【完結】その生徒、暗殺者に非ず。   作:クリオネf。t

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修学旅行前の出来事

 一週間後に迫るのは、修学旅行。

 生徒たちも浮き足立っているが、殺せんせーもその比ではない程に浮き足立っていた。舞子の姿はとても似合っていたと思う。

 現在、班決めの時間だ。

 

「歌さん、僕らと同じ班にならないかい?」

「うん、わかった!なろうなろう!」

 

 棗は竹林に誘われ、三班となった。メンバーは棗と竹林以外に寺坂、村松、吉田、狭間、原。計七名の班だ。

 

「寺坂くんたちと同じ班かー、なんか新鮮やなー」

「寺坂君、棗ちゃんのこと苛めちゃ駄目だかんね!」

「あ?!誰がするかよンなこと!!」

 

 絵に描いたような素行不良生徒。正直棗は興味津々だった。実際話してみたらどんな感じなのだろうか。

 

「何見てんだよチビ」

 

 じぃっと見つめていたからか、そう言われて睨まれた。怖いな…と思いつつ、「ごめん」と謝る。

 

「言ったそばから!」

「大丈夫大丈夫。今のは寺坂くん悪くないから。あのね、寺坂くんとはちゃんと話したことないから、ちょっと楽しみだな〜って思って。実際話してみるとどんな感じなのかなって気になったんよ」

「言っとくけど俺は仲良しこよしするつもりなんてねーからな!」

「…そっかー残念」

「あっさりかよ!興味あったんじゃねーのかよ!」

「おお…しっかりツッコんでくれるんや」

 

 棗の中での寺坂の株が上がった。寺坂はきっと映画のジャイアンみたいなタイプに違いない。と、勝手に思っておく。

 

「村松くんと吉田くんもよろしく〜」

「おう、よろしく」

「よろしく〜」

 

 村松と吉田は比較的友好的な反応を示してくれた。修学旅行を通してそれなりに仲良くなれたらいいな〜と思う。

 

「吉田くん、よっしーって呼んで大丈夫?」

「別にいいぜ」

「あ、俺もあだ名で呼んでくれちゃっていいよ〜」

 

 吉田が愛称呼びを承諾すると、村松もそこへ便乗してきた。結果、村松のことは「たっくん」と呼ぶことが決定する。そこから趣味の話になった。

 

「よっしーバイク好きなんだ」

「おう!俺ん家バイク屋なんだよ。その影響もあるな」

「そーなんや。私はバイクは全然詳しくないけど、うちのお父さんとなら話し合うかも?」

「歌川の父ちゃんバイク好きなの?」

「バイク好きっていうか、乗り物が好きだから詳しいの。戦闘機とか軍艦とかについても詳しいよ」

 

 棗の父親は元自衛官である。今は半導体を取り扱う仕事をしている。ちなみに航空自衛官だったようで、現役の頃はレーダーを弄っていたらしい。

 

「へー…幅広い感じか」

「うん。お父さん機械系とか詳しいよ。それ以外でも、色んなこと知ってるから凄いんよね。高卒やけどさ、教養とか聡明さは何となく大卒の人と変わらんくらいに感じるかな。私の感覚だけど」

「ちょっと話してみたいかも、お前の父ちゃん…」

 

 弟とガ○ダムなど共通の話題で大変盛り上がっていたので、恐らく吉田とも盛り上がる可能性は大いにある気がした。

 そうして各々班のメンバーが固まりつつある中、殺せんせーが分厚い辞書のようなものを大量に持って教室へ入って来た。

 

「一人一冊です」

「なんですか?」

「修学旅行のしおりです」

 

 マッハで渡されたそれは、修学旅行のしおりと言うにはあまりにも分厚く、そして重かった。最早鈍器ではなかろうか。正直全部読み切れる自信はないが、パラパラと捲ってみたところ内容はとても面白そうなものが多い。家に帰って読もうと決めた。

 


 

 修学旅行まであと2日となったその日。

 棗は本屋に立ち寄っていた。お小遣いはそこまでたくさん使えないので毎回買うわけではないが、欲しい漫画や自分の好きそうな漫画がないかを探す為にこうやって本屋へ寄る。今日は何か一冊か二冊ほど買おうと思ってやって来た所存である。

 

「……場所高い。踏み台がない。どないすればええねん」

 

 間の悪いことに、他の誰かが使用中なのかいつも定位置にある踏み台がなかった。「ふぐぐ…」と何とか背伸びで取ろうとするも、取れる筈もない。

 そんな時、「大丈夫?」と誰かから声をかけられた。くるりと振り返れば、同じ椚ヶ丘中学校の制服を着た男子。何となく見覚えはある気がした。

 

「これかな?」

「え、あ、ありがとうございます…!」

 

 少年は穏やかな笑顔で棗の目当ての漫画を取って渡してくれる。同じ制服だったから見兼ねて声をかけてくれたのだろうか。随分と親切な子だ。

 

 (にしても、見覚えあるな〜。あ、1年の頃新入生挨拶してた子だわ。名前はナントカガクシュウくん)

 

 苗字は思い出せないが、変わった名前とやけに整った容姿だったので頭の片隅に残っていた。

 

「君、E組の歌川棗さん?」

 

 ナントカガクシュウくん(推定)は棗のことを認識していたようで、そう聞いてきた。

 

「私のこと知ってるんですか?」

「そりゃあ、生徒会長をしている身だからね。一応全校生徒の顔と名前は覚えているよ。上に立つ者として当然のことさ」

 

 そう言ったナントカガクシュウくんの佇まいは、どこか自信に満ち溢れている。生徒会長をしていると言ったし、この学園で新入生挨拶を任される身だ。きっと優秀な生徒なのだろう。

 

「生徒会長さんなんですねー」

「………もしかして僕のことを知らなかったとか?」

「新入生挨拶してた子だな〜とは思いました。名前はえっと……ごめんなさい、下の名前は印象的で覚えてるけど苗字は覚えてないです……」

「……浅野学秀だよ、歌川さん。よろしく」

「あ、はい、よろしくです」

 

 ナントカガクシュウくん改め浅野学秀は、親切に名乗ってくれた。E組相手にも親切に接することが出来るのだから、悪い人ではなさそうだ。

 

「それにしても凄いなー。私なんてクラスの人の顔と名前覚えるので精一杯だからなぁ」

「いいんじゃないかな。クラス内で信頼関係を築こうとしている証拠だ。悪いことじゃないよ」

「そうですか?生徒会長さんから言われるとなんか自信出るな…でも、生徒会長さんって物覚えいいんですねぇ。あっ、別に何もしなくても出来るとかそんなこと思ってないですよっ、物覚えの良さも勿論あるとは思うけど、やっぱり関心持って覚えようとするから覚えられるんだろうし…いっぱい努力してるんだろうな〜って…はい」

 

 つい謎の弁明をしてしまった。失礼ではないかと考えれば考える程空回りしてしまう人間なので、棗は咄嗟に「あ、え、えっと、すみません…」と謝罪する。

 

「いや、素直な言葉は嬉しいものだよ。ありがとう、歌川さん」

「え、いや、そんな…あはは。生徒会長さんめっちゃ良い人〜…」

 

 学秀の寛大な心に思わずそんな声を漏らす。

 

「普通に呼んでくれていいよ」

 

 (普通に呼ぶってどっちだ?まぁ失礼にならないのは苗字呼びか…?)

 

「わかった。浅野くん、でいいかな」

「ああ、構わないよ」

「ていうか浅野くんの下の名前の『ガクシュウ』ってどういう字…?」

「学に秀でるって書くけど」

「わー、っぽい!なんかピッタリやね。いい名前だ〜。親御さんいいセンスだね〜」

 

 棗は知らなかった。目の前にいる男子生徒が、理事長の実子であることを。それもその筈だ、理事長である學峯のことですら名前しか知らず、最近になってようやく姿を認知したのだから。

 

「……そうか。じゃあ、僕はこれで」

 

 そして彼が一瞬複雑な気持ちになったことなど、棗は知る由もなく。

 

「うん、またね〜。これ、取ってくれてありがと〜!」

 

 呑気に挨拶をして、棗は学秀と分かれた。




浅野君が助けてくれたのは気まぐれ。本屋に行ったらたまたまE組の女が踏み台も使わずに高い場所の本を取ろうとしていて危なっかしかったので見兼ねて声をかけた。棗ちゃんに警戒心の欠片もなかったので思わず外面のいい優等生モードで接した感じ。
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