トリニティシツジモドキ「お嬢様、こちら午後の紅茶をフレイムスロワーで温めたものになります」 作:ヤツメタウミエル
vol.0:現状整理
補習授業部が一段落した後、アズサ達と調停委員会の生徒達はアリウス自治区を訪れていた。
「ここがアリウス解放戦線の本拠地、『超無敵移動要塞 : バスティーユ』だ。『超無敵移動要塞』の部分は私達のネーミングじゃないぞ」
薄暗いカタコンベに、あまりにも場違いな温泉旅館がそびえ立っている。防御機構も備えているようだが、明らかに要塞という見た目ではない。
「お、温泉旅館……ですね……?」
「解放戦線の結成時は、家具を寄せ集めた防壁を造ってその中の廃墟で生活していたんだ」
「だから当時は『バリケード』って呼んでたんです。ですが、外から来た人達が協力してくれて……」
初期のアリウス解放戦線は、順風満帆というわけではなかった。すきま風の吹き込む廃虚で過ごし、アリウス分校の補給が無く猫頼みの物資は不足し、襲撃に怯え隠れる日々。
それが……なんということでしょう。温かみのある木製の旅館は温泉を利用した床暖房で温められ、年中快適に。備え付けの工業設備と外部へのルートによって、物資も潤沢になった。匠の技である。
「この地域の温泉開発権と引き換えに設備を整備してくれた温泉開発部によると、この辺りは既に掘削済みの場所だから温泉が出しやすいそうだ」
「アリウス各地にもどんどん温泉旅館が造られていってます。温かいお湯で体を洗えるのが、こんなにも快適だなんて思いませんでした……温泉って素晴らしいですね!」
「アリウス自治区内の建物を自由に吹き飛ばす許可だけでこんなに色々やってくれるなんて、なんて親切な部活なんだ……!」
「部長のカスミさん、良い人だったなぁ……!ゲヘナではお尋ね者らしいけど、正義のアウトローみたいな……必要悪っていうんでしょうか?カスミさんみたいな人は、行政機関も数えるほどしか爆破したことが無いそうなんです」
「資金も提供してくれましたし、これからも色々と新しいことを企画してるらしくて……アリウスの特徴を利用した『脱税』?とか、『マネーロンダリング』?って、どんなことをするんでしょうか……楽しみです!」
「……」
深い尊敬とともに、カスミを褒め称える調停委員会の生徒。コハルがリタの方を見ると、リタはサッと目を逸らした。
数日後、カスミはヒナに
「こっちはエンジニア部の地熱発電装置だ。点在する温泉地帯で電力を蓄えれば、要塞ごと飛行することができる。これと防衛用速射ガウス砲台『闇の剣 : スターバースト』……一応言っておくが、これも私達のネーミングではない……のおかげで、解放戦線の生存能力は大幅に上がった」
「浪人生*1の協力のおかげで、アリウスの外にも移動できます。TSCが単独で離脱せず解放戦線全員での脱出を唱えているのは、これの存在が大きいですね」
「地下なのに何故飛ぶんだ?走行する方が電力は節約できるんじゃ……」
「愚問でございますね、アズサ様。ロマンですよ」
「話の通じる奴が居るようだな。エンジニア部は最高だ、激ロマンの殿堂だ……!」
「そうでしょうそうでしょう、ウタハ先輩はすごいんですよ」
要塞内に入ると、調停委員会の生徒はエントランスの自動販売機に『猫兌換銀行券 壱
「正直、私達調停委員会の望みは薄いと思っていたんだ。多くのアリウス生がトリニティを憎んでいるし、肝心の聖園ミカはアリウス分校側についてしまい、クーデターを起こして逮捕された。トリニティとしても、和解に大した魅力は感じないだろう」
そこで調停委員会の生徒は、アズサとヒフミを交互に見つめた。
「しかし、アズサ……君が味方してくれた。トリニティの生徒として生活し、ティーパーティーのホストを守り……トリニティ生の親友が居る、君がだ」
「聖園ミカの言うところの『和解の象徴』に最も近い君は、私達の希望だ。協力を申し出てくれたこと、心より感謝する……改めてようこそ。アリウス解放戦線、調停委員会へ」
「うん、よろしく。私に出来る限りのことは何でもする」
「ありがとうございます、アズサさん……!そ、それに……」
そう言うと、もう一人の調停委員会の生徒は、リタが抱えている簀巻きに目を向けた。
「くっ、殺せ……拷問に耐える訓練は受けている。口を割ることは無いと思え」
「まさか、あの錠前サオリさんが来てくれるなんて……!」
「アリウススクワッドのリーダーであり、アリウス最強の精鋭……心強い!」
「私は仲間になる気はないぞ?!早くアリウスに戻らないと……!」
「逃げられると思わないことですね、サオリ様。貴方の匂いと足音は覚えましたので」
「猟犬か何かか?!」
新たな希望と共に、進みだした調停委員会。
誰でもハッピーエンドが好きだ。一流の悲劇より、二流の喜劇の方がずっと良い。友情で苦難を乗り越え、努力がきちんと報われて、辛いことは友人と慰め合って。苦しいことがあっても、誰もが最後は、笑顔になれるような。この物語は、そんなハッピーエンドに終わった。
しかし、もしも……二流よりも滅茶苦茶で、おかしなエンディングがあるとしたら?
誰もが馬鹿なことをして、何の脈絡も伏線もなく唐突な展開が続く。言うなれば三流、四流の喜劇。映画ならB級、いやZ級のクソ映画のような……それでも、より多くの人が笑えるような。そんなベターエンドを、生徒達は目指していく。
しかし、ここで一度立ち止まって振り返ってみよう。
ここからは本筋とは関係のない、とある少女の話である。
「ミカさんのバカ!ミカ!アホ!」
「うぅ、ごめんなさい……」
「まったくミカ、君の頭蓋骨の中には海綿スポンジでも詰まっているのかい?だいたい君は日頃から軽率に……」
「うん、ごめんねセイアちゃん……」
「しおらしくしないでくれ、調子が狂う」
「理不尽!」
所変わって、現在ミカが拘留されている部屋で。ミカはナギサとセイアにこってり絞られていた。
以前からゲヘナの生徒達と接し、自分のしていることが惰性だと薄々勘づいていたミカには、気持ちの整理をする時間が十分にあった。
そうしてミカが色々と悩んで、勇気を出してリタに打ち明けたことは、速攻で右から左へとそっくりそのままナギサに伝えられた。迅速な報連相、アルバイトの鑑である。口が軽いとも言う。
「だいたい、セイアさんの襲撃を指示するなど、仮にこのような事態になっていなかったとしてもパテル分派の首長としてですね……!」
「想定外の事態になった時点で、非を認めて解決のために動いたり……報連相が何もできていません、リタさんを見習……いや絶対に駄目ですね?!」
「こっちは胃が荒れているのにうどんを見ただけで吐き気を催すせいで、この数日ミネ団長におかゆしか食べさせてもらっていないんですよ?!」
ナギサの説教はかなりの時間続いたが、普段ならそれに同調してミカを責めるはずのセイアは何故か大人しかった。
「……あれ?何か今日、セイアちゃん大人しくない?」
「ナギサがずっと叱っているから、話を挟む暇が無くてね……それに、私は君に呆れているが、感謝してもいるんだよ。だから、これ以上説教するつもりもない」
「感謝……?される要素、見当たらないんだけど……」
「アリウスのことだよ。以前私が見た未来には、アリウス解放戦線というものは存在しなかったんだ」
「ええ?!」
セイアによるとその未来では、アリウスが完全にマダムの支配下にあり、エデン条約の戒律や遺物の兵器を利用してトリニティに全面戦争を仕掛けるというものだった。
アズサは家族同然の部隊『アリウススクワッド』と殺し合う。パテル分派の生徒達が混乱に乗じて実権を握り、ゲヘナに攻勢を仕掛けようとする。
セイアが語る未来は、現在の状況とはあまりにも違うものだったが……それがあり得たという、不思議な説得力を持っていた。
「……不信、怨恨、憎悪の末に行き着く、目を背けたくなるような、悲しくて苦しい、酷い話だった」
「だから私は目を閉じていた。その先の話に希望は無いと思っていたからね……楽園に辿り着きし者の真実は、決して証明され得ないと」
「それは、確か……『七つの古則』の五つ目ですね」
『楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか』。楽園に辿り着いた者は至高の幸福を得るため、そこから戻ることはない。そのため楽園の存在を証明することはできないという、否定ありきの問いである。
「先生はその未来で、こう言っていたよ……」
「……楽園があることを、ただ信じるしか無いと」
「セクハラじゃないですか?!」
「セクハラじゃなくてスキンシップだと思えば、それはメモリアルロビーさ……当時の私はそれを、無意味だと思っていた。ただ信じるだけでは、楽園が無いという事実は変わらないとね」
「では、今ここに居るのは……何が、セイアさんの考え方を変えたのですか」
そこでセイアは言葉を区切り、格子の付いた窓から空を見上げ……あの時見た青空を思い出し、呟いた。
「エル・プサイ・コングルゥ」
「……はい?」
「何の意味もない言葉だよ。しかし、ある時から意味を持った……運命は変えられるし、世界は欺ける」
「ごく普通の少女の願いが、あらゆる絶望をひっくり返した。ミカはアリウスを赦し、他者を救うことで自分も救われた。私の見た絶望の全てが、ハッピーエンドのための伏線、舞台装置でしかなかったのさ……いやはや、見事に騙されたよ」
「『求めよ、さらば与えられん』だ。重要なものは楽園の有無ではなく、『楽園へと向かう意志』。私達はきっと……全ての現実を、自分達の方に捻じ曲げることができる。存在しない楽園を、『存在するということにできる』」
「ミカ、君が信じたから未来は変わった。だから私も、信じることにしたのさ。仮にどこにも楽園が無かったとしても、信じること自体が意味を創ってくれる」
好き勝手に御託を並べ終わるとセイアは立ち上がり、ナギサの手を引いた。
「さぁナギサ、そろそろお暇しよう。やらなければならないことは無限にあるからね……それに、ここからは邪魔をすべきではない」
「ちょ、ちょっとセイアさん?!」
ナギサとセイアが退室した後、ミカはため息をつき、換気扇の方に向き直った。
「……もう出てきていいよ、リタちゃん」
「申し訳ありません、今回はちゃんと午後の三時に伺ったのですが……先客が居りましたか」
「うん、今度からはちゃんとした手続きを踏んで面会に来て欲しいかな」
「それではお嬢様、こちらを」
リタは慣れた手つきでティータイムの用意をし、見た目は紅茶のように見える液体をカップに注いだ。
「わぁ、いい香りだけど……明らかに紅茶じゃないねコレ」
「三食ロールケーキとおっしゃっていましたので、そろそろ塩気が欲しいかと思いまして。オニオンスープでございます」
「嬉しいけど全くティータイムじゃないね?!」
「お茶請けにはこちらのカプレーゼを。後ほど鯛のポワロと子羊の照り……テリーヌ?その後にオレンジのジェラートと、ローストビーフの……」
「ティータイムにフルコースぶっ込んで来るのやめて?!あと料理上達したね?!」
「恐縮でございます」
第三回特別学力試験終了後、リタは先生他数名協力の下、正しい礼儀作法やら料理やらの補習を受けていた。
その際協力したフウカの金言が次の通りである。
(눈_눈)『お菓子あげるって言われても怪しい人にはついて行かないようにね。お惣菜なら?駄目に決まってるでしょ』
(눈_눈)『料理のさしすせそを覚えておいて。逆らわないでレシピ通り作りなさい。省略しないでレシピ通り作りなさい。好き嫌いしないでレシピ通り作りなさい。センスに頼らないでレシピ通り作りなさい。そのままでいいからレシピ通り作りなさい』
(눈_눈)『一番簡単な料理?パンを両手に持って、耳に当てなさい。バカのサンドイッチの完成……なんで両方右なのよ、それはバカトースト』
「色々大変でしたが、どうにかモノにしました」
「すごい苦労かけてそう……今度フウカちゃんにお詫びに行こうかな……」
ミカはスープを一口飲んで、じっと見つめた。
彼女はお嬢様学校であるトリニティでも上澄みの方であり、こういったものの良し悪しはちゃんと分かる方なのだ。……全体的に、腕がそれ程良いわけではない。しかし、尋常ではない手間暇がそれを補っている。
飴色になるまで炒められた玉ねぎは、途中でスープ用のものと具に分けられたのだろう。食感を残しつつ、玉ねぎの甘味が活かされている。
ブイヨンは市販のものではない。浮いている油や風味から判断すると、食材を長時間煮込み一から作ったものだ。
料理といい、趣味のアクセサリー製作といい、紅茶と普段の奇行以外であれば、今のリタはかなり良い線を行っていた。
……ミカの執事以外でも、一部に目を瞑れば十分やっていけそうなくらいに。
「リタちゃん……あのさ」
「いかがなさいましたか?虫とか入っておりましたら、こちらを。誠意のチャーシュー丼でございます」
「いや、そういうのじゃなくて……前、言ってたでしょ。この仕事やってる理由、給料が良いからだって」
「ええ、以前はそう言いましたね」
「でもさ、それじゃよく分かんないところばっかりなんだよね。好条件のスカウトとかは断ってるし、最初は執事って言ってもあくまでお飾りみたいなものだったから、職務規定は緩いのに条件以上に色々やってるでしょ?私クーデター犯だからこの先どうなるかだって分かんないし……何より、えげつない大規模テロまで選択肢に入れて私のこと止めようとしたし」
「まぁ、ゲヘナが火の海になるのは不定期の年中行事のようなものですので、そこまでのことでは……」
「年中行事?!」
「ヒナ委員長が就任する前は風紀委員会も微妙でしたので、こう『ゲヘナが燃えてるなぁ、春だなぁ』とか『ゲヘナ自治区が吹き飛んでるなぁ、夏だなぁ』みたいな感じでして」
「四季を感じるものじゃないよね?!そんな事があって、なんで学園が成り立って……」
そこまでツッコミを入れたところで、ミカは違和感に気付いた。今のリタは、以前にもティーパーティーの生徒がしていたような顔だ。その時は、確か……
「……いや、もしかしてだけど。話脱線させてはぐらかそうとしてる?」
「?!」
彼女がいつも浮かべている微笑が、一瞬大きく崩れる。
「ねぇ、リタちゃん。どうして、この仕事にこだわるの?……いや。自意識過剰かもしれないけどさ……どうして、
リタの目が泳ぐ。ボケとツッコミの構図が崩された真面目な話においては、ティーパーティーとして政争に慣れているミカの方が強いのだ。
「……黙秘権を行使いたします……」
「リタちゃん」
ミカの進撃は止まらない。リタの手を両手で掴み、その目を正面からしっかりと見据える。
「っ?!」
「私は、あなたが私の味方だって言ってくれて、嬉しかった。私はたくさん酷いこと言っちゃったのに、あなたはそれでも信じてくれた。だから今度は私が、あなたのことをちゃんと知りたいの」
「~~~っ!!」
「ねぇ、私の執事なんだから……教えてくれるよね?」
「……だああぁぁもう*トリニティスラング*!分かりましたわよ!吐けばよろしいんですわよね?!言ってやりますわよクソが!!」
「え、何その喋り方」
リタは顔を赤くして腕を振り回し、どうにかミカの手を振りほどいた。
「……失礼。ええと……少し長い話になりますので、先に結論だけ言ってしまいますね」
「うん」
「……以前、お仕えして間もない頃……お嬢さまと服を買いに行ったことがありましたよね……その時、なんですが」
「ああ、五話あたりだね」
「…………………………から、です」
リタの顔は耳まで真っ赤になっていた。言葉は判別がつかないほど小さく、目線は忙しなく動き、姿勢は俯きがちになっている。
「……えっと、なんて……?」
「あの……その……!」
「ゆっくりでいいから」
「……すぅ、はぁ……ふぅ。その、ですね……」
リタは深呼吸した後、固く目を瞑り、一息に言い切った。
「……初めて私に『かわいい』って言ってくれたのがお嬢様だったから、です……!」
そう言い切ると、リタは頭を勢いよく伏せた。テーブルにひびが入るほどの速度で。
真っ赤になった彼女の顔からは、湯気が立っている。おそらく、今の彼女の頭にジャガイモを乗せればフライドポテトが出来上がるだろう。
「……へ?」
予想外の答えに呆然とするミカ。しばらくするとリタは起き上がり、ミカの前に手を差し出した。
「……お嬢様、この傷を覚えておられますか」
「その傷は……」
「さっきケガしました」
好きなギャグキャラ発表ドラゴン「変人が乙女の部分出して余裕ゼロでガチ赤面してるやつ」
その顔が見たかった……この設定を5話あたりで考えついてからというもの、その顔が出したくて28話も書いたんだ……!ガッチガチに照れるそ・の・顔がァ……!!ヒャハハハハハハ!!ヴエァハハハハハハハハハハハァァ!!
バスティーユ……XCOM2のアベンジャーと温泉旅館の合の子。エンジニア部と温泉開発部が滅茶苦茶やった。
壱
エキュメノポリスヶ丘温泉街計画……露天掘りが行われていたり、もともと地下にあったことで温泉源にアクセスしやすい自治区一つを覆い尽くす温泉を造り、そこに温泉旅館を大量に建設する計画。実現はしなかったものの、後のわくわく温泉大作戦の礎となった。
闇の剣 : スターバースト……コイル加速式のガウス砲、連射可能。騒動が収まった後、アリスが一本貰ってサブ武器にした。アリス、光と闇が両方そなわり最強に見えます!
リタがミカに選んでもらった服……全て宝物。