トリニティシツジモドキ「お嬢様、こちら午後の紅茶をフレイムスロワーで温めたものになります」 作:ヤツメタウミエル
アリウスとミカによるクーデターは、肝心のミカがゲヘナを憎みきれなかった上に、他勢力が乱入してきたことで失敗どころかなあなあで終わってしまった。
そのまま正義実現委員会にしょっぴかれることになったミカ。原作では失敗を振り返りつつ、先生と話してちょっとしんみりした雰囲気で去っていくのだが……
「ティーパーティーの首長がクーデターなどと……権力者の身勝手で割を食うのは労働者だぞ!」
「トリニティ総合学園の横暴を許すなー!」
「同志アズサ、同じアリウスなら共に闘おう!真の平等のために!」
「ええと、ミカ様は拘束しましたけど、あっちの立て籠もりはどうしましょうか」
「武力行使に出て来ない限り放っておきましょう。ティーパーティーからはまだ何の声明も出ていませんし、今の時期に他校の生徒を制圧するのは……」
『Vanitas Vanitatum,et omnia Rock'n Rollllllllll!!!元気かよォ、シケたツラして虚しく生きてる野郎共ォ!!今日もアリウス軽音倶楽部のラジオ放送、『ボイス・オブ・アリウス』がァ!テメー等にVanitasなミュージックをお届けするぜエェ!!!』
「またなんか出て来ましたよ?!」
「電波ジャックです?!」
『キエェェェ!!人間の死が社会の福祉だアァァァ!!!』
まったくしんみりできなかった。というか、どこが最大のミスだったかというと、もう全部である。シャーレどころの問題ではない。
「なんだかもうよく分かりませんが、とりあえず終わったんですよね……?」
「つ、疲れた……」
忙しい夜を終えて補習授業部は疲労困憊だったが、本番はむしろここからである。
「まずい、もう8時20分だ。30分で試験会場に着かないと」
「そ、そうでした?!これじゃ走っても間に合いません!」
「そんな、どうすれば……?!」
「……おや、私の出番のようだね」
アリウスのデモに巻き込まれ、試験に遅れそうな補習授業部。しかし、捨てる神あれば拾う神ありである。ティーパーティーサンクトゥス分派首長、百合園セイアが送迎を申し出てきた。
「ええと、車がありませんけど……」
「問題無いさ。ミカ」
今朝逮捕されたてのミカが、横転したオープンカーを片手でひっくり返した。
「これでできた」
「ええ……」
「飛ばすよ。掴まりたまえ」
「あの、座席足りませんよ?!」
「あら、つまりセイアさんは一つの座席に二人で座るようにと……しっかり掴まるというのは、どこを掴めばいいのでしょうか?」
「何考えてるの?!エッチなのは駄目!しけっ……ふぎゃっ?!」
コハルが死刑判決を出そうとしたところで車が急発進し、倒れたコハルはハナコを押し倒す形となった。
セイアは道路交通法違反で違反点数二点と反則金九千円、法廷等の秩序維持に関する法律第二条に基づき二十日以下の監置若しくは三万円以下の過料が課せられる。
「あら、大胆ですね♡」
「そ、そういうのじゃないからあぁ!!」
その後しばらく車は順調に進んでいたが、試験会場までの道を三分の二程進んだところで、ボンネットから異音と煙が発生し、徐々に減速して停止してしまった。
盛大に事故を起こした車に、乗車定員超えの過積載。当然の結果である。
「困った、ウンともスンとも言わない」
「うう……でもここまで来れば、走ればなんとか……!」
「ご安心ください、皆様。ここからは完璧なメイドであるこの飛鳥馬トキが、皆様を試験会場にお届けします」
そこに現れたのは、パワードスーツを装備した飛鳥馬トキである。彼女はパワードスーツの三連装ガトリングガンを手放し、代わりにリタの頭をむんずと掴んだ。
「あの、何か物凄く嫌な予感がするのですが」
「信じて!」
「それタイタンフ◯ールじゃなおわあああああああああああああぁ?!」
そして、左手でガッツポーズをして大きく振りかぶり、試験会場に向けてブン投げた。
現在トキは先生の指揮下にあるため、
「さて、あと四人ですね」
「あの、別に走っても間に合あああああああああぁ?!」
「見事な弾道だ。次は私だな……おお、すごい速度だ」
「ひいぃいいいいいいいいいぃ?!」
「あらあら……」
立て続けに人が試験会場に着弾し、砲撃と勘違いした正義実現委員会メンバーによって騒ぎにはなったものの、どうにか補習授業部は試験を受けることに成功したのだった。
第3次特別学力試験、結果――
ハナコ―100点、合格。
アズサ―97点、合格。
コハル―92点、合格。
リタ―90点、合格。
ヒフミ―96点、合格。
補習授業部――全員合格。紆余曲折あったものの、補習授業部は晴れて解散となった。
一方その頃。二人の生徒と大量の猫が、カタコンベ内を歩いていた。アリウススクワッドのメンバー、戒野ミサキと秤アツコである。
アツコの周りには彼女を護るように猫が布陣し、周囲の索敵をしたりミサキに絡んだりしている。
長期間猫の居る環境で過ごしたことで、花粉症に加えて猫アレルギーまで発症しているミサキにとってはたまったものではなかった。
「へくしっ……ふぅ。ここまで来れば、しばらくは追手も来ないかな……本当によかったの?」
「うん。解放戦線の決起でいくつかの部隊とアリウススクワッドの半分が離脱しちゃったから、作戦の遂行は不可能。あのままあそこに居るよりはマシだよ」
アツコはマスクを外し、普通にミサキに応えた。本来であればどちらも禁止されている行動だが、アリウスから逃げてきた時点で律儀に守る必要もないのだ。
「どこに行っても、大して良くなりはしないだろうけどね。ここからはどうするの?行方不明のリーダーを探すか、ヒヨリが入り浸ってるらしい放課後スイーツ部か……へくしっ!」
「もしくは、このまま『バリケード』を目指すか」
「姫は最優先で追われるだろうから、戦力としてはそこが一番安全かな……でも、アリウス解放戦線は複数の派閥に分かれてる。姫の存在はそのパワーバランスに影響するだろうから、慎重に行動しないと」
「解放戦線の決起と同時に、各派閥のマニフェストが公開されてる。
「随分と多いね……脅威そっちのけ内ゲバ展開の気配がする」
「まず『ニコメディア同好会』……中道主義寄りの派閥だね。かつてのネコちゃん天国であるアリウスと、アリウス分校の自由と独立を取り戻そうとしてて、目的としてはマダムの排除が最優先。解放戦線では規模が最大の派閥で、猫缶保有量も豊富だから物資も充実してる」
「アリウスでは猫缶が通貨として機能するからね。マダムは猫取引を規制しようと躍起になってたけど」
「ネコと和解してる生徒が特に多く所属してるのもあるね。物資調達を頼むのに必要な猫缶が少なく済む」
「ネコと和解って……姫みたいに?」
「私はまだそこまで至ってない、ロイヤルブラッドだから一方的に守られてるだけ。和解の本質は相互の対話だよ」
「次に『アリウス・インターナショナル』、過激派の左翼と無政府主義者だね。かつてのアリウスの悲劇やマダムの圧政は大きすぎる力が招いたことだとして、あらゆる権力の排除を目的としてる。インターネットを通じて広く浅い繋がりを形成してて、特にレッドウィンター連邦学園で人気らしいよ」
「なんでアリウスだけの問題じゃなくなってるの……」
「共産趣味ってやつらしいよ。本気の人を面白半分の人がかさ増ししてるから、どんどん大規模になっていってる」
「うわぁ……」
「三つ目は『
「GKBカンパニー……?」
「ミレニアムの会社だよ。『テイルズ・サガ・クロニクル』ってゲームの劇場版、『スピリット偉人』の公開を一ヶ月後に控えてるんだって」
「四つ目の派閥は『アリウス軽音倶楽部』……派閥って言っていいのかな?目的は特に無くて、バンドを組んで演奏ばっかりしてる。ロクな指揮系統も存在しないのに、どういう訳かちゃんとまとまってて、『ボイス・オブ・アリウス』って放送局まで保有してる。ラジオくらいは猫缶数個で猫に調達してもらえるから、アリウスのどこでも放送が聴けるよ」
「メンバーを見たことがあるけど、あれじゃ組織は無理でしょ。モヒカンと意味のないトゲまみれの服着てたよ*1」
「ヴァニタアァァス!!って叫んだらまとまるらしいよ」
「絶対に正しい意味で使われてないでしょそれ」
「まぁ、私達も正しい意味で使ってなかったみたいだからね。全ては虚しいから無駄、じゃなくて全ては虚しいから慎ましく生きようって意味らしいよ」
「五つ目は『調停委員会』。ミカさんの影響を受けて、トリニティとの和解を目指してる……かなり難儀な人達だね。少なくとも解放戦線『生徒評議会』の議席のうち三分の二の同意が必要だけど、現状はほとんどが中立で、残りはトリニティ敵対を掲げてる」
「昔あったことを考えたら、当然無理だろうね……」
「まぁでも、そんな派閥ができた事自体驚きだよ。以前なら考えられないようなことだし」
「六つ目は『聖ペロロ生徒会』。解放戦線ではちょっと特殊な派閥で、現実主義者って感じかな?マダムの計画に協力する代わりに生徒の待遇改善と体制の緩和を行う条件付き降伏が目的。悲観的な生徒やトリニティを憎む生徒の支持を得て、二番目に大きな派閥になってる」
「戦って勝つより現実的ではあるけど、マダムが反逆者に譲歩したりするかな……」
「多分無理だろうね。でも、正面切って戦いたくないのは分かるかな……あと、『ペロロ様』ってキャラクターを広告塔にしてるね。本当に熱心なファンも居るけど、基本的には猫に代わる時代の象徴としてモモフレンズを利用してるみたい。ニコメディア同好会とは敵対関係だよ」
「モモフレンズのファンが見たら怒りそうだね」
「それで、七つ目はこれも特殊な派閥で……」
そこまで話したところでアツコは立ち止まり、しゃがみ込んで猫の声に耳を傾けだした。
「……どうしたの、敵?」
「多分そうなるだろうね。ちょうど話してた、七つ目の派閥」
銃とロケットランチャー、そして猫パンチを構えるアツコ達。姿を現したのは、アリウスの生徒ではなく、ティーパーティーの制服を着たトリニティの生徒だった。
「お初にお目にかかります、秤アツコ様。私は、アリウス解放戦線『ニケーア分派』後援者の代表です。敵ではありませんので、そんな物騒なものはしまってくださいまし」
「……」
警戒を解かないアツコ達を見て、後援者代表は若干顔を顰めたものの、すぐに表情を緩め話を続けた。
「かつてのアリウスは公会議によって排斥されましたが……本来であれば公会議とは、同じ
「あなた方には本来、
「……つまり、政治に詳しくないアリウス生を傀儡にして、数にものを言わせて新しい分派を作って少数の後援者で牛耳りたいです、ってことかな」
「あら、私は皆様のことを想って言っているのですが……やはりいつでも、不幸な行き違いというものは無くならないものなのですね」
そう言って代表が右手を掲げると、後方から数人のトリニティ生とアリウス生達が姿を現した。
「……まずい、囲まれてる」
「皆様、VIPをお迎えくださいまし」
銃声が響く。アツコ達は精鋭とはいえ、二人では物量に押されてはどうにもならない。
薄れる意識の中で、二人が最後に聞いたのは……
「え、ちょ、あの……お撃ちになるんですの……?なんかこう、やんごとなき生徒会長の血筋じゃないんですの……?」
そんな、気の抜けた代表の声であった。
振り返ろう、アリウス解放戦線の派閥!
ニコメディア同好会……マダム絶対殺すマン。猫ちゃん大好き。
アリウス・インターナショナル……ジェネリック安守ミノリ軍。
テンプル補習騎士団……アリウスから逃げる。ゲーム開発部の支援付き。
アリウス軽音倶楽部……世紀末。
調停委員会……トリニティと和解したい。
聖ペロロ生徒会……ベアトリーチェによる支配を改善したい。あはは……
ニケーア分派……政治に詳しくないアリウス生を利用し、トリニティでの勢力拡大を狙う。後援者代表は政治に詳しくない。