トリニティシツジモドキ「お嬢様、こちら午後の紅茶をフレイムスロワーで温めたものになります」 作:ヤツメタウミエル
聖園ミカ。トリニティ総合学園の生徒会「ティーパーティー」の一派、パテル分派を率いる首長であり、アリウスと共謀しクーデターを企んだ「トリニティの裏切り者」でもある。
錠前サオリ。アリウス分校の精鋭部隊「アリウススクワッド」のリーダーであり、ミカの善意を利用し、ティーパーティーホストである百合園セイアの暗殺を図った張本人である。
そんな二人は今、ちゃぶ台を挟んで向かい合っていた。
「いや、何故ちゃぶ台を……?」
「腹を割って話し合うならこれだと思いまして」
「じゃあその手は何?どう考えてもちゃぶ台返しスタンバイしてるよね?」
「交渉が決裂した際、ちゃぶ台を返す役は譲りたくありませんので」
昭和味溢れるちゃぶ台の上には、ティーセットが並んでいる。
職人が丹精込めて造り上げた純白と金細工の陶器は、誰であれ惹きつけられるような美しさだ。価格にして郊外の別荘一軒にも匹敵するそれらは、間もなくひっくり返って砕け散ることになるだろう。
「最初から決裂前提で進めるのやめてくれない?」
「とはいえ、お二人が和解できる気が全くしませんので」
こいつと話しても無駄である。そう悟ったミカは、サオリの方に向き直ってみた。そっちはそっちで気まずかった。
「「……あの」」
話し始めが被り、気まずい沈黙が復活する。
「「お先にどう……」」
「えっと、ならそっちから先に……」
「い、いやそっちが先でいいよ?!別にそんな、重要でもないことだし……」
「こちらも別に、重要ではないことだが……」
「いや、全然全然!ほら、まずはアイスブレイク的な?ね?前に話した時は、そういうこともできなかったし」
「……ご趣味は」
お見合いか何かだろうか。
「アクセサリー集め、とか」
「すまない、そういったものについては全く知らない」
「そうだろうね……うん、別に初対面ってわけじゃないし、もう本題入っちゃおうか?ほら、今脱獄中で時間無いし」
ミカとサオリは、ちゃぶ台の左側に座る調停委員会の生徒達に目を向けた。右側には補習授業部の生徒達とミサキが陣取っているため、窮屈そうにしている。
「えっと、あなた達は……サオリを仲間にしたいんだよね?」
「はい、もう猫の手も借りたいくらいですので」
「一応この子、セイアちゃんの暗殺未遂にも関わってるからね?あんまり向いてないっていうか、立場としては敵だと思うんだけど」
「うぐ……」
「確かにそうなんですけど……トリニティとの接触に成功して、これから頑張っていこう!ってところで、一番頼りにしてた人がクーデター起こしてパクられたので、藁にも縋りたい状況なんです……ばにたす……」
「それを言われると弱いけどさ……」
一応、ティーパーティーとはまた別の一大勢力である『シスターフッド』が協力を約束してはいるものの、リーダーである『歌住サクラコ』の真意は全く読めていない。
何らかの援助を受けることはできるかもしれないが、その対価は高くつくかもしれない。『協力者』とはいえ、『味方』とは言い切れないのが現状だ。
シスターフッドのことだ。恐らく彼らは既に、アリウスを監視する何らかのルートを構築しているはずである。少なくとも彼らに対等な存在として認めてもらうには、それだけの『価値』を示さなければならないだろう。
そして、それはアリウス解放戦線における他勢力についても同じである。
「アリウス解放戦線のいくつかの派閥の目的は、競合するものではありません。彼らの理想を叶えるだけの能力が我々にあると信じてもらえれば、協力することも可能でしょう……そのために、力が必要なのです」
「ミカさんも初めて私達と会った時、『お互いに少しずつ歩み寄れば、いつかは叶うもの』と言っていましたしね」
「そんなこと言ったっけ?なんか、クーデターとかスパイの話ばっかりしてた気がするんだけど」
「それについては、私達も直接知っているわけではありません。サオリさんから聞いた話です」
「……サオリから?」
「……事実だ。初めて接触してきた時、お前はアリウスと和解したいと言っていた」
ミカにとって、それは意外な話だった。『セイアが暗殺された』と聞いてから、彼女は自分がしようとしていたことについて考えないようにしていたからだ。
目的は始めから『アリウスの和解』ではなく『ゲヘナの排除』、アズサは『和解の象徴』ではなく『トリニティの裏切り者』だったということにして、善意によって始まった地獄を否定しようとしていた。
しかし、それでは辻褄が合わない。彼女はゲヘナについて、憎悪を抱くにはあまりに多くのことを知りすぎていた。声をかければ寄って来る程度の距離にゲヘナの生徒がいて、いつも馬鹿なことをしでかすのだから。
しかし、目を背けていたことを思いだせば、ちょうど辻褄が合う。
アズサを『和解の象徴』と呼んだことはもともと、先生を納得させるための言い訳ではなかった。
アリウス生でも、何の問題もなくトリニティ総合学園で他の生徒と仲良く過ごし、幸せになれる。その証明のため、転校してきた生徒。それがアズサだった。
「じゃあ、アズサちゃんは……!」
「本来は『トリニティの裏切り者』ではなかった、ということですね」
それを聞いて、補習授業部の生徒達の表情も明るくなる。
リタはちゃぶ台返しを諦め、紅茶を淹れることにした。
「なんだか、ほんとに変なことになっちゃったんだなぁ……はぁ。ねぇ、サオリ」
「何だ?」
「多分、大事なことを言い忘れてたみたいでさ。お断りかもしれないし、色々難しいことになっちゃったけど……」
もともと彼女は、そう難しいことを考えるタイプではない。出てくるのは大抵、誰かさんのようにシンプルな言葉だ。
「私と、お友達になってくれませんか」
「……断る」
「だよね。まぁ、でもさ……とりあえず、停戦ってことにしない?スクワッドもバラバラになっちゃったわけだし、まずはお友達を助けなきゃいけないんでしょ?」
「まぁ、停戦くらいなら……?」
典型的なドア・イン・ザ・フェイスである。とりあえず、ミカや他の生徒とは全くそりが合わないものの、サオリは調停委員会『仮入部』ということになるのだった。
「……報告します」
ところ変わって、ティーパーティーのテラス。ちゃんとしたティーテーブルに、色とりどりの茶菓子とマトモな紅茶が並んでいた。
テーブルには、今回の事件でうどんが苦手になったティーパーティー現ホスト、桐藤ナギサが座っていた。微笑を浮かべてはいるものの緊張した面持ちで、正面に立つミレニアムサイエンススクールのメイド、飛鳥馬トキを見つめている。
「ミレニアムの特異現象捜査部による、アリウス自治区の一次調査が完了しました」
ナギサがティーカップを置き、報告を急かす。
「それで……アリウスに存在する未確認生物、仮称『ネコチャン』とは一体、何なのですか?」
「調べてみましたがよく分かりませんでした。いかがでしたか?」
「クソまとめブログ構文はやめてください」
「ミレニアムの技術でも、未だ詳細は解明されていません。証言も生徒や部活によって食い違っています。シスターフッドによると、『トリニティ総合学園』発足当初の戒律と関係がある可能性もあるとか……ヒマリ部長によると、異世界からのアンケート形式による干渉がどうとか」
「……つまり、正体については全く分からないのが現状、と」
「申し訳ありません」
「責めているわけではありませんよ。続けてください」
トキが分厚い報告書とタブレットを取り出す。分からないことは多いものの、短期間でかなりの調査を行ったようだ。
「今回の調査では、ネコチャンには大まかにいくつか種のようなものがあると判明しました。以下は、アリウス自治区内で多数確認されている代表的なものです」
トキが持つタブレットに、高速回転する猫が映し出される。
「こちらの『オッイイアーウオイイイイアーウ』という音を出しながら高速回転しているものや『ハッピーハッピーハッピー』という音を出しながら妙な動きをしているものは『GB種』と名付けられました」
「なぜGBと?」
「面白がったアリウスの生徒達が撮影を行い、グリーンバック素材がインターネット上に大量に公開されていますので」
次の動画には、ネズミを追う猫が映っていた。爆発物で黒焦げになったり、壁にぶつかってひしゃげたりしながら、ネズミと一進一退の攻防を繰り広げている。
「次に、80年程前のカートゥーン・アニメーションに登場する猫に酷似した見た目のものです。常にネズミを追っていることから『ネズミ捕獲種』とされています」
「な、何ですかこの挙動は……生物学的な限界を明らかに超えていますよね?!」
「しかし現状、これが生物であるかすら分かっておりませんので」
最後に、虹のような軌跡を残しながら飛んでいく猫が映し出される。背景は不自然に暗く、そこに星のような光が瞬いている。
「こちらは、現在確認されている最後の種です。周囲を宇宙のような見た目の環境にすることから、『宇宙猫』種となづけられました。動画は、虹を発生させながら空中を走っている個体です」
「……」
「ナギサ様?おーい、聞こえていますか?」
この猫に倣って、ナギサも一旦宇宙を背景に固まることにした。脳にゴミのような情報を流し込まれる経験は既にしていたので、対処法は確立済みだったのだ。
「アリウスでは、多くの生徒がネコチャンを猫として認識し『ネコチャンは百年以上前からアリウスの文化に不可欠な存在である』『ネコと和解せよ』と主張しています。しかし、トリニティの記録にはそういった存在は全く残っていません。空間を限定した過去改変のような事態が発生していると予想されています」
「もはやオカルトの類ではないですか……!」
「しかし、実際に起こっていることです。確かにいたんです、私のネコチャン……まるで、天使みたいに笑って……」
「トキさん?!しっかりしてください!トキさん!!」
ネコチャンとは一体何なのか。その答えを求め、特異現象捜査部はアマゾンの奥地へと向かったのだが、それはまた別のお話。
まだエデン三章序盤なのに、次回作のことが頭から離れません……
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辺りのどれかで考えてます