トリニティシツジモドキ「お嬢様、こちら午後の紅茶をフレイムスロワーで温めたものになります」   作:ヤツメタウミエル

4 / 41
「ご冗談を。紅茶にそんな超能力があるわけないでしょう、お嬢様」

 トリニティ総合学園、ティーパーティーのテラスで三人の生徒がティーテーブルを囲んでいた。

 

「それで、その後からナギちゃんがおかしくなっちゃってて!多分リタちゃんがおかしなことばっかりするから、その影響で錯乱しちゃってるんだと思うの!」

「なるほど、私にそのようなマインドコントロール能力が……ぬん、週休四日給料三倍福利厚生、週休四日給料三倍福利厚生、週休四日給料三倍福利厚生……」

「その謎の構えやめて?!あと強欲!」

「ぬん」

 

「二人とも、一旦落ち着きたまえ。完全に見当違いだよ」

 

 ナギサがリタに対する認識の修正に失敗して数日。その辺の認識がナギサと噛み合っていないミカは、もう一人の友人である百合園セイアを頼ることにした。

 小難しい言い回しや小言がいけ好かない彼女だが、常に冷静沈着で、『未来を視る』という唯一無二の能力を持った頼れる相手でもある。

 

「思うに、君がリタのことを嫌う原因は、執事として致命的に使えないということだけではないだろう。最初からそれほど能力には期待していなかったのだからね。問題はそれよりも根本的な部分、君のゲヘナを嫌っているという意識にあるのではないかと私は考えているよ。君はゲヘナが嫌いだからこそ主戦派寄りのパテル分派に所属したが、ゲヘナを主体的に嫌うのと同時に、ゲヘナを嫌うためだけにゲヘナを嫌わなければならない立場にもある……一種のエコーチェンバーや同調圧力とも言えるね。しかし、彼女は確かに馬鹿者ではあるが、君やトリニティに対して偏見や悪意を持って行動しているわけではない上に他人からの悪意に対してあまりにも鈍い。そんなトリニティ式のやり方からかけ離れた相手は『ゲヘナが嫌い』というスタンスが十全に機能しない、さらにはそれを危うくさせるものだ。しかし、だからこそ……」

 

「セイアちゃん、話が長いよー!歴史のBDみたい!」

「ぬん(短くまとめてください短くまとめてください短くまとめてください)」

「まぁ、リタはこれからも問題を起こすだろうけれど、それほど悪いことばかりでもないはずさ。合縁奇縁、とも言うからね。意外なことだが、君達は仲良くなるだろう」

「そうかなぁ……」

 

 ミカはいまいち納得できなかったが、セイアの未来視は基本的に間違いないものだ。渋々彼女は、あと二週間とちょっとの試用期間が終わるまでは様子を見ることにした。

 そして、リタの方に向き直り……信じられないものを目にした彼女は、目を大きく見開いた。

 

「お嬢様、どうかしましたか?」

「あ、あのリタちゃんが……紅茶をちゃんと淹れてる……?!」

 

 レンジで午後の紅茶をチンして出していたあのリタが、ポットとカップをお湯で温めるとかそういう正しい手順を踏んで紅茶を淹れている。それは紛れもなく、彼女の成長の証であった。

 

「バイトとして最低限のことはできるようにならなければ、と思いまして。料理人を目指しているゲヘナの友人に教えて頂きました」

「わぁ……もうペットボトル紅茶をマグカップに入れて出すことは無いんだね!」

「ほらね、ミカ。これから先も、リタは結構……ん?」

 

 話の途中でセイアの顔色が急に悪くなり、そわそわとし始めた。

 

「あれ、どうしたのセイアちゃん?もしかしてまた体調悪くなっちゃった?」

「あ、ああ……少し保健室に行ってくるよ」

「付き添いましょうか?」

「いや、そこまで心配はいらないさ……それじゃ、失礼するよ」

「そっかぁ。じゃ、また後でね!」

 

 セイアが退室し二人きりになったテラスで、リタが紅茶を淹れる。淹れ方さえ分かっていれば、見てくれだけはいい彼女の所作は名家の執事やメイドに勝るとも劣らない程に綺麗だった。

 

「そういえば、友達ってどんな子なの?」

「温厚な方ですよ。自分の料理で誰かに喜んでもらうのが夢だそうです」

「へー、そんな子も居るんだ」

「母数が多いので問題児ばかり目立っていますがね」

「まぁ、テロリストばっかりってわけじゃないか。名前は何て言うの?」

「中等部三年の、牛牧ジュリという方です

 

 今回リタは結構頑張ったのだが、いくつかの誤算があった。

 まず、ジュリの失敗した料理をおいしく食べられるのは、かなり少数派の生徒だけだと知らなかったこと。

 そして、論理的な学習能力がカスに等しく、センスと経験だけでどうにか傭兵としてやってきたリタは、直観的な学習能力がかなり高かったこと。ジュリ本人すら気付いていないような、細かいクセまで模倣してしまう程に。

 リタが無駄に高い位置から紅茶を注ぐと、注がれるそばから液体が紫色に変わっていく。よく見ると、由来不明の泡が出ているのが分かる。

 

「バタフライピー……かな?備品にそんなのあったっけ?」

「いえ、ダージリンですが」

「あー、どこかで取り違えたのかな……まぁちゃんと紅茶淹れてくれるだけマシか」

「どうぞ。刺激的な味でおいしいですよ」

「刺激的って、そんな……え?」

 

 次の瞬間、カップの紅茶が飛び上がりリタの顔面に飛びついた。スライム状のそれはリタの口に殺到し、能動的に飲み込まれていく。その光景は、どう見ても優雅なお茶会などではなくホラー映画のワンシーンだった。

 

「ひっ?!」

「と、こんな感じです」

「えっと、本当にリタちゃんだよね?紅茶に意識乗っ取られたりしてない?」

「ご冗談を。紅茶にそんな超能力があるわけないでしょう、お嬢様」

「それを言ったら、紅茶が勝手に動いて人の顔面に飛びつくこと自体ありえないんだよ?!」

 

 とりあえずこの呪物の残りを処分するためミカがティーポットを手に取ると、ポットの口から紫色の液体が飛び出し、トリニティ・スクエアの方へ飛び散っていった。

 咄嗟に三分の二程は撃ち落としたものの、残りは広場に到達した後噴水へ繋がる水道管を掘り当て吸収し、巨大化して周辺の生徒を襲い始めた。

 

「ホギャアアァァ!何ですのこいつ?!」

「んぐえぇ……クソまずですわ!イカの塩辛と塩揉みしてないキュウリの和え物に紅茶とアンモニアを混ぜた味がごぼぼぼぼ!」

「正義実現委員会ー!正義実現委員会をお呼びなさい!」

 

「……うわぁ」

「活きが良いですね」

「黙っててリタ」

 

 最終的にこの紅茶風味の化け物が起こした騒動は、『歩く戦略兵器』こと剣先ツルギや当時の正義実現委員会委員長まで出張る事態となり、リタは今後通常の方法で紅茶を淹れることを固く禁止されるのであった。




セイア……危機回避能力を発揮したスマートフォックス。彼女が早めに正実を呼んだおかげで最悪の事態(水道管全滅パンデミック)は避けられた。
ミカ……紫色の液体に対して疑念を持つようになった。ジュリがいい子なのかやべーバイオテロリストなのか判断しかねている。
リタ……今度はフウカに教わったスコーンを焼こうと思っている。
ジュリ……頼られるのが嬉しくてつい張り切ってしまった。ゲヘナも大変なことになった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。