超有能な幼なじみを堕落させたんだがなんかおかしい   作:散髪どっこいしょ野郎

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高校生時代

「ちょっとアンタもう十時よ!いい加減起きなさい!」

 

「うーん、あと五時間……」

 

「いつまで寝るつもりよ!さっさと起きる!」

 

 

 母ちゃんにどやされなんとか布団の誘惑から逃れる。

 

 今日は三ヶ月に一度のぐーたらday。勉強も運動もしない、自分甘やかしの日なのだ。

 

 朝飯はトースト一枚で適当にすませる。焼けるのを待っている間寒さに思わず体が震えた。

 

 今は冬休み。課題は終わらせ、運動部に所属したわけでもないから暇をもてあましていた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「……ここにいたんだ」

 

「おー、穸か」

 

「いらっしゃい、穸ちゃん」

 

 

 小学生時代から行きつけの駄菓子屋でゲームしたりおばちゃんと話したりしながら暇つぶししていると、穸が現れた。

 

 

「はいこれ、サービスの酢昆布」

 

「おー、あざっす!」

 

「……ありがとうございます」

 

 

 ここのおばちゃんは気前が良く、小さい頃から結構世話になった。反抗期真っ盛りの時でもこのおばちゃんには懐いていたぐらいだ。

 

 

「二人ともおっきくなったねぇ。んんっ、あたしももう年だわ」

 

「そんなことないっすよ。なあ、穸?」

 

「……うん」

 

 

 二人で代わる代わるおばちゃんの肩揉みをする。こんな些細なことでも、穸の方が上手かった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ふわぁ……ねみ」

 

「……しばらく寝ていけば?ベッド使っていいよ」

 

 

 場所は変わり可落家。穸の部屋で俺は微睡んでいた。

 

 あれだけ寝たのにまだ眠い。外出すれば冬の冷気で目が覚めるのではと思ったが、今日はもうダメダメのダメらしい。

 

 いくら幼なじみとはいえ自分のベッドを使わせることに普通なら抵抗感があるはずなのだが、何故コイツはすんなりと許したのか?

 

 答えは簡単。日頃の鬱憤を寝ている俺で晴らすためだ。人は寝ている時が一番無防備だからな。

 

 

「ククク……」

 

「……なんで変な笑い方してるの?」

 

 

 いいだろう。好きにしろ。だが反撃はさせてもらうぞ。そう易々と上手くいくと思うな。

 

 柔らかなベッドに体を投げ出し瞑目する。意識は保つ予定だったが……あ、これ無理だ。

 

 俺の意識はすんなりと闇に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 彼が私のベッドで寝ている。その事実が、私の鼓動を高鳴らせていた。

 

 

「……玲瓏」

 

 

 高校生になっても、ずっと一緒。そしてこの人は小学生の頃からずっと変わらない。

 

 では、これからは?

 

 大人になったら玲瓏は私なんか放って、いい人と一緒になるかもしれない。それに今、玲瓏はバイトをしている。もしかしたら職場に気の合う人がいるかもしれない。

 

 怖い。

 

 玲瓏が私から離れていく未来。ただひたすらにそれが怖くて、童子のように膝を抱えて顔をうずめる。

 

 でも今彼は私のベッドで寝ている。

 

 

「……玲瓏」

 

 

 隣に寝そべり、その寝顔を見つめる。

 

 変わらないでほしい、というのはあまりにも身勝手なエゴだ。それでも、

 

 

「……行かないで」

 

 

 今はただ、この時間に浸らせてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー」

 

 

 今日も今日とて来客に営業スマイルをぶちまける。

 

 俺の通っている高校は基本バイト禁止だが、やむを得ない事情がある場合のみ許される。

 

 俺の家はそこまで裕福ではない。俺が時折手の込んだ料理を作る時はあるが一日三食摂れない日もたまにあるし、借金だって抱えている。

 

 ということで俺は特例としてバイト許可をいただいた。へっ、チョロいもんだぜ……。

 

 

「お疲れ幅野くん。今日もまかない食ってく?」

 

「あざっす!ゴチになります!」

 

 

 店長との関係も良好。更にはまかないまでついている充実ぶりに、俺は思わず学生の本分を忘れかけていた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「学年十三位かー……。で、お前は一位と」

 

「…………」

 

 

 高偏差値の学生が集まった高校ということで周囲の人間も中々にできるヤツらだった。

 

 俺は穸以外の誰にも負けるつもりはなかった。永遠の二番手だろうとその席は譲らないつもりでいた。

 

 しかしバイトと勉強の両立はそれなりに難しく、俺は再び穸の手を借りることにした。

 

 

「なあ、お前がよかったら勉強教えてくれよ」

 

「……!……いいの?」

 

「『いいの』って、それはこっちのセリフだ。お前もう高校は楽勝だしあんま無駄な時間過ごすのも嫌だろ?」

 

「……そんなことない。貴方がいいなら、私は貴方と勉強したい」

 

「うし。じゃ、これからも頼むぞ」

 

 

 効果が絶大すぎるということで穸の手を借りるのは中学生時代と高校受験の時以降封印していたのだが、背に腹はかえられないということで再び勉強を教えてもらうことにした。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「たこ焼きたこ焼き~!おいしいたこ焼きっすよ~!」

 

 

 看板片手に呼び込みをしているのはクラスで唯一バイト経験のある俺。文化祭を迎え、俺は客引き役をあてがわれたのだ。

 

 

「ふぃー疲れた……」

 

「お疲れ」

 

「あれ、穸?調理役じゃなかったのか?」

 

「他の子がやってくれるって言ってた。それと、これ」

 

「ふーん……。お、ポカリじゃん。気が利いてんな」

 

 

 キャップを開け一口で三割程飲み込む。夏程ではないとはいえ、渇いていた喉にスポーツドリンク特有の味が染み渡っていった。

 

 クラスのヤツらは開店当初から動いていた俺を気遣い、しばらく教室で休めるように計らってくれた。

 

 穸も裏方で頑張っていたようで、同様に休憩の許可を得て教室には俺と穸の二人だけとなった。

 

 

「ふははは……」

 

「……?」

 

「ククク……ああいや、なんか楽しくってな。中学ん時よりも自由な文化祭だし余計に」

 

「……うん」

 

 

 穸は鉄仮面を崩さない。そういや俺はコイツの笑顔を見たことがない。小学生時代どころか幼児だった頃からずっと無表情。

 

 感情が無いわけじゃないのは分かっているが、固まりきった表情筋は時折威圧感を放っている。ま、俺からすればなんてことない圧力だ……が、その所為で怖がられることもある。

 

 ……欲しい。

 

 穸を破顔させたのは俺だけという称号が欲しい!ちくしょう、どうする。お笑い芸人の前ですらコイツはピクリとも笑わない。

 

 コイツは完璧に限りなく近い。能力もそうだが、性格も優しくて非の打ち所がない。しかし笑わないという一点は致命的だった。

 

 そう考えると、俺の行動は逆効果だったのか?

 

 ……これは一考の余地がある。今まで俺はコイツを堕落させることしか考えてこなかった。外に連れ出したのも俺だし、独占したのも俺だ。

 

 俺は、穸から交流の機会を奪っていたのか?

 

 いや待て待て待て。今まで俺はそれを承知で行動に移していた。良心の呵責も持たず、ただ俺のやりたいように。

 

 下衆野郎の自覚はあった。その意識が俺を俺たらしめていたから。それを、今になって……。

 

 

「……玲瓏?」

 

「あ、ああ。なんだ?」

 

「……どうしたの?」

 

「何がだ?」

 

「何か、悩んでるように見える」

 

 

 悩む?何をバカなことを。

 

 今もそうだ。穸と二人きりの今を俺は楽しんでいる。それは間違いない。

 

 悩みなんて、今日明日の飯のことぐらい。俺は俺だ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 厳かな会場にピアノの音色が響く。観客席はシックで柔らかく、座っているだけで心地良さを覚えた。

 

 観客は多かった。ピアノコンクールに顔を出したのは今日が初めてだったが、アイツのファンはかなりの数いた。幼少期から数々の賞を獲ってきただけのことはある。

 

 演奏がクライマックスを迎える。辺りを見回して見ると泣いてるヤツもいた。

 

 その気持ちは分からないでもない。正確無比、高山流水な奏では心の奥底から感情を揺り起こす。

 

 ──終演。

 

 会場内を覆う万雷の拍手。アイツはやはり無表情で一礼し、舞台裏へ消えていった。……あれが、俺の幼なじみ。

 

 優勝したのはもちろん穸。他の追随を許さない、圧巻の調べだった。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「よう、穸」

 

「……玲瓏。来てくれたんだ」

 

「お前が来いって言ったんだぞ」

 

「……ありがとう。嬉しい」

 

 

 会場を出る頃にはすっかり暗くなっていた空を見上げる。玲瓏が待っていてくれたこの空気が、私は好きだった。

 

 

「飯行こうぜ。俺腹減っちまったよ」

 

「うん」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「モグモグ……ん、どうしたんだよ。食わねぇのか?」

 

「…………」

 

「なんとか言えよ」

 

 

 ずっと、この時間が続けばいいのに。

 

 この人が、いつものように私の鎖を消し去ってくれたら。

 

 でも駄目。それはあくまでも一時的な解放に過ぎない。本当に心から変わりたいのなら、私が自分の力で壁も鎖も打ち壊さなければいけない。

 

 

「……玲瓏」

 

「ん?」

 

「貴方にとって、私は何?」

 

「そりゃあお前幼なじみで……ん……?えーっと……。……何だろ?」

 

「……そう」

 

 

 注文した料理に手をつけると、玲瓏は首をかしげながら食事に集中した。

 

 玲瓏は、私の光。色素を失った世界でただ一人輝いている『絶対』。

 

 仮定ばかりになるけれど、もしかしたら、玲瓏からすれば私は鬱陶しくてしかたないのかもしれない。この人は()()()()()私に付き合ってくれているだけで、本当はもっと明るい人に未来を委ねたいのかもしれない。

 

 怖い。自分が玲瓏の中でどこまで『在る』のか、答えを知るのが待ち遠しくもあり恐ろしくもある。

 

 いや……そもそも、私の望みは最初から叶うはずがなかった。

 

 今の問答で、いやそれどころか、中学生の頃から分かっていた。玲瓏にとって私はただの幼なじみ。(かすがい)にも(くさび)にもなれない、繋がれた地を這うだけのネズミ。

 

 分かっている、分かってはいても、私はこの時間が愛おしくてしかたがなかった。

 

 だからこれは、伝えることすらできない願い。

 

 私を連れ出してほしい。ずっと、ずっと、ずっと傍にいてほしい。それが、私が玲瓏に望む全てだった。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「旅行行こうぜ」

 

「うん」

 

 

 やっぱりコイツ逆らわないし断らないな。ま、だからといって容赦してやる俺じゃないがな!

 

 

「どこか行きたい所あるか?」

 

「……貴方と一緒なら、どこでも」

 

「じゃあ俺がサクッと決めるぞ。そうだな~……」

 

 

 バイトで金は貯まっている。コイツはコイツでお小遣いをずっと使わずにいるし、一回の旅行程度で素寒貧になることはないだろう。

 

 決めた行く先はマイナスイオンを感じられることで有名な観光地。加えて飯も美味いらしいことから、俺は早くもウキウキしていた。せっかくの休日を俺といるために消費させるなんて、俺はどこまで外道なのだろう。進路先は悪魔にするか?

 

 ククク……。非日常的楽しさを感じれば穸も一回ぐらいは笑うかもしれない。そう思うと旅行のプラン作成も苦ではなかった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ふはー……綺麗だー……」

 

「……うん」

 

 

 旅行当日、俺は穸と二人きりで目当ての観光スポットを訪れていた。景色がさぁ……!

 

 

「いやー来て正解だったな。季節もちょうどいいし」

 

「うん」

 

 

 チラリと表情を盗み見るが口角は一文字、目尻はそのまま。うーん、中々手こずりそうだな……。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ごちそうさんでした」

 

「……ごちそうさまでした」

 

 

 本日ねぐらとなるのは安さの割には料理のクオリティが高い旅館。いやホント美味いな。ちょっとテクニック分けてほしい。

 

 

「で、どうだったよ」

 

「……?」

 

「今日の感想だよ。楽しかったーとか、飯が美味かったーとか、多少はあるだろ?」

 

「……貴方と一緒に来られてよかった」

 

 

 ほほう?強がるなぁ。ホントは俺と一緒の旅行なんて身の毛がよだつ程嫌に違いないだろうに。

 

 ……つっても、コイツ優しいからな。俺が『楽しかったとか飯が美味かったとかあるだろ』っつったから気を利かせてその感想を捻り出したのかもしれない。

 

 

「……よーし、テレビでも見るかー」

 

「……」

 

 

 テレビを点けるとちょうどお笑い番組がやっていた。俺はもうゲラゲラ笑ったが、穸は神妙な面持ちで画面を見ている。

 

 

「……ねえ」

 

「んだよ」

 

「進路……貴方はどうするの?」

 

「進路ォ?大学行く金はねぇから普通に就職だな」

 

「……っ」

 

「なんだよ急に。お前あの大学行くんだろ?えーっとたしか……名前忘れちまったけど国内最難関の」

 

「……そうしたら……私たちは、離れ離れになる……」

 

 

 なるほど?話が読めてきた。コイツは高校で上手くいかなかった復讐を大学行ってから成し遂げようとしているのか。だが残念だったな!俺は普通に家を出て働きに行く!ふははは……精々唇を噛み締めとけ!

 

 

「そういや俺たち連絡先交換してなかったよな。ほら、携帯持ってきてんだろ?」

 

「……いいの?」

 

「ふははは……!俺を舐めるなよ?お前の連絡ぐらい簡単に捌ききってやるよ!」

 

「……ありがとう」

 

 

 改めてだけどコイツ、肝っ玉がデカいな。まあそんな穸だからこそ、競争意識も芽生えてくるってもんだ。

 

 

「ふぁーあ……そろそろ寝るか」

 

「……玲瓏……一緒に寝て……」

 

「しゃーねーな。ほれ」

 

 

 マットレスをくっつけ、布団を捲りながら中央やや左にポジションを整える。

 

 遠慮がちに潜り込んでくる穸。後悔してるか?してるだろうな!ククク……ホントに面白ぇヤツだよお前は!

 

 

「ククク……!」

 

「……また変な笑い方してる」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 学生時代ってやつはどうも早すぎる。俺のモラトリアムはもうすぐで無くなろうとしていた。ここから俺は社会人になる。

 

 ようするに卒業式ってヤツだ。人によるがここまでの日常で人生の半分が終わったように感じられるらしい。

 

 

「幅野玲瓏!」

 

「はい!」

 

 

 学生時代最後の点呼だ。思いっきり応えてやらなきゃなぁ!

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「またいつかな。今までありがとうな、玲瓏!」

 

「おーう、お前も頑張れよー」

 

 

 一通り友人に挨拶を済ませ、俺は最後の一人の元へ向かっていた。ソイツはもちろん穸。

 

 

「…………」

 

「どうした。飯食ってこなかったのか?」

 

「…………」

 

 

 穸の顔色が……というか様子が変だ。いつも寡黙であるがそれにしても黙りこくっている。

 

 

「……い、ご」

 

「あ?」

 

「これで……さいご?」

 

「んー……別に今日で永遠の別れってことじゃねぇんだぞ?そんな辛いことでもないだろ?」

 

「……っ」

 

 

 おいおい今生の別れってわけでもないのにそんな泣くか?いやまて、これはまさか──

 

 ──俺から離れられることが嬉しすぎて泣いているのか!確かに、そう考えれば納得がいく。

 

 ふははは!俺はお見通しだぞ可落穸!

 

 はははは……

 

 はは……

 

 

「っ?」

 

 

 何故か胸の奥が締め付けられるように痛む。その理由を、穸の次に優秀な俺の頭脳はすんなりと導き出した。

 

 これまで感じた違和感、記憶、そして情動──。

 

 全てのピースが一つの結論に繋がる。

 

 ──そうか俺、穸のことが好きだったのか。

 

 ……そっかぁ……。今になって気づくとは、なんとも皮肉なもんだ。

 

 でもまあ、コイツは俺のこと嫌いだろうし穸のことを真に想うなら関わる必要は無いな。

 

 

「穸」

 

「……」

 

「穸」

 

「…………なに?」

 

()()()()。太陽が消えたらまた会おうぜ」

 

 

 そう伝えてから俺は歩き出す。初恋の終わりにしては結構洒落てる方ではないだろうか。

 

 それにしても、俺ってばずっと穸のこと好きだったのか。だからあんなに……って、過ぎ去ったこと考えても意味はねぇ。

 

 進むか。俺の道を。

 

 改めてだが、じゃあな穸。お前との旅路、楽しかったぜ。

 

 












次回で最終回ですがかなり短くなるかもしれません
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