トリニティシツジモドキ「お嬢様、こちら午後の紅茶をフレイムスロワーで温めたものになります」 作:ヤツメタウミエル
ナギサ様出ませんでした(血涙)
「うう……やっぱり、この辺りは危険な場所なんです……行方不明になった生徒みたいに、私もあの化け物に連れ去られてしまうんです……!」
アリウス自治区の端、カタコンベとの境目付近。この辺りで生徒数人が猫を追ってカタコンベに迷い込み消息を絶ったことで、調査のため生徒が派遣されていた。
調査にはアリウススクワッドからもメンバー一名を出し、不測の事態にも対応可能なはずだった。しかし現在、精鋭であるはずの彼女はだいぶ追い込まれていた。
手がかりを探すため複数に分かれて行動し、孤立した所を奇襲されたのだ。
「ポイッタカ―!」
仕切り直そうとして投げたスモークグレネードに、浪人生族の伝統的な装飾を施された投げ槍が突き刺さる。グレネードは不発となり、さらに第二第三の槍がヒヨリを狙う。
「うう、どうにか避け……違う、罠……!!」
三本目の槍は失投ではなく、上方の仕掛けを狙ったものだった。瓦礫を支えていた縄が切れ、ヒヨリに襲い掛かる。
かろうじて避けたが、これで遮蔽物が破壊されてしまった。隠れるより相手の攻撃の方が早いだろう……しかし、射点は先程の槍から特定できた。
一か八か、スナイパーライフルを構えて照準を定め……その手に縄が絡まった。
「うぇっ?!銃が……」
ボーラ。古代から使用されていた、石二、三個を紐で繋いだ拘束用の武器である。19世紀の開拓時代にはガウチョ達が銃とともに使用し、英国軍に対し勝利を挙げたと言われている。
取り回しが悪い対物ライフルでは、即座に敵を狙うことができない。しかし、槍や石器というよく分からない武器や、謎の言語を使用している存在に感じた「やらなければやられる」という恐れから、ヒヨリの判断は鈍っていたのだ。
さらに数本の縄が絡まり、ヒヨリは地面に倒れ伏した。
「うわあぁぁん!もうおしまいです……!丸焼きにでもされるんでしょうか……生贄か何かになるんでしょうか……せめて死ぬ前に、お腹いっぱい食べたかったです……!」
「ポッピッポー!ピポポッタララーリラー!!」
「ひぃーーーっ!!」
ひときわ大きな槍を構えて現れたのは、これまた浪人生族の伝統的な仮面を付け、燕尾服と葉っぱに身を包んだ人間だった。
「プレソリス、イススフクス、クルリヴ。スラスリ、ヴェルラス!スグラクフ、ニルル、プリサス、ヴッスナ!ジャスカ!」
「うわぁん!何言ってるのか全然わかりません!日本語でお願いします……!」
「……ニホゴ?」
「うわぁん!期待はしてませんでしたがこっちの言葉も伝わりません!」
「ニホゴ……コトバ……ああ!」
何かが引っかかった人間はしばらく考えた後、色々と大切な何かを取り戻したらしい。仮面を取って槍を置き、綺麗に一礼して見せた。
「申し訳ありません……こちらの言語圏の方に会うのは、じつに一ヶ月ぶりでして。ご無礼をお許しください」
「うわぁ!急にマトモにならないでください!」
ファーストコンタクト時に若干理性を失っていたことで、リタはかなり警戒されてしまっていた。その辺の認識があまりちゃんとしておらず無警戒に近づいたリタは、適当にぶら下げていたハンドガンを奪われてしまった。
銃があるのに何故槍を使っていたかは謎である。
「そ、それ以上近づいたら撃ちますよ?!」
「そのような脅し、キヴォトスでは挨拶にもなりませんよ。アクション映画じゃないんですから……あと道教えてください」
「ひいっ?!」
脅しを全く意に介さず近づいて来るリタに対し、ヒヨリが引き金を引くと、銃からは綺麗な花が飛び出てきた。
「うわぁん?!もうおしまいです!敵の武器なんですから、期待した通りになんていくわけないですよね……!」
「うーん……とりあえず、一旦落ち着いていただきましょうか」
「その銃で撃つんですね?!」
「違いますよ、カニを食べると静かになると言うでしょう?」
そう言ってリタは、もう一つの銃からカニの身を引きずり出した。
「最後の非常食でございます」
「カビ生えてますね」
「とほほ」
リタは銃にカニを詰め直した。
「なるほど、カタコンベで遭難して生活を……大変でしたね」
「そっちはそっちで、毎日大変そうですね」
「まあ、それも人生ですから……」
しばらくして、どうにか落ち着いたヒヨリとリタは情報交換をしていた。少なくとも、この辺りを通ったアリウスの生徒が行方不明になった原因がリタであるという誤解は解けたようだ。
ミカは既にトリニティへ帰ってしまったらしい。アリウスとの和解は、転校生一名を迎え入れたもののそれ以降難航しているようだ。
「お嬢様も心配している可能性が無きにしも非ずといったところなので、トリニティに戻らなければならないのですが……アリウスの方なら、道をご存じではありませんか?バールのようなものがあれば、それでもいいのですが」
「ごめんなさい、脱走対策のため、カタコンベ内の道は作戦で必要なとき以外教えられていないんです……」
「行方不明者が出たのってそのせいですよね?重要なことなんですから、生徒会長をブン殴って聞き出せば良いではないですか」
「マ、マダムにそんなこと言っちゃダメですよ?!誰かに聞かれてたら、投獄されちゃいます!」
「……詳しくお聞かせくださいませんか」
ヒヨリは、あたりをはばかる低声で答えた。アリウスは、内戦を終結させた「マダム」と呼ばれる大人によって支配されていること。「全ては虚しい」という校訓、にゃんこ接触禁止令、日に三十時間の鍛錬という矛盾。そう言った理不尽が、トリニティへの憎悪を煽るために利用されていること。
リタは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の大人を除かなければならぬと決意した。リタには政治がわからぬ。リタは、トリニティの執事である。炎を吹き、ゴリラと遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。
「……最悪ですね」
「うう、でもリーダー達を見捨てる訳にもいきませんし、カタコンベを抜けられても行く先がありませんから……八方塞がりですね、えへへ……」
「アリウスって、生徒は何人くらい居るんですか?」
「えっと、私語が規制されているので正確には知らないんですが……少なくとも数百人は居ます」
「そうですか。うーん……」
少し考えた後、リタはヒヨリにハンドガンを向けた。ヒヨリが即座に反応して体勢を変えるのと同時に、銃口から羽ばたくハトのおもちゃが飛び出した。
(こんなのが数百人も居たら、私では叩き潰されるのがオチですね)
「な、何ですかいきなり?!」
「……いえ、そういえばまだ見せていない手品がありましたので。ところで、何かバールのようなものをお持ちではありませんか?」
「ええと、一応持ってます……」
「できれば、譲っていただけませんか?できる限りの対価はお支払いしますので」
「な、何に使うつもりですか?!もしかして、やっぱり〆て丸焼きにするつもりなんでしょうか……せ、せめてできるだけ良いものと交換してください……!」
その後雑多な物資とバールを交換し、リタはカタコンベに戻ることにした。
「色々と教えて頂いて、ありがとうございました。それでは、またお会いしましょう」
「あ、リタさん!この銃、忘れてますよ!」
「ああ、それも差し上げます!セーフティを弄れば実弾も出せますから、禁制品検査に引っかかりませんよ!」
「あ、ありがとうございます……?二倍にして返せとか言い出したりしませんよね?」
「しませんよ、ご安心ください。それでは……オラァ!!」
リタがバールを振り下ろすと、カタコンベの壁にそれなりのヒビが入った。
「?!」
「やはり、お嬢様のようにはいきませんね……オラオラオラオラオラオラオラオラ!!」
「?!?!!」
三十日間の探索で、リタはカタコンベの道を完全には導き出せなかった。しかし、ある程度の厚さの壁を破壊できるなら、断片的なルートを継ぎ合わせることでかなり地上に近づくことができる。その後のことはどうなるか分からないが、『慎重』など、彼女には縁のない言葉である。
パワーが足りない分は手数で補い、リタは石材を砕いていく。空いた穴から去っていくリタを、ヒヨリは茫然と眺めていた。
しばらくしてから、ヒヨリは手元の銃を弄ってみた。セーフティを解除すれば実弾が、さらに奥へ回せば花が出てくる。名前は知らないが、綺麗な花だった。
「えへへ。たぶん明日は、嫌なことが多くなるんですよね……」
「ぷはっ!」
トリニティ郊外の路地から、少女が生えてきた。
地上付近までたどり着いたリタは、そこから先の道が分からなかったため、最終的にほぼ真上に掘って脱出することにしたのだ。最後の石畳には苦戦したものの、顔だけでも出せる穴が空いたので、これで助けを呼ぶことができる。
「眩し……くないですね。誰か上に居るような……あのー!すみませーん!」
「だ、誰?!」
「あ、そっちじゃないです。下です、下」
「?!」
リタに気付いた生徒は驚いた後、はっとしてスカートを抑えた。
「すみません、レスキュー部か消防部の方を呼んで頂けませんか」
「み、見たの?!」
「何をですか?」
「そ、それは、えっと……!」
「下着なら黒でしたが」
「へ、変な仮面被った変態?!エッチなのは駄目!死刑!!」
「すみません、地下からは向こう側の様子が見えなかったもので……おわー?!」
地上に戻ったリタは、早速吹き飛ばされることになるのであった。
エデン条約以前と以後、イベントとかでしょっちゅうキャラ解釈を混同しそうになります……というか、イベスト後に受けた印象から逆算してエデン条約周りの印象まで変わってくるのでは……違和感があってもどうか許してください……
この二次創作を書くにあたりエデン条約編をちょくちょく見返していたので、ついついその頃とかそのちょっと後あたりとかを対比しながらイベストを読んでいたのですが、生徒たちの成長やお互いへの思いやりが感じられて本当に最高です。何と言うか、彼女たちは日々変化していく「生徒」なんだなってことを改めて実感して泣きそうになりました。これが先生の言っていた「無限の可能性」なんですね……コミカルにテンポよく進みつつブルーアーカイブの「物語」面をしっかり摂取できる、全体的な尊み水準の高い素晴らしいイベントでした。あと最後にカスミがブン殴って来るのは反則やろがい。
というわけで、(これから先のストーリーの大枠は決まってはいますが)最終的な結果としての「ミカの執事」かつ「エセ執事」という立場については、「ブルアカみがちゃんとあるアホ」という最終目標は念頭に置き、ナギサやセイアとの関係性も含めつつ真面目に考えて書いていこうと思っております(などとクソおふざけ二次創作書きが申しております)。