【完結】その生徒、暗殺者に非ず。   作:クリオネf。t

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中間テスト

 中間テスト前強化期間。

 殺せんせーの分身もパワーアップして、一人に一人の分身がついて勉強を教えている。主要五教科の中で棗が得意なのは国語。その他は全般苦手である。理数系は特に。しかし殺せんせーが来てから、少しずつではあるが成績も改善している傾向にあった。

 中間テストはすぐそこだ。テストというのは憂鬱だが、殺せんせーのおかげで少し自信がついたので頑張ろうと意気込む。今日も殺せんせーに少し質問をしたくて職員室へ立ち寄ろうとしたら、部屋の前で中を覗く渚を見つけた。その瞬間、中から見かけない人物が出て来る。渚は驚いて飛び退き、それに気づいたその人物は渚に話しかけた。

 

「やあ、中間テスト期待してるよ。頑張りなさい」

 

 穏やかな笑顔を浮かべたその人物は、そう言い残すとその場を立ち去る。そして棗のいる方向へ歩いて来て、棗とも顔を合わせることとなった。

 

「こんにちは!」

 

 棗は笑顔を浮かべて元気よくその人物に挨拶をした。その人物は、棗を見て柔らかな笑みを浮かべる。

 

「ああ、こんにちは。君も、中間テスト頑張ってね」

「はい!」

 

 やはりそれだけ言って、今度こそ完全に立ち去っていってしまった。その方向をしばし見つめた後、棗は職員室前にいる渚に先程からずっと思っていた疑問を投げかける。

 

「渚くん…あの人誰?」

「……………へ??」

 

 渚は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。何故そんな顔をされたのか見当もつかない棗は、そんな渚を見て不思議そうな表情を浮かべる。

 

「な、棗ちゃん…知らないの?え、冗談とかじゃ…」

「?」

「なさそうだね…」

 

 渚は心底驚愕しているようで、どこか煮え切らない反応を見せた。何故冗談だと思われているのか全く理解が出来ない。自分はそんなにおかしなことを言っただろうか。

 

「えっとね、棗ちゃん。あの人はこの学校の理事長先生だよ…」

 

 理事長。理事長というのが具体的にどういう役職までかはよくわからないし、校長と理事長のどっちが偉い立場なのかもよくわかっていないが……とにかく偉い人というのは理解した。それに、名前だけなら印象に残っているので覚えている。

 

「じゃあさっきのが浅野學峯って人か〜、ふーん」

 

 中々珍しい、インパクトのある名前なのでそこだけ覚えた。何せ理事長は表舞台に顔を出さない。だから棗は、プリントなど書類に記載されている名前でしか理事長のことを知らなかったのだ。

 

「えぇ…あの理事長のこと知らない人っているんだね…」

「んー、興味ないもんそんな人」

「きょ、興味ない……そ、そっか……」

 

 まさかあの浅野學峯を興味ないから覚えてないなどと言う生徒が存在するとは、誰が想像しただろうか。あまりの衝撃に、渚は先程までの陰鬱な気持ちが吹っ飛んでしまった。

 

「なんか、穏やかそうな人だったね〜。この学校の人とは思えんくらい」

 

 棗は他人の表情から感情を読み取ったり、言葉から感情の機微を察知することが苦手な類の人間だ。だから、渚や多くの生徒が感じる學峯の威圧感も、彼の浮かべる表面上の穏やかさに隠れて見ることが出来なかった。

 

「……そっかー……」

 

 棗がE組にいながらもあまり何も気にしている様子がないのは、そういうところも要因のひとつなのかもしれないと渚は思った。

 


 

 その翌日の殺せんせーの気合いは、いつも以上に凄かった。それはもう、バテバテになる程に。

 

「……流石に相当疲れたみたいだな」

「今なら殺れるかな?」

「なんでここまで一生懸命先生をすんのかね〜」

「ヌルフフフ…全ては君達のテストの点を上げる為です。そうすれば…」

 

 殺せんせーの脳内には、生徒たちからの尊敬の眼差しと、評判を聞いた近所の巨乳大学生にモテる妄想が広がっていた。

 

「殺される危険もなくなり、先生にはいい事づくめ」

 

 (私は先生のこと充分尊敬してるし……何なら、余計に暗殺する気持ちが薄れていってるけど……いいんだろうかこれ……)

 

 棗は暗殺に興味が持てない。だからまず、『生徒』としてだけ、『教師』である殺せんせーと向き合うことにした。だが、それが原因かはよくわからないが、日に日に殺せんせーへの情が強くなっていく。情が強くなる度、暗殺する気持ちは弱くなっていく。ここは暗殺教室でなければ、寧ろその感覚の方が普通かもしれない。しかし普通ではないこの教室では、普通が異質。殺せんせーはそれでも構わないと言ってくれたが、本当にそれでいいのか。棗は変なところを気にせず、変なところを気にするタイプの人間だった。

 

「…いや、勉強の方はそれなりでいいよな」

「…うん。何たって暗殺すれば賞金百億だし」

「百億あれば成績悪くてもその後の人生バラ色だしね」

「にゅやッ!?そ、そういう考えをしますか!?」

「俺達『エンドのE組』だぜ?殺せんせー」

「テストなんかより…暗殺の方が余程身近なチャンスなんだよ」

 

 E組の生徒たちは、本校舎の教師や生徒からの扱いもあってか、自己肯定感が低い。棗自身も、自分に自信なんてないし、自己肯定感の強い人間ではないが……他の生徒たちと違い『E組であるから』という理由ではない。

 

「はるほど。よくわかりました。今の君達には…暗殺者の資格がありませんねぇ。全員校庭へ出なさい。烏間先生とイリーナ先生も呼んでください」

 

 殺せんせーにそう促され、生徒たちは皆校庭へ出た。

 

「急に校庭に出ろなんて、どーしたんだ殺せんせー」

「さぁ…いきなり不機嫌になったよね」

「み、皆が自分を卑下すること言ったからじゃないかな…多分…」

 

 殺せんせーは生徒一人一人を大切に思ってくれている。きっと、自分たちの行く末を案じ、未来が広がるように考えてくれているのだろう。…自分の両親のように。

 そんな大切な生徒たちのことを、例え生徒たち自身であっても悪く言うのは良しとしないのだ、殺せんせーは。とは言え、他人の気持ちを理解することが苦手な棗には、実のところどうなのかはよくわからない。ただ、棗なりにこうなのではないかと考えただけ。憶測に近かった。けれども、自分たちを大切にしてくれているということだけは……きっと憶測ではない。

 

「何なのよ、急に来いって」

「殺せんせーがイリーナ先生も呼べって」

 

 クラス委員の片岡がイリーナを連れてやって来た。

 

「イリーナ先生。プロの殺し屋として伺いますが」

「……何よいきなり」

「貴女はいつも仕事をする時…用意するプランはひとつですか?」

「…? …いいえ。本命のプランなんて、思った通り行くことの方が少ないわ。不測の事態に備えて…予備のプランをより綿密に作っておくのが暗殺の基本よ。ま、あんたの場合規格外過ぎて予備プランが全部狂ったけど。見てらっしゃい。次こそ必ず…」

「無理ですねぇ。では次に烏間先生」

「ん?」

「ナイフ術を生徒に教える時…重要なのは第一撃だけですか?」

「……第一撃は勿論最重要だが、次の動きも大切だ。強敵相手では、第一撃は高確率で躱される。その後の第二撃、第三撃を…いかに高精度で繰り出すかが勝敗を分ける」

 

 殺せんせーの質問に、イリーナと烏間が応える。生徒たちは何が言いたいのかわからず、頭にはてなを浮かべている。棗は相手の言うことの意図を理解することが非常に苦手だが、全てが理解出来ないというわけではない。だから何となく、殺せんせーの言いたいことがわかった。普段、父が言っていることと同じだ。将来の選択肢は多い方がいい。知識はあって損はない。きっとそういうことなのだ。

 

「結局何が言いたいんだよ」

「先生方のおっしゃるように、自信を持てる次の手があるから自信に満ちた暗殺者になれる。対して君たちはどうでしょう。『俺等には暗殺があるからそれでいいや』…と考えて、勉強の目標を低くしている。それは…劣等感の原因から目を背けているだけです。もし、先生がこの教室から逃げ去ったら?もし、他の殺し屋が先に先生を殺したら?暗殺という拠り所を失った君達には、E組の劣等感しか残らない。そんな危うい君達に…先生からの警告(アドバイス)です。第二の刃を持たざる者は…暗殺者を名乗る資格なし!!」

 

 (……その場合私ってどうなるんやろな?というか竜巻起こってんな〜…風強)

 

 殺せんせーが高速で動き回っていることで、旧校舎の校庭に竜巻が起こった。棗はめちゃくちゃ目立つけどいいんだろうか、と見当違いなことを考える。そして竜巻が収まり、砂埃も収まると、そこには綺麗に整備されたグラウンドが現れた。

 

「校庭に雑草や凸凹が多かったのでね。少し手入れしておきました」

「鮮やかな手口…」

「いや言い方だろ」

「先生は地球を消せる超生物。この一帯を平らにするなど容易いことです。もしも君達が自信を持てる第二の刃を示せなければ、先生の相手に値する暗殺者はこの教室にはいないと見做し、校舎ごと平らにして先生は去ります」

「第二の刃…いつまでに?」

「決まっています。明日です」

「!?」

「明日の中間テストをクラス全員50位以内を取りなさい」

 

 その場にいた全員に激震が走る。

 

「君達の第二の刃は、先生が既に育てています。本校舎の教師たちに劣る程…先生はトロい教え方をしていません。自信を持ってその刃を振るって来なさい。仕事(ミッション)を成功させ、恥じる事なく、笑顔で胸を張るのです。自分達が暗殺者(アサシン)であり、E組であることに!!」

 

 普段はギャグキャラ寄りで、ゆるキャラみたいなのに、こういうところが本当にかっこいい。棗にとって殺せんせーは、お手本にしたい大人の一人だった。

 


 

 そして、中間テストの日。

 テストは不正防止の為、E組含め全生徒が本校舎で受ける決まりとなっている。つまり、E組のみがアウェーな状態での戦いだ。まぁ別にそこは問題ではない。ただ、テスト中だというのに試験監督の教師──前の担任である大野──が指で教卓を叩いていたのは物凄く気になった。棗は雑音が苦手なので余計に集中力が欠かれてしまう。

 極めつけは出題範囲だ。解いていて何だか提示されていた出題範囲の問題と違うような気がすると思ったら、案の定違った。流石の棗も、出題範囲を変えられたことには気づいた。それでも前に勉強したところは解けたし、まぁいいか……と思ったが、他の生徒はそうもいかないようで。目に見えてわかるほど気落ちしていた。

 それより何より、誰よりも気落ちしていたのは殺せんせーだった。

 

「…先生の責任です。この学校の仕組みを甘く見過ぎていたようです。々君達に顔向け出来ません」

 

 黒板の方を向いて、静かに言った殺せんせー。そこに、後部の方から対先生ナイフが飛んで来た。犯人はカルマである。

 

「いいの〜?顔向け出来なかったら、俺が殺しに来んのも見えないよ」

 

 いつもの飄々とした表情で、答案用紙を持ったカルマが前の方へ歩いて来る。

 

「カルマ君!!今先生は落ち込んで…ん?」

 

 そして、カルマはその答案用紙を教卓の上へバサリと置いた。

 

「俺、問題変わっても関係無いし」

 

 その点数は、全て90点以上。数学に至っては100点満点だった。

 

「俺の成績に合わせてさ、あんたが余計な範囲まで教えたからだよ。だけど、俺はE組(このくみ)出る気無いよ。前のクラス戻るより、暗殺の方が全然楽しいし」

 

 殺せんせーの努力は無駄ではなかった。それはカルマ相手だけではきっとないだろう。今回はダメでも、まだまだチャンスはあるのだ。今回のことをバネに、E組はきっともっと伸びていく。

 

「…で、どーすんのそっちは?全員50位以内に入んなかったって言い訳つけて、ここから尻尾巻いて逃げちゃうの?それって結局さぁ、殺されんのが怖いだけなんじゃないの?」

「なーんだ、殺せんせー怖かったのかぁ」

「それなら正直に言えばよ良かったのに」

「ねー、『怖いから逃げたい』って」

 

 カルマの言葉を皮切りに、他の生徒にもいつもの調子が戻ってきたようで、棗は安心した。

 

「にゅやーッ!!逃げる訳ありません!!」

 

 殺せんせーにもいつもの調子が戻った。E組は間違いなくいいクラスである。

 

「へぇ〜、じゃあどうすんの?」

「期末テストであいつらに倍返しでリベンジです!!」

 

 殺せんせーの言葉に、生徒たちが笑う。棗も皆につられて笑顔を浮かべた。

 

「よかったです。先生いなくなるの寂しいから、出ていっちゃったらどうしようかと思いました」

 

 安堵から、棗は思っていたことを素直に口にする。

 

「にゅやッ!?な、棗さん!!そんな、嬉しいことを〜!!」

 

 先程までプンスカしていたのに今度は感動の涙を流し始める殺せんせーの姿を見て、棗はまた笑った。




あの理事長、集会を理事長室で見ていた感じだったのであんまり表には出てこないんだな〜と思いました。
そんな理事長のことなんて、他人への興味関心が薄い人が覚えてるわけないと思います。私の通っていた進学校はマンモス校で先生も生徒もめちゃめちゃいました。ぶっちゃけ顔も名前も一致しないし、関わらない先生や生徒の方が多いですからね……
というかもう学年の人数が200人近くいる時点で覚えるの無理です。
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