トリニティシツジモドキ「お嬢様、こちら午後の紅茶をフレイムスロワーで温めたものになります」   作:ヤツメタウミエル

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 シリアスがちょびーっとだけ入ってくるかも……かも……?いつの間にか総合評価5000超えてました。いつも読んで頂きありがとうございます。


「今の時代はメイドなのです、ピースピース」

「リタちゃんが見つかったってホント?!」

「ええ、遭遇した正義実現委員会の生徒によると、『地中からいきなり生えてきた』とのことです」

「なんとなくそんな気はしてたけど……そっか、生きてたんだ……よかったぁ」

 

 リタが戻って来たと聞いて、ミカはため息をついた。彼女は何があっても死なないような気もしていたのだが、一ヶ月ともなると流石に心配が勝っていたのだ。

 ……それに、人は意外と簡単に死んでしまうから。

 

「長い間席を外してしまい、申し訳ありません。ただいま戻りました、お嬢様」

「……遅いよ、リタちゃん。どこ行ってたの?」

「カタコンベ内で遭難し、方向を間違えて一旦アリウスまで行ってしまいまして。つきましては、その辺であったことについてお話が」

「……何?」

 

 リタは、ヒヨリから聞いたアリウスの現状をミカに伝えた。迅速な報連相はアルバイトでも大事なのだ。

 

「……かくかくしかじかというわけで、どうすればいいのやらと思いまして」

「そっ……かぁ。そういうことだったんだ……」

「……なんか歯切れが悪くございますね。私が遭難している間に何かあったのですか?」

「それは……」

 

 リタが訝しんでいると、どこからともなくメイド服を着た生徒が現れた。

 以前テレポートした謎のオーパーツを捜索するため、特異現象捜査部はトリニティに地質調査の許可を申請した。しかし、今はエデン条約も近く、問題になりそうな活動の許可は下りなかった。

 しかし、危険性があるのは確かなのに能力さえ分かっていないオーパーツを放置するわけにもいかない。どうにかして回収するため、ミレニアムから生徒が潜入することになったのだ。それが彼女、C&C(あと特異現象捜査部)所属のメイド、飛鳥馬トキである。

 

「失礼します、ミカ様……おや?そちらの方は……」

「お嬢様、もしや……既に後釜を……!」

 

 リタは真横にブッ倒れた。時給の良い職場を失ったことに対するショックと、速攻で次が雇われていたショックのダブルパンチである。

 

「いやいやまあまあ分かりますよ、不本意ではありましたが一ヶ月近く無断欠勤となっていたわけですし?そりゃまあ考える時期かと思いますけど、それはそれとして即解雇と言われましても……法的に解雇可能ではありますけど労災って線もあるんじゃないかと思うんですよ?やっぱりメイド服着てる可愛い方の方が良いんですかね?そりゃフリフリであるに越したことは無いかもしれませんがね?せめてもうちょっと似合うならそりゃ私もメイド服がよかったというか……」

「いや、そういうことじゃなくて……」

「今の時代はメイドなのです、ピースピース」

「ごふっ」

 

 さらに、トキからの容赦ない追撃がリタにブッ刺さった。

 

「ふふ、上下左右がおかしくなっている感覚がします……カニ漁船に乗っていた頃を思い出しますね?外れた消火器が飛んで来て頭に直撃してきた時とか……オデュッセイアの荒れ狂う海よりもずっと激しい……これが『NTR』という感覚……」

「リタちゃん落ち着いて?!この子短期だから!」

「短期……?これからは私も短期雇用を転々と……シフト調整……契約更新……悪い大人……給与未払い……ふふ、頭が……」

 

 リタのメンタルは防御力が無敵クラスであり基本的にダメージを受けないが、最大HPはそれほど高くない。こういう弱点を突かれると、普通に大ダメージである。

 

「そちらの方については、私から説明しましょう」

 

 そこに、さらに追い討ちがかかる。ティーパーティー()()()であり、リタがトリニティ1恐れる相手……桐藤ナギサの登場である。

 リタは目にも留まらぬ速さで居住まいを正した。顔色はさらに悪くなったが。

 

「はい、お願いしますナギサ様」

「この度トリニティでは、成績不振の生徒のために『補習授業部』という部活を設立する運びとなりまして。その際、リタさんの学力についても少々調べたのですが……ゲヘナの定期テストで大量の赤点を出し、補習も十分には参加していないため留年寸前。他校の生徒とはいえ、格式あるティーパーティーの使用人として見過ごせないレベルです。そのため、リタさんには福利厚生の一環として、補習授業部に所属して頂くことになりました。こちらのトキさんには、その間の代理を勤めて頂くことになっています」

「ハイ、畏マリマシタ」

「成績が改善されなかった場合、解雇もやむなしということで……頑張ってくださいね?」

「ハヒィ」

 

 勉強したくない。その一言が言えないまま、リタの補習授業部入りが確定するのであった。

 


 

 セントラルD.U.の一角にあるオフィスビルで、一人の大人が冷や汗をかきつつ必死の言い訳をしていた。

 相手はミレニアムサイエンススクール二年生、セミナー所属の早瀬ユウカ。恐ろしい微笑を浮かべるその様は、まさに大魔王である。

 

"……ユウカ。例えば市場に、食品とロボット以外の財が存在しないと仮定してみよう"

「生活にそんな仮定を持ち出さないでください、先生」

 

"食品の絶対的な条件は飢え死にしないことで、それは食パンやコッペパンだけでも達成できる。そこに野菜や肉を加えていっても、追加する食品一つあたりの幸福度増加量は減少していくんだ"

"一方でロボットには様々な種類のものが存在するから、どれだけ買っても幸福度の増加量は減少しない。それどころか、コレクター欲が満たされたり、ミキシングビルドが可能になったりする。買えば買うほど、ロボット一つあたりの幸福度は増加していくんだよ"

"さて、ここで考えてみよう……野菜とロボット、どちらをどれだけ買うのが合理的か"

「さえずらないでください、先生。まず何をどれだけ買ったのか、それを明らかにしましょう」

 

 彼、もしくは彼女は『先生』。失踪した連邦生徒会長が残した超法規機関、『連邦捜査部S.C.H.A.L.E.(シャーレ)』の顧問であり、この学園と青春の物語の主人公である。

 

"ちょっと待ってユウカ、話せば分かる"

「だから今話そうとしてるんじゃないですか」

 

 どう誤魔化そうかと目を逸らす先生。都合の良いことに、視線の先にはトリニティの校章が付いた高級車が見えた。

 

"あ!そういえば重要な案件でトリニティの生徒に招待されてたんだった!いやーごめんユウカ、そんなに長いこと待たせる訳にもいかないから、行ってくるね!"

「……帰ってから、ゆっくりとお話しましょうか」

 

 この後補習授業部関連のゴタゴタでかなりの期間シャーレに戻らなかった先生は、留守の間に発覚した買い物の分も含めてユウカに怒られることとなるのだが、それはまた別の話である。

 ちゃんと説教を受けておけば追加の捜索も行われなかっただろうに、目先のものには蓋をしたがるのが人間という生き物である。

 

「ごきげんよう、あなたがシャーレの先生ですね。この度はティーパーティーの招待に応じて頂き、ありがとうございます」

 

 車の前で先生を出迎えたのは、ちゃんとした執事服を着たリタであった。ナギサがした中でも、人生最大の人選ミスである。

 

「ティーパーティーの執事、呂畑リタと申します。以後、お見知りおきを」

"よろしくね、リタ"

 

 『職失いたくねー』という願望がつい発言にまで出てしまっているが、それを先生が知る由もない。第一印象だけは丁寧で礼儀正しい執事であり、これこそがナギサの人選ミスの原因である。

 ティーパーティーの高級車に乗り込むと、車内には生徒が一人転がっていた。

 

"?!"

「……ああ、申し訳ありません。そちらの方は、この車の本来の運転手です。流れ弾に当たり気を失ってしまいまして」

「本来であれば、トリニティに着くまで私がおもてなしする手筈だったのですが……今回は、代わりに私が運転手を務めさせていただきます。見苦しい所をお見せし、申し訳ありません」

"気にしないで、キヴォトスでは結構よくあることだから"

「それでは、参りましょうか」

 

 エンジンがかかると、ティーパーティーの車は一気に加速した。キヴォトスでは大抵の場合、法定速度がロクに守られない。しかし、それでもなおリタは飛ばしすぎであった。縦に長い車体をドリフトで無理矢理に曲げ、速度を落とすことなくどこかへ向かっていく。

 

「……ハッ?!私は何を……いや、待ってくださいまし!何故リタさんがハンドルを握っていますの?!」

 

 しばらくして、車が全くトリニティの方に向かっていないことに先生が気付き、本当に着くのか不安になり始めた頃。運転手の生徒が目を覚ました。

 

「お目覚めになりましたか。先程あなたが流れ弾で気絶しましたので、一旦代わりに私が運転をしております」

「ああ、そうでし……待ってくださいまし。あなた、運転はできますの?」

「以前の仕事で経験はございます。バイクで敵歩兵に突っ込んだり、トラックで敵拠点に突っ込んだり、敵戦車に自動車で突っ込んで自爆したりと」

「直進と特攻以外やってませんわね?!」

 

 リタをちゃんと知っている生徒が目覚めたことで、あっという間に問題が発覚していく。

 

「あとリタさん、その地図90度くらい曲がっていますわよ?!」

「すいません。カーナビが90km先で右折だとか70km先で左折だとかよく分からないことばかり言うものですから、混乱してしまいまして」

「どれだけ道を間違えたらそんなことになるんですの?!今私達、何処におりますの?!」

「カーナビによると、海の上のようです」

「そんな訳が無いでしょう?!」

「ええと、では地図で確認を……」

「前!前見てくださいまし!」

 

 爆速で直進していた高級車は、ちょうど突き当りにあった銀行に突っ込んだ。

 先生と運転手の生徒は衝撃に備えたが、リタが即座に二人を受け止めたため大事には至らなかった。

 

「申し訳ありません。お怪我はございませんか?」

「怪我は無いですわ!他のあらゆる点が問題ですが!!」

"まぁまぁ、落ち着いて。まずは、この状況……どうしよう……"

 

 さて、キヴォトスで銀行に車が突っ込んだ場合、周りの人はどう考えるだろうか?

①、不幸な事故。

②、機械の暴走。

③、銀行強盗。現実は非情である。

 

 ミレニアムなら②もあり得るが、トリニティでは当然ながら③である。この事件によって、未解決事件である『覆面水着団事件』の頃からささやかれていた『シャーレの先生強盗団の正体説』が、一部の界隈で盛り上がりを見せたのであった。




トキナギ、ミカアル。私の好きな言葉です(本編で全く絡みの無い人達)
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