超有能な幼なじみを堕落させたんだがなんかおかしい   作:散髪どっこいしょ野郎

2 / 5
中学生時代

「ふぁあ~……ねむ……」

 

 

 今日も今日とて目覚まし時計をぶっ叩き、ベッドから這い出る。

 

 時刻は5:00。中学生になるにあたり起床するのを一時間早くした。

 

 その一時間でやることは勉強。朝は頭に入りやすいという話を聞きつけ早速実践していた。

 

 季節は春。出会いと別れの季節だが、俺にとっては始まりの合図だ。

 

 俺と穸は同じ中学。つまり、これからも思う存分関われるということだ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「んっんっん~♪」

 

 

 昨日の残りご飯と鯖の味噌煮缶。冷蔵庫にあったものをぶちこんだ野菜炒め。汁物はわざわざ出汁を取って作った味噌汁。ご機嫌な朝飯だ……。

 

 シャワーは帰宅時と朝食前の二回浴び。サッパリとした直後の朝飯はクルものがあった。

 

 歯を磨いたり持ち物チェックなど細かい作業を終え、家を出る。ここまでが俺のモーニングルーティンだ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「18番、幅野玲瓏」

 

「は~い」

 

 

 この中学には朝点呼する習慣があった。番号付きで呼ばれると囚人にでもなったような気分だが、まあ嫌いではない。

 

 最重要項目の穸についてだが、無事同じクラスになれた。というかそもそも少子化の影響でクラスが一つしかないのだが。

 

 中学に上がって何が変わるのか。色々あるが個人的ナンバーワンが部活動への参入だ。

 

 これはかなり重要なファクターだ。穸がいるからという安直な理由で選ぶと必ず後悔する。ここは冒険心を抑えるつもりでいた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「幅野玲瓏です、よろしくお願いします」

 

「よろしく」「よろ~」「ようこそサッカー部へ」

 

 

 俺が入ったのは出場可能人数である11人ギリギリの弱小サッカー部。部活動体験の際に最も居心地がよさそうと思ったため入った次第だ。

 

 体を動かすことは好きだ。鍛えることにも抵抗感はないし、よほどキツいしごきでもない限りやめるつもりは無い。

 

 他の学校だと一年生はボールに触らせてもらえないとの話を聞くが、ここは弱小サッカー部。初っぱなから蹴球が許された。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「早速どうよ。テニス部は」

 

「……先輩に勝った」

 

「ほーん、いいじゃん」

 

 

 サッカー部は弱小らしく練習時間が少ない。穸が所属するテニス部はそれなりの強豪だったため、今度は俺が帰りを待つ番となった。

 

 穸からすれば練習でクタクタになっているというのに、俺と一緒に帰らなければならない心労を背負い込むことになったのだ。恨んでいるだろうか?恨んでいるだろうな。俺ってばマジ悪辣。

 

 穸の完璧ぶりは中学でも健在だった。部活動でも勉強でも早くも頭角を現し始めている。

 

 穸は中学までテニス未経験だったがもう先輩に勝ったのか。まあコイツの万能ぶりからすれば当たり前だな。

 

 そんな穸を帰り道の間は独占できているという優越感。この満足値は計り知れない。

 

 

「ふははは……」

 

「……また変な笑い方してる」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「おーい!穸!勉強会すんぞ!」

 

 

 穸との時間は増えた。というのも、中学生になり勉強に集中させるため習いごとはピアノのみに絞られたからだ。

 

 

「お邪魔しまーす」

 

「いらっしゃい、玲瓏くん」

 

 

 にこやかに出迎えてくれたのは穸の母ちゃん。俺は知っている。その微笑みの裏に隠れた感情を。

 

 蝶よ花よと育てられてきた穸が俺のような愚物に侵されるのを恐れているのだ。人のそういう感情の機微を計るのは得意だった。

 

 まあ幸いにも今日来た目的は勉強会。よほどのことでもないかぎり咎められはしない。

 

 

「来たぞ、穸」

 

「うん。それじゃ、勉強しよっか」

 

 

 勉強は嫌いじゃない。脳を成長させているのだと思えばやる気もそこそこ湧いてくる。(少なくとも中学生レベルの教科は)努力の数=結果なのも分かりやすくてよかった。

 

 既に大学課程を履修している穸からすればこの勉強会は無意味。それなのに付き合ってくれるあたり、コイツホント優しいな。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「二位かぁ……」

 

「…………」

 

 

 定期テストの結果、俺はクラス二位だった。穸は人に物事を教えるのも抜群に上手いため、俺の学力はメキメキ育っていった。

 

 それでも尚、穸という壁はとてつもなく高い。なんだよ全教科満点って。ケアレスミスの一つぐらいあれよ。

 

 

「……玲瓏……」

 

「ん?なんだよそんな思い詰めた顔して」

 

「……嫌いにならないで……」

 

「ハァ?何言ってんだお前。俺が学力の格差くらいで態度変えると思ってんのか?」

 

「…………ありがとう」

 

「変なヤツ」

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「穸ちゃんって凄いよね~。もうこの部活内で穸ちゃんに勝てる子いないし」

 

「あの子はきっと『特別』なんだよ。わたしたちみたいなのが頑張っても無理無理」

 

 

 中学に入る時点で覚悟はしていたけど、やっぱり私は同級生や先輩から羨望の目で見られ、両親からは期待がのしかかる。

 

 私は、そんな大層な人間じゃない。玲瓏がいてくれないと崩れてしまうぐらいに脆い。

 

 そんな目で私を見つめないで。私には届かないなんて諦めないで。私は、私はただみんなと一緒に歩きたいだけなのに。

 

 手加減、すればいいの?勉強も部活も手を抜いてみんなと合わせれば求めているものは手に入るの?

 

 ううん。それは違う。玲瓏が教えてくれた。ありのままの自分を受け入れてもらって初めて対等なんだって。

 

 ……玲瓏。私は結局、彼に縋ることしかできていない。

 

 一緒に出かけたのも、一緒に遊んだのも、一緒に勉強したのも、どれも私にとって大切な思い出。私の核は彼が占めていた。

 

 離れたくない。離れてほしくない。でも、私は鎖を千切れない。

 

 だから、私は────

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「玲瓏」

 

「なんだよ」

 

「その……テニス、全国大会に出場することになったんだけど」

 

「マジか!すげーなお前!」

 

「……試合、見に来てくれる……?」

 

 

 なるほど?普段独占してる分お前も私のために時間を使えということか。いいぜ。乗った。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「あち~……」

 

 

 季節は夏真っ盛り。会場は屋外ということで非常に暑苦しい。

 

 正直言えば、結果は見えている。今回の大会で穸は全国優勝といった箔付きになるだろう。勉強も運動もできるとか天は二物与えすぎだろ。

 

 

「始まったか」

 

 

 穸は初戦から相手に一点も取らせず圧倒的大勝を収めていた。やられた相手は泣いていた。まあ相手が悪かったな。

 

 そして迎えた決勝戦。

 

 

「いけー!穸ー!」

 

 

 俺の声援に応えるようにアイツは次から次へと点を取っていく。そして、相手に一ゲームも渡さず優勝しやがった。流石俺の幼なじみ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「すごかったぜ、穸」

 

「……ありがとう、見に来てくれて」

 

 

 焼き肉屋での祝賀会。穸の両親は仕事で観戦に来なかったため、俺と穸の二人きりだった。せっかくの娘の晴れ舞台なんだから休んできてくれてもいいのに。

 

 

「玲瓏」

 

「ん?」

 

「貴方が来てくれただけで、私は嬉しいから」

 

「……なんで考えてること分かったんだ?」

 

「幼なじみの勘」

 

 

 ……侮れないな。コイツを俺色に染め上げるには、まだ時間がかかりそうだ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「穸ー、帰りカラオケ行こうぜ」

 

「……うん。分かった」

 

 

 自分で言うのも変だが、俺にも反抗期はやってきた。親に対して不満を持つようになったのだ。

 

 家に帰りたくない時は大抵穸と一緒にいるようになった。やはりと言うか、当然と言うか、穸は俺に逆らわない。

 

 しかし懸念点が一つある。穸の両親がこの関係を許すかという所だ。

 

 愛する我が子が幼なじみとはいえ悪辣なガキに誑かされるようなことがあったら激怒は必至。

 

 というわけだから穸の家に行く時は両親に媚びへつらうことにした。俺の穸だ。たとえ家族にも渡してやるものか。……気持ち悪いな俺。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 改めてだが、穸はなんでもできる。カラオケに行けば90点後半を連発、ゲーセンに向かえばランキング一位。

 

 認めるのは癪だが、俺が穸に勝てるものはほとんどない。

 

 だが、一つだけ俺には穸に勝っている部分がある。

 

 俺は、穸より多くの″楽しい″を知っている。堅物なアイツとは違い俺は多趣味なのだ。

 

 アイツは感情を表面に表すことがない。だから大嫌いな俺につけあがられるのだ。

 

 ククク……俺のような悪党に目をつけられたのが運の尽きだ、可落穸。覚悟しろ。これからもお前を堕落させまくってやるからな。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、穸ちゃん。ちょっと話があるのだけど」

 

「……はい」

 

 

 夕食中、母親はそう切り出した。父親は横で無表情を貫いている。

 

 話、とは。学業はトップだし健康面も問題なし。……強いて挙げるとするなら、最近彼と一緒にいる時間が多い所ぐらい。

 

 母親から飛び出した言葉は正にそれだった。

 

 

「玲瓏くんとあまり関わらない方がいいって、お母さん思うのよ」

 

「…………!」

 

 

 心臓の鼓動が早くなっていくのを感じる。耳鳴りと頭痛、動悸と吐き気。喉は渇き、唇は震えた。

 

 

「あの子、昔から穸ちゃんのことを無理やり連れだしたりしていたでしょう?もう中学生なんだし、距離を置いた方が──」

 

「お母さん」

 

「な、なに?穸ちゃん。どうしたの?様子が変よ?」

 

「穸?何か怖い思いでもしたのか?」

 

 

 私の異変を感じ取ったのか父親も口を挟んでくる。だけど私の脳内はそれどころではなくて。

 

 

「お願い……お願いします……。玲瓏と離さないでください……お願いします……」

 

「ちょ、ちょっと穸ちゃん!?大丈夫!?」

 

「穸……!?」

 

「お願いします……お願いします……」

 

 

 地に手と頭をついて、懇願する。私に鎖は壊せない。成果で両親を黙らせることはできても放埒に振る舞うことはできなかった。

 

 結局、玲瓏と関係を保つことは許された。けど、私の中では消えない不安が渦巻いていた。

 

 ──私の両親は玲瓏のことをよく思っていない。

 

 ()()()()()()()。その恐怖が、常に付随していた。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「なあ穸。学校の廊下にピアノあるじゃんか」

 

「……うん」

 

「なんか弾いてみたらどうだ?お前と仲良くなりたいヤツも増えると思うぞ」

 

 

 鞭ばかり振るうのもどうかと思い、俺はコイツに友人を作らせることを提案した。飴があってこそ人生は楽しくなるんだ。

 

 

「……いい。貴方がいてくれるなら、それだけで……玲瓏……」

 

「……穸?」

 

 

 様子がおかしい。うわごとのように俺の名を呟く穸は、今にも崩れ落ちてしまいそうで──

 

 

「お、おい、どうした?」

 

「お願い……いなくならないで……」

 

 

 俺につかみかかる穸。なんかトラウマでも踏んだのか?

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 私は屑だ。自分で鎖をほどけないから、玲瓏が解き放ってくれるのを待っているだけだった。

 

 玲瓏がいなければ、風に溶けて消えるだけの脆弱な人間。それが私だ。

 

 きっと良い関係とは言えない。これはただの依存で、執着だ。もっとも、玲瓏は私のことはただの幼なじみと思っているだけなんだろうけど。

 

 離れてほしくない。でも鎖は外せない。だから私は貴方に、同じ高校に進学してほしいと願っている。

 

 この辺りでは最難関の高校。玲瓏はクラスで私の次に勉強ができるけど、きっと苦労する。

 

 期待されるのが嫌だったのに、同じエゴを押しつけようとしている。

 

 私は、最低だ。

 

 

「ねえ、小学生の時の約束覚えてる?」

 

 

 それでも、私は──

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、小学生の時の約束覚えてる?」

 

 

 穸の口からその言葉が飛び出してきた時、『来たか』と思った。

 

 小学生時代に生んだ特大の爆弾。金のかかること以外なんでもきくという最強のフリーチケット。

 

 

「ああ。覚えているぜ。とうとう言う気になったか?」

 

「うん。それで、お願いごとなんだけど……」

 

 

 身構える俺に浴びせられた言葉は、意外にも()()()()()()お願いだった。

 

 

「私と……同じ高校に進学してほしい」

 

「いいぜ」

 

「……いいの?」

 

「お前が手伝ってくれんだろ?なら楽勝だ。お前程じゃねぇけど俺も優秀だしな」

 

 クラスで二位だし、と付け加える。

 

 ふははは……それにしてもお前からそれを打診するとはな。

 

 大方、小中といいように扱われてきたことに対する復讐でも考えているのだろう。

 

 オーケーオーケー、乗ってやるよ。その勝負になぁ!

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ちっくしょお~……!ハーッハッハッハァ……!」

 

 

 中体連は強豪校とぶち当たり敗北。俺のサッカー人生はド派手に終わった。

 

 いやぁ~楽しかった。難敵を解析し、勝つための方策を立てる。そして目標に向けて鍛える日々。

 

 どれもがフレッシュでやり応えがあった。人生の最盛期が中学だった、という人の気持ちも少し理解できる。

 

 ちなみに穸は全国大会三連覇。アイツマジでやべぇな。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ってことはここはこの公式を利用するってことか?」

 

「うん。その辺りまで分かっていれば合格できると思う」

 

 

 部活が終わり、本格的に受験勉強に打ち込む日々。穸に俺のための時間を作らせてると思えば手を抜けなかったし、優越感もひとしおだった。

 

 

「じゃ、今日はここまでにすっか。じゃあな穸」

 

「……うん。さよなら」

 

 

 何故か最近の穸は俺と別れる時物憂げにしている時がある。まあそれもそうか。なにせ──

 

 ──手塩にかけて育てたヤツが落第するのは絶望感がヤバいからだろうからなぁ!

 

 今日まで俺は多くのことを教えられた。激ムズ応用問題の解き方から基本知識に至るまで、みっちりと叩き込まれた。穸より遥かに学力が劣っている俺に、だ。

 

 自分磨きをせずに俺に付きっきりだったという事実。ヤベぇすげえワクワクしてきた。

 

 落ちる気は無い。それでも俺に裏切られた穸のことを思うと──あれ?

 

 ……なんか楽しくねぇな。なんでだ?

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ッしゃあ合格だあああああぁっっ!!!」

 

「……おめでとう」

 

 

 難関校の合格。脳汁がとめどなく迸るのを感じながら、俺は両手を突き上げた。

 

 

「これで高校生活も一緒だね」

 

「ふはははは!容赦してやらねぇからな!覚悟しろ!」

 

「……うん。楽しみにしてる」

 

 

 そんな軽口を叩けるとは、コイツも中々成長してきたな。

 

 高校に入っても俺のやることは変わらない。俺という存在で、穸を堕落させてやる!

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。