トリニティシツジモドキ「お嬢様、こちら午後の紅茶をフレイムスロワーで温めたものになります」   作:ヤツメタウミエル

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ライムライト……白熱した石灰から発生する光を利用した照明器具。電灯が発明される以前は舞台照明として用いられ、そこから名声を表す言葉としても用いられるようになった。


vol.5:火星の人にライムライトを

「……これで契約は成立です」

「えっと、どうも?」

 

 アビドスを去った後、私は就職情報誌で一番時給の高かったアルバイトに応募した。そうしたら意外なことに、何故か受かってしまった。

 目の前には、署名済みの一枚の契約書。内容にはちゃんと目を通したし、おかしいところは多分無いはず……だというのに、何か大事なことを見落としている気がする。

 

「あの」

「何でしょうか?」

「実験助手のバイトって聞きましたけど、なんで私が採用されたんですか……?他の応募者には、エリート校所属の方や専門資格持ちの方とかも居たみたいなんですが」

「クククッ……まぁそうですが、私達としてはあなたのことをかなり高く評価しているんですよ。あなたには、あなたにしか無い強みがあるのです」

「それは……?」

 

 机の向かい側に座っている胡散臭い人物は、大げさな動作とともに勢いよく立ち上がって手を広げた。

 

 

 

「それはもちろん……ロケットでの!墜落経験さっ!!」

「墜落する気満々じゃないですかこの野郎ォ!!」

「ようこそ、助手二号君。エンジニア部主導、宇宙開発基本計画……『プロジェクト・アトラス』へ!!」

「嫌だーーーーーー!!」

 

 

 

 私の新たな職場は、ミレニアムサイエンススクール。宇宙ロケットのパイロット……いや、大した操作はしないから乗客?もしくは被検体?として働くことになった。

 『下手にモルモットのようなか弱い生物を使うと墜落した時死ぬので、可哀想だからまず人間を使おう』という考えらしい。倫理観があるのか無いのか、判断に困るところである。

 

 雇い主は当時のエンジニア部の三年生で、何と言うか……一言で言うと変人だった。ヨレヨレの白衣にボサボサの髪に丸眼鏡の、マッドサイエンティストのテンプレ*1のような生徒だ。

 彼女の目標は、キヴォトスを通過する軌道上の宇宙ステーション建造。後輩が造ろうとしている、宇宙戦艦とやらのドックを確保したいのだとか。

 

「まず重要なのは、有人飛行ノウハウの蓄積だ!というわけで、これに乗りたまえ。乗らないなら帰れ」

「……博士、何ですかこれ?」

「エンジニア部初の有人ロケット、『スメラヤ1号』だ!」

「いえ、そのロケットの横に付いてるヤツです」

「46cm三連装砲だ!」

「なんでこんなモン付けたんですか?!」

「ククッ、安心したまえ!空力特性は改善したから飛行に問題はない!」

「要りませんよね?!」

「ロマンだよ。軌道上では宇宙(うみ)宇宙(そら)も地続き……つまり、大鑑巨砲主義最後のフロンティアと言えるのさ」

「ええと……助手一号の人?あなたはマトモだと思ってたのに!」

「白石ウタハだよ。よろしく」

「自爆機能の人じゃないですか?!ロケットに付けたらただのミサイルですよ!」

 

「……でもこれ、重すぎて飛びませんよね」

「うん、なんでこんなもん付けたんだろうな!」

「寝てないからじゃないですかね」

「あと丸一日何も食べてないのもあるかもしれない!」

「せめてご飯は食べてください……とりあえず、ここに生えてる草は食べられますよ。どうぞ」

「どうぞって何だい君」

「いらないなら私が頂きます」

「ひえっ」

 

 博士の実験は、ふざけた時のことを除いても常に失敗の連続だった。プロジェクトに割ける予算は少なかったし、目標は高すぎたのだ。

 キヴォトスで起こる紛争には市街地での小規模な戦闘が多く、弾道ミサイル分野の技術開発はあまり進んでいない。どうにか設計ができたとしても、少ない予算では打ち上げ時の負荷に耐えられるような高品質な部品の調達や作成が困難だった。そんなわけで、ロケットはかなり頻繁に墜落した。

 

「地上340mから落下してノーダメージとは……空挺の経験があるのかね?」

「これは『そういうこともあるだろうから』って師匠的な人が……じゃなくて!なんで安全装置が無いんですか?!」

「安全装置もまとめて爆発したからだ!」

「設計ミス!」

 

「あの、博士。今回の墜落地点、何処ですかね……見た感じ島なんですが」

『多分そこは無人島……あ、違った。その島には『大陸の病原体持ち込む人間ぶっ殺し族』という先住民が住んでいるね!病原体を持ち込んでぶっ殺されないように気を付けるんだ!』

「救助!救助早く!」

 

「やっと通信が繋がった……博士、今回の墜落地点どこですか?この辺、10mくらいのクソデカい爬虫類が闊歩してるんですが」

『助手二号?!バミューダ海峡に墜落したはずじゃ……』

「全然内陸ですけど。ちゃんと救助来るんですよね……?」

『たぶん来るさ。とりあえずそのクソデカい爬虫類、一匹捕獲してきてくれないかい?』

「無理に決まってるでしょうがカス。勘違いしてるみたいですが、こっちが被捕食者(チャレンジャー)ですから」

『大丈夫かい、リタ。少なくとも通信は通じているから、救助も可能だろう……安全第一で行動し、助けが来るのを待つんだ』

「う、ウタハ先輩ぃ……!」

『助手二号、君なんか最近一号と私で対応が違いすぎないかね?』

「人徳ですね」

 

 仕事が無い割に過酷なバイトではあったけど、給料はちゃんと出たし、楽しい方ではあったと思う。数ヶ月もすれば、墜落地点から自力で帰還できる程度には慣れたし。

 


 

 博士は空いた時間に、宇宙のことや中学範囲の内容を教えてくれた。当時は親切を無下にできず渋々聞いていただけだったが、後々どうにか補習授業についていけた要因の一つなので、今では感謝している。

 

「どうして点Pは動くんですか……いい歳なんだから年相応に落ち着きを得てもいいじゃないですか……!」

「いつだって進歩には価値があるものさ」

 

 彼女の趣味は、星を数えることだった。曰く、彼女は星を所有し、それを数えることで管理しているのだそうだ。

 私もつき合わされて、深夜に明かりの少ない山や森まで出かける羽目になることがあった。

 

「1614、1615、1616……」

「……それ、何の意味があるんですか?」

「私は約4,000個の星を観測し、それを所有しているんだ。宇宙資源は採取者の物になる以上、手に入れたも同然の物だからね。想像してみたまえ、何十億という人間に豊かな恵みを与えられる青い星……それが、この宇宙には幾らでも転がっているんだ!」

「取らぬ狸の皮算用にもほどがありますよ……まだ私達、一度しか軌道上に到達したこと無いですよね?叶うかどうかも分からないことより、目の前のことを考えた方がいいんじゃないですか。予算を打ち切られないための方策とか」

「いいや、必ず届くよ……何百年かかろうともね。その時、その資源をどう使うか、誰かが事前に考えておいた方が後々役に立つだろう?」

 

 そう言う彼女の眼には、はっきりとした確信があった。

 

「百年後には死んでますよ、私達。それじゃ意味がありません」

「クククッ……ククッ、ハーッハッハッハ!!」

「なにわろてんねん」

「いや、君は少々人間というものを誤解しているらしいと思ってね。君、自分一人居なくても社会は回るとか考えたことがあるタイプの人間だろう?」

 

 いつも以上に様子のおかしい彼女の発言に、どういうわけか図星を突かれた私は言葉に詰まってしまった。

 

「……」

「科学を学ぶ上でよく聞く言葉に、『巨人の肩の上に乗る』というものがある。先人か積み重ねてきたものがあって、今の私達が在る。天才も凡才も、皆等しく、人類という種として何かを積み上げてきた」

「ニュートンやライト兄弟、アインシュタインやオッペンハイマー……ブレイクスルーばかりが取り沙汰されるが、彼等にも先人が居る。学者だけじゃない、それを支えた都市や文明も含めて、人類という先人達の一部だ」

「正解も間違いも、正義も悪も、過去も未来も。全て同じ人類なのさ!進歩へと向かう意思を持つ限り、どれほど小さな人間も、星へ手を伸ばす巨人の一部となる!君もそうだ、自分の価値を低く見積もる必要は無い!生きているということは、その自覚が無くともどこかへ進んでいるということなのだから!」

「だったら、博士は……どんな方向へ、進んでいるんですか」

「そうだな。うちの後輩は凄いから、凡人なりに手助けを……いや、もう少し先輩らしいことを言おうか」

 

「宇宙には、星々の一つ一つには力が在る!それは地球を動かし、木を育てる……それと同じ力が、君の中にも在る!それを振るう勇気と意志を持つんだ!」

 

 彼女はここまで乗って来た自転車を運んできて、全力で立ち漕ぎを始めた。

 

「私はここに、新たな地平を開こう!見たまえ!!」

 

 彼女は自転車で崖に突っ込み……ロケットに点火して飛びあがった。

 月を背にして、まるで某SF映画のワンシーンのように……えげつない騒音と爆炎、その後のキリモミ回転さえなければ。

 

「自転車にロケットを付ければ、E.T.なしでも夜空を飛べる!私達は想像できることの全てを実現できる!些細なことでも、いつもと違うことをやってみるんだ!それこそがロマンと……ぐわあぁあぁ!!」

「博士―っ!!」

 

 その後、谷底へ墜落した博士と一緒に仲良く遭難することになった。樹海で遭難するのは初めてだったが、それはそれで結構楽しかった。

 


 

 私が高校生になると同時に、博士は卒業していった。最終的にエンジニア部は宇宙ステーションを造れなかったものの、軌道衛星の打ち上げと有人宇宙飛行にはどうにか成功した。

 

「それではお世話になりました、ウタハ先輩もお元気で」

「ああ、元気でね。ミレニアムを受験する気は無いのかい?」

「墜落しないロケットなら私が乗る必要もありませんから、普通にゲヘナに通うことにします……それに、やりたいことができたので」

「そうか。まぁ、たまにはミレニアムにも寄っていくといい。家電や兵器の改造が必要なら、いつでも言ってくれ」

「割引とかあります?」

「ロマン次第だね」

 

 ロマン。

 それは多分、最初から私にあったもので、ずっと逃げてきたものだ。

 

 私は自分の弱さを認められて、ご飯を食べて、眠って、前を向いた。だったら次は、進む勇気を持てばいい。

 

『それと同じ力が、君の中にも在る』

 

 無駄なことなんて、何一つありはしないと教えてもらった。今はもう、背筋をしゃんと伸ばして進むことができる。たとえ、また失敗するとしても。

 思い出すのは、ふわふわの白い翼に、輝く瞳に、ピンクの髪。透き通るような声の一つに至るまで、今も覚えている。

 

 それが、私のロマンだ。

 

「とりあえず、またバイト探すぞー!!」

 

 駅にあった無料の就職情報誌を手に取り、パラパラとめくり始める。

 この就職情報誌には、ブラックマーケット暮らしを始めてからというものずっとお世話になっている。ラーメン店や傭兵から、ロケットに至るまで……

 

 そしてその数ヶ月後、『ティーパーティー幹部の従者募集』なんて、衝撃的な就職先を見つけることも含めて。

*1
もしくはミレニアム生徒Aとミレニアム生徒Bを足して割ったやつ




 ここに懺悔します
 私は投稿を三週間サボってカーバルスペースプログラム三昧した挙句、積んでいるノベルゲームが一つも消化できていないのにDetroit:Become Humanをsteamウィンターセールに乗じて購入しました
 新年からはもうちょっと頑張ります

 オリキャラとオリキャラ回で申し訳ない……そろそろ過去編終わりなんで許してつかぁさい……
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