軽装歩兵アラン(ハーメルン版)   作:ideafactory

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漆黒の闇夜

 夜、アランは上官であったジャン・クロードの妹、エリカ・クロードの家を訪問した。

 エリカは今、パリのシャンゼリゼ通り付近に住んでいる。

 兄を失って1人で暮らしているエリカ、アランは終戦後になって時々訪問していた。

 エリカは決して贅沢はせず、家も古いアパートに住んで家具も必要最小限の物ばかりで彼女が慎ましい生活を過ごしていることが読み取れる。

 エリカは安いコーヒーをアランに出した。

 彼女にできる精一杯のもてなしだった。

 「交易商人の仕事はどう?」

 エリカは笑みを浮かべながら尋ねる。

 「まあ特に大きな刺激はないよ」

 半分は本当だが、半分は嘘だ。

 デスカとの出会い、これから見ず知らずの魔物退治の任務を追うことになるのだから。

 エリカには絶対に言えなかった。

 「この間、キザな貴族さんが私と結婚したいと言ったの。もちろん断ったわ」

 「隊長の件で?」

 「いえ、その前に私のところに告白に来た兵隊さんが2人くらいいてね。1人は戦争でもう1人はドイツ人で敗戦を知って失意のうちに命を絶ってしまってね・・・・・・」

 「お互いあるんだな。僕も、友人を沢山亡くしたよ。ミシェルもやられてしまって僕以外で生き残ったのも3人前後、その3人も病院に着いた頃にはダメだったよ」

 アランは苦いコーヒーを飲み干した。

 「アラン、私は兄さんが本当にドイツの攻撃でなくなったとは思えないの・・・・・・」

 エリカの不安は当たっていた。

 隊長は、あいつら、UEに殺されたところを生で見ていたのだから・・・・・・。

 「隊長は飛行艇の爆撃でやられたよ。確かにこの目で見た」

 アランは分かっていたが、あえて優しい嘘をついた。

 UEのことは話せない。

 もちろん軍事上の重要秘密というのもあるが、何よりもジャン隊長の死の要因が宇宙人の襲来という理由に、きっと納得できないだろう。

 「挨拶できてよかったよ。夜も遅いからそろそろ失礼するね」

 アランは木の椅子から立ち上がり、エリカの家を後去ろうとする。

 エリカの眼差しはどこか寂しそうに思えた。

 アランはエリカの家のドアを開け、閉めようとする時、罪悪感を感じていた。

 本当はもっといたい気持ちもあった。

 エリカの部屋は2階にあり、アランは冷たい鉄製の錆びた階段を降りる。

 外は非常に冷えていて冷たい世界だ。

 異常だ。

 夜のシャンゼリゼ通りはどこか静かで、静寂とは違い、緊迫感のある静かさだ。

 街の人間は見かけない。

 怯えている。

 外にギャングやマフィアか薬物の売人でもうろついている、いやそうなら誰もが一歩も外に出ないのは明らかにおかしい。

 街の人間が何かに怯えているようにも思える。

 アランは警戒しながら、シャンゼリゼ通りの表へ出た。

 路地裏に人のような影が見えた。

 「あいつは!」

 昼間に目にした少女たちだろうか。

 アランは路地裏に入り、後を追う。

 上着の右ポケットに隠し持っていたアイアンナックルを取り出し、右手に装着した。

 これで殴られようものなら顔面がミンチになる強力な武器で、今はこれだけが便りであった。

 アランは路地裏を進む。

 しかし、路地裏を抜けた先は薄暗い街並みだった。

 あの影はどこに?

 「ついに来たわね!金髪の軽装歩兵さん!」

 威勢のいい女の声が、アランの背後から響いた。

 その女の声は奇抜な見た目の少女で、露出度の激しい水着みたいな衣装に頭にはネコの耳があり、ネコもしっぽも背中にあった。

 「誰だ!」

 アランは両腕を構える。

 「どうやら私も有名人みたいね。私の名はキャル、『ナチュレ』の暗殺要員よ!」

 「『ナチュレ』?!」

 キャルというネコの怪人、もしかして・・・・・・。

 アランには心当たりがあった。

 ラムジンだ。

 タコの怪人、ラムジンの手下か。

 あの奇抜な見た目、一部分は人間らしく見えるが、ラムジンと出会った時と同じ異様な恐怖感を感じる。

 そしてキャルが口にした『ナチュレ』という単語、少し気がかりであった。

 『ナチュレ』の暗殺要員と名乗っていたことから何かの組織のことかもしれない。

 「残念だけど金髪の軽装歩兵さん、あなたには消えてもらうわ!」

 キャルの右手が光った。

 右手の異様な輝き、それは右こぶしに埋め込まれたダイヤモンドの輝きであった。

 「私のダイヤモンドナックル!これでミンチになりなさい!」

 キャルの右腕がアランに襲い掛かる。

 「くそっ!」

 アランは咄嗟に回避した。

 ダイヤモンドはかなり硬そうで、当たればミンチになるのは必須だ。

 キャルのもう一撃が直撃する寸前、アランは身体を入れ替え、難を逃れようとする。

 しかし彼女の一撃はあまりにも高威力だった。

 キャルのダイヤモンドナックルが壁面に直撃する時、コンクリートの壁から低い衝撃音と風圧が発生した。

 どうやらダイヤモンドだけでなく、キャルのパンチ力も強い。

 どうすればいい?

 アランは頭の中で反撃策を考えていた。

 ただ逃げるだけではダメだ。

 「これで御終いよ!」

 ラッシュに乗ったキャル、アランは彼女の一撃が直撃する寸前、脳裏にアイアンナックルを装着した右手のことを思い出す。

 「一か八か!」

 アランは右腕のアイアンナックルをキャルのダイヤモンドナックルにぶつけるカウンター戦法を繰り出した。

 アランの右腕から腕がえぐられそうな衝撃が襲う。

 衝突の際、鈍い音を発して、アランのアイアンナックルがキャルのダイヤモンドナックルに直撃した。

 そして数秒の静寂、ダイヤモンドは粉々に粉砕し、キャルの右手は大量の鮮血があふれた。

 「いやああああああああ!」

 アランは右手には多少の痛みはあったが、キャルはそうでもなかったようだ。

 アイアンナックルの一撃が直撃して、アラン以上の大ダメージが襲う。

 「よくも、私を!」

 キャルの表情は苦そうだった。

 激痛はかなり深刻なのだろう。

 アランは反撃を警戒し、両腕を構える。

 そんな時、銃声が聞こえた。

 キャルは銃声を聞くと、すぐ跳躍し、近くのパン屋の屋根をよじ登ってどこかへと消えてしまった。

 あの銃声はどこから?

 路地裏を脱するとデスカが待ち構えていた。

 「いや~アラン君、大変だったみたいだね」

 「デスカ?どうして?」

 「この街に不穏分子がいると聞いて駆け付けたんだけどね、どうやら遅かったようだね」

 「あのネコの怪人、キャルは『ナチュレ』の暗殺要員を自称していた」

 「ああ・・・・・・やはりか・・・・・・」

 デスカは何かを知っているようだ。

 『ナチュレ』

 その単語のことを考える度に、複数の疑問が浮かぶ。

 ラムジンとキャルの因果関係、機械人形で何を目論んでいるのかなど。

 しかしアランは考えるのをやめた。

 

 

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