トリニティシツジモドキ「お嬢様、こちら午後の紅茶をフレイムスロワーで温めたものになります」 作:ヤツメタウミエル
電車を飛び降り駅に向かう二人は、周囲から好奇の目線を向けられていた。どう見てもトリニティから来たお嬢様、しかもティーパーティーの制服を着ていれば当然である。
周囲の生徒は「なんでゲヘナにティーパーティーが居んだよ治安はどうなってんだ治安は」と思い遠巻きに様子を窺うのが二割。「フィーヒヒヒこんな所に来るたぁ不用心だなぁお嬢様がよ、幸災楽禍」とゴリラ誘拐のチャンスを狙う無謀なのが一割。
そして「見間違いじゃなきゃこいつら今高架橋から飛び降りてきたよな?俺じゃなきゃ見逃しちゃうね」とビビるのが三割程であった。残り四割は夕飯のこととか空が綺麗な理由とかを考えていた。
「ヒャッハー!物見遊山たぁ良いご身分だなぁお嬢様!ならば見せてやろう、ヒャッハーの何たるか」
「スカイリムはゲヘナのものよ!お前の所持金を数えるのが楽しみだァ!」
「皆様、邪魔でございます」
「ぐえぇ!」
「ふぎゃっ!」
「はぁ、この辺は治安最悪だね……」
「まぁ今回は不良の様々な勢力圏の境目を突っ切っていますので、どちらかというと秩序を乱したのは私達ですが」
「そうなの?!なんかショックなんだけど……なんでそんなとこ通ってるの?」
「この辺の不良なら、誰が出てきても問題ありませんので。終電を気にしておられましたので、早いほうが良いかと」
「ええ……」
いくらかの不良は無謀にも襲いかかってくるが、個々の戦闘力はそれほど高くない。ミカが折るまでもなく、先行したリタに蹴散らされていった。
そこでリタを脅威と考えた不良は、ミカの方を狙うことにした。後方から近付き、どう考えても効かないであろう豆鉄砲を突きつける。
「お、おいテメェ!コイツがどうなっても……」
「お嬢様の仇イィィッ!!」
「早い早い早い」
リタは全く気にせず吶喊。それに気を取られた不良はミカのデコピンで天高く打ち上がり、リタに空中で撃墜された。
そして、ミカの圧倒的な『暴』を見せつけられた不良達の襲撃は大幅に減り、あとは比較的のんびり駅に向かうことができた。
「とりあえず、バッグが落とし物センターに届いていれば良いのですが」
「届いてなさそうだよね、ゲヘナだし……」
案の定、落とし物センターにバッグは届いていなかった。職員の老婆猫は随分と申し訳なさそうにしていた。
「ごめんねぇミカちゃん。バッグ、届いてないみたいでねぇ……ちょっとお婆ちゃん監視カメラの映像見てくるから、クッキー食べて待っててねぇ」
「ねぇリタちゃん、もうこれでお菓子三つ目なんだけど」
「あの方、私達のことを孫か何かだと思ってませんかね」
しばらくして職員が持ってきた映像には、バッグを持ち去る生徒の姿が映っていた。
「はいこれ、たぶんチャカポコヘルメット団の子だねぇ」
「うわー!思いっきり置き引きされてる……!」
「この辺りでは有名な子達だからねぇ、この名刺の探偵事務所のどれかに頼めばすぐに見つかると思うよ」
「何から何まで、ありがとうございます」
「ああそうそう、これも持っていきなさいねぇ」
「何これ、羊羹?流石に悪いよ!すぐにお返しするようなものも持ってないし……」
「違うわよぉ。C4爆薬よ」
「え」
「ゲヘナではねぇ、不義理は自由だけど、それに何を以て報いるも自由なのよ。頑張りなさいね、ミカちゃん」
「怖っ……」
駅を後にした一行は、職員に貰った名刺から依頼する相手を吟味していた。
「知らない名前ばっかり……適当に決めちゃえばいいかな?」
「ああ、でしたらこちらはいかがでしょう」
そう言ってリタが取り出したのは、「便利屋68」と書かれた名刺であった。
「最近開業した、新進気鋭のフィクサーでございます。リーダーも常識的な方ですので、良い選択かと」
「へー、よく知ってるんだね」
「ええ。最近入った中等部の方以外とは知り合いですので、ミカ様は知り合いの知り合いとして微妙な空気で接されることでしょう」
「なんで今ネガキャンしたの」
「まぁ、多忙な方ではないので事務所に行けば居るでしょう。意外なことに優秀な方ですので、多分すぐ見つかりますよ」
「マップには登録されてないけど、名刺に住所書いてあるし行けるね!それじゃ、しゅっぱ……」
……くぅ。いざ行こうと腕を振り上げたところで、ミカの方から可愛い、もしくは腹の虫のくせしてあざとい音が聞こえてきた。
ただしその直後に、リタの方から響いたグーーーギュルルルル、とかそんな感じのえげつない腹の虫の音にかき消され、ミカは恥をかかずに済んだ。
「……そういえば、車内食を食べ損ねておりましたね」
「先にご飯にしよっか」
「でしたら、良い店と経費申請の名目を知っております。ここから1キロほど先に『ターブル・ブラン』という洋食店がありまして、ティーパーティーの方は『研修』という名目にすれば何故か無理のある予算申請も通してくれます」
「二個目が余計すぎるね」
腹が減っては戦はできぬ、ということで一行が向かったのは、レストランやら何やらが立ち並ぶ昔ながらの商店街だった。
「おお、なんかこの辺は治安良いね」
「『美食研究会』という部活の聖域の一つですからね。この辺りの店には、ファストフード店から高級レストランまで、料金以下のまずい食事を出す店は一切ございません」
「へー、トリニティ自警団みたいな部活なんだ*1」
「……おや、噂をすれば影でございますね」
「うげっ……ではなく、こんばんは。お久しぶりですわね、リタさん」
目的のレストランには、当時中等部のジュンコを除いた美食研究会の面々が来ていた。ついでに給食部のフウカも居た。
「お嬢様、こちらは美食研究会の皆様と、部長の愛清フウカ様です。皆様、こちらはトリニティ総合学園ティーパーティーの聖園ミカ様です」
「部長じゃないんだけど」
この紹介にはフウカも(눈_눈)である。事あるごとに拉致されるせいで一部の人に美食研究会メンバーと思われている彼女だが、流石に主犯扱いは避けたかった。
「おや?給食部部長ではありませんでしたか?」
「……とりあえず、リタには絶対プログラミングやらせたらダメってことは分かったわ」
「初めましてですわね、ミカさん。私、美食研究会会長の黒舘ハルナと申しますわ」
「聖園ミカだよ!よろしくね☆」
「トリニティから、遥々いらしてくださったのですね。学園に囚われず、美味しい物を知って頂けるのは喜ばしいことですわ。リタさんは少々アレですが……よろしければ、ご一緒にいかがですか?」
「それじゃ、喜んで!」
一方、ミカとハルナは結構いい感じになっていた。ハルナは、違法行為を働くような飲食店を相手にする場合一切容赦しないテロリストではあるものの、食へのリスペクトを欠かさないその所作はまさに完璧。表面的にはいいとこのお嬢様と見分けがつかなかった。頭の中に脳が詰まっていることを除けば、リタに似ていると言えるかもしれない。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「6名でお願いしますわ」
「かしこまりました。お席へご案内いたします」
「そういえば、だいぶ嫌がられてるみたいだけどさ。リタちゃん、ハルナちゃんに何かしたの?」
「いえ?パスタを折ったことと、口内でインスタント麺を作っている所を見られたこと位しか思い当たりませんが……」
「しっかりやらかしてるじゃん」
「他にも色々と逆鱗に触れられましたわ」
ハルナとしてはいっそのことつまみ出したいところだったが、遠くから美食を楽しみに来た客人の前なので頑張ってこらえていた。
「とはいえ、お椀で作るタイプのやつですよ?袋麺でやる方も某タワーディフェンスゲームには居りますので……」
「同じYostarだからって同じことをやっていい理由にはならないんだよ。ハスミちゃんのこと貧乳扱いする人居ないでしょ」
「あと、初めて会ったときのリタさんはフォークもナイフも箸もグーで握っていましたわね。教えるのが大変でしたわ」
「10歳まで狼に育てられてたの?」
「ご注文の方お決まりでしたらお伺いします。後ほどご注文なさる場合、こちらのベルでお呼びください」
「私はAコースで、ブルスケッタと白身魚のポワレを」
「私はボロネーゼとジェリーイールで」
「私はビーフシチューのBコースで」
「こちらのフルコースを10人前、お願いします~」
「私はハワイアンピザ……あっ、チョコソースもお願いします!」
「み、みんなもう決めちゃってる……ハルナちゃんハルナちゃん、ここって何がおすすめ?」
「そうですね……ゲヘナは初めてなら、若干割高にはなりますがこちらのコースはいかがでしょう。コースとしても無理なく、ゲヘナの特産品なども楽しんでいただけますわ」
「えっと、じゃあこれに……これなんて読むの?」
「すみません、私も分かりませんわ」
「ご注文繰り返しますね。Aコースのブルスケッタと白身魚のポワレ、ボロネーゼとジェリーイール、Bコースのビーフシチュー。フルコース10人前、ハワイアンピザ、チョコレートソース、そして筆記体で読み方がよく分からない上にシェフは日本語が分からないので八方塞がりのコースですね」
「せめて店員は分かっててよ」
なんやかんやで注文も決まり、しばらくして料理が運ばれてきた。テーブルの一部に地獄絵図が広がっているようにも見えるが、おそらく気のせいだろう。
「わぁ、何これ?ネギトロ?」
「そちらはメットですわね。生の豚ひき肉を使ったゲヘナ料理ですわ」
「ええ?!お腹壊すじゃん!」
「衛生面は厳格に管理されていますわ。この店は確実に大丈夫ですわよ」
「うーん、トリニティの魚パイみたいな枠なのかな……あ、おいしい!」
「ふふ、気に入って頂けて嬉しいですわ」
「すみません、カルボナーラ大盛り、20皿追加してください♪」
「でしたらお客様、先日新しくホールのパルミジャーノチーズを入荷しまして。丸ごと大盛りパスタにもできますが、いかがですか?」
「わぁ、すごいです!ぜひお願いします!」
「……あの子、食べる量どうなってるの……?」
「アカリさんは高校に入ってから、大食い大会を25連覇中でして。高級レストランなので若干抑えていますから、あれくらいは氷山の一角に過ぎませんわ」
「わーお」
リタがデザートに頼んだのは、レッドウィンター産のメロンを産地直送で惜しみなく使ったメロンパフェ。それは意外なことに、イズミの注文と被っていた。
ちょっとしたシンパシーを感じ、はみ出す程に盛り付けられたメロンをどう崩そうか考える彼女の前に……滑り込んできた……!
驚きの選択……理外の、七味マヨ……!
「なっ……メロンパフェに……?!」
当然ながら葛藤……初の試み……!
「本当に、これを……」
隣を見れば……頷くイズミの、真っ直ぐな瞳……!
「信じて、跳べと言うのですか……!ええい!」
こうして乗る……!一世一代の賭け……!
「……うまっ」
「でしょー!」
「あれ何だろうね、ハルナちゃん」
「二人の世界ですわ」
「そういえば、初めて会った時のリタちゃんってどんな感じだったの?」
「そうですわね、いきなりとんでもない行動をする以外は、今と比べて180°くらい違いまして……」
異邦の地で出会った、初めての友人のような存在。一緒に美味しいものを食べて話をすれば、あっという間に夜が更けていく。ちなみに当時、便利屋68の営業時間は夜八時までであった。
ミカは頭を抱えた。
ハルナ……パスタを折ったりした一件はあるものの、リタのキャラがいきなり変わったので、美食の敵かどうか判断しかねている。
フウカ……今回はハルナが騒ぎを起こさなくてよかった。
ミカ……ハルナがテロリストだと気づいていない。気品に溢れたお嬢様だと思っている。
リタ……珍しく、ミカが美食研究会の実態に気づいていないことと営業終了が近いことに気づいていたが、楽しそうだからまぁいいかと思っている。
チャカポコヘルメット団……よくあるヘルメット団。宴会をよくやってるので命名された。ほぼ毎日がパーリナイ。
職員……つよい