トリニティシツジモドキ「お嬢様、こちら午後の紅茶をフレイムスロワーで温めたものになります」 作:ヤツメタウミエル
イベスト読みて涙を流し、ツムギとレナの実装を待ちて涙を流す
補習授業部第二回模擬試験の結果は、次の通りだった。
ハナコ―8点、不合格。
アズサ―58点、不合格。
コハル―48点、不合格。
リタ―44点、不合格。
ヒフミ―64点、合格。
アズサはもう少しで合格といったところまで迫り、コハルとリタもかなりの躍進を遂げた。しかし、それ以前の問題として、何よりも気掛かりなことが一つあった。
「あの、リタちゃん。顔が真っ青ですよ……?」
いつも表面上だけはクールビューティーなリタの顔面が、今日は朝から残念なことになっていた。彼女によると、昨日何やら恐ろしいことがあったらしく……
「うう、思い出したくもありません……あれは昨日の夜、立ち入り禁止の屋上で、ブラックマーケットのグレーな業者の方と連絡を取っていた時のことなんですが……」
「私としてはそっちの方が怖いです!ブラックマーケットは恐ろしい場所なんですよ?!」
「グレーと言っても限りなく黒に近くはありますが、やった取引そのものは一応現時点では違法ではないので問題ないかと……」
「問題しかありません!色々と語るに落ちてるじゃないですか!」
「嘘は良くないかと思いまして」
そして機材を片付け、証拠を隠滅している際……なんと、オバケに出会ったという。
「身長は私と同じくらいでしょうか……全体が影でできているような、人型かどうかも微妙な姿で……それだけならまぁ嫌な見た目程度で済むんですけど、恐ろしいのはここからなんです」
「あ、見た目が問題じゃないんですね」
「最初私は、それを『オバケっぽい見た目の不届き者』と思いまして、とりあえず発砲したのですが……銃弾が、通り抜けたんです!それで爆発物満載のロードローラーを突っ込ませたんですが、傷一つ付いていなくて……殴ってはっ倒せない相手とか、怖すぎるじゃないですか?!」
「怖いの基準そこなんですね?!幽霊そのものじゃなくて?!」
「幽霊ではなく、オバケとお呼びを……超怖いので」
そしてリタは、先生に泣きついて助けを求めた。かなり情けない。
「このままでは補習にも集中できません……!お願いです先生、一日……いや半日だけ時間をください……!徹夜でもなんでもして、どうにか遅れは取り戻しますから……!」
先程ミカから色々と聞いた手前ではあるものの、良くも悪くも生徒を信じるのが先生である。少しの間、別館を離れることを許可してしまった。
「ハイ……」
リタがどこかへ行ってから、しばらくして。補習授業部を訪ねてきた誰かが、アズサの仕掛けたブービートラップに引っかかっていた。
「し、失礼しま……きゃあっ?!こ、こっちにも……?!」
「逃げても無駄だ。最初のトラップが発動した時点で、侵入者は既に半径20mブービートラップの範囲内に居る」
「アズサちゃんっ?!?!」
断続的に爆発音が響く。刻一刻と、訪問者にダメージが蓄積していた。
「何やってるの?!早く助けないと……!」
「ま、待ってください……!今、補習授業部は合宿中で、外出も制限されていますよね……?」
「えっと、それがどうしたの?」
「今ここには、リタちゃんが不在です……これでは、リタちゃんが補習を真面目にやっていないと思われてしまうかも知れません……!」
補習授業部の部長として遅くまで起きていることが多いヒフミは、最近のリタの努力をよく知っていた。毎日補習が終わってからも机に向かい、暗記等の時間がかかる分野も必死で補っているからこそ、リタの成績はコハルと同等かそれ以上の伸びを見せていたのだ。
訪問者が誰かは分からないが、トリニティでは人の噂が伝わるのは早い。今居ないことだけを根拠に、そんな彼女の努力が否定されてしまう……それは、心優しい少女であり、リタの友人でもあるヒフミには心苦しいものがあった。
「だ、だったらどうするのよ?!」
「いっそのこと、このまま一旦トラップで制圧して……いや絶対にダメです?!ええと、私とアズサちゃんでどうにか誤魔化す方法を考えるので、コハルちゃんとハナコちゃんは、助けに行くついでに少しでも長く時間を稼いでください……!」
一方その頃リタは、頭頂部にたっぷりと塩を盛られていた。
「あの……先程から謎の液体、ニンニク、唐辛子、豆、塩と続いていますが……もしかして私、これから料理されるのでしょうか?」
「ふふ……さしずめここは注文の多い料理店で、私達は山猫のシェフ、ということでしょうか。そしてあなたはメインディッシュ……たっぷりとタレの染み込んだ……」
「ヒィー?!どうしてオバケから逃れようとして、怪異にブチ当たらなきゃならないんですか!」
「ちょっと、変に怖がらせないでよ?!ウチはそういうのじゃないから!」
「大丈夫だよぉ、リタちゃん……ぜんぶ、由緒正しい魔除けの品だからね……調味料にもなるけど……イヒッ」
「大丈夫ですよ!例えば塩は、古来より百鬼夜行でお清めに使われていました。飲食店の出入り口に塩の盛られた小皿が置いてあるのも、魔除けのためです。トリニティの神話にも塩の柱になった人が出てきますが、他にも塩による例えが……」
リタが訪れていたのは、ワイルドハント芸術高校、オカルト研究会。幽霊とかそういうものに詳しいらしい、専門家の知り合いである。幽霊が出たと聞いて、リタの要請には二つ返事で了承してくれた。
「だいたい、幽霊なんて居るわけ無いじゃない!見間違いでしょ?」
「レナさん、あなたは見ていないからそんなことを言えるんです……銃弾も安全靴*1での蹴りも、ロードローラーも効かなかったんです!大抵の場合は誰であっても、とにかく頭部を殴り続ければ倒せるんですよ?!」
「結構えげつないわね?!」
リタに憑りついた(と思われる)霊と話したり、正体を突き止めたりするための様々な試みが失敗した後、オカルト研究会は『除霊に使えそうなものを総当たりで試してみる』という方針を試していた。しかし、これではやはり埒が明かない。
「どうにかして、霊の正体を突き止められないでしょうか……リタさん、このタロットカードから、三枚選んでみてください」
「ええと、これとこれと、これで……どうでしょうか?」
「これは……『審判』の逆位置、『塔』の正位置、『女帝』の正位置ですね。意味はそれぞれ、『行き詰まり』、『災難』、『愛情』です」
「三分の二が悪い意味じゃないですか?!」
「タロットカードは、様々な解釈があるものです。もしかしたらこの中に、現状を打開するヒントが……!」
その後、エリがアイデアを思いつくまで総当たり戦術が続けられることになったものの、成果はあまり振るわなかった。
一旦、話は補習授業部の方に戻る。ハナコとコハルはどうにかこうにか時間を稼ぎ、訪ねてきたマリーと共に教室へ戻ると……そこにはリタ?が居た。
「こ、こんにちは!すいません、侵入者用のトラップが作動してしまって……」
「ごめん、私が……じゃなくて、アズサ様が用心にと……」
「は、はい……あれ、リタさん……なんだか、何か違うような……?」
「……やっぱり身長が足りない。どうしよう、ヒフミ」
「ま、まだバレてませんから……どうにかこのまま……」
アズサはアリウスで、様々な訓練を受けてきた。潜入のための変装技術も完璧に近く、今のアズサは服装も顔も、身長を除けばリタにそっくりであった。
これでどうにかなりそうだと、コハルが胸を撫で下ろしたのも束の間。マリーの発言によって、この作戦の致命的な部分が突かれる。
「ところで、本日は補習授業部の白洲アズサさんを訪ねてこちらに参りましたが……今はどちらに?」
「「あっ」」
アズサが不在のリタに扮すれば、当然アズサが不在ということになってしまう。これでは、本末転倒であった。
「わた、アズサ様は少しだけ席を外しておりまして。すぐにお呼びして参ります」
「そこまで急ぎの用事ではありませんので、お気を付けて」
アズサは『呼びに行く』という体で時間を稼いだものの、そこからは無策であった。アズサとして戻ろうにも、リタが居ない状態ではあまりにも不自然だ。
そうして、悩んでいた時……『それ』はアズサの前に、不意に姿を現した。
「縺壹▲縺ィ荳?邱偵▲縺ヲ險?縺」縺溘h縺ュ」
「遘√?髱呈丼縺ッ縺ゥ縺薙∈」
「逕溽横陟」縺?縺代?邨カ蟇セ縺ォ險ア縺輔↑縺」
以前校舎として使われていた別館には、長い歴史がある。長い歴史の中で蓄積されてきた負の情念、ごく稀に発生する死者の霊魂……そう言ったものが集まり、形を成した『ナニカ』。
恐れろ。怖れろ。畏れろ。『それ』は、アズサへと近づいていく。そして、『それ』を目にしたアズサは、リタの話を思い出していた。
(『身長は私と同じくらいでしょうか……』)
「……やった!」
アズサは目を輝かせた。予想外の反応に困惑する『それ』は、その頭に白いウィッグを被せられた。
そしてしばらくして、教室に戻って来たのは、アズサとリタっぽいカツラを被った『それ』だった。服を脱がしたり特殊メイクをすることができなかったので、どうにか乗せられたカツラだけ乗せて誤魔化すことにしたのだ。
「縺ェ繧薙〒?」
入って来た『それ』を見た一同の反応は、絶望……ただし、怪異ではなく全く別のことに対してであった。
"(((バレたーっ!終わったー!!)))"
カツラを被った『それ』は、どう見てもリタには見えない。そういった直近の問題の方が、怪異がどうこうという差し迫っていない問題を追い越していた。
「えっと、アズサさん……と、リタさん?です、よね?」
「驕輔>縺セ縺」
この場で『それ』を恐れるとしたら、マリーだけ……だったのだが、マリーも『それ』を恐れていなかった。
(まぁリタさんですから、身長が縮んだり真っ黒な何かになっていたりしても、おかしくないですよね……?何か事情があるのかもしれませんし)
「縺?d豌嶺サ倥¢縲∵?繧峨°縺ォ縺翫°縺励>縺ョ縺瑚ヲ九※繧上°繧九□繧」
そう、マリーはリタに対する『様子のおかしい人』というイメージが既にできていたうえに、何らかの事情がありそうな人に対して気遣いができるいい子だったのである。
「その、本題に入る前に……こちらは差し入れです。補習、頑張ってくださいね!」
そしてマリーはちょっとしたお菓子を取り出して一同に渡した後、『それ』の容姿を気にすることなく、手を取って励ました。
……ところで先程も述べたが、『それ』は別館に集まった負の情念や死者の霊魂の集合体である。それが、マリーの純粋な優しさを向けられればどうなるか。
「コレガ……『愛情』……人ノ心ノ、光……」
「リタさん?!」
そう、除霊完了である。『それ』は、塵になって消えていき……後には、カツラだけが残った。
「あ、あの、リタさんが……?!髪だけを残して、塵に……?!」
ここで、先生が動いた。
「は、はい……」
アロナが描いた『先生の絵』によると、先生は薄毛に見える……という意見の人も多い。だからだろうか、先生の説得は真に迫っていた。
というか問題はそこではないのだが、先生には『これで通そう』という『凄み』があった。
その後、アズサが以前起こした事件についての説明が行われ、マリーは感謝の言葉を述べて去っていった。
こうして最終的にリタの不在がバレることは無かったが、マリーの心には『もしかしたらリタさんは薄毛なのかもしれない』という誰にも相談できない疑念が残り続けることになる。先生のミスであった。
一方その頃、リタはお餅を口に咥えて、煎餅を額に当てていた。餅は小豆と合わせたり、菱餅にしたりして魔除けに用いられる。そして煎餅にも、瓦煎餅等、魔除けとして使われる種類のものがある。それらを上手いこと組み合わせた、44通り目の除霊方法であった。
「……どう?霊が浄化されて、黒いシミになってお餅に移ったりは……してないみたいだねぇ」
「明らかにふざけ始めてない?!絵面がなんか、妙な事になってるんだけど……!」
「そ、そんなことはありません……!ありませんよね、カノエ先輩?」
「これも効果無しかぁ……次はお灸でも乗せてみようか」
カノエがリタの背に乗せたお灸の主な材料は、ヨモギである。ヨモギは古来より、その香りから魔除けの効果があると信じられてきた。そして、お灸に使う火もまた魔除けの最たるものである。
「そういえば、リタはどうしてウチのオカ研を頼ったの?トリニティの同好会とかシスターフッドとか、近くの神社でも良かったんじゃない?」
「ええ。しかし、別の用事もありましたので。ツムギ様、少しよろしいですか?」
「あら。私、ですか?」
リタは真っ直ぐにツムギへ向き直り、頭を下げた。先程のお灸は転がり、首筋に直撃した。
「熱っづ!」
「大丈夫?!」
「うう、大丈夫です……単刀直入に言います。あなたに、ロックンロールを教えて頂きたい方が居るのです」
ツムギは少し考えてから、合点がいったような表情をした。
「……なるほど。人もネズミも操る笛の音に連れ去られ、暗闇の中に閉じ込められた子羊達。明るい世界へと連れ出すために、より強い音色が必要といったところでしょうか」
「はい、そんな感じです」
「なんで通じてるのよ?!」
「そのようなお願いでしたら、もちろん歓迎ですが……一つ、質問をしても?」
「はい、何でしょう」
「あなたにとって、ロックとは何ですか?」
「……そう詳しいわけではないので、浅い答えしか出来ませんが」
「大丈夫ですよ。音楽とは、権威や知識で優劣がつくものではありません……ただ」
「『フィーリング』。」
「……は、大事ですから」
「そうですね……反骨心、自由な生命力そのもので……」
続く言葉は、リタとツムギ、二人が同時に発した。
「「最高にイカす音楽」」
「……」
「……」
そして二人はしばしの間見つめ合い、固く手を取り合うのだった。
「「Yeaaaaahhhhh!!!」」
毎回このくらいクソふざけていきたいです。