トリニティシツジモドキ「お嬢様、こちら午後の紅茶をフレイムスロワーで温めたものになります」   作:ヤツメタウミエル

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 個人的な用事があるため、しばらくの間更新頻度がさらに下がるかもしれません。
 あと今回、深刻なキャラ崩壊が含まれます。


「Vanitas vanitatum,et omnia vanitus」

 話は現在の補習授業部に戻る。先生は、リタがナギサを殴った経緯の説明を終えた。

 

"……かくかくしかじかだよ"

「どうしましょう……ナギサ様のことは多少分かりましたが、今度はリタちゃんの補習ができません……」

「ティーパーティーの人が何考えてても、一人でも不合格なら全員退学なのには変わりないんでしょ?!これからどうするの?!」

「それが……これを見てください」

 

 ハナコがスマホを取り出し、画面をヒフミ達に見せる。そこには、補習授業部の処遇について、変更が示されていた。

 

「ええと……『第三回特別学力試験は合格点を第一回同様60点に引き下げる(範囲は第二回と同様のため注意すること)。また、試験に合格した部員は他の部員の合否に関係無く、一定期間の追加補習の後、通常課程に復帰可能。不合格であった生徒は、ティーパーティーの判断により退学もしくは引き続き補習授業部所属とする』……?」

 

 以前と違い補習授業部全員ではなく、現在拘留され補習が受けられず、拡大した範囲に対応できないであろうリタだけを狙った内容である。

 

「厳重な警備を潜り抜けることができて、実際にティーパーティーホストに襲撃を仕掛けたわけですから……今のところ、最も怪しいですよね……」

 

 リタの行動はナギサを気遣ったものではあったが、セーフハウスの位置をどうやって得たか、そしてどのようなルートで侵入したかは不明である。これでは『いつでもティーパーティーを襲撃できる』という警告にもとれてしまう。

 あからさまではあるが、追い込まれた人間は答えらしきものを見つけたら信じてしまうものである。これによって、リタが『トリニティの裏切り者』である疑いが強まり、相対的にヒフミ達に対する疑いは弱くなった。その結果、警戒が若干緩み、最悪の事態は避けられることになったのだ。

 

「そしてリタちゃんは外部の生徒なので、退学にはならず解雇されるだけ……というのが狙いでしょうか」

「それは……納得できません。リタちゃんだって、ちゃんと真面目に補習を受けて、合格に向けて努力していたんです!」

「私たちの目標は、全員で合格することだったはず。諦めるのはまだ早い」

「そうですね。思い通りになるのも嫌ですし」

 

 ヒフミ達は、リタを除けばこのままでも合格することができるだろう。しかしもちろん、それで友人を見捨てられる補習授業部ではない。

 

「とりあえず、リタちゃんと話をしに行きましょう!」

「で、でも今は正義実現委員会の留置所に居るんでしょ?ナギサ様を襲撃したなら、面会も……」

「留置所を爆破すれば中身も出てくるでしょう。話をする程度なら、十分に時間は稼げます」

「リタは黙ってて!なんで毎回即決で過激な方向に行こうとするのよ?!」

「ですが、昔の方も『案ずるよりまず爆破』と言っておりますし……」

「何よその役に立たなすぎる格言!」

「いえ……いっそのこと、そうするしか……!」

「やったー、でございます」

「頭おかしいんじゃないの?!……あれ?」

"……?"

 

 しかし、リタは現在ティーパーティー襲撃犯として、正義実現委員会に厳重に拘禁されている。彼女が怪しまれている現状では、他の生徒との面会も許可されていない。

 どうにかしようと、リタがいつも通り過激な案を出し、それにコハルがツッコミを入れる。その光景に、一同は綺麗な二度見をした。

 

「どうしたのですか?そんなに見られても爆発物以上に良い案は出ませんが」

「あ、あれ……?リタちゃん、普通に居ますね……?」

「はい、こちらに居ります」

「正義実現委員会に、逮捕されたんですよね……?」

「そうですが……それとこれに、何の関係が……?」

「脱獄したの?!」

「逆に何故脱獄しないと思ったのですか?私に刑期を満了させられるのは、百鬼夜行のアヴァシリ監獄分校くらいのものですよ」

 

 トリニティはキヴォトスの中でも、比較的治安の良い学園である。故に、凶悪犯の収監ノウハウには十分でない点も多いのだ。

 リタによると、素手(生徒であれば銃弾を防御可能な強度)でベッドの下のコンクリートを削り取り、地下にあったカタコンベを通って一晩で脱走したらしい。そこからさらに、ブラックマーケットで変装・脱獄のプロを雇い、身代わりを依頼したとのこと。

 

「『私はリタじゃない』って言ってたの、事実だったんですね……」

「本当のことを言うと、逆に疑われるものですからね」

 

「これでどうにか、補習は進められますが……心配したんですよ」

「申し訳ありません。……ですが、あまり良い方法も思いつかず」

「ですが、またこうして皆揃って、良かったです」

「……!そうですね。皆様……いつも、ありがとうございます」

「どうしたのよ、急に改まって」

「いえ、大したことではないのですが……昨日、先生に色々と話を聞きまして。気持ちの整理がついたらちゃんとお伝えしようと思いますが、一応これだけ言っておきますと……」

「ヒフミ様、アズサ様、ハナコ様、コハル様、それに先生……私と一緒に居てくださって、ありがとうございます。大好きでございます」

「リ、リタちゃん……!」

「!!」

「ありがとう、リタ。私も大好きだ」

「何の躊躇いもなく言うんですね……」

「減るもんではございませんので、言ったモン勝ちでございます。ハナコ様も、もう少しはっちゃけてみてもよろしいかと」

 

 心配事が一つ減った補習授業部は、それから最後の特別学力試験までの間、再び努力を重ねるのであった。

 


 

 その日の夜、リタは今度はヒフミを抱えて窓から飛び出した。行き先はこの前の地中貫通爆弾で開いた大穴である。

 

「あうぅ、ですからそのグッズの場所を吐いてくださらないと……あれ?ここは……」

「おや、目が覚めましたか、ヒフミ様」

「い、今何時ですか?!というか、ここはどこですか?!一体何を……」

「落ち着いてください、ヒフミ様。先日、先生に『一人だけでなんとかしようとする必要は無い』と言われまして。今回は、ヒフミ様を頼ろうかと」

「な、成る程……?って、うわああぁぁぁ?!」

 

 リタがヒフミを抱えたまま大穴に飛び込むと、そこはアリウスであった。その廃墟の一つを通り、リタはさらにその地下へ進んでいく。

 

「えっと、具体的には、私は何をすれば……?」

「知り合いの方に、モモフレンズを布教して頂きたい方がおりまして。本日は、その集会がありますので」

「そういうことなら、任せてください!でも、とりあえず降ろしてください……酔ってきました……」

「ああ、申し訳ありません」

 

 ヒフミは快く引き受けたが、この時は、布教するのは多くても四、五人程度だろうと考えていたため気楽なものであった。正義実現委員会が封鎖している場所に侵入しているのだが。

 リタとヒフミが地下深くに進んでいくと、間に合わせで建設されたものと思われるが、かなり広い隠し部屋に出た。

 そこには大量の生徒がひしめいており、前の方ではアリウスの生徒が演説を行っていた。

 

「……そして私達はトリニティから逃れ、この地下へと追いやられました。しかし、そこは同時に、隔絶された新たな我らの学び舎にもなり得たのです。しかし、いまはどうですか?!私達は分裂し、新たな圧政から逃れ、こうして地下の地下に潜んでいる……!では、次はどこへ?地下の地下の地下、どこまで行くというのでしょう……!いいえ、違います!いつか全ての抑圧は消え去り、独裁者は私達の首輪を失うのです!私達は自由を、不足のない生活を送る自由を、日の光を浴び猫と戯れる自由を、飽きるほど、不満を覚えるほどに学ぶ自由を取り戻すでしょう!」

「バリケードの向こうには、自由の安息地があるのです!」

「そしていつかは、生徒の!生徒による!生徒のための学園を!」

 

 生徒たちが歓声をあげる。その気迫にヒフミは委縮してしまった。

 

「あ、あの……これ、政治集会か何かですよね?!数百人はゆうに超えてますよ?!」

「はい。まぁ、いつも通りペロロ様の可愛さを語っていただければ」

「緊張するんですが?!」

「あ、リタさん。今回はそちらの方が?」

「はい、それではよろしくお願いしますね」

 

 この後リタとヒフミがペロロ様について語り、集会に参加していた生徒の間では一定の評価を得たのであった。

 ただし、ベアトリーチェがアリウスの様々な文化を猫以外片っ端から破壊したことで、アリウスの生徒は『可愛い』という概念に疎くなっており、一部の生徒は感性が微妙にズレてしまったのだが……同じような状態のリタと熱狂的ペロロファンであるヒフミがそれに気付くことは無かった。

 


 

 そして時は過ぎ、第三回特別学力試験前日、泣いても笑っても補習授業部最後の夜。補習授業部の生徒であると同時に、アリウスのスパイであるアズサは、とある廃墟でアリウスの生徒と接触していた。

 

「……サオリ」

「……そこで止まれ、アズサ。それ以上近づくな」

 

 何かあったのか、もしや自分がアリウスを裏切り二重スパイとして行動していることがバレたのか……とアズサは身構えたが、その必要は無かった。

 サオリの前に居たのは、猫……しばらく前のふざけたアンケートから十話ちょっとの間死んでいた設定だが、アリウスの猫ちゃん天国は健在である。

 『全ては虚しい、ただし猫は猫(Vanitas vanitatum,sed feles feles est.)』……アリウスの校訓であり、アリウスの生徒の精神衛生を支えるものである。そして、猫以外の『虚しくないもの』を受け入れる下地にもなっている。ペロロ様のように。

 

「サオリ、私も触りたい」

「こいつはお前の匂いに慣れていない、刺激するな。ほらおいで、にゃーごろごろ、にゃー……」

「ニャー」

 

 この猫に好かれようとしたサオリの不断の努力にも関わらず、気まぐれな猫は去って行ってしまった。

 

「Vanitas vanitatum,et omnia vanitas……アズサ、日程が変わった。明日の午前、作戦決行だ」

「?!……サオリ、明日は……!」

「何か問題が?」

「ま、まだ準備ができてない。計画よりも日程を早めるのは、リスクが大きすぎる」

「いや、これは確定事項だ。最近、レジスタンスの動きがきな臭くなっている。だから、早く終わらせた方がリスクが少ないとマダムは判断した」

「……レジスタンス?」

「……ああ、アズサは知らなかったか。以前から、マダムの統治にはごく小規模な反抗勢力が存在していたようだが、トリニティやゲヘナと接触してからは、それらが組織的な行動をするようになってきているんだ。最近は突然、カタコンベに頼らない地上への通路が開いたことで活発になってきている」

 

 地上への通路……リタによる地中貫通爆弾の投下で開いた大穴である。地下空洞については正義実現委員会が監視しているが、訓練を受けたゲリラや猫の通過は制限しきれるものではない。

 

「そのようなことを考える者は居るが……明日、ティーパーティーのホスト、桐藤ナギサのヘイローを破壊した後は奴らの掃討に移る。戦力は大したものじゃない、数日でカタがつくだろう」

「忘れるなよ、アズサ。Vanitas vanitatum et omnia vanitas……」

「全ては虚しいもの。……忘れたことはない。あっ、さっきの猫だ」

「……戻って来たか。可愛いな。どうしたんだ?……もう少し近づいてきても私は構わない」

「ニャー」

 

 気まぐれな猫は、またサオリから離れていった。ナデナデ失敗である。

 

「Vanitas vanitatum,et omnia vanitus」




 ネコチャンがやっと再登場しました。
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