トリニティシツジモドキ「お嬢様、こちら午後の紅茶をフレイムスロワーで温めたものになります」 作:ヤツメタウミエル
そろそろ再開しようと思っていますのでリハビリに番外編を……
番外編:バッドエンドif「どう見たって儚いだろ」
呂畑リタという少女は、全くもって馬鹿だった。
恐怖に、臆病に、後悔に、馬鹿であろうとした。顧みず、とにかく進み、そして時として……随分と、後になってから考えるものなのだ。
「リタちゃん……?!リタちゃん!!」
他の可能性もあったのではないかと、そして……何故自分が、ただ給料が高いだけのアルバイト一つに対してここまでのことをしたのか、と。
進むことができなくなって初めて、彼女は自身を顧みたのだ。
「……お嬢様?」
「あ、ど、どうしよう……血が、血がこんなに……」
だらりと垂れ下がる腕……こういった負傷は前職で何度か経験した。しかし、地面を染めていく血と、明確な死を感じさせる悪寒……こちらは初めてのものだ。
リタは聖園ミカを庇い、ヘイロー破壊爆弾による攻撃を受けた。
彼女は戸惑っていた。あまりにも馬鹿馬鹿しい。自分は数日前解雇されたアルバイトに……以前より圧倒的に時給が高かったとはいえ……命を捧げる羽目になったのだ。
「救護騎士団を呼ばなきゃ、あ、違う、ここじゃ無理だから……ここを出て、いや、ダメ、サオリを追わないと、でも、それじゃ……違う、リタちゃんを……」
ミカはパニックを起こし、支離滅裂な内容を口走る。その中で辺りを見回し、原因となったアリウスの生徒達に目線を向ける。
「クソ、外れた……!」
「補給に戻るぞ、奴に通常の兵器では太刀打ちできな……うぐっ?!」
「……どこに行くのかな?」
「ぐふっ?!」
倒れた生徒に追撃を加えようと、ミカは立ち上がる。しかし、それをリタが制止した。
「……待ってください、お嬢様」
「あ、リタちゃん……し、心配しないで!こいつらにやり返したら、えっと……どうにか……どうにかして助けを呼んで、それで、えっと……」
「お嬢様、聞いてください……間に合いません。おそらく、助からないでしょう」
リタは微かに息をしながら、この状況にはあまりにも似つかわしくない程に淡々と報告する。ミカは目を見開き、首を勢い良く振る。
「そんな……いや、違う、そんな訳無いよ……!何か、何かできる事が……」
「いいえ……もう、全身の感覚が無いのです。申し訳ありませんが、しばらく……お暇を頂きます」
「いや、やめて……そんなこと言わないでよ……!嫌、嫌、嫌……だって私、もう、何も……なんで、なんで……!」
全てを失ったはずだった。それでもなお、気付かずに残っていたものを、また奪われる。その事実がミカの頭の中を滅茶苦茶にしていく。
彼女はぐしゃぐしゃと髪をかき乱す。「魔女」のように伸びた爪によってひっかき傷ができ、血がにじむ程強く。
「なんで、なんでなんでなんでなんで……!なんで、私なんかのこと……!だって、私は……魔女、なのに……」
「確かにそうでございますね。本日はシフトは入っておりませんでしたが……」
一方、死を確信しているからか、アルバイトでしみついた癖からか……リタは妙に落ちついていた。彼女は悠長に首を弱弱しくかしげる。
「もう、執事じゃないのに……あんなに、酷いこと、言ったのに……!こんなところ、来る必要なんてなかったでしょ?!私のことなんて、見捨てればよかったんだよ……だって……」
「……何故でしょうね。有給を全て消化してから退職するだけのつもりだったのですが」
リタはぼんやりと、記憶の中の彼女を思い出す。決して、あらゆる点で素晴らしい雇用主では無かった。ゲヘナ生に対する嫌悪感は露わにしていたし、いかにもなテンプレわがままお嬢様といったような人物だった。
少なくとも、身を挺してまで命を助けるような相手ではなかったはずだ。
それどころか、少し恨みすらある。買い物につき合わされたとき、着せ替え人形にされたことなんかは良い例だ……
『メイド服もアリじゃない?ほら、こういうロングスカートの清楚系で……ごめん、中身が全く清楚じゃないか』
『あの、お嬢様……私、こういうタイプの衣装はですね……』
『えー?!折角可愛いんだから、素材は活かさないと損だよ!』
『そうでしょうか……うわ、ボッタクリですよこれ?!』
『ユニクロ基準で考えないの!』
「……ああ」
ふと、腑に落ちたことがあった。
「本当に、私は馬鹿でございますね……」
「そうだよ、馬鹿、本っ当にバカだよ……!私なんかのこと、庇うなんて……」
「いえ、そうではありません。今まで、伝え忘れていたのです」
リタはそっと、かろうじて動く方の手で、ミカの顔を伝う大粒の涙を拭う。
「あなたが、初めてだったんです。私に、可愛いと、言ってくださったのは……本当に、嬉しかったのです。私は果報者、ですね……」
そう言うと、リタの手は力なく落ちていく。
「待って……リタちゃん、リタちゃん!!」
ミカは必死でリタの手を引く。最後の言葉を吞み込むよりも早く、話せなくなる恐怖に怯えて。そして悲鳴のように、名前を呼ぶ。
「嫌……リタちゃん……リタちゃぁああん!!!」
「デケえ声出さなくても聞こえておりますよ、お嬢様ァアア!!!」
「うわ、びっくりした……」
前言撤回。別に最後の言葉では無かった。声量で張り合う程度には余裕があった。
「いや、急にどうしたのリタちゃん?割と余裕残ってない?」
「いえ、お嬢様。私は助かりません……手足が冷たく、何も感じないのです……」
「さっきまで全身の感覚無くなかった?!盛り返してない?!」
ミカが割と雑に重傷者をゆする。というか小銭の音がしないか確かめようとするヤンキーくらいにブンブン振る。
「お嬢様、お願いが一つ。最期に、どうか……手を」
「割と急いで病院とか行けば助かるんじゃないかな?!」
「いいえ、お嬢様……残念ですが、ここでお別れです。もう、手足の先の感覚が……」
「肘とかスキップして大幅に盛り返したね?!もはや冷え性の領域だよ?!」
「いいえ、申し訳ございません……最近腰も痛くて」
「診察じゃないよ?!」
「その上、健康診断で肝機能がCでして」
「未成年がなにやってんの????!!!!!」
先程ミカは死にかけのリタの名前を必死で呼んでいた。しかし、ツッコミではそれ以上に大きな声が出ていた。
「割とまだ余裕あるよね?!」
「いえお嬢様、私はもう駄目です……手の指を曲げたり伸ばしたりする時に、何かこう、違和感があるようなないような……」
「なんでそこで諦めるの?!峠越えてるよ?!下山どころか、観光客向けに微妙なクオリティと強気の値段で営業してる麓の飲食店でうどん食べてる段階だよ?!」
「確かに、そろそろ無理がある気がしてまいりました」
リタはふと気づいたように、懐に手を入れる。その手には、砕けたロケットペンダントが握られていた。
「なるほど、これが守ってくれたのですね……」
「んなピンポイント防御で爆発物が防げてたまるか!!相場は弾丸とかだよ!小口径のやつ!」
それをミカが勢いよくブン投げる。開いたペンダントには笑顔のミカの写真と三回見たら死ぬ絵が入っていた。呪いか何かだろうか。
病室の前の廊下には、やや時代遅れの蛍光灯が光を投げかけていた。照明としては十分に明るいはずだが、たまにちらついているせいか、病院というイメージのせいか、どこか薄暗い。
ミカは廊下に置かれている、三人用のベンチに腰を掛けていた。落ち着かない視線は病室の扉へと彷徨うが、特に目新しいものもないのでどことも言えないような位置に移る。彼女の隣には、ミカと同じくリタのお見舞いを名乗る白髪の生徒が座っているが、特に面識もないうえに状況が状況なので会話も弾まない。
ふと、硬質な足音が廊下に響く。暗い顔をしたロボットの医師が、一枚のカルテをミカのもとに持ってきたのだ。人の命が乗っているにしては、その紙は余りに軽く思えた。
彼女は弾かれたように立ち上がる。
「あ、あの!リタちゃんは……!」
その問いかけに対し、医師の表情はさらに暗くなる。
「申し訳ありません。最善は尽くしましたが、処置が遅れたこともあり……」
その言葉にミカの表情は硬くなる。恐る恐る、カルテのコピーを受け取る……その内容を受け入れられず、彼女は一瞬固まった。
「し、しぼ……」
「アルコール性脂肪肝です。肝機能がCなのは分かっていましたが、何かと理由を付けて精密検査が遅れ……」
「ヘイロー破壊爆弾どこいったの!!」
ミカは思い切りカルテを床にたたきつけた。とてもいい音が鳴った。
「あ、そちらはまあ大丈夫でした。主治医曰く、生命力がゴキブリか乾燥クマムシと同等とのことで……傷口は保湿しておけばいいでしょう」
「そんなふわっとした理由で世界観に喧嘩売らないで?!」
呆れかえるミカの隣、ベンチの中央に座っていたコノカは深いため息をつき、病室へ入っていった。そして病室からは口論と殴打のくぐもった音が聞こえてきた。
「ちゃーす、呂畑」
「おやコノカ様、お久しぶりです。お見舞いに来てくださったのですね」
「まあそんなとこ。最近、元気にしてるっすか?」
「はい、おかげさまで」
「元気なわけあるか、この未成年アル中!!ちょ~っとお巡りさんについてきてもらうっすよ!」
「えー、嫌でございます。そも未成年飲酒は酒を売った側に罰則が行くものであって……」
「よし分かった呂畑。ちょっと歯ぁ食いしばれ」
「えー、嫌……へぶっ」
「オラァ!こいつを『お見舞い』に来たんだよ!!」
「殴られるの確定事項じゃないですか、とても嫌な気持ち……ぐえっ」
「かつ丼食うかぁ!ああ塩分駄目だったな!じゃあ拳でも喰らええぇ!!」
しばらくの間病室で乱闘が起きた後、リタは補導されヴァルキューレに引き渡されてしまったのだった……
「トホホ……もうエデン条約編なんてこりごりでございます~!!」
_人人人人人人人人人_
> BAD END <
 ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
リタのロケットペンダント……主に敵の威嚇に使う。片側のミカの写真で「ティーパーティーと仲良し」という権威をアピールし、もう片方の三回見たら死ぬ絵で敵の精神を攻撃する。
使いたかったけど使いどころが無かった場面でした。しばらくしたらまた本編もやります……