トリニティシツジモドキ「お嬢様、こちら午後の紅茶をフレイムスロワーで温めたものになります」 作:ヤツメタウミエル
便利屋68社長、陸八魔アルは盛大にビビり散らかしていた。
「わー、内装おしゃれ!裏社会って感じ!この掛け軸、書いたの有名な人だったりするの?」
「あ、それアルちゃんが書いたやつだよ!」
「おー、達筆なんだねアルちゃん!」
「え、えっと……」
「すみませんアル様、お嬢様はこういった場に不慣れでして。多少の非礼は大目に見て頂けないでしょうか」
「え、ええ。その、別に不快に思ったりはしていないわ」
「リタちゃんにそんなこと言われるの、すっごい妙な気分になるなぁ……」
(な、なんでいきなりこんな大物が来たのよー?!)
便利屋68は本編一年前、つまり駆け出しオブ駆け出しである。
かっこいいアウトローになろうと一念発起。髪型を変えて身なりを整え、幼馴染のムツキと共に起業し新入社員二名を迎え入れ、アルバイトや依頼を頑張って良い感じの事務所を借り、さぁこれから地道に頑張ろう……というところで、いきなりえげつないビッグネームが来た。これまでこなした依頼は猫探しとかその程度なのに。
聖園ミカ。ティーパーティーパテル派の幹部であり、生粋のゲヘナ嫌い。正直なぜゲヘナに来たのか、そしてなぜゲヘナの生徒に頼み事をしようとしているのか謎である。
そして、呂畑リタ。依頼達成率は驚異の97%、風紀委員長等一部の例外を除きほぼ無敗*1、金さえ渡せば無茶でも無法でも何でもやる『黄金狂』。クールビューティー系な、アルが憧れるアウトローの一人である。もう少し裏社会に詳しければ、少なくとも憧れたりはしないはずなのだが。
(いや、逆に考えてみればこれはチャンスよ!トリニティとのパイプや有名な傭兵のお墨付きを得られれば、便利屋は確実に躍進を遂げるはず……!)
「話を聞こうじゃない。私達は、金さえ貰えれば何でもやってみせるわ」
「では、依頼の概要を説明します。ミッション・オブジェクティブはお嬢様が置き忘れ、小規模不良組織の手に渡ったと思われるバッグの捜索及び回収です。細かなミッション・プランはありません。あなた方にお任せします。あらゆる障害を排除し、目的を達成してください」
「私個人としては便利屋68の皆様を高く評価しており、今後の依頼方針の要となるのがこのミッションです。あなた方であれば、良いお返事を頂けることと信じています。報酬については……」
リタは指を三本、立ててみせた。
「三万円……?」
「いえ、これは指がごっそり取れるマジックです。報酬は全額前金の十万円でいかがでしょう」
「え、どうやってるのそれ……じゃなくて、いいでしょう。ただし、報酬は全て依頼の後に受け取るわ。代わりに、依頼達成の手段について指示は受けない」
「……え?」
「悪いけど、これが私達のやり方よ」
「いや、そこじゃなくて『いいでしょう』の方です」
「え?」
「社長、リタは交渉が発生する前提で契約内容を提示するタイプだから……」
「さっきの額は相場の半分以下でございます。少々御社とご自身を過小評価しすぎかと」
「な、何ですってー?!」
見かねたカヨコがアルに援護射撃をした。アルは白目を剥き、その様子を見ていたミカは『この子達に頼んで大丈夫かなぁ』と不安になった。
「とりあえず、三十万円でいかがでしょうか」
「さ、三倍になった?!」
「リタちゃんリタちゃん、ここはもう一声!」
「ではさらに、回収時のバッグの状態に応じた追加報酬をお付けして……報酬変わらず、税込み三十万円!」
「くふふ〜、おっ得ー!」
「さらにさらに!今から三十分以内に受領して頂いた場合、弾薬費・爆発物費無料*2となります」
「すっごーい!この依頼、受けるしかないよアルちゃん!」
「私のお金でCM始めないで?!」
「テレビ通販のノリじゃない!」
「……そろそろ真面目にやろう」
電話番号の語呂合わせとか言い出しそうな二人に、ほぼ同時に三人のツッコミが入る。ミカはアルとカヨコを交互に見、その表情は一気に明るくなった。
ミカから見た便利屋の内訳は次の通りだ。ちょっと不安にはなるけどツッコミのリーダー、ボケ寄りだがフレンドリーな子、確実に常識人と思われるツッコミ、おそらく常識人と思われる大人しい子。
温泉開発部と一緒に居た時のツッコミ不在状態から一転、ボケ二名にツッコミ四名と、リタを含めても自分がツッコミに回らないで大丈夫そうなゲヘナ屈指の常識人集団に出会うことができた。彼女はそんな、儚い希望を抱いていた。
「リタちゃんリタちゃん、絶対アルちゃん達に頼もう!」
「最初からそのつもりですが、何かお気に召しましたか?」
「いや、ちょっと色々とね……とにかくお願いアルちゃん!」
「言われなくても、便利屋68はどんな任務もこなしてみせるわ!この依頼、受けましょう!」
「やったー!」
新しい仲間と共に、バッグ捜索に乗り出した一行。初対面の相手に戸惑っていたハルカも爆弾の用意を始め、ボケとツッコミの総数も釣り合うことになった。
「さて、現状唯一の手掛かりはバッグを持って行ったというチャカポコヘルメット団ね」
「と、とりあえず壊滅させましょうか?」
「まあそれが手っ取り早いけど……これ見て、社長。最近、ヘルメット団がらみのバッグや腕時計、アクセサリーの盗難が増えてるみたい。少し様子を見てみよう」
「なるほど、組織的な犯行かもしれないのね……」
「意外とちゃんと仕事してるね」
「ええ、実力は確かなものでございます」
「なんでリタちゃんがドヤ顔してるの」
尾行するにしては結構な大所帯で一行が適当なヘルメット団員の後をつけていくと、ヘルメット団の簡易的な拠点に着いた。
ヘルメット団はこの拠点に、大量のバッグや時計、アクセサリーを集めていた。
「うわ、何これ?!」
「おおー、すごい量!この中にミカちゃんのもあるかな?」
「トラックに積んでるみたいだね。追いたいところだけど、ちょうどいい乗り物も無いし……」
「それでしたら、こちらに良いものがありましたよ」
「……段ボール?」
「荷物としてなら、違和感なく荷台に潜り込めるかと」
「待って、それ人数分ないけど大丈夫?」
「結構大きいので、多分大丈夫です。虎穴にも入らずんば食われまい、とも言いますから」
「ごっちゃになってる」
「よいしょ……っと。いややっぱり狭いわよコレは!」
「足出てない?大丈夫?」
「痛たたたた!これ誰の角?!」
「せ、狭すぎる……!」
「ご、ごめんなさいごめんなさい!今すぐ出ますので!」
「今出たら見つかるよハルカ、落ち着いて」
「どなたか存じませんが私の顔面から足をどけてください」
「重い……」
「重くない!」
Code:boxとは違い全く余裕がないどころかあんまり隠せてもいない段ボールを乗せ、トラックが向かった先は……ゲヘナのブランドショップ『ディー・メイジ』。
そこは奇しくも、ミカがゲヘナからの帰りにダメージ系のアクセサリーを買った店であった。
リタ……便利屋のことは前から強そうだと思っていた。報酬はケチるつもりだったが、謎の悪寒がしたのでやめた。