トリニティシツジモドキ「お嬢様、こちら午後の紅茶をフレイムスロワーで温めたものになります」 作:ヤツメタウミエル
いつも読んでいただきありがとうございます。文字数が全然安定しませんが生暖かい目で見てください。
「……いや、まぁ確かに言ったよ。私服でいいって」
「はい、一応制服も持ってきておりますが」
「そういうことじゃないんだよ……ねぇ、リタちゃん」
「はい。何でしょうか、お嬢様」
都会とかにある、ブランドとかのでっかい看板とかがあって入るだけでもクッソ怖いし、カジュアルな店が無いので入っても買えるような物とか何も無いから庶民は涙目で敗走するしかないような、そんな高級デパート。
今日は休日ということで、ミカはリタを荷物持ちにしてショッピングに来ていたのだが、今日になって、ミカにとってはそれより優先度の高い問題が発生した。
「私服があまりにもダサいよ!」
「そうですかね」
一対一で意見が割れたためダサいかどうかは一旦置いておいて、リタが着てきた服の詳細を以下に記しておこう。
上は白地に『金の切れ目が縁の切れ目』と毛筆で書かれたTシャツ。巨匠、小田原ニャン五郎氏の筆遣いが荒々しさと繊細さの両方を感じさせる。これだけなら、全く気を遣わずゆったり気を抜いた服装と考えられるのだが、その上のワッペンとか色々ついてるフライトジャケットと謎のサングラスのせいでよく分からないことになっている。
方向性が迷走しているので、下の方に目を向けてみる。どこに売っているのか分からない星条旗柄のスラックス、これで分かった。このコーデのテーマは、おそらく変に尖ってる割にあんまり売れてないミュージシャンとかそんな感じだろう。多分内輪ノリがキツいし無駄に長いギターソロが曲の中に入れられてる。そんでカバー曲の方がオリジナル曲より盛り上がったりする。
「予定変更!今日はリタちゃんの服買いに行くよ!」
「お嬢様、私服は同じものが八着くらいあるので足りているのですが……」
「カスのスティーブ・ジョブズやめて?!救いようが無いよ!」
「それに、最近とてもでっかいハムを買ったので懐に余裕は無いのですが……」
「もうこの際私が出すから!」
「ラッキーでございます」
リタは自分の私服をダサいとは感じていないが、タダで貰えるものは呪いでも何でも貰っておくタイプだ。その辺はミカもある程度分かってきていた。
二人はデパート内のブティックに向かい、服を選び始めた。
「お嬢様、こちらはいかがでしょう。龍柄のスカジャンでございます」
「センスが小学生男子のエプロン!ダサい!」
「なんかゴールデンなやつでございます」
「テンプレ成金趣味!ダサい!」
「付け髭とコー「ダサい!」
「GUNDA「もう服じゃないよそれ!私が選ぶから座ってて!」
リタは即効で戦力外通告を食らった。金を出すのはミカなので、主導権は当然そちらにあるのだ。
「はい、これとこれとこれ……いや、それ本当に片手で大丈夫?」
「はい、問題ありません」
荷物持ちをしているリタの右手に、ミカが選んだ服が積み上げられていく。もうしばらく経てば、デパートの天井にも到達しそうな勢いである。金額としても、ブルアカの天井に何十回と到達している。
「じゃあ、まずはこれとこれとこれ!試着してみて!」
「かしこまりました」
まずミカが選んだのは、落ち着いた色のカーディガンとハイウェストパンツ。最初の私服がカスすぎたので、まずは普通の服を着せてみることにしたのだ。
「いかがでしょうか」
「うーん……やっぱり素材はいいんだよね。次はこれ着てみて!ついでにこれも!」
「はい……お嬢様、この服クソキツいです」
次はオーバーオール……だったのだが、これは失敗だった。リタは慣れない服相手に試着室の中でしばらく格闘していたが、最終的に吊りズボンに逆さ吊りにされてしまった。
「いや、どうやって着たらそんなことになるの?拷問器具じゃ無いんだけど?」
「首が絞まっているので実質拷問器具です」
「わー!顔面紫色になってる!えっと、えー……えいっ☆」
「あっ」
リタはなんとかヘイローが壊れずに済んだものの、結構高いオーバーオールデニムが見るも無残な姿になってしまった。青輝石にして天井一回分である。
「はぁ……ほら、これはこうしてこう!分かった?」
「なるほど、そっちが上でしたか」
「どういう間違え方してたの?!もういっそのこと私が着せてあげようか?私も試着室入るからちょっと詰めて!」
「お嬢様、狭いです」
そんなこんなでリタを着せ替え人形にして格闘すること数十分。最終的に本人の「動きやすくて息苦しくない服がいい、執事服はカス」という希望も取り入れつつ、若干緩めのパーカーと帽子、ショートパンツにスニーカーというボーイッシュ寄りのコーデに落ち着いた。
「うんうん、多分こういうの似合うと思ってたんだよね!」
「馬子にも衣装というやつでございますね、お嬢様」
「あとは静かにしてれば完璧なんだけどなぁ」
「できない相談かと……ふふ」
「え、どうしたのリタちゃん?!」
普段からふざけた発言やトンチキな行動を繰り返すリタだが、その際彼女は常に真顔である。おそらくミカが彼女の笑顔を見るのは、初めてのことだった。どちらかというと驚きより違和感の方が大きい。
「どうもしませんが?」
「いや、そんな顔もするんだなって」
「勤務中はそういうキャラ付けでやっておりますので。ファッションやそういったものはよく分からないし、縁が無いものだと思っていたのですが……色々と試してみるのは、存外楽しいものですね」
「リタちゃん……!」
『あの私服クソダサのアホがこんな事を言うとは』と、ミカは感激していた。久々……いや、おそらく初のグッドコミュニケーションだったのだが、その結果ミカは調子に乗りだした。
「じゃあ次これ着てみて!あとこれとこれも!」
「……服は決まったはずでは?」
「全部それにするわけ無いでしょ!ほら、これとかどうかな!」
「……そのような服は流石に似合わないと思うのですが」
「いいからいいから!そんなこと言ってるとやっぱりお金出さないよ?」
「うう……流石にこんなフリフリのはキッツい……」
タダほど高い物はない。ブラックマーケットで生活していながら、その程度のことすら覚えていなかった学習能力ゼロのアホはこの後数時間着せ替え人形となり、解放される頃にはグロッキーになっていた。
以降リタは、街頭で配られているティッシュを貰うのをやめた。
リタ……高い勉強代を払ったが、教訓を得た。かわいい服を色々と着せられた。
ミカ……リタとのショッピングは楽しかったし、ちゃっかり自分の服も買った。髪顔体全てを石鹸で洗っているとかほざいたアホにブチ切れ、化粧品も色々と買ったためショッピングの時間は過去最長となった。