トリニティシツジモドキ「お嬢様、こちら午後の紅茶をフレイムスロワーで温めたものになります」 作:ヤツメタウミエル
桐藤ナギサを暗殺しようとするアリウスの生徒達と、それを阻止しようとするアズサ達の戦いはかなりアズサ達が優勢なものになっていた。
トキのパワードスーツが対集団戦において強すぎたのである。彼女は最初敵対していたが、アリウスの生徒が彼等の計画をペラペラと説明してしまったことで一時共闘ということになったのだ。
「くっ……相手は五人だぞ?!何をしている!」
「なんでトリニティに機械があんだよ!」
「た、隊長!武器が違います!あの武器は自分は見ていません!」
アリウスでは見たこともないような兵器を警戒して攻めきれずにいると、余裕のできたアズサは新しくトラップを増やし始めた。
「よし、これでこの通路もキルゾーンにできる」
「あれ、アズサちゃん……?そのトラップに挟まってる簀巻き、確か知り合いでしたよね……?」
「サオリから最初に教わったことは、周囲にある物全てを利用することだったから」
「そういうことじゃない気がします?!」
数で強引に前線を引き上げようとして、通路上のワイヤーを踏んでしまったアリウス生に簀巻きが襲い掛かる。そのままアズサは、生徒を下敷きにした簀巻きを即席の遮蔽物として使い始めた。
「アズサちゃん?!簀巻きの人がボコボコに撃たれてますよ?!」
「大丈夫、サオリはアリウスでも指折りの精鋭だ。並の生徒では相手にならない」
「そういう問題ですか?!」
「くそっ、無駄な抵抗を……しかし、もう退路はない……追い詰めたぞ……!」
「その通り、そしてそれはそっちも同じことだ」
数を大きく減らしつつも、どうにかアズサ達を体育館まで追い詰めたアリウス生達。しかしそこに待っていたのは、シャーレの先生指揮下の補習授業部。
パワードスーツが参戦していたせいでいいようにやられ、数を大きく減らしていたアリウス生にもはや勝ち目は無かった。
「あれは確か、シャーレの先生……もうだめだ、おしまいだ……」
「vanitas vanitatum……」
「クソ、うろたえるな!少なくとも袋小路に入った以上、増援の居る我々が有利なはずだ……!」
「た、隊長……!増援部隊が強襲を受けています!」
「こいつらで全部じゃないのか?!もしかして正義実現委員会が……!」
「いえ隊長、敵は……アリウスの生徒です!レジスタンス、それも大隊規模です!」
「もう帰っていいか?猫ちゃんマップ製作の続きやりたい」
「しっかりしてください隊長!バニタスバニタス!」
「うん、vanitas vanitatum、全ては虚しい……あ、逆効果だ……やる気なくなってきた……」
色々とうまくいかず、完全にやる気を無くしてしまったアリウス生達。そこにさらに、後方からの掃射が加えられる。
「ぐわぁっ?!」
「ア、アリウスの生徒が同士討ちを……?アズサちゃん、何か知ってますか……?」
「……確かこの前サオリが、『アリウスで反生徒会活動が発生している』と言っていたけど……すごい規模だ」
襲撃に来たアリウス生は全滅。そこにちょうど、壁を突き破ってセイア達がダイナミックエントリーしてきた。
「これは……ドンピシャ、といったところだろうか」
「リタちゃん?!それにミカさんにセイアさんにミネさんまで……いやどういう組み合わせですか?!」
過積載危険運転オープンカーで体育館に突っ込み、もみくちゃの塊になったセイア達。
ちょうどアリウスの生徒達と補習授業部の間に突っ込んだものの、戦いは既に終わっており、彼等が戦闘に巻き込まれることはなかった。
かなり多くのアリウス生が健在だが、彼女達は銃を降ろしている。戦闘の意思は無いようだった。
「ええと……とりあえず一旦アリウスの子たちをボコって……あれ?」
「その必要は無いよ、ミカ。彼等は味方だ」
「どういうこと?!」
「君達二人が色々やらかしたのに便乗して、私もアリウスと接触していたのさ。彼等は、『アリウス解放戦線』……マダムの支配に抵抗している、レジスタンスのような組織だよ」
「え、二人って……リタちゃん何したの?!」
「リベレーターをお持ちになっている方がおりますが、まさかセイア様が……?」
ドヤ顔のセイアの前に、リーダー格と思われるアリウスの生徒が進み出た。
服装は普通のアリウス生のものだが、腕には腕章の代わりに赤い布を巻いている。
「協力ありがとう、皆。確認だが……これで、アリウスによるクーデターは完全に失敗に終わり、マダムの企みは阻止されたわけだな」
「ああ。こちらからも礼を言わせてくれたまえ」
「つまり、ティーパーティーのホストは引き続き桐藤ナギサが務めるということで間違いないな?」
「ああ、私も政務に復帰できるほどは回復していないからね」
「……なるほど。というわけだ、諸君……」
さて、この辺で一発音楽でもいってみよう。
♪Blue Archive OST84 : PRST Marching
「これより我々はティーパーティーホスト、桐藤ナギサの糾弾を開始する!!」
「?????????????」
「桐藤ナギサの次はマダム、そしてレッドウィンターの書記長……我々『アリウス・インターナショナル』はキヴォトスからあらゆる権力を消し去るまで闘うのだ!!」
「「「うおおおお!!」」」
「セイアちゃん、あの子達がアリウス解放戦線……?」
「知らない……何それ、怖……」
「事情知ってる雰囲気出してたのに!」
「予知夢も万能というわけではないからね」
思ってもみないような方向に騒ぎ始めたアリウス生達。
困惑しつつ、セイアは恐らく原因のありそうなリタの方に向き直って袖を掴み、身長差を埋めるためにかがませた。
「ツムギとヒフミ以外に何人友人を呼んだんだい、リタ。一人は既に察しが付いたが……」
「ええと、お二人以外にはゲーム開発部の皆様と赤べこ普及委員会の皆様、一揆・打ちこわし同好会に温泉開発部くらいでしょうか……」
「安守ミノリを呼んだわけではないのか。まあ流石に君ばかり……」
「あ、ミノリ様は同志ですので別枠でございます」
「やっぱりやらかしてるじゃないか!!」
ブルジョワの最たるものであるお嬢様が集まった、資本の塊のような場所であるトリニティ総合学園。恐らく絶対にブルアカのアカの部分と相容れない学園である。
ナギサの胃について考えたセイアは深く、それはもう深くため息をついた。
「我々はアリウスの部隊を殲滅すると同時に、トリニティ内の施設を占拠した!これより我々はここをキャンプ地とする!」
「これは我々の闘争の始まりに過ぎない!」
「うおおおお!あ、この体育館はアリウス・インターナショナルが占拠しましたので、部外者の方は退去してください」
「ええ……」
「当事者なんですが……?」
一方その頃、ハナコとの取引によって体育館へと向かっていたシスターフッドの生徒達は、新たに現れたアリウスの生徒達と向かい合っていた。
アリウスの生徒達からリーダーと思われる生徒が進み出て、両手を挙げて話し始めた。
「……どうか銃を下ろしてください。交戦の意思はありません」
「何故仲間割れを?貴方達アリウス分校は、ティーパーティーのナギサさんを暗殺に来たのではないのですか?」
シスターフッドの長、サクラコは時間稼ぎではないかと怪訝な顔をしたものの、シスターとして、話をしようとしている相手を無視して一方的に撃つようなことはできなかった。
アリウスの生徒は話を続ける。
「私達はアリウス分校の襲撃部隊ではなく、『アリウス解放戦線』です。アリウス分校は内戦の終結後、ある大人によって統治されてきました。しかし、抑圧的な体制に対して不満を持つ生徒も多く、現在のアリウスは、トリニティへの復讐を掲げる本来のアリウス分校と、現体制に反発する複数のレジスタンス組織によって結成された解放戦線に二分されています」
「……とはいっても私達は寄せ集めのようなもので、現在の体制の打倒のみを問題とする派閥やアリウス外へ進出しようとする派閥、トリニティに対しての復讐を諦めていない派閥と、各々の主張も指揮系統もバラバラで……現在はアリウス分校の打倒を最優先としているものの、それぞれの派閥が各自の方針を持って動いています」
「では、あなた方にも派閥としての目的が?」
「私達は、『調停委員会』……トリニティとアリウスの和解を目的とする派閥です」
「……!」
「しかし、私達は解放戦線の中でも、あまり大きな派閥ではありません。私達の力だけでは、和解など確実に不可能でしょう」
「そこで、あなた達に接触することにしたのです。かつてアリウスが迫害を受けたとき、生徒達を迫害から守りカタコンベへ逃がしたのは、シスターフッドの前身である『ユスティナ聖徒会』だったと聞いています。厚かましいお願いではありますが……トリニティとアリウス、二校間の平和のため、どうかもう一度、お力添えをお願いできないでしょうか」
トリニティとアリウスの和解。かつての試みは失敗に終わり、本来であればその後かなりの期間触れられることの無かったものである。
マダムはまだ健在。トリニティへの憎悪は根深く、そのための指針や結束も明確に存在している。早期の和解は、かなり難しいものがあるだろう。
「一つ、質問をしても?」
「どうぞ」
「……シスターフッドの長として、アリウス分校に起きたことについては聞き及んでいます。あなた達がどのような環境で生活していたかも、文献と先程の発言からある程度察しはつきます。ですから……あなた達は、私達を憎んでいても仕方ないはずです。何故、トリニティと和解しようと?」
「……確かに、辛いことも、苦しいことも沢山ありました。全ては、虚しいものであると思います。トリニティを恨んだことも、豪華な暮らしを妬んだこともあります。私達の誰もがそうですし、その思いは今も消えていません」
アリウスの生徒はガスマスクを外し、笑顔を見せた。『全ては虚しい』と思っている人が絶対に見せないような、柔らかい笑顔だった。
「……ですが、一度、私達を信じて、助けようとしてくれた方が居たのです」
その生徒は、初めて食べたケーキのことを思い出していた。それは、薄い寝具と共に震えながら見た、お腹いっぱい食べる夢に出てきたどんなご馳走よりもずっと美味しかった。暖かい布団で見る夢を、そのまま切り分けたような食べ物だった。
「カタコンベに大穴が開いてからというもの、アリウスには色々な人が来ました。外の世界について、色々な人に教わって……本来敵であるような相手を信じることは、本当に難しいことなのだと分かりました。ですから、私達も……一度だけ、信じることにしたのです」
「……その、あなた達を助けようとした方、というのは」
ある生徒は、貰ったアクセサリーに触れた。キラキラした石や非常食の木の実が入った大事な物用のポケットには、ひときわ輝く彩りが増えた。世界には、もっとたくさんの綺麗な物が溢れているという話を聞いた。
「……ええと。確か、ティーパーティー?の……」
ある生徒は、見せてもらった図鑑のことを思い出していた。見たこともないような動物が沢山載っているそれに目を輝かせたその生徒に、実物のゴリラはもっとすごいのだと、大げさな身振り手振りで教えてくれた。
「聖園ミカ、という方です」
聖園ミカという少女のことを、その生徒達は思い出していた。
彼女が手繰り寄せた、細い糸。呆気なく切れるはずだったそれを、繋ぎとめたいと願った誰かが居た。
不器用なそれは、捻れて歪んで少し滑稽なものの……確かに、人と人を繋いでいた。
この世界線のミカはガチでゴリラのモノマネをやりました。ウホウホ言いながら胸を叩いてました。