【WR】ハイキュー!! 『烏の三冠』獲得RTA 烏野(二年目)チャート   作:いる科

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需要あるか分かりませんが、前書きor後書きに、選手のステータス紹介コーナーでも設けようかな? と最近思っています。


裏4:烏野Lv100

 音駒高校、タイムアウト。

 

「…………」

 

 彼らの様子は、練習試合とは思えないほどに重く沈んでいる。

 

 5-3。

 序盤リードを取られることが珍しくない音駒にとって、点差それ自体はさしたる問題ではない。

 

 ──だが、今の烏野の勢いには、その数字以上の圧力がある。

 

 氷見 冷。彼の存在が、烏野に“もう一段階、完成された”チームの像を与えていた。

 

 猫又監督は、ここであえて何も口にしない。

 指示ではなく、自分たちの手で答えを導くための、学びの時間であるが故に。

 

 沈黙が場を支配する中、最初に声を上げたのはリエーフだった。

 

「あの子のサーブヤバくないっすか!? てかなんで女の子がコート入ってんすかね!? しかも超カワイイ!!」

 

「冷は男だよ、リエーフ」

 

「え、あれで!? はぁ〜……わっかんないもんですねー……」

 

「名前呼び!? いっ、いつの間に……研磨、お前……っ、う、うら、うらやまっ……!!」

 

「山本うるさい……別に山本も声かけて仲良くなればいいじゃん……」

 

「お、俺にそんなことが出来ると思うのかァっ!!? む、無理!! 視界に入ってくるだけでもバクバクする!!」

 

 くだらない会話だ。

 だが、その“くだらなさ”が確かにチームをほぐしていた。

 

 ──自分にはできない芸当だな、と、孤爪は心の中でバカ二名に感謝する。

 

 だが同時に、思考は止めない。

 己には己の──頭脳としての役割があるからだ。

 頭の中で、氷見が起点となった攻撃とその効果を、ひとつひとつ検証していく。

 

 ダブルマイナスによる異次元の速攻。

 機械のように精密なジャンフロ。

 シンクロから繋がるブロックアウト。

 

 ──どこから、どう崩すべきか。

 素人目には、手をつける順序すら見えづらい。

 

 次いで口を開いたのは、二年の芝山。

 困惑と狼狽を隠せない様子だ。

 

「影山だけでもとんでもないっていうのに……なんで増えるんですかね……?」

 

「さあ……? 入ったものは入ったんだから……そこをボヤいても仕方ないんじゃない……? とりあえずリベロもだけど、冷にもなるべくファーストタッチはされないようにしよう。練習見てた感じ、レシーブも相当上手いから、”一年だから守備の穴”とか考えたらダメなやつ……。何にせよサーブで崩さないと始まらないから、入れるだけサーブは禁止」

 

「はぁ〜、なんでもでき子ちゃんかぁ……俺なんか未だにレシーブ上手くなんないのになァ〜……」

 

「だから冷は男だってば……」

 

 孤爪の語り口は、いつも通りの緩さだ。

 だがその裏で、盤面の再構築は着実に進んでいた。

 

 ──複雑に絡んだ局面を、一手ずつ解きほぐすようにして。

 

「あのダブルクイックはどうするんですか? 日向だけでもヤバいのに……」

 

「あれ、確かに凄かったけど……スカされたときにシンクロ攻撃が成立しないし、”翔陽が二人に増えたわけじゃないよ”。高さはそこまでじゃなかったし、見た目ほど厄介じゃない。だからこそ性質がバレないように”使い分けてきた”。でも、影山の性格なら絶対次はアレで冷を使ってくる」

 

「え、なんでっすか?」

 

「タイムアウト明けを挫いて一気に流れを持っていきたいだろうから。次、一回ゲスブロックで引っ掛けたら、後はリードブロックしてればいいよ。抜かれた時は割り切って、明らかに増えてきたらコミットしよう」

 

「研磨さん、怖いです!!」

 

 そんな元気に言われても──と、顔で抗議しながら、孤爪は作戦を話し続ける。

 

「変に警戒しすぎてつられるのが一番相手の思う壷だからね……。ブロックアウトは……冷が撃つ時は後衛をもう少し下げよう。そうすれば、皆なら拾えないボールじゃないと思う。勢いでぶち抜くって感じじゃないし」

 

 二枚に増えたからと言って、攻撃力が二倍になるわけではない。

 速さは無敵ではない。

 ブロックアウトも、対処不能の攻撃ではない。

 単純なインパクトの強さに、騙されてはいけない。

 

 いつだって大切なのは、本質だ。

 

「おお……流石孤爪さん……!!」

 

「一つずつ潰していけばいいんだよ。どんな難しいゲームも、攻略する順序っていうのは必ずあるものだから。……クソゲーじゃなければ、だけど」

 

 孤爪が勝利を追い求めるのは、スポーツマンというよりはゲーマーとしての性だ。

 

「でもまぁ、大丈夫なんじゃないかな」

 

 その言葉に熱はない。

 だが、それが逆に──音駒を支える静かな体温になる。

 二年の頃から発揮されていた、ある種のリーダーシップとさえ言える、孤爪の司令塔としての才覚。

 

 ……そして試合は進む。

 進む毎に──孤爪は、氷見への評価を更新せざるをえなくなるのだが。

 

「クッソ、強烈っ……!!」

 

 山本のレセプションは、田中のジャンプサーブによって乱された。

 孤爪がボールを追いかけ──オーバーで返球の体勢に入る。

 

(チャンスボールには、させないよ)

 

 狙いすました、セッター影山への返球。

 

 烏野の強みは依然として、多彩な攻撃のパターンを掛け合わせることによる攻撃力の増強だ。

 そしてその土台には常に、影山 飛雄の存在がある。

 

 マイナステンポの変人速攻はもちろんの事。

 多少乱れたファーストタッチを”ナイスレシーブ”と言い切り、完璧なトスを上げ続ける彼の存在なしに、烏野の攻撃は成立しない。

 

 ──だがそれは、一年前までの話だ。

 

「氷見!」

 

「あいあいさ〜」

 

 影山があげたボールの下に、空色の髪を揺らして、迷うことなく滑らかに入る一つの影。

 そして当然のように、影山を含めた四人が助走に入っている。

 

 視覚情報を確認した孤爪の頭が、目まぐるしく回る。

 回るが故に──孤爪は硬直した。

 

(え、トスも出来るの? いやでも、全員ファーストテンポで入ってきてるってことは──。ていうかセッターじゃないんだし、普通レフトにあげるだけで精一杯だよね? でも流石に、バックアタックは使ってこないはずだし、いやていうかセットアップモーション綺麗すぎ、これ分かんな──)

 

 孤爪の予想を裏切り、氷見は完璧なセッティングを見せた。

 ギリギリまでセッティング先を読ませないその姿は、影山には及ばないまでも、一流セッターと比較して何の遜色もない。

 ”ウィングスパイカーが行う二段トス”の枠組みを遥かに超越している。

 

「っしゃあ!!」

 

「ナイスキー!!」

 

 ブロックを欺くファーストテンポのシンクロ攻撃、バックアタックが決まる。

 ここで孤爪は冷や汗を一つ。

 ──氷見への評価を、更新した。

 

(……これ、烏野に絶対入っちゃいけない選手入ってない……?)

 

 脳裏に過ぎるのは、”理不尽”というワードだった。

 今までの烏野ならば強みを活かせていなかった苦しい場面で、氷見が攻撃を成立させてしまう。

 孤爪の読みと攪乱を、影山と氷見──二つの司令塔が噛み合った“対応力”が、上回っていく。

 

(……烏野Lv100……って感じかな……)

 

 烏野は元々、一年生を軸とした安定感に欠けるチームだった。

 だからこそ、貪欲に多彩な攻撃手法を身につけ、”先に相手を殴りきること”をコンセプトに勝ち抜いてきた。

 

 しかしバレーは、サーブやスパイクを適切に受け止めた後にしか、満足な攻撃のできない競技だ。

 

 そのための防御の軸に澤村と西谷を置き、守備能力に欠けた他メンバーをフォロー。

 

 ブロックの司令塔としてスパイクのコースを的確に絞る月島の存在が、この”少数精鋭防御”を、全国の舞台においても成立させた。

 

 

 ──だからこその隙も、あった。

 

 その隙を類まれなる観察能力で見つけ出し、ゲーム全体の流れを支配する──。

 孤爪のゲームメイクによって生まれるアドバンテージが、一年前、練習試合のことごとくで烏野が音駒に負けていた理由だった。

 

 三年生の脱退によって、隙は増えたはずだ。

 日向や月島がいくら基礎スキルを固めたとして、限界がある。

 

 隙は、増えていたはずなのだ。

 

 状況解決のアイデアの──最後の最後。

 逆転の扉の前に居座る門番。

 氷見 冷の姿を、孤爪は脳内で幻視した。

 

(……隙が、力業で埋められてる)

 

 ファーストタッチを取らせたい相手がいない。

 攻撃出来なかった時点で、チャンスボールになる事が確定してしまう。

 

 日向に取らせたところで、マイナステンポの可能性を弾けない。

 影山に取らせたところで、シンクロ攻撃は防げない。

 何故なら──”氷見 冷がいる”から。

 

 強打を撃ち込んだとしても、氷見と西谷はそれを当たり前のように拾う。

 ボールを多少乱したところで、影山は無茶なセッティングを平然としてくる。

 

 今の烏野の攻撃を事前に防ぐための攻撃のハードルは──去年とは比べ物にならない、ということだ。

 サイドアウトはともかくとして、この烏野から連続得点を奪う難易度は──。

 

 事実を整理すると同時──孤爪はしわくちゃに顔をしかめた。

 

 孤爪の脳の冷静な部分は、既に”無理ゲー”だ、と告げている。

 何点かは縮められるかもしれない。

 しかし少なくとも、今ある点差をすべて覆し、このセットを取ることはもう不可能だと。

 

 だが。

 孤爪 研磨という男は、どこまでも負けず嫌いであった。

 ましてや、春高を通してバレーボールへの愛着が湧いている。

 

 ”あきらめる”などというコマンドは、彼のメニュー画面には表示されていない。

 

(……とりあえず、俺が何点か取り返そう。サーブで点取れるなら、それが一番良いし)

 

 全国大会が終わった後に身につけた、ジャンプフローターサーブ。

 元々コントロール能力に優れた孤爪にとってその習得は、時間をかければ難しいことではない。

 

(宮侑みたいな高速ジャンフロは無理だけど──十分。冷とリベロを狙わなきゃいいだけの話)

 

「……アウト……っ!? なっ、しまっ……!! すまん!!」

 

「ドンマイ!!」

 

 変化するボールのジャッジは、とても難しい。

 そのままの軌道であればまず間違いなくアウトとなるボールが、急速に落ちるのだ。

 

 二年生の時にはほとんど有り得なかった、孤爪 研磨のサービスエース。

 それに真っ先に食いついたのは音駒の誰かではなく──日向だった。

 

「研磨、すっげー!! おれもジャンフロ練習してるけど、なんか回転かかっちゃうんだよな〜!!」

 

 その言葉は、素直に称賛しているようでいて、どこか悔しそうでもあった。

 友の成長を喜びながらも自分も追いつきたい、追い越したいと願う、日向らしい反応だ。

 

「……手首を固定して、ボールを叩くインパクトの瞬間に腕の動きを止めるといいよ。振り抜くより、置くイメージ。……格ゲーのコマンド入力とかでもそうだけど、安定して出来るようになった後、実践で決めた時の快感ってすごいよね……人に教えられるようになるのもなんか嬉しい」

 

「格ゲーは分かんねぇけど、なんかわかる……!! レシーブ一年に教えれるのすっげー嬉しいから!!」

 

「”言語化”の快感……」

 

「! それだ!!」

 

 相も変わらず、奇妙な意気投合の仕方であった。

 

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