トリニティシツジモドキ「お嬢様、こちら午後の紅茶をフレイムスロワーで温めたものになります」   作:ヤツメタウミエル

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 新生徒達さぁ……なんであんなにイケメンが多いの?もう夢女子になるしかなくなっちゃったよ……
 更新二週間近く空いてもうた……申し訳ねぇ……


「ゲヘナを更地にできますよ」

「……なんかこの紅茶、かなりマトモになってない?」

「補習ついでに、先生に練習を手伝っていただきましたので」

 

 アリウスによるティーパーティー襲撃の最中。生徒たちを取り巻く状況とは全くもって場違いに、ささやかなお茶会が開かれていた。

 現在アリウスの生徒たちの指揮権はミカにあり、肝心のミカは困惑して次の行動を決めかねている。そのため、誰もこの茶会を邪魔できないでいた。

 

「一応朝っちゃ朝ですので、イングリッシュ・ブレックファストティーを。ミルクティーがお勧めですが……確かお嬢様は、ミルクインファースト派でしたね」

「一応確認だけど、私がやろうとしてることは知ってるよね?敵対する立場だよね?なんで呑気にお茶淹れてるの……?」

「『主がクーデターを画策しているとき』という項目がマニュアルにありませんでしたので」

「問題が起きそうでも、マニュアルに従っておけば他人が責任を取ってくれると思ってるタイプのバイトだ……」

 

 一通りの用意を終えると、リタは着席し、平然とケーキを食べ始めた。緊張感も執事っぽさもゼロである。せめて立っとけ。

 

「それに、色々下手な考えを巡らせたところで百聞は一見に如かずですので。まだ私は、お嬢様から何も聞いておりません」

「……あー……そんなこと言われても、話すことは大して無いし、時間稼ぎにもなんないよ?セイアちゃんの襲撃を指示したのは私だし、今はこうして、エデン条約を白紙にするためにクーデターをしようとしてる。それだけだよ」

「何故ですか?」

「当然、ゲヘナが嫌いだからだよ?あ、あなたも含めてね!全然言うこと聞いてくれないし、色々やらかしといて『反省しております、後悔はしておりません』とか言い出すし……雇ったのだってもともと、こういうときの犯人役になってもらうためだもんね?槍玉に挙げられる人が居なきゃ、みんなが安心してぐっすり眠れないでしょ?」

「そうでしたか」

「……うん、私はゲヘナが嫌いなの。テロリストとか、変な人ばっかりだし……あんなのと平和条約を結ぼうとか、ナギちゃんは何考えてるのかな?本当に、優しすぎっていうか。絶対どっかで変なのが暴走し出すか、裏切られるに決まってるじゃんね?だから、アリウスと手を結んで、戦争を起こして……それで、ゲヘナを消し去る!みたいな感じかな?」

「それに、ゲヘナの生徒会長だって……」

「それにさぁ……」

 

 表向きは平然と、自分の策謀やゲヘナに対する不満を並べ立てていくミカ。しかし、その話し方からは、明らかに冷静ではないということが伺える。

 『何故か』という問いに対しては最初の一言で十分伝わるはずなのに、彼女は余計な内容を重ねていく。漫画やアニメの悪役が、阻止され得る計画を丁寧に解説するように……もしくは、罪人が懺悔するように。

 それに対し、リタは冷静に紅茶を一口啜り……たった一言だけを放った。

 

「ぐう」

「ぐうの音出ちゃったよ?!」

「まぁ、実際ゲヘナはそういう所ありますし……理由は分かりました。嫌いなものは仕方ありませんね」

「サラッと流すようなことかなぁ?!今明かされる衝撃の真実!って感じだったんだけど?!」

「……そうですね。まぁ確かに、お嬢様に嫌われていたのは悲しいです」

「そうだよ。あなたに優しくしたのだって、いざという時利用しやすくするためで、本当は……」

「ですがまぁ、よく考えてみれば、真実というのは割とどうでもよろしいことでしたので」

「どうでもよくないよ?!」

「お嬢様」

「月が綺麗でございますね」

「?!」

 

 ミカの言葉に全く動じないどころか、唐突に愛の告白じみたことを言い出すリタ。驚いたミカは、ペースを乱されていく。

 しかし、リタがそんな高尚な言い回しを理解しているわけがないと思い直し、ミカはいくらか冷静さを取り戻した。

 

「ミレニアムの知り合いに聞いたことですが、あれは太陽光を反射しているだけで、光ってはいないそうです。光らない岩石の塊、それが夜空で最も明るい星の真実なのです。さて、これで私は真実を知りましたが……月は、暗くなっておりません」

「目に映る全ては思考ではなく行動でできており、この世に残るのは意志ではなく記憶です。あなたも、同じですよ。真意はどうあれ、別け隔て無く接してくださったこと。私服を選んでくださったこと。左手のシュシュだけ少々ボロいことも、何一つ変わりません」

「……!」

「……それだけで、あなたに味方する理由は十分です」

「味方って……私、今からクーデター起こそうとしてるし、補習授業部にも濡れ衣被せようとしてるんだけど?」

「ええ、それは少々困ります。お嬢様にあまり悪いことはして頂きたくありませんし、試験にも間に合いません」

「他にも困ること結構あるよ?!」

「ですので、ここはお嬢様に諦めて頂くのが丸いかと」

「……はぁ。まぁ、バイト先よりはお友達の方が大事だよね」

 

 そこまで聞いて、ミカは立ち上がり、銃を構えた。周囲のアリウスの生徒も、射線を確保してリタに銃を向ける。

 

「そう言われて『はい諦めます』とか、無理に決まってるじゃん?ここまでやってさ……もう私は、行くとこまで行くしかないの……!」

 

 四方八方からの銃撃、そして神秘的な大爆発がリタを襲う。

 デカグラマトンの預言者すら数発で行動不能にするEXスキルと、キヴォトスでも特に高度に訓練された生徒による斉射……たった一人に対し、あまりにも過剰な火力投射だった。そこそこフィジカルの強いリタも、あっという間にボロ雑巾のようになっていく。

 しかし、リタは一切動じることなく、妙に頑丈なティーカップで紅茶を啜っていた。製作者曰く、『ミルクインアフター派の人が使ってもひび割れないよう、耐熱2100℃』だそうだ。

 

「ちょ、ちょっと……?!なんで反撃しないの?!」

「肝心の銃がございません。それに、話がまだ終わっておりませんので」

「もう話すことなんて無いよ?!あなたは補習授業部のために私に諦めて欲しくて、私は今更どうするわけにもいかないの!リタちゃんは力づくで止めるしかないの!」

「……ああ。少々誤解があったようですが、私がここに居るのは、補習授業部のためだけではなく……何よりもまず、あなたの執事としてでございます」

 

 そう言うとリタは立ち上がり、ティーテーブルを蹴り飛ばした。蹴られたテーブルはアリウスの生徒の一群に突っ込み、大爆発を起こした。爆発を食らった生徒たちの陣形が乱れ、一時的に銃撃が止む。

 ここからは賭けだ。もしもミカが、リタが思っている以上にゲヘナを嫌っているとしたら……最悪の場合、リタはゲヘナ最強のもふもふターミネーターこと風紀委員長、さらに補習授業部を初めとした友人の多くを敵に回すことになるだろう。

 しかし、リタに迷いはない。きっと、そうはならないと信じることにしたのだ。それがたった一つ……自分の大切な人全員を取りこぼさない可能性なのだから。

 

「さて。以前お話しした通り、私は一時期銀行強盗を少々嗜んでおりましたが……」

「初耳だよ?!」

「逃走経路を確保するため、先ほどのテーブルのような爆発物を各地に大量に仕掛けておりまして。それら全てを爆破すれば、ゲヘナのインフラの約三割を巻き込めるでしょう」

「ブラックマーケットには、無法地帯であるゲヘナに大規模な進出をしたいと考える企業や団体も数多くございます。以前のアルバイトの関係で、そう言った方との個人的なツテも結構な規模のものがありまして。風紀委員長に関してもお嬢様のパワーなら抑えられます。もしお嬢様がぜひやれと言うなら、面倒なクーデターやらアリウスとの連合やらロビー活動やら軍備やらをすっ飛ばし、より早く……」

「ゲヘナを更地にできますよ」

「正気?!」

 

 もしミカが実際にそうしろと言えば、リタは完全に戦犯である。しかし、リスクに見合うリターンはあった。

 この提案によって、リタは自身がミカよりイカれている人間であると印象付け、会話の主導権……ボケとツッコミの構図を完全に手に入れてしまったのだ。

 

「これで、お嬢様がアリウスと組んでクーデターをする理由は無くなりましたね?私達は手間が省けて試験を受けられる、お嬢様はゲヘナと戦争をしたり、友人を裏切ったりしなくてよくなる。冴えた選択でございます」

「いやいやいやいや、ワケ分かんないよ?!なんでそんな発想に行き着いたの?!結局ゲヘナが吹っ飛んでるじゃん!」

「結果は変わりませんが、過程が変わります」

「故郷への愛着とか、そういうものは無いの?!」

「ありますけど優先度はお嬢様が上ですね」

「怖いよぉ!!」

「まぁ、何が言いたいかというと……この件において私は必ず、最優先でお嬢様の味方をする、ということでございます」

「ですから、聞かせていただけませんか。主観的でも勝手でも構いませんので、あなたが思っていること……あなたの、願いを。できる限りのことは何でもしますので」

「……」

 

 そこまで聞いて、ミカはしばらく逡巡した後、ぽつぽつと話し始めた。

 

「……ごめん、なさい。こんなことが、したかったんじゃないの……」

 

 事の発端は、ミカがアリウスとの和解に邪魔なセイアを排除……ただし、実際に起きたことより、かなり穏便な形で……しようとしたことだった。

 何かの手違いでセイアが死亡して、そこから全てがおかしくなっていった。『その』ために、取り返しのつかないことをしてしまったのだから、中途半端に終わるわけにはいかない。最後までやり遂げなければならない。

 ……いったい何を?

 

「そこからは、何もわかんなくなっちゃって……」

『――幸せになりたい 楽して生きてたい』

 

 ゲヘナを消し去る、という程ではない。確かにゲヘナに変人は多いし、どう見ても条約程度では統制不能なのでエデン条約には反対だが、悪人ばかりではないと知っている……知ってしまっていた。ゲヘナを消し去るためなら友人すら殺す、という程に憎むことはできなかった。

 最大の憎悪の行き先を失い、焦り、戸惑う一方で、ミカにはどこか冷静な部分があった。惰性で続けた計画は、恐らくどこかで失敗するだろう、と。だから、早いうちにリタには見放され、敵対しておこうと思っていた。

 

「なのに、本当に、いっつも言うこと聞いてくれないんだから……」

「申し訳ありませんね、まぁいつものことですが」

『――全部滅茶苦茶にしたい 何もかも消し去りたい』

 

「……セイアちゃんに、会いたいよ……なんで、私……」

「……その、お嬢様。セイア様ですが……」

『――あなたのその』

「……何?」

「右の方から突っ込んできております」

『胸のなあぁぁかああぁぁぁ!』

 

 ミカは、『KICK BACK(米津玄師)』を大音量で流しながら突っ込んで来たオープンカーに勢いよく撥ねられ、宙を舞った。当然ながら無傷である。

 車の運転席には件のティーパーティー元ホストであるセイア、助手席には救護騎士団団長のミネが座っている。ミカの願いは爆速で叶えられることになった。

 

「少々、荒っぽい停車になってしまったようだね」

「荒っぽいどころか完全に事故ですよ?!救護を……!」

「セイアちゃん?!殺されたんじゃ……」

「残念だったねミカ、トリックだよ。……さて、積もる話はあるが、まずは場所を変えようか」

 

 ミカとリタを乗せ*1、アリウスの生徒をなぎ倒しながら逃走するセイア達。ミネはセイアが生徒を撥ねる度、車から飛び降りて救護し車に戻るという離れ技を披露することになった。

 

「このような危険運転を……やはり早期退院させるべきでは無かったのでしょうか?!」

「車から飛び降りるのも十分危険じゃない……?」

「やむを得ません、この場で救護を……!」

「そのライオットシールドをしまってください、ミネ様。ここは歩道なので駐車禁止ですから、運転手を気絶させられると困ります」

 

 アリウスの生徒達からある程度離れたところで、ミカは車のミラー越しにセイアを見つめ……一つ、大きなため息をついた。

 

「……本当に、生きてるんだよね」

「キヴォトスにおいて人が死亡する、ということは極めて稀だ。これは俗に『神秘』と呼称される何らかの要素によって、人の物理的強度が大幅に上昇していることに起因している。しかし、これらはあくまでキヴォトスで一般的に普及している銃火器等に対するものであり、呼吸困難や栄養不足等によって人が死に至る可能性は十分に存在するし、殺人も不可能ではない。一般的な生徒と比較して物理的、及び生理的耐性が低い私であれば、襲撃によって死亡することもあり得ただろう。現時点で私は君の前に実体として現れてはいるものの、キヴォトスにおいて多数の不可解な現象が観測されていることや、以前まで君が保持していた情報を鑑みれば、私の生存に疑念を抱くことも不自然ではない。しかし、私と君が以前の襲撃について保有している知識には大幅な差異があり、あの時点で誰が襲撃を主導したか判明していなかったことを踏まえれば、私がこれ以上リスクを冒さないための選択を取ったと推測することもできるだろう。また、私達は相互の認識とそれに対する判断、行動を可能としており、私自身の生理的特徴も生きている人間とほぼ同様の状態にある。つまり今の私には、現時点で確認されている特異現象に対して明確な差異が存在すると言える。これらの情報は先程の出来事から君にも認識できていたはずのことだ、私が説明するまでもなく結論は明らかだろう?」

「やめてくださいせいあさまあたまばくはつしそうでございます」

「そのめんどくさい言い回し……本当に、セイアちゃんなんだね」

「まぁ、端的に言えばその通りだよ」

 

「セイアちゃんっ……!!」

「?!」

「生きててよかった……ごめん、ごめんね、セイアちゃん……」

 

 友人が生きていた嬉しさ、傷付けようとしてしまった罪悪感、自分の行動に対する後悔……様々な感情が入り混じった涙を流しながら、セイアに抱き着くミカ。

 

 ……ただし、セイアは運転中である。

 

「待ってくれミカ、君の膂力で抱き着かれると運転が……ミネ?!着地するならフロントガラス以外の場所に……いや、何の煙だこれは?!」

 

 ミカのハグ(鉄筋を粉砕可能)に操作を阻まれ、車に飛び乗ったり飛び降りたりするミネに視界が塞がれる。

 さらに、先程セイアが放った言葉で脳が処理落ちしたリタから発生する煙を吸い込んでしまい、病弱なセイアは思い切り咳き込んだ。

 

「げほっ、ごほ……ぶつかる?!ここでインド人を右に……あっ」

「わあああぁぁ?!」

「ぐあえぅあ」

「!!」

 

 マトモな運転ができなくなった車は縁石に乗り上げて飛び上がり、ハリウッド映画的な大回転を見せながら付近の体育館に突っ込み、アリウスの生徒達と戦う補習授業部の目の前に墜落したのであった。

*1
乗車定員二名




ミカの左手のシュシュ……10話参照。リタからのプレゼント。
リタ……優先順位がしっかりあり、ブレーキがない。ミカに正当な理由と意志があれば先生と補習授業部にも敵対する可能性があった。
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