トリニティシツジモドキ「お嬢様、こちら午後の紅茶をフレイムスロワーで温めたものになります」   作:ヤツメタウミエル

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 若干キャラ崩壊注意です。


メインストーリーvol.3 オデン条約編
「お前がやったんだろ!」


 錠前サオリが目を覚ました時、目の前には机があった。

 机と言うのは適切ではないかもしれない。意識が戻ってから目を開けるまでには時間差があり、その間サオリは回転し続けていたからだ。目を覚ました時の定義を意識が戻った時と考えるなら、その時顔の前にあったのは、サオリが座っている椅子をクルクル回しているリタの胴体だった。

 とりあえず暫定的に、「目の前にはリタの胴体の右端からアズサの胴体の左端まで、その他丼やデスクライトなど雑多なものがあり、冷えピタが視界の端で揺れていた」ということにしておこう。

 

 リタの頭突きを喰らって麻袋に突っ込まれるわ、その後アズサに防塁の一部として活用されるわで、原作に比しても踏んだり蹴ったりの目に遭ってきたサオリ。今後も踏んだり蹴ったりの目に遭う可能性が高い彼女は、今ちょうど踏んだり蹴ったりの目に遭っていた。

 目を覚ましたばかりの人は、よく「……知らない天井だ」と言うものだが、目を覚ましたばかりの人は、大抵の場合踏んだり蹴ったりの目に遭っていないものだ。普通のリアクションを今のサオリに求めるのは酷というものだろう。

 

「暇でございます。椅子を回すくらいしかやることがありませんし、その回っている椅子に自分が座れないので楽しさ半減です」

「……ここは……?」

「あ、起きましたね」

 

 サオリが目を覚ましたことに気付くと、リタは机の向かい側に一旦座り、その後すぐに机を叩いて勢いよく立ち上がった。

 

「お前がやったんだろ!」

「……何を?」

「ネタは上がってんだ、さっさと吐いちまえよ!故郷のお袋さんは泣いてるぞ!二十八箇所のアレだぞ!確実にアレしたかったんだろ!!」

「???」

 

 取り調べをやる機会があれば言ってみたいと思っていたセリフのオンパレードである。六話もの間真面目に話していたリタは、久々にふざけられる場面を前にボルテージが上がりきっていた。

 

 リタはマトモに話をしていないが、これはサオリにとって幸運なことだった。

 アズサが椅子を掴んで止めるまでの間、高速回転する椅子のせいでドップラー効果が発生し、リタの発言内容は全く聞こえていなかったからだ。

 

「リタ」

「何でしょうか」

「尋問するなら、まずは何か質問した方がいいと思う」

「腹減ったろ、カツ丼でも食うか」

「そうじゃなくて」

「?????」

 

 サオリはただただ混乱していた。目を覚ました途端、自分をボコボコにした相手が目の前で好き勝手言っているのだから当然である。

 全く状況が理解できないが、少なくともカツ丼を食べるか聞かれたことは分かったので食べることにした。

 

 既に捕虜になっているのだから、毒を警戒する必要は無い。次にいつ食事が与えられるかは分からない以上、食べられるうちに食べておくべきなのだ。

 兵士としては、それが最適な行動だった。その後、初めて食べるカツ丼の美味さに目を丸くして驚いたことを除けば。

 

「手強いホシですね……アズサ様、『良い警官・悪い警官』でいきましょう。私が優しくするので、厳しくしてください」

「リタ、どう考えても逆だ」

「もぐもぐ……その、アズサ……一体何がどうなっているんだ?今の状況について何か一つでもいいから説明してくれないか」

「いいですか、落ち着いてください……あなたはずっと昏睡(コーマ)状態だった。ええ、ええ……わかってます。どれくらいの長さか?あなたが眠っていたのは……九時間です」

 

 割り込んでくるリタを押しのけつつ、アズサが現状を説明する。

 

「とりあえず、リタのことは一旦無視しておいて。簡潔に言うと、アリウス分校によるクーデターは失敗に終わった。原因は二つ。アリウス解放戦線……アリウス内の抵抗勢力による妨害と、それとは別に私が裏切って、補習授業部が先んじて桐藤ナギサを確保したこと」

「もぐもぐ……裏切ったのか……もぐ……何故だ、アズサ」

「……」

「仮初の幸福な生活、甘い嘘を教える大人……もぐもぐ、そんなものの中で過ごすうちに、目が曇ったのか。もぐ、思い出せ……Vanitas Vanitatum。全ては虚しいもぐd……ものだ。それが、この世界の真実だと」

「たとえ虚しくとも、それは抵抗を止める理由にはならない。最後には、徒労に終わるとしても……この世界には、それだけの価値がある。だから私は、足掻くと決めた」

 

 寝起きに食べる量ではない特盛サイズのカツ丼と、リタの頭突きで額にできた特大サイズのたんこぶさえなければ様になっていたであろうサオリの発言に、アズサは毅然とした態度で返す。

 

「……そこに、何の意味があるんだ」

 

 アズサは、暇を持て余した挙句に細かすぎて誰にも伝わらないモノマネ『自信満々でドヤっていたところ、対物ライフルを膝に受けて崩れ落ちるジェネラル』を始めたリタの方をチラリと見て答えた。

 

「分からない。意味のないことなのかもしれない……だけど、意味を求めなくても、いいのかもしれないと思ったんだ」

「他にも、聞きたいことはあるが……一旦、続けてくれ」

 

 サオリは元々、頭の回転が速い。話の通じる知り合いが居れば、状況はすぐに理解できた。話の通じない他人が調子に乗っていなければ、もう少し早かっただろう。

 

「かくかくしかじかで、秘匿されてきたアリウス分校の存在も解放戦線の活動と海賊放送を通して広く知れ渡ってる。トリニティの一部の派閥は解放戦線と接触しようとしてるらしいけど、細かいことはまだ分かってない……さっきまで試験があって、現状を把握するひまが無かった」

「滅茶苦茶だな……あ、米の下に追加のトンカツが……いや、それはどうでもいい。まず、尋問の目的は何だ?状況が大きく変わった以上、有益な情報を引き出せるとは思えないが……」

「えっと……リタが言い出したことだから、目的があるかどうかはよく分からない」

「失礼な、捕虜に聞くべきことくらいは分かっております」

「例えば?」

「いいお天気ですね?」

「尋問の初手が天気デッキ」

 

 取調室らしき部屋には窓が無いので、天気を聞かれたサオリは頭上を見上げてみた。

 

「……知らない天井だ」

「大変です、アズサ様……聞くことが特にありません」

「やっぱり」

 

 天気デッキは不発に終わり、気まずい沈黙が三人の間に漂う。

 リタがサオリを探したのは、トリニティ内のスパイとアリウスの連絡ルートを発見することであり、当初の目的はサオリを見つけた時点で達成されていた。

 その後サオリと戦ったのは、ただ単に発見されそうだったから奇襲を仕掛けた、ほとんど遭遇戦に近いものである。勝てたからとりあえず持って帰って来たので、その後のことは特に考えていなかったのだ。

 

「アズサ様の友人をずっと軟禁しておくわけにもいきませんし、そろそろ放免としましょうか」

「……正義実現委員会に引き渡さないの?」

「賞金がかかっているわけでもありませんし、ちょっとクーデターを企んだくらいで友達の友達を正実に引き渡すというのも気が引けますので」

「リタ、クーデターは『ちょっと』には含まれないと思う」

「ほんのちょっとだけクーデターを企んだくらいで、友達の友達を正実に引き渡すというのも……」

「修正の方向性が逆だ」

「アズサ、彼女はさっきから一体何を言っているんだ……?」

「私にも分からない。彼女の話に真面目に取り合っても虚しいだけ……だけど、たとえ虚しくても歩み寄ると決めた」

「流石にそれは無理だと思うが」

「サオリ様、それではこちらへ」

 

 意図があまりにも理解不能で混乱するサオリを、リタは容赦無く出口へエスコートしようと……というより、半分くらいつまみ出そうとする。

 

「ま、待て……私達は敵同士だろう?何故こんなことを?!」

「そんなこと、いつ言いましたかね?」

 

 味方に背後から刺された時のようなやりとりである。

 

「私達の任務はトリニティとゲヘナの征服で、お前はゲヘナの生徒で聖園ミカの執事だろう?敵対するのが当然に思えるが」

「そうですね、しかしサオリ様は、アズサ様のご友人でもあります。ならば、私にとっても友人同然です。こういう時は高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応すべきかと」

「行き当たりばったりじゃないか……」

「どのみちあなたの匂いは覚えましたので、万が一の時は40kmくらいなら追跡できますし」

「猟犬か何かか?!」

 

 リタに小脇に抱えられたサオリが部屋を出ると、そこには補習授業部の生徒達、数匹の猫、そしてアリウスの生徒達が数人集まっていた。

 その中には、サオリの見知った顔ぶれも含まれていた。

 

「……リーダー?!」

「……ミサキ?何故ここに?」

「もう聞いたと思うけど、状況が変わったから。今回の事件でアリウス分校の兵力の三割はアリウス解放戦線として離脱して、かなりの情報が流出した上にリーダーまで消息不明になった。以前想定されていた形での任務の遂行は不可能になったから、逃げ出す方が姫を守れる可能性は高いと判断したんだけど……逃亡中、解放戦線の一派閥に襲われた」

 

 ミサキが取り出したのは、ティーパーティーから発行されたビラ。アリウス分校の生徒会長の末裔、アツコの写真が大きく印刷されている。

 ニケーア分派。聖園ミカの不在に際してパテル分派の一部が分離し、アリウス分校の生徒を取り込み『正当な権利を与える』ことで、パテル分派にとって替わろうとしている勢力である。解放戦線の派閥の一つという体ではあるが、実態はトリニティの派閥に近い。

 

「多分、アリウスの併合が目的かな……姫は今、傀儡としてニケーア分派の指導者に据えられてる。救出のために、一旦放課後スイーツ部のヒヨリと合流しようとしてたんだけど……リーダーの方が先に見つかった」

「隣に居るアリウス生は?」

「こっちは解放戦線の『調停委員会』の生徒。シャーレの先生に協力を頼みに来ただけで、私達とは関係ないと思ってたんだけど……姫の救出に協力する代わりに、スクワッドにも助けて欲しいって」

 

 調停委員会。トリニティと対等な立場での和解という、物凄く難儀な目標を掲げる派閥である。

 彼らは決起の際、トリニティのあちこちに声をかけ、解放戦線やアリウス全体に広く呼びかけたのだが……

 

「思ってたより派閥のメンバーが集まらなくて……」

「協力してもらおうと思ってたミカさんが逮捕されちゃって……もう全然動けなくってェ……」

「おしまいです、私達は七派閥の中でも完全に出オチなんです……」

「ばにたすばにたーたむ……」

 

 全然賛同されなかった。

 もとよりアリウスとトリニティは敵対関係にある。特に、迫害され内戦に苦しんだアリウス生達は怒り心頭、恨み骨髄なのだ。トリニティ側からしても、アリウスは政府転覆を目論んだテロリスト集団である。

 これ以上恨まない、関わらないとかそういう考えであれば分かるが、わざわざ積極的に仲良くしたいと思う生徒は三桁にも満たなかった。

 

 そんなわけで派閥の代表者達は、藁にも縋る思いでシャーレの先生に土下座で頼むことにした。

 アリウス解放戦線が民主主義を採用しているせいで、余計に『先生=田中角栄説』を補強してしまう結果になったが、先生は二つ返事で承諾。補習授業部も成り行きで協力することになった。

 

「全く勢力も人気も足りないんです……アリウス最強の精鋭、スクワッドの協力が得られれば……!」

「そう言われても、私達もトリニティを恨んでいる側だ」

「そこをなんとかぁ!」

「元メンバーのアズサさんは補習授業部だし、ヒヨリはスイーツ部に入り浸ってるし、四割くらいはトリニティ側じゃないですか!」

「……ふざけるな!どれほど長い間、私達がトリニティを憎んできたと思ってる!私達は!私達を忘却の彼方へと追いやり、眠りこけている連中に!その憎悪の負債を払わせなければならない!連中に恐怖の味を、私達の軍靴の音を思い出させてやらなければならないんだ……!」

「……サオリ」

 

 協力を拒むサオリに、調停委員会の生徒達がまとわりつく。そこに、アズサが歩み寄ってきた。

 

「それは……その憎悪は、いつからあったもの?」

「アズサ、お前まで何を……!」

「サオリ、この子を見て」

 

 アズサは一匹の猫をサオリの目の前に抱き上げて見せた。サオリの目の前に居る猫は、大抵の場合顔に前足を押し付けてくるものだが、その猫は不思議と落ち着いていた。

 

「……猫?それが何だ。トリニティとは関係無いだろう」

「いいや。この子は『ラリー』……ティーパーティー官邸のネズミ捕獲長だ」

 

 イギリスでは16世紀から伝統的に、ネズミ捕りのために猫を『雇う』という習慣があったとされている。

 偶然の一致か、トリニティ総合学園のティーパーティーにも同じような風習があった。

 

「トリニティにも、ネコチャンは存在する。彼らはカタコンベを行き来する方法を知っていたんだ」

「補習でオマケ程度に習ったことだけど、トリニティには『猫の分け前』という言葉があるそうだ。食品の熟成時に質量が減る現象や、監視カメラには猫しか映っていないのに、店頭の商品が不自然に減っている現象をそう呼んでいたらしい」

「な……は……?」

「トリニティには、こんな風習がある。猫の分け前を気にしない。そして、ティータイム中に猫が近づいてきたら、サンドイッチやお菓子を与えること。縁起が良いから、とされているけど……この風習ができたのは、ちょうど公会議の直後だ。私達が猫からもらっていたものは、元をたどればその風習から来ていた……誰が始めたことかは、分からない」

 

「サオリ。私はトリニティで、色々な人と会った。すごく優しい人も、立派な人も、友達も居て……自分のことさえ棚に上げて、腹が立つような人もなかには居た。憎悪を抱くような相手も」

「私達の恨みは、ただ『習った』だけ……結局、完璧には割り切れない。アリウスがトリニティに抱く憎悪は、否定できないんだろう……だけど、私達が抱く、トリニティ全てへの憎悪は……それは一体、誰の憎悪だ?」

「……」

 

 それを聞いたサオリは、考え込み……結局、その考えがまとまることはなかった。それよりも先に、更なる混乱がサオリを襲ったからだ。

 

「あれ……サオリ?」

「なっ……?!」

「あれ、どうしたのかなー?そんな、ゴリラでも見たような顔しちゃって」

 

 軟禁されているはずの聖園ミカが、廊下を練り歩いていた。

 

「な、何故ここに……逮捕されたはずじゃ?!」

「ええと、ちょっとリタちゃんに買い物を頼まれて……はいこれ」

「ありがとうございます、お嬢様」

「パシられ……いや、それ以前に脱獄?!」

「偽装は完璧でございます。バレる前に戻れば無問題です」

「何なんだお前は!!」

 

 ミカはサオリに真っ直ぐ近付くと、胸倉を掴んで持ち上げた。魔女にはなっていないが、ちょっと頭がゲヘナに寄って来ているのかもしれない。

 

「リタちゃんが言ってたんだけど……ムカつく相手と話すときは、まず一回グーパンしておくと落ち着いて話せるんだって☆そんなわけで、ちょっといいかな?」

「待て、待て待て待て聖園ミカ」

 

「……話し合おう。平和的に」

 

 相手を交渉の席に着かせる方法。それは巧みな話術や利害の一致ではなく、何よりも圧倒的な、圧倒的なフィジカルなのである。

 こうしてサオリ達と調停委員会や補習授業部は、恨みは一旦持ち出さず、平和的な話し合いをすることになったのであった。

 その前に、一旦サオリはリタにグーパンをお見舞いした。そうしなければ、落ち着いて話すことができなかったからである。




ネコ……なんだこれ。
劇場版テイルズ・サガ・クロニクル『スピリット偉人』……まもなく公開。
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