部、ベ○モットのようだ。

 

「それと、ファーストネームで気安く呼ぶのやめてくれる?あのタコの前以外では先生を演じるつもりも無いし、『イェラビッチお姉様』と呼びなさい」

 

 静寂が場を包む。最初に口を開いたのはカルマだ。

 

「…で、どーすんの?ビッチ姉さん」

「略すな!!」

 

 意外とキレのあるツッコミをするイリーナ。

 

「あんた殺し屋なんでしょ?クラス総掛かりで殺せないモンスター、ビッチ姉さん一人で殺れんの?」

「…ガキが。大人にはね、大人の殺り方があるのよ。潮田渚ってあんたよね?」

 

 そう言って渚に近づいたイリーナは、何の前触れもなくキスをかました。しかも、ディープな方である。

 

「後で教員室にいらっしゃい。あんたが調べた奴の情報、聞いてみたいわ。ま…強制的に話させる方法なんていくらでもあるけどね。その他も!!有力な情報持ってる子は話しに来なさい。良い事してあげるわよ。女子にはオトコだって貸してあげるし。技術も人脈も全て有るのがプロの仕事よ。ガキは外野で大人しく拝んでなさい。あと、少しでも私の暗殺の邪魔したら、殺すわよ」

 

 そのあまりにもあまりな言葉に、クラス中からの避難の目がイリーナへと向く。そんな中。

 

「え……金髪巨乳美女と男の娘のディープキス……??ご褒美か……??そんなもの無料で拝めていいのか……??」

 

 緊張感のないことを呟く棗。

 

「通常運転すぎるよ歌さん…」

 

 竹林は思わずツッコんでしまったのであった。

 

 

 自習時間……否、本来ならば英語の授業時間なのだが、黒板にでかでかと『自習』という文字が書かれ、イリーナはひたすらタブレットを見ている。

 

「なー、ビッチ姉さん。授業してくれよー」

「そーだよビッチ姉さーん」

「一応ここじゃ先生なんだろビッチ姉さん」

「あーー!!ビッチビッチうるっさいわね!!まず正確な発音が違う!!あんたら日本人は『B』と『V』の区別もつかないのね!!正しい『V』の発音を教えたげるわ。まず歯で下唇を軽く噛む!!ほら!!」

 

 キレたイリーナに言われるがまま、下唇を噛む動作をする。

 

「……そう。そのまま一時間過ごしてれば静かでいいわ」

 

 傲岸不遜なその態度。この時点で既に生徒からの評価はマイナスをぶっちぎっていた。

 

 

 体育の時間。

 

「…烏間先生。私達……あの(ひと)の事好きになれません」

 

  片岡がはっきりとそう言い放った。

 

「…すまない。プロの彼女に一任しろとの国の指示でな。だが、僅か一日で全ての準備を整える手際。殺し屋として一流なのは確かだろう」

 

  そうやって話をしていれば、とんでもない爆音が二人のいる倉庫から鳴り響く。恐らく銃声だろう。それが止んだと思えば、今度はヌルヌルという音が響いてきた。一体中で何が起こっているというのか。

 

 (え、エロ同人誌的なことが起こってたりするんかな…)

 

 少しドキドキしながら、棗は他のクラスメイトと共に倉庫の方へ走る。

 

「殺せんせー!」

「おっぱいは!?」

「いやぁ…もう少し楽しみたかったですが、皆さんとの授業の方が楽しみですから」

「な、中で何があったんですか…」

 

 渚が疑問を投げかけた瞬間、中からブルマ姿のイリーナが出てきた。健全な格好の筈なのに逆に不健全に感じるのは、棗の気の所為ではない筈だ。

 

「殺せんせー何したの?」

「さぁねぇ。大人には大人の手入れがありますから」

「悪い大人の顔だ!!」

「さ、教室に戻りますよ!」

 


 

 その日の出来事でプライドを傷つけられたイリーナは、いつも以上に気が立った様子でタタタタとタブレットを操作していた。

 

「ああもう!!なんでWiーFi入んないのよこのボロ校舎!!」

「必死だね、ビッチ姉さん」

 

  (完全にビッチ姉さん定着してて草なんだが……)

 

()()()()されちゃプライドズタズタだろうね」

 

 相変わらず愉快そうなカルマは流石である。そしてクラス委員の磯貝は、クラスを代表して声を上げる。

 

「先生」

「…何よ」

「授業してくれないなら、殺せんせーと交代してくれませんか?一応俺ら今年受験生なんで…」

「はん!あの凶悪生物に教わりたいの?地球の危機と受験を比べられるなんて…ガキは平和でいいわね〜。それに、聞けばあんた達E組って…この学校の落ちこぼれだそうじゃない。勉強なんて今更して意味無いでしょ」

 

 その言葉で、教室内の雰囲気がガラリと変わった。イリーナはそれに気づかずに続ける。

 

「そうだ!!じゃあこうしましょ。私が暗殺に成功したら、一人五百万円分けてあげる。あんたたちがこれから一生目にする事ない大金よ!!無駄な勉強するよりずっと有益でしょ。だから、黙って私に従い…」

 

 (あーあ…)

 

 ついには生徒たちの方から消しゴムが飛んできた。棗は、ああ、地雷を踏んだんだな…と思いながらその光景をぼんやり眺める。棗としては他人の言葉で自分の価値が左右されるとは思わないし、周りのクラスメイトのことだってそうだと思っているのであまり気に留めていなかった。面倒なことが嫌だと言うのもある。

 

「…出てけよ」

 

 その一声を皮切りに、他の生徒からも物が飛び、避難の嵐が巻き起こった。うるさいな、と思いながら棗は机につっ伏す。

 

「出てけクソビッチ!!」

「殺せんせーと代わってよ!!」

「何よあんた達その態度っ!!殺すわよ!?」

「上等だよ殺ってみろコラァ!!」

「そーだそーだ!!巨乳なんていらない!!」

 

 もう収拾がつかない、非常に面倒なことになっていた。渾沌(カオス)である。その光景を教室の外から見ていた烏間は頭を抱えた。

 

 

 そして次の英語の授業。

 イリーナが教室へ入って来たかと思うと、そのまま黒板の方へ向かい、チョークで英文を書き始めた。

 

「『You are incredible in bed.』!言って(リピート)!!」

 突然のことに、生徒たちは少し戸惑いながら席へ着く。

「ほら!」

 

 イリーナに催促され、生徒たちはその英文を復唱した。

 

「アメリカでとあるVIPを暗殺した時、まずそいつのボディガードに色仕掛けで接近したわ。その時彼が私に言った言葉よ。意味は、『ベッドでの君はスゴイよ…♡』」

 

 (確かに凄そう……)

 

 棗はイリーナの変わり様よりも、そっちのことが物凄く気になった。彼女もお歳頃の女子中学生であるということだ。

 

「外国語を短い時間で習得するには、その国の恋人を作るのが手っ取り早いとよく言われるわ。相手の気持ちをよく知りたいから、必死で言葉を理解しようとするのね。私は仕事上必要な時…そのやり方で新たな言語を身につけて来た。だから私の授業では、外国人の口説き方を教えてあげる。プロの暗殺者直伝の『仲良くなる会話のコツ』。身につければ、実際に外国人に会った時に必ず役に立つわ」

 

 確かに、もし外国人観光客が困っていて自分に声をかけてきた時に英語が理解出来ず、話せないと対応出来ない。折角日本を好きで、観光してくれている人には少しでも楽しい思い出を作ってもらって、日本に来て良かったな、また来たいな、と思って貰えた方がこちらとしても嬉しいことだろう。

 

「受験に必要な勉強なんて、あのタコに教わりなさい。私が教えてあげられるのはあくまで実践的な会話術だけ。もし…それでもあんた達が私を先生と思えなかったら、その時は暗殺を諦めて出て行くわ。……そ、それなら文句ないでしょ?…あと、悪かったわよ、色々」

 

 つい先刻までとは打って変わって弱々しい姿に、クラスメイトたちは思わず笑った。

 棗はというと……

 

 (ギャップだ……めっちゃ好き……)

 

 恐らく他の生徒とは違う思考回路が回っている。

 

「何ビクビクしてんのさ、さっきまで殺すとか言ってたクセに」

「なんか、普通に先生になっちゃったな」

「もうビッチ姉さんなんて呼べないね」

 

 どうやら、イリーナも生徒たちの心を掴んだようである。

 

「あんた達…わかってくれたのね…!」

 

 イリーナも感激で涙を浮かべている。殺し屋としてはプロでも、きっとどこか不器用な部分がある先生なのだろう。

 

「考えてみれば、先生に向かって失礼な呼び方だったよね」

「うん。呼び方、変えないとね」

「じゃ、ビッチ先生で」

 

 折角の感動が台無しである。

 

「…………えー…………」

 

 この流れでまさかその呼び方とは、棗も驚きのあまり思わず低く声を漏らしてしまった。しかし、最も衝撃を受けているのは呼ばれた当人のイリーナである。

 

「えっ…と。ねぇキミ達、折角だからビッチから離れてみない?ホラ、気安くファーストネームで呼んでくれても構わな……」

「でもなぁ、もうすっかりビッチで固定されちゃったし」

「うん、イリーナ先生よりビッチ先生の方がしっくり来るよ」

「そんなわけでよろしく、ビッチ先生!!」

「授業始めようぜ、ビッチ先生!!」

 

 最初は穏やかに交渉しようとしていたイリーナも、ビッチビッチと連呼され堪忍袋の緒が切れたらしく、

 

「キーーッ!!やっぱりキライよあんた達!!」

 

 何はともあれ、イリーナもすっかりこのクラスに馴染んだようで。棗はこれからが更に楽しみになった。

 


 

 放課後。殺せんせーに少しだけ用事があった棗が職員室へ立ち寄ると、イリーナもそこにいた。

 

「あっ、イリーナ先生。これからよろしくお願いします!」

 

 棗はそう言って笑顔でぺこりと頭を下げた。元々人数が少ないE組教員の中でも、唯一の女性教師。仲良くなりたいな、と思っての行動だった。そんな棗を、イリーナは何故か呆然と見つめている。

 

「? あの、イリーナ先生?どうしたんですか?大丈夫ですか?」

 

 心配になって覗き込んだ瞬間、ガッ!と両手で肩を掴まれて、思わずビクッとなる棗。一体何事だろうか。

 

「あんたは私のこと、ちゃんとファーストネームで呼んでくれるのね……!!」

「え?あ、ハイ……」

 

 棗としては、イリーナが嫌がっていたと言うのと、棗個人的には『イリーナ』の方が名前の響きがかわいくて好きだったからそう呼ぼうと思っただけのことである。

 

「あんた名前はなんて言うの?」

「えと、歌川棗です」

「ナツメね!もう、あんたのことは大好きよ!」

「わぷっ!?」

 

 そう言ってぎゅむ〜っと抱きしめられる。イリーナは外国人なだけあって身長が高く、棗は140cm台前半な為に思いっきり顔が胸に埋まってしまっていた。

 

「これから仲良くしましょうね!」

「は、はひ…!」

 

 (ひぇ〜、柔らか、いい匂い……!!)

 

 顔を真っ赤にし、ドキドキしながら棗はイリーナの腕の中でもがく。息は非常に苦しいが、まぁ役得か……とも思うのであった。




イリーナ先生かわいいですよね。
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