トリニティシツジモドキ「お嬢様、こちら午後の紅茶をフレイムスロワーで温めたものになります」   作:ヤツメタウミエル

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 思いつきに任せてお書きいたしました。続きがあるかどうかは知ったこっちゃねぇでございます。


「お嬢様、こちら午後の紅茶をフレイムスロワーで温めたものになります」

「暑い……あっっっついなぁ、もう……」

 

 暑い。まだ六月だというのに、トリニティ総合学園の中庭はその一言に尽きる。真っ白な大理石で彩られた古風な建築様式の校舎は容赦なく日光を反射し、風通しが悪く湿度も高い第三校舎棟の中庭は、もはや一種のソーラークッカーのようになっていた。

 そんな中庭に、今まさに蒸しあがらんとしている生徒が一人。汗ダラダラでも相変わらず美少女な彼女は、聖園ミカ。トリニティ総合学園ティーパーティー、元パテル分派首長である。

 

「春とか梅雨とかはどこに行ったのー?!」

 

 以前の彼女なら、こんな日は冷房の効いた部屋か風通しの良いテラスで、幼馴染みのナギサや友人のセイアと紅茶でも飲んでいただろう。しかし、以前の事件から彼女の生活は大きく変わってしまっていた。

 友人が死んだという誤解、クーデター未遂、エデン条約調印時に起きた大規模テロ、復讐劇と聖戦……とにかく色々あった。最終的に彼女はパテル派首長の地位を追われ、罪滅ぼしとして、今やっている中庭の草むしりのような奉仕活動をする羽目になっていた。

 

「お嬢様」

「……あ、リタ」

 

 ただ、全てが悪い方に変わったわけではなかった。失ったものと同じ位かそれ以上に、手放さなかったものも、新しく得たものも、変わらなかったものもある。

 

「今日はクs……常軌を逸して暑いので早めにティータイムの準備を、と。こちらはナギサ様から頂いた、なんか速そうなやつ*1と水と砂糖とミルクをレンジでチンし、ザルで濾したものでございます」

「……変わらないね、あなたは」

「こう見えて実は、常に成長していますよ。今回はコーヒードリッパーを使わなかったので、ミルクが詰まりませんでした」

 

 紅茶好きが聞いたら即座に発狂し発砲するような調理内容を、『リタ』と呼ばれた執事は平然と話す。

 ティーテーブルの上は、どう考えてもおかしい光景が広がっていた。金細工が施されたティーカップに注がれた紅茶は若干冷めており、温め直すためなのか、その横には電子レンジが待機している。

 『なんか三段になっててちょこちょこお菓子とか入ってるやつ』ことケーキスタンドには、常識的なサンドイッチ・スコーン・ペストリーではなく、駄菓子・スコーン・ボンカレーが並んでいる。

 ついでに彼女のテールコートからは、よく見てみると大量のアイスまくらがはみ出ていた。

 

 読者諸賢に誤解が無いよう言っておくと、普通のトリニティ生が見れば罵倒と皮肉と嘆きを三枚の舌で並行して口走るであろうこのエセ執事は、エデン条約関連の事件の後配属されたわけでもなければ、地位を失ったミカを舐め腐って態度を変えたわけでもない。

 彼女は一年前……つまり、ミカの執事として雇われた時からこんな調子だった。それどころか、当時と比べて若干改善したとすら言える。

 

「……うん、午後の紅茶をペットボトルごと焼いてた頃よりかはマシだね。それで、なんでスタンドにカレー入れたの?」

「お菓子を入れていたら詰めるのが楽しくなってしまい、一段に全種類収めてしまいまして」

「熟練の店員さんが会計したカゴみたいにきっちり整理されてるね。自分の部屋でもこのくらいやったら?」

「二段目と三段目が余ったので、昼食と夕食を並べてみました」

「カスの食生活じゃん!朝食べないの?!」

「ああ、朝食ですか……忘れておりました。こちらを」

 

 リタはポケットから小さな箱を取り出し、上にちょこんと乗せ……その箱は即座に、ミカの平手打ちによって粒子レベルまで消し飛んだ。

 

「セブンスターでございます」

「校!則!違反!!」

「……さすがに本物ではありません。ただの駄菓子でございます」

「どっちにしろ食生活最悪だからね?!」

 

 主にミカがツッコミに回るこの会話は、以前からほぼ変わっていない。

 この天地神明に誓っても執事や紳士の類と認めてはならないエセ執事が何故か許されているのは、ひとえに顔の良さ故である。

 なんかエリートっぽい気品漂う顔と物腰をしているため立ち振る舞いが様になり、一応敬語じみたものを話すこともできるので、会話や行動の詳細を認識できない距離から眺めていれば、ちゃんとした主従に見えないことも無いのだ。

 

 ティータイムと呼んだらネットで袋叩きに遭うであろうティータイム的な何かを早々に終え、ミカは草むしりを再開した。

 その隣で、リタは右手でミカに日傘を差し、左手で中庭に除草剤を撒こうとしてミカに怒られた。

 渋々リタもかがみ、日傘を若干自分側に寄せつつ草をむしり始める。本来ミカに課せられた奉仕活動を従者がやってしまっては示しがつかないのだが、『このエセ執事は雑草を煮た汁を紅茶として飲みかねない』という噂のせいで『雑草駆除ではなく収穫』という謎の建前がまかり通ってしまっているのだ。

 

「お嬢様、こちらを。アイスまくらです」

「冷たっ?!……あれ、前までは『天地がひっくり返ろうが異次元から侵略者が来ようがこのアイスまくらは絶対に渡しません』とか言ってなかった?」

「貯金の残りから業務用冷凍庫と寝具を新調しましたので。おかげさまで夜眠る時も快適でございます」

「絵面がバイトテロだけどね」

「まぁ、電気代がお馬鹿になりませんのでバイトのシフトは増えましたが」

「……そっか……」

 

 ミカの表情が曇る。エデン条約関連の事件以来ミカは後ろ盾を失い、リタへの給料の支払いは完全に滞っていた。

 「なぜミカに仕えているのか」と聞かれたら「現ナマの方が大変よろしくございまして」とか抜かしていた忠義の欠片も無さそうなこのアホは、どういうわけかいまだにミカの執事を務めており、その傍らアルバイトで生活費を稼いでいた。

 

「……ねぇ。リタはなんで、まだ私の執事でいるの?」

「はい?」

「前に、『何かと理由を付けて金のことを誤魔化すような雇用主は、即座に爆破して辞職するに限る』って言ってたでしょ?私が今後リタに給料を払える見込み、全くと言っていいほど無いし、バイトだけやってる方が楽だと思うんだけど……」

「あと、前ほど余裕のある生活送ってないし、この際紅茶もマトモに淹れられない執事は解雇しておこうかなって思って」

 

 おそらく後半の方が主な理由だと思いたいものである。

 

「……お嬢様」

「私は、あなたの執事でございます」

 

 リタは草むしりを中断してミカの方に向き直り、日傘を左手に持ち替え、汚れていない右手でミカの手を取った。

 

「確かに、探せば執事としての職は他にあるかもしれません」

「ないよ?」

「しかし、ミカ様以外の方を『お嬢様』と呼ぶようになると、どちらを呼んでいるのかよく分からず混乱を招きます」

「名前で呼んだら良いんじゃないかな」

「……それに」

「嬉しかったのです。ゲヘナ出身の私が、あなたにお仕えできたことが……お嬢様からすれば、ただの気まぐれだったのでしょうが」

「少しばかり失敗はなさいましたが、アリウスやゲヘナとの和解を目指したこと。私達の学園を、知ろうとしてくださったこと。私を、適当な理由で嫌わなかったことも。私は、あなたがちゃんと私を見てくれたことが嬉しかったのです」

 

 知性が欠片程度にしか感じられない彼女が、いつになく真面目な話をしている。

 想いを真っ直ぐに伝えることは、意外と簡単ではない。それでも、言葉にしなければ伝わらないことは、言葉にしなくとも伝わることよりずっと多いのだ。リタの『スコーンと言ったらスナック菓子のスコーン(バーベキュー味)』という誤解が今でも解けていないのと同じように。

 

「……ですから、お嬢様。給金など……」

 

「トイチ*2でよろしいのです」

「暴利!!」

 

「冗談でございます」

 

 なんだこいつ。

*1
ファーストフラッシュ

*2
十日で一割の利子。年利にして365%




ミカ……元ゲヘナの生徒が執事になった。原作よりゲヘナに寛容になっているし、セイアが死亡したと知らされるまではエデン条約推進派だった。鬼怒川カスミから風紀委員長の次に恐れられている。
リタ……フルネームは呂畑(ろばた)リタ。元はゲヘナの傭兵。『パスタを折ってレトルトソース袋と一緒にレンジでチン事件』以来、美食研究会から『見かけたらついでに爆破しとくか』程度に嫌われている。
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