トリニティシツジモドキ「お嬢様、こちら午後の紅茶をフレイムスロワーで温めたものになります」 作:ヤツメタウミエル
「や、やりました……!全員、合格圏内です……!」
「!」
「ほ、ホントに?!」
この日、補習授業部は歓喜していた。補習授業部、第三回模擬試験の結果は次の通り、全員どうにか合格点を出していたのだ。
ハナコ―69点(合格)。
アズサ―75点(合格)。
コハル―63点(合格)。
リタ―60点(合格)。
ヒフミ―77点(合格)。
これまで補習授業部は、ずっと苦労してきた。皆、本当によく頑張った。ついに我慢が報われ莫大な点数を得る。第二次特別学力試験を受けなければ、これまでの苦労は全て水の泡だ。外出や娯楽を控え勉強ばかりの生活、学力が伸び悩み成績は下がる一方、模試で合格点を取れず不安が募る日々……そんな補習から抜け出す時が来たのだ。
さらに、学力の低い生徒が一人増えたことは最初こそマイナスに働いていたが、全員の基礎がある程度できてきてからは、リタに教えることもいい復習になった。それにより今回の模擬試験では、全員の成績が若干底上げされたのだ。これにより点数の清算が始まり、ついに原作を追い越す。
「アズサちゃんは60点どころか70点を超えましたし、コハルちゃんとリタちゃんもどうにか合格です……!頑張りましたね!」
「うん……!」
「えへへ……ふふん、これが私の実力よ!」
「コハル様の背中もそこそこ見えて参りましたね」
「もう追い越す気?!そう簡単にいくと思わないことね……!」
「ハナコちゃんも、ちゃんと合格して……ハナコちゃんに以前何があったのか、何を抱えてるのかはまだ分かりませんが……でも、良かったです……うぅ……!」
「ヒフミちゃん……ありがとうございます」
「前の実力をすぐ取り戻せるよう、私もお手伝いしますね。本当に、本当に良かったです……」
「はい……ごめんなさい。ご心配をおかけしてしまって……」
ひとしきり喜んだ後、ヒフミによるモモフレンズの授与が始まった。もっとも、ハナコとコハルは授与を辞退したため、三人だけとなったが。
「ど、どうしよう……!この中から選ぶなんて、難しすぎる……この黒くて角が付いたのも良いし、眼鏡のカバも……うう……頼む、ヒフミが代わりに選んでくれないか……?」
「ええと、ペロロ博士はカバではなく鳥なのですが……ではこちらの、インテリなペロロ博士でどうでしょうか!物知りで勉強もできるという設定なので、まさに今お勉強を頑張って成長しているアズサちゃんにピッタリかなと!」
「なるほど……ありがとう、ヒフミ。ふふ、可愛い、好き……えへへ……」
「ありがとう、ヒフミ。これは一生大切にする」
「そこまで言われると、ちょっとビックリしますが……私も嬉しいです。これは、アズサちゃんが頑張ったからですよ」
「うん。それでも同時に、友達から貰った初めてのプレゼントだから……これからはこのカバのことを、ヒフミだと思って大事にする」
「そ、それはちょっと恥ずかしいですね……?!そ、それとカバではなく鳥でして……!」
次にリタがグッズを選ぶことになったが、アズサと違いリタは即決で、ペロロのぬいぐるみを手に取った。
「私は、こちらのぬいぐるみを」
「ペロロ様ですね!やっぱり、モモフレンズの中でも王道を往く可愛さと言いますか……」
「フワフワは正義ですので。とりわけ、翼の付いたものはぬいぐるみでもエナドリでも好きです」
そしてその後も勉強は順調に進み、ついに合宿も大詰め……第二次特別学力試験前日を迎えた。
「うっ、嘘ですよね?!これは……!!」
しかし、補習授業部が成績不振の生徒を救済する部活と言うのは、ただの建前。そう簡単に、裏切り者が逃がされることはない。
「『試験範囲を、既存の範囲から約三倍に拡大』……『また、合格ラインを60点から90点に引き上げとする』……?!」
「はぁっ?!何それ?!」
「出来らぁっ!試験がどうであれ合格して……えっ、範囲三倍の試験で90点を?!」
「昨日、急にアップされたみたいです……試験直前になって、こんな……!」
「露骨なやり方ですねぇ。どうしても私達を、退学にしたいと」
「「「退学?!」」」
急な変更に混乱する生徒。そこから『退学』などという言葉が飛び出してきて、三回不合格になれば退学ということを知らなかったアズサとコハル、そしてリタはさらに混乱した。
「ど、どういうこと?!」
「……」
「私だけクビで済むの、なんか気楽で申し訳無いですね……」
「リタさんはあくまで、他校のバイトですからね。それ以上のことはできなかったのでしょう……」
「あ、試験会場と時間も変更されてます……試験会場は『ゲヘナ自治区第15エリア77番街、廃墟の一階』……げ、ゲヘナで試験を受けるんですか?!」
「77番街といえば、不良グループの抗争で荒廃し、復興も進められていない場所ですよ……?!試験受けるっていうレベルではごぜぇませんよ?!」
「な、何でよ?!トリニティの試験でしょ?!」
「『今回はゲヘナ出身の生徒に配慮し』だそうです……」
「内容量を減らすステルス値上げを『食べやすくなってリニューアル!』とかほざくコンビニみたいな言い草でございますね」
「それにさっきの退学って、どういうこと?!初耳なんだけど?!」
そして先生から、三回不合格であれば退学となることや、補習授業部にかかっている嫌疑まで解説が行われた。
「ど、どうすればいいの……?!」
「とにかく出発しよう。試験時間が深夜の三時だから、今から出発しないと間に合わない」
「ほ、本当です……!」
「驚くにせよ、怒るにせよ、絶望するにせよ……それは、試験を受けてからでも遅くない。障害物の多さに文句を言ったところで、状況が変わるわけじゃない。大切なのは、それでも最後まで足掻くこと」
「その通りですね。同じようなことを、船長も言っていました」
「どこから出てきたのよ、その船長」
「以前のバイト先です。カニの密漁事件で新聞の一面にも載ったのですが、ご覧になりますか?」
「やめとく!」
試験のため急いで出発した補習授業部は、ゲヘナ自治区に入った途端チンピラに絡まれた。トリニティの制服を着た一団ともなれば、不倶戴天の敵であるゲヘナの自治区では目立って当然なのだ。
「おー、見慣れない奴らだな?」
「無視とは冷たいねぇ。そんなに急いでどこ行くのさ?」
「わぁ、『無法地帯といえばこれ』みたいな古典的な感じですね」
「……皆様、下がってください。ここは私が」
リタが前に出て、目の前の不良をじっと見つめた。
「何?アタシの顔になんか付いてんのか?ムカつくなテメー」
「……そのバイザーの細工は、ワザマエヘルメット団ですね。小規模ながら比較的統制が取れた武装組織で、指名手配の懸賞金は一人頭およそ三万円……」
「あ?だから何だって……テメェ?!もしかして……」
「賞金置いてきなさい!!賞金首ですね?!あなた賞金首でしょう?!ねぇ?!賞金首でしょう、あなた!」
「うげえぇぇ?!『黄金狂』だ!『黄金狂』が出たぞ?!」
「あ、あの指名手配犯から賄賂をふんだくった後で風紀委員会に突き出すとかいう……!」
「な、なんでだよ?!傭兵やめたんじゃなかったのか?!」
「馬鹿、アイツらトリニティの制服着てるだろ?!コッソリ活動してたんだよ!そんでアイツらはその仲間だ!強盗団か何かだよ!」
「あ、あはは……」
「うわあぁぁ!逃げろぉ!」
「よし、問題ありませんね。急ぎましょう」
リタは以前、金を稼ごうと様々なことに手を出していたため、ブラックマーケットではそれなりに悪名が売れている。おかげである程度戦闘は避けつつ進めたのだが、風紀委員会の検問に引っかかってしまった。
「止まれ!ここから先は立ち入り禁止だ!」
「そもそも今日は、町全体に外出禁止令が……待て。その制服、トリニティか?」
「ゲヘナに何をしに来た!目的は何だ!」
「その、本当にここを通りたいだけで……試験を受けに来ただけなんです……!」
「トリニティの生徒が試験を受けるために、どうしてゲヘナの自治区に来るんだ!!せめてもっとまともな嘘をつけ!」
「せ、正論……あうう……」
「すみません、○○さん、△△さん。お久しぶりです」
「げぇっ?!呂畑のアホだ?!」
「こちらの方は、ただの友人でして。ただ、この近くに用事があるだけですので……騒ぎは起こしませんから、通していただけませんか」
「……いや、呂畑が『用事』なんてボカした表現を使うわけが無い!大抵何でも、いらないことまで正直にペラペラしゃべるはずだ!」
「いや、先程ヒフミ様が正直に話したら思いっきり否定されたからで……聞いてます?」
「何かトンチキなことをやらかすつもりだ!応援を呼べ!」
「よく見たら正義実現委員会が居るぞ!あいつらの差し金か?!」
「仕方ない、突破しよう」
「ええっ?!誤解が深まりませんか……?!」
「どう誤解されたとして、突破される方が悪いので大丈夫です」
今回はリタが居たこともマイナスに働き、足止めを喰らってしまった。仕方ないので押し通ろうと銃を構えかけたところで、後方から飛んできたグレネードによって風紀委員会が吹き飛ばされた。
「あら☆やっぱり先生でしたか!」
「ごきげんよう。今日はいかがなさいましたか、先生?」
「あら、あの水族館を襲撃した……」
混乱に乗じて脱走した、美食研究会の仕業である。給食部の新車を奪って逃げており、縛られたフウカも乗って……いや、載っている。
「あ、フウカ様!お久しぶりです!」
「あ、リタ……久しぶり。今回も見ての通りなんだけど、助けてくれない?」
「すみません、本日は試験があるので急いでおりまして」
「そう……まぁ、そこまで期待してなかったし……ちょっと、ただでさえ縛られてるのに苦しいんだけど」
リタはフウカにかなり懐いており、たまに美食研究会からフウカを助けようとしてくれることもある。その理由は、公園でパンくずを撒いた時のハトを想像すると分かりやすいだろう。野生動物に餌付けをすると後々面倒なことになるので、良い子はマネしないようにしよう。
その後かくかくしかじかで、事情を把握したハルナ達は試験会場までヒフミ達を送ってくれることになった。……ただし、平穏無事とは程遠かったが。
爆発音が響き、さっき通ったばかりの道路が消え去る。連続で爆発が起こり、巻き込まれた車が何故かX軸で回転しながら吹っ飛ぶ。ゲヘナらしさ満点の光景である。
「うわあぁぁっ?!一体どうしてこんなことに?!」
「ヒフミ、揺らさないで!照準が合わない!」
「トリニティのあなた、バイクの運転上手だね!」
「ええ、なぜ二輪しか無いのに直立できるのでしょうか」
「リタちゃん、まだ自転車乗れないんですか?」
「失礼ですね、補助輪付ければ自由自在にカッ飛ばせますよ……クソ、弾幕が……!フウカ様、LMGの弾倉取ってください!多分近くにあるので!」
「もう車は良いから、せめて降ろしてぇ?!」
「フウカ様、口ではなくて手を動かしてください!弾幕がお薄くございますよ!!」
「ショベルカーにブルドーザーも来てる!それに風紀委員も……!」
「どうしてゲヘナの温泉開発部にまで追われてるんですか?!」
『こちらチームブラボー。チームアルファ、応答せよ』
「アズサちゃん?!」
「名前を言われると、隠語を使った意味が無い……それはそれとして、ごめん。陽動作戦は失敗した、こっちは包囲されてる。前方には火炎放射器を持った温泉開発部、後方はやたら強いツインテールの風紀委員が居る」
「では私が救援に向かいます!イオリ様もメグ様も搦め手が効きやすいので、どうにか潰し合わせてください!」
「止むを得ません、知り合いに連絡します!……もしもし、ちょっと風紀委員会に喧嘩を売りませんか?」
「これ以上ややこしいことにしないでください?!」
「逆に考えるのです……『もうどうなってもいいや』と。私たちの目標は敵の殲滅ではないのですから、事件が拡大すれば少数の私達は動きやすくなります。良い考えでしょう」
「いえ、まったく?!」
馬鹿みたいな大騒ぎになり、リタはアフロに、ハナコは水着になったものの、どうにか試験会場にたどり着いたヒフミ達。不発弾に偽装されたテストを見つけ、同梱されていた通信機を起動すると、ナギサが映し出された。
『これを見ているということは、無事に到着されたようですね』
「な、ナギサ様?!」
「ヒエッ」
「ええと、じゃあこの方がティーパーティーの……?」
『ふふっ……恨みの声が聞こえてきますね。まあこれは録画映像なので、リアルタイムには聞こえないのですが。ですので、今の私に話しかけても無意味ですよ』
「……恨み?」
『それでは約束の時間までに試験を終えて、戻ってきてくださいね。一応引き続きモニタリングはさせていただいておりますので、そのことをお忘れなく……では幸運を祈りますね、補習授業部のみなさん。どうか、お気を付けて』
ハナコはナギサの言い方に少し違和感があったが、時間もあまりない。とりあえず試験を始めてしまうことにして、席に着いたところで、リタが何かに気付いた。
「あら?緊張しているのですか?」
「いえ。近くに、何か変な匂いが……っ!」
「皆様、伏せてください!ここはっ……」
直後、爆音が響く。第二次特別学力試験、結果……
ハナコ―試験用紙紛失(不合格)。
アズサ―試験用紙紛失(不合格)。
コハル―試験用紙紛失(不合格)。
リタ―試験用紙紛失(不合格)。
ヒフミ―試験用紙紛失(不合格)。
「し、試験用紙が……!」
「なるほど、ここまでやりますか……」
「せ、先生、ご無事ですか……?」
「あああああクソゲーーーーーーー!!!……ふう。もしもし、万魔殿かい?今から一時間後マコト議長をブチ転がしにいかせてもらうとするよ。温泉開発部部長、鬼怒川カスミです……」
煙と熱風が吹き荒れる中、リタはブチ切れ、ナギサの顔面を一発ブン殴ることを決意するのだった。
ゴールドタイガー……最近はもはや全然見なくなった絶滅危惧種。キヴォトス最後のゴールドタイガーは「このページを下にスクロールし、『小説を評価する』から『☆9』を選ぶのだ」とか言っていたところを美食研究会に一狩りされた。
リタ……鼻が利く。
フウカ……新車を失った。