トリニティシツジモドキ「お嬢様、こちら午後の紅茶をフレイムスロワーで温めたものになります」 作:ヤツメタウミエル
合宿所を抜け出して海に行く企みが失敗した補習授業部。停電は回復したので洗濯を済ませ、その日の補習はお休みとなった。そして一日が過ぎ……
「まだです、まだ終わりませんよ!」
「はい……?!」
「どうしたの急に」
せっかくの休日がそれだけで終わりなど、もったいないの極みである。折角なので、夜間の外出を楽しもうというわけだ。
「同感です。補習中に外出して門限を破って、ティーパーティーを怖がらせましょう!」
「怖がらせる必要は無いですよね?!」
「ふふ、夜間に皆で、裸で散歩……楽しくなってきました……!!」
「さりげなくすり替えないで?!服は着ろ!!」
夜の街に繰り出した補習授業部一行。夜の街の雰囲気と、校則違反というスパイスに浮き足立った彼女達は、楽しそうに歩を進めていく。
「なるほど、深夜の町はこんな感じなのか……思ったより活気がある」
「そうなんですよ、24時間営業の店もありますし」
「あの街灯を見てください、ちゃんと光っております。とても治安が良いのですね」
「基準がおかしくない?!」
「あれはスイーツショップ?……あ、喫茶店も開いてる」
「ここからもう少し行くと、モモフレンズのグッズショップもあるんですよ。その向かいには限定グッズだけを取り扱う隠れたお店もありまして……」
「あ、その店は存じております。確か店主の方が熱心なペロロファンで、密輸の経験を活かして独自の仕入れルートを開拓したとか……」
「うぅ、こんな所、ハスミ先輩に見つかったらすごく怒られそう……」
「あら、そうでしょうか?ハスミさんは後輩に優しい方だと聞いていましたが……」
しかし、コハルは若干不安そうにしていた。以前、彼女の先輩であるハスミが万魔殿にブチ切れ、ダイエット宣言をした時のことを思い出していたのだ。
内容としては、万魔殿が100%悪い。会議を真面目にやらず胸の大きさで張り合い、最終的にハスミの地雷である体重関連の発言をしたという。
「それで、その会議自体ダメになって、それ以来ハスミ先輩、あんまりご飯も食べないし心配で……」
「ゲヘナの方に怒るのも、無理はありませんね……」
「それを言ったら戦争ではないですか、あのアンポンタン」
「で、でもハスミ先輩ならきっと大丈夫!色々と強いし、自分との約束も守ってるから……!」
……と、コハルは言っていたが……補習授業部はその直後、スイーツショップで限定パフェ三つをパクパク食べているハスミに遭遇するのであった。
ダイエット中にも関わらず次郎系ラーメン並のカロリーを摂っていたハスミもハスミだが、夜間に外出していた補習授業部も補習授業部である。という訳で、その辺りのことには一旦触れないでおくことになった。
そして、ハスミとコハルが先輩後輩の心温まる会話をしていたところ、リタが妙な動きを始めた。そわそわと辺りを見回したかと思えば、今度はハスミのパフェをじっと見つめている。
「……じー……」
「……な、何ですか?」
「……はっ」
ハスミに声をかけられて正気に戻ったリタは、即座に懐からクレイモア指向性対人地雷を取り出した。……正気には戻ってはいなかったかもしれない。というかいつも正気ではない。
「?!」
「……何をっ?!」
ハスミは咄嗟にコハルを庇ったが、その必要は無かった。リタはクレイモアを自身のみぞおち辺りに押し当て、起爆したからだ。
「ごふっ……!」
「いや、本当に何をしているんですか?!」
「すみません、人の食べ物をじろじろ見るなど……失礼致しました。私もダイエット中でして、甘味の類はかなりの期間ご無沙汰だったもので、つい……」
リタは結構頻繁に遭難するが、遭難時の食生活は不安定なものになりやすい。極限状態を経験すると、身体は体温維持や緊急時の生存のため、マトモな食事が摂れるうちにできる限り脂肪を付けようとする。
そんなこんなで、リタの体重は『自分は身長高いからその分』などと自己暗示で誤魔化せる範囲をやや超えてしまっているのだ。
「その……大丈夫ですか?」
「ええ、おかげで本日はマカロン一つすら入らなさそうです。誘惑を振り切りました」
「ダイエットの方法がえげつないですね?!」
至近距離でクレイモアの直撃を喰らえば、甘いものやクリームたっぷりのものは食べる気にならない。ゲヘナの伝統芸、『爆発物で全てを解決する』である。
ハスミがドン引きしていると、後輩のイチカから連絡が入った。曰く、美食研究会がアクアリウムを襲撃し、展示されている『ゴールドマグロ』を強奪して逃げようとしているらしい。
しかし、エデン条約が近いこともあり、ハスミら正義実現委員会だけが対処すると政治的な問題になり得る。というわけで、補習授業部にも白羽の矢が立つことになった。
「マグロのような脂っこいものを、食欲が無くて気分が悪い人の前で……許しませんよ、美食研究会の皆様……!」
「それはリタちゃんの自業自得ですよね?!」
美食研究会との戦闘は、補習授業部初の先生指揮下での戦闘となった。リタが最初に感じたのは何よりも、『無茶ぶりが全く無い』と言うことである。本来であれば、『とても的確』『戦場を俯瞰しているよう』などと感じるところだが、リタには指揮など分からない。
以前指揮下で戦ったことのあるカイザーPMCの指揮官が基準になっているが、彼の指揮は本当に酷いもので、比較対象としては最悪もいいところだった。
全校チェーンのため極端に一般化されたマニュアル通りの指揮は、装甲頼りで遮蔽物もロクに利用せず、妙にシンメトリーな密集隊形での棒立ち射撃を強制され、爆発物で一網打尽にされることもしばしば。ゲーム本編で言うと、カルバノグの兎編2章の最後の方である。
「本当に巧みですね……これに比べるとジェネラル様……ジェネラルさん……ジェネラルの指揮はカスや」
足を引っ張って来るだけの指揮官から、最高峰レベルの指揮官に一気に変わった衝撃は凄まじいものであった。被弾は少なく、本来威力の低いハンドガンでの攻撃も効果的に運用されている。
最前線であったにも関わらず、まるで何事も無かったかのようにスムーズに戦闘は終わり、負傷者も出なかった。リタの『指揮官』と言う概念と先生に対する評価は、今回の戦闘で大幅に上がった。
そしてゴールドマグロは戦闘の余波でサクサクになり、美食委員会は散り散りになって敗走した。最終的に四人のうち三人が捕まった美食研究会は、シャーレと補習授業部の手によって風紀委員会に引き渡されることになった。
しかし引き渡しの際、急にリタが騒ぎ始めた。
「……不味いです!!」
「伏兵か?!」
「どうしたんですか?!」
「風紀委員長の気配がします……南西、距離はおよそ5km……いや、4km……こちらに高速で接近しています!!」
「あわわわわ、早く逃げましょう……!」
「落ち着いて?!美食研究会の引き渡しだけでしょ?!」
「コハル様はご存じないのですか、ヒナ様は物凄いんですよ?!デストロイヤーでイシュ・ボシェられた重戦車が粉末になって、中のパイロットだけ空気椅子で残ったりとか……!」
「何それすごっ……じゃなくて!落ち着きなさいって言ってるの!」
軽くパニックを起こしたリタが落ち着く前に、ヒナと救急医学部のセナが到着してしまった。リタはカスミのような顔になってブッ倒れた。
「ひ、ひ、ひえええぇっ!!!」
「……お待たせしました、死体はどこですか」
「ハイここです、死体です!」
「そんなに怖いんですか……?」
美食研究会の引き取りと聞いて来たヒナも、これには困惑していた。別にリタを逮捕するような事件は無かったはずなのだが、一応確認してみる。
「問題を起こしたのは、美食研究会って聞いてたけど……?リタ、何かやったの?」
「ええと……建造物を爆破……はしておりませんし、銃撃戦……は、正実の要請なので問題ありませんね……あれ?全く悪いことしてなくないですか……?」
「してないわね」
「じゃあ大丈夫ですね。お久しぶりです、ヒナ様。いつも通り寝不足気味のようですが、少しは休めていますか?」
「まぁ、あなたが大人しくなった分は楽になったわ」
ヒナが敵対していないと気付いた途端、リタはケロッと立ち直った。それどころか、妙に距離感が近い。
「あと、最近トリニティで見つけたクレープ屋がおすすめなのですが、また今度お時間のある時にご一緒しませんか?」
「……考えておくわ。相変わらずと言うか、何と言うか……」
「アンタの手のひらどうなってんの?!」
「生命線が長いです」
「そうじゃなくて!」
「あの、さっきまで怖がってましたよね?!」
「敵でなければ怖いもクソもございませんよ?ふわふわで可愛いらしいですし」
リタは爆破テロや騒ぎを起こすことを『あまり良くないこと』とは認識しており、風紀委員会や正義実現委員会がそれを取り締まるのは当然のことと考えている。
では、なぜ爆破するのか……そこに建物があるからだ。それで捕まるのは、風紀委員会を倒したり逃げ切ったりできない方が悪いので、平常時はヒナに対しても全く悪感情を抱いていないどころか、尊敬すらしている。典型的な頭ゲヘナである。
その後美食研究会の引き渡しはつつがなく行われ、今日の真夜中の騒ぎは終幕を迎えるのであった。
リタ……大抵のことは『それはもう終わったことだろう』精神で片づける。
ヒナ……リタがトリニティに行ったことで、睡眠時間がちょっと増えた。
コハル……ハスミの役に立てて嬉しかった。