軽装歩兵アラン(ハーメルン版)   作:ideafactory

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悪夢の先に

 何もかも灰色になった。

 アラン・バイエルは、フランスはピカルディ地方、ソンムの焼け野原となった駐屯地で意識を取り戻し、膝をついていた。

 数時間前は駐屯地には兵器庫があり、兵士宿舎もあり、飛行艇や戦車も姿が確認できた。

 しかし、今のアランの眼前にはすべてが灰色となり、すべて形を留めることなく、何もかも焼けてしまい、兵士の姿は見えなかった。

 すべてが霞んでしまった風景、アランの周りは霧に包まれた。

 これはドイツの襲撃かもしれない。

 仲間は?

 隊長は?

 アランは第17軽装歩兵小隊に所属している。

 隊長のジャン・クロードは、時には厳しく、時には優しさを備えたアランの理想の上官であった。

 いつも部下を第一に考え、アランを特にかわいがっていた。

 ジャンの妹、エリカ・クロードの兄である。

 彼はどこだ?

 「隊長!ジャン・クロード隊長!」

 アランは声の限り必死に叫んだ。

 アランは霧の先、何も見えないことを承知で、眼の前を駆け抜ける。

 人が倒れている?

 倒れているのはフランス軍の軍服を着た軍人、誰だろうか?

 「おい!大丈夫か!」

 アランは必死に叫んだ。

 その叫んだ先に倒れていた人物、確かにフランス軍軍人だったが、アランはその人物を知っていた。

 「ジャン・クロード隊長?」

 まさか自分の上官だったなんて。

 アランは嘘だと思った。

 ジャンは血まみれだった。

 出血量が酷く、ほとんど意識がない。

 アランは彼のまだ暖かさを残した肉体を抱いた。

 「隊長!目を覚まして!衛生兵やミシェルたちを探してきます!」

 ジャンは咳き込むと、息を吹き返す。

 肉体は緩やかに冷たくなっていく。

 「アランか・・・・・・」

 「隊長!」

 アランは安堵の笑みを浮かべる。

 「もうすぐ援軍も来ると思います。少しの辛抱です。無事にパリに帰還して、エリカに会いましょう!」

 ジャンは苦しい表情を浮かべる。

 「アラン、お前は、こうなるなよ・・・・・・」

 「分かっています。隊長!」

 「エリカ・・・・・・彼女のこと、よろしく頼む・・・・・・」

 アランはジャンの弱気な発言を受け入れられなかった。

 「やめてください。衛生兵が来ます!そんなことを言ったら、エリカだって悲しみます!パリに戻って、オニオンパイのホームパーティーを開くって言っていたじゃないですか。ミシェルも誘いましょう!」

 「アラン、お前は・・・・・・希望を捨てないんだな・・・・・・」

 ジャンはその言葉を残して、眠りについた。

 「隊長?」

 アランは受け入れていなかった。

 ジャン・クロード隊長が眠ったなんて。

 「隊長、やめてください!」

 アランは必死に否定したが、ジャンの肉体を抱いた時、彼の肉体は冷たくなっていた。

 ジャンは死んだ。

 いやそんな事実なんか受け入れてたまるか。

 アランは必死に否定した。

 「隊長・・・・・・。どうして・・・・・・」

 そんな時、金属音が足音のように連続する。

 霧の先には何がいるんだ。

 アランは怒りに燃えていた。

 「誰だ!」

 アランが叫んだ先には、戦車とも違う生き物のような奇形が接近していた。

 それも複数あった。

 「何だ?あんなの見たことないぞ・・・・・・」

 その奇形が具体的に姿を現した時、アランは声を失った。

 タコ・ゴリラ・クモ・ネコ、それぞれが動物の形をした機械だった。

 それも各所に兵器を多数、搭載しており、彼は前代未聞の光景にこれは悪夢だと言い聞かせるしかなかった。

 機械の動物たちの光景が滲んでいく。

 隊長は何処へ?

 肉体から温もりが失われていく。

 意識が遠くなり、何もかもが黒色に染まった。

 アランの視界から色を取り戻したのは野戦病院に運ばれてからのことだった。

 しかし隊長の死とあの奇形の兵器の存在は、悪夢じゃなかった。

 その事件が『ソンムショック』と呼ばれるようになるのはアランが除隊した1919年からであった。

 軍内部でも一部しか知らない、フランス・アメリカ双方が隠していた秘密兵器の強奪事件。

 機械人形(マシンドール)

 アランも噂だけは知っていた。

 技術が進歩しても戦争は有視界での戦闘を余儀なくされ、フランス軍は陸・海・空を想定した兵器の開発を目指していた。

 そしてその最終地点が戦車の延長である機械人形、それは古代に19世紀以前の戦争における騎馬兵の役割を果たす新しい兵器であった。

 だが、それらの話は別にどうでもいい。

 それ以上に隊長、ジャン・クロードはもういないという現実があまりにも残酷で、それ以外の現実を受け入れられる余地がなかった。

 そして、フランスもアランも1919年という年を静かに迎えた。

 

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