トリニティシツジモドキ「お嬢様、こちら午後の紅茶をフレイムスロワーで温めたものになります」 作:ヤツメタウミエル
トラックの荷台、その奥の方にできた段ボールの山の一部となった一行は、箱から出ることもできずギッチギチであった。
特にミカは全力を出すと誰かの身体を破壊しかねないので、かなり窮屈な思いをする羽目になっていた。
「アルちゃん、そっちもうちょっと詰めて……!」
「つ、潰れる……!」
「ごごごごめんなさい!関節外してスペース空けますので!」
「そこまでしなくていいよ?!」
トラックが停車すると、雑な運転のせいで段ボールの山は崩れ、大量のアクセサリーがその上に降りかかった。
「んぎゃーっ?!」
「もがーっ!」
「角が刺さってるんだけど誰?!」
滅茶苦茶に暴れ続けた結果、誰かの足が段ボールを突き破り、そこからどうにか這い出ることができた。
荷台を出て運転手を手早く制圧し、周りを見渡してみる。
「ここが目的地……位置情報によると、ブランドショップ『ディー・メイジ』のバックヤードだね」
「え」
「悪の組織のフロント企業とかかしら」
「盗品を運び込むとなると、目的はまぁお察しですね……お嬢様、大丈夫ですか?顔色が悪いようですが……」
「い、いや大丈夫だよー」
歩を進める便利屋の後ろで、ミカは思いっきりビビっていた。『ディー・メイジ』といえば、先日自分が結構な額を出して色々と購入したブランドショップなのだ。
ブランドとしてありがたがって買っていたものがエセブランドだったとしたら、金銭的には大した問題にはならないものの、精神的には辛いものがある。
しかも、そこでリタとした会話の内容も随分なものであった。
「いやー、万魔殿はいけ好かないけどここに来れたのは役得だね!最近バズってたし、気になってたの!」
「あの、お嬢様……この店の商品、色々とボロくないですか?中古品店なのでしょうか」
「ダメージものってやつだよ、見る目ないなぁ。ストリートとかパンク系のファッションじゃ、このディー・メイジは金字塔なの」
「バズったのは最近なのに……?」
「ボーイッシュ寄りだし、リタちゃんにも似合いそうじゃない?私こういうのには詳しいから、選んであげるよ!」
「いえ、せっかく高給取りになったのに今更古着を着ようとは思いませんので」
「古着とブランドの違いも分かんないの?ちょっとくらい試しに着てみなよ、ほらこれとかこれとか……」
「やっぱり古着じゃないですか?生地がごっそりはがれていますが……」
「ダメージ加工だよ!」
もしかしたら、ただの古着だったかもしれない。そういえば、見た目だけではなく妙な匂いのする服もあったし、生地がそれほど上等でなく、肌触りの悪いものもあった気がする。
デザイナーに何らかの意図があるのだと思っていたが、ただ単に古いだけだったなら全て辻褄が合う……そんな、ほぼ確信とも言える疑念がミカの頭を埋め尽くしていく。
「あ、ここにも盗品が運び込まれてる」
「作業場……盗品を継ぎ接ぎして、ダメージ風の商品を作ってたんだね」
「ああ、なるほど……!中古品でも、状態の良い部分だけを使えば、ただの古着よりワンランク上の製品を作ることができる……これがお嬢様が言っていた、中古品店とブランドの『違い』なのですね……!」
ブランドのことなどロクに分からないまま思い切り間違った方向に納得したリタが、ミカにキラーパスをブン投げてきた。
これはもう恥を忍んででも訂正しなければ、取り返しのつかないことになる。そう判断し口を開いたミカに、リタの追撃が刺さる。
「あの、リタちゃん……」
「お嬢様が言っていました。トリニティの淑女たるもの一つはブランド品を持つものであり、そこから心の豊かさが生まれるのだと」
「ウ"ッ」
「あれは、自分はえすでぃーじーずに配慮しつつも良いものを使っているという心の余裕だったのですね」
「グゥ」
「やはり私も一つは持っておくべきなのでしょうか……というわけでアル様、ゲヘナの生徒におすすめのブランドとかありませんか?」
「え、私?!」
「はい。昔気質のおしゃれなアウトローを目指している方なら、詳しいかと思いまして」
「え、ええ、もちろんよ!」
第二のキラーパスがアルの方に飛んだ。ブランドに詳しくないアルは、なんとなく違和感を感じてはいたものの、お嬢様であるミカが言っていたならそうなのだろうと判断してしまった。
クライアントと憧れの傭兵の前で、ブランド一つ持っていないなどと言えるわけがない。当然ながら彼女は見栄を張った。
「え、ええ……当然よ!ハイブランドにはそれなりに詳しいの!」
「セレブの文化にも精通してるんですね……やっぱりアル様はすごいです……!」
「アルちゃんがよく使ってるブランドはねー、セカン〇ストリートとか、オフ〇ウスとかかな!」
「なるほど……ただの中古品店と思っていましたが、ブランドものも扱っているのですね。今度一緒に行きませんか、お嬢様」
「ウ、ウン、ソーダネー」
アルがそう言えば、アルのことをハードボイルドでかっこいいアウトローと信じて疑わないハルカは同調する。状況を把握したムツキはふざける。過半数がこうなると、もはや引っ込みがつかない。
ハイライトが消え、エデン条約編4章のようになった目で相槌を打つミカを見て、カヨコはため息をついた。
「しかし、盗品を材料に使うというのはいただけませんね……セカン〇ストリートはちゃんと買い取りを行っているのに」
「バラされて新しいブランド品になる前に、なんとしても盗まれたバッグと中身は取り返すわ。安心して頂戴」
「アリガトー」
店舗へ出た便利屋は、店主と対峙する。先日、とても爽やかな笑顔でミカに商品を紹介していた彼は、バックヤードから出てきた一行を見ると鬼の形相になった。
「き、キサマらぁ!バックヤードから出てきたということは、我が店の秘密を知ったなぁ!!」
「ええ、そうよ!あなた達が不良に盗ませたバッグは返してもらうわ!」
店主は状況判断が早かった。
「おのれぇ、盗品や捨てられていた原価ゼロの品を適当に組み合わせ、材料や製法を偽装しダメージ風ハイブランド品ということにして売りさばくという、我の完璧な計画がぁ……!!」
「あっ」
「くふふ、全部言っちゃったー!」
「何ですって……ブランド品じゃなかったの?!」
「中古品の寄せ集めがブランドなわけが無かろうがぁ!ゲヘナに店舗を構えていれば、審美眼の無い客しか来んだろうと思っていたのに……まさかトリニティの生徒が来て、そのうえ商品が全てただのガラクタだと見抜くとは!」
「審美眼……」
「そ、そんな……私がブランドと思っていたものは一体……」
「くっ、ふふ、くふふ~……お腹痛~い……」
店主は状況判断が早かったが、普通に間違っていた。自分の目論見をペラペラと喋る店主のせいで、調子に乗ってリタに色々と言った割に、自分も特に分かっていなかったことがバレたミカは真っ白に燃え尽きた。
ミカの話を真に受けて勘違いをしていたリタと、知ったかぶりをしていたアルは揃って赤面して白目を剥いた。その様子を見たムツキは笑い転げた。
「だがしかしィーッ!我が集めていたのはなにも、アクセサリーや衣服だけではない!ジャンク品やら何やらを集め、それを組み合わせてカイザーの最新型兵器を再現することに成功したのだッ!コイツで貴様らを消し、これまでの収益を抱えてトンズラしてくれよう!」
その隙に店主が動き、店内のマネキンの一つを引っ張る。すると店の床が抜け、巨大な兵器が店を破壊しながら姿を現した。
店の商品と同様に色々とボロく、胴体には大量のミサイルや銃が搭載されている。カイザーグループのゴリアテを半分くらい解剖し、適当なものを詰め込んだような見た目だ。
それを見て真っ先に動いたのは、カヨコとハルカだった。カヨコが頭上に銃を撃つと天井の一部が崩落し、それを伝ってハルカが一気にゴリアテモドキを駆け上り、店主にショットガンを向ける。
「あ、あの、つまりあなたがアル様とお客様を騙したんですよね……?」
「な、何だ貴様は!このゴリアテゴリアテモドキゴリアテジャナイゴリアテ(ゴリアテ仕様)の動きに付いて来るだと……!」
「そ、そうなんですよね?!じゃあ死んでください!死んでください死んでください!!」
「ぐおおおっ?!キサマぁ、ここから降りろおぉ!」
ハルカを振り落とそうとがむしゃらに暴れるゴリアテモドキの腕が、放心状態のミカに迫る。ショックから立ち直ったアルが、ミカを抱えてそれを避けた。いわゆるお姫様抱っこの体勢なのだが、それを気にする余裕はどちらにも無かった。
「危なっ……大丈夫だった?」
「いや別にそういうのだけじゃなくてさ、話題を合わせるために持ってないといけないことってあるじゃんね?第一私自身はどっちかというと可愛い系別にだからダメージものにあんまり興味なかったし、審美眼っていうものはそういうものに触れていく中で養うものだから、まぁ多少最初は間違えても仕方ないと思うんだようん」
「別の方向で大丈夫じゃなさそうね……っと!」
アルがミカを抱えていない方の手でスナイパーライフルを撃つと、胴体に搭載された大量のミサイルに誘爆し大爆発が起きた。
「ぐわあああ!弱点を狙うとは!!」
「全身弱点みたいなものじゃない!なんで爆発物を大量に露出させてるのよ!」
「なんだと……ぐおっ?!」
体勢を崩したゴリアテモドキに飛び乗ったリタが、店主に容赦ない銃撃を加える。そこにハルカも加わり、店主は顔面が痛々しいことになっていった。
「きさまっ、うぐっ、ちょっ、話さぐえぇ?!」
「ハルカ様、先程の奇襲は見事でございました。ですが、何か喋ったり確認したりする前にまず一発撃ってしまって、後から確認した方が効果的かと」
「そ、そうですね……参考になります!」
「ちょ、そろそろやめ、ぐはっ、こうさ、降参する!降参するから!やめてくれぇ!」
「あと降参した相手にはダブルタップ入れとくと奇襲されずに済みますよ」
「はい!こんな感じですか?」
「ぐふっ……」
「リタ、ハルカにこれ以上過激なこと吹き込まないで」
こうして店主をボコボコにした一行は、無事バッグを取り戻すことに成功したのだった。
「よし、これで依頼達成ね」
「ありがとうございました。報酬は後ほど口座に振り込ませて頂きます」
「……あ、でもよく考えたらこのバッグと中身、ディー・メイジのじゃん。あんまりいらない……痛っ」
銃声が響く。
「よく考えたら先日は色々と好き勝手言ってくれましたよね。淑女がどうとか見る目がどうとか。結局『アクセサリーを適当にブッ壊してダメージ何たらと称して売っている』が正しかったじゃないですか」
「その、落ち着い痛っ、一旦痛っ、リタちゃ痛っ、ちょっと?!話聞いて?!」
「問答無用でございます」
「なるほど、何か喋る前に撃つ……こんな感じなんですね!」
二人はそのままシームレスに主従喧嘩に移行し、最終的に終電が物理的に無くなりもう一泊する羽目になった。
それから数日後のこと。ミカとリタはいつも通り、茶をシバいていた。
「いやー、ちゃんとお金帰ってきて良かったぁ。泣き寝入りはムカつくからね」
「商品も返品したので、無駄足にはなりましたがね」
「そうだね、バッグとかシュシュとか……また今度、どこかに買いに行こうかな?」
「あの、それですが……お嬢様、こちらを」
そう言ってリタは、小さな箱を取り出した。中には、何とも名状しがたい形の布が入っていた。
「……シュシュ?もしかして、作ったの?」
「はい。こういったことは不慣れでして、多少至らぬ所もありましたが」
「針がハ〇ターハンターで脳弄られてた人みたいな刺さり方してるのってそのせい?大丈夫?」
「高級品には明らかに見劣りしますが……『物の価値は一つの要素だけで決まらない』、とのことでしたので。お嬢様から見て、いかがでしょうか?」
左手に付けてみる。精巧でも、華美でもないそれは、やはり他のアクセサリーと比べて不釣り合いだ。それを見たミカはしかし、軽く微笑んだ。
「まぁ、所々ほつれてるけど……ありがとう。一応、大切にしておくね」
「あ、そうではなくてですね」
「え?」
「先日のような偽ブランドを作れば稼げるか、意見を伺おうと思いまして」
「無理だよ。柳の下にドジョウはいないよ」
「とほほ……」
シュンとしたリタを横目に、ミカは呟く。
「ふふ、そうだね」
「ブランドだけが全てじゃないよね、物も、人も」
Holiday
fin
シュシュ……プレゼントとしての意味は「一緒に居たい」「大切な存在」。
ミカ……立ち絵の左手のシュシュが原作よりボロい。