【WR】ハイキュー!! 『烏の三冠』獲得RTA 烏野(二年目)チャート 作:いる科
新入生が一列に並び、それぞれの名前と出身中学、ポジションを名乗っていく。
春高効果によって入部希望者は多く──その数、なんと十名。
烏野男子排球部が強豪としての顔を取り戻しつつある、揺るぎない証拠だった。
「千鳥山中から来ました、八乙女 泉輔です! ポジションはリベロです!」
「泉輔じゃねーか! 元気してたか!? 烏野来たんだなー!!」
八乙女、という名前にすぐさま反応を示したのは西谷だ。
驚く周囲をよそに、西谷はにぱっと笑って八乙女の背中を叩いた。
「ちょりーすノヤさん! お久しぶりマウンテン、そりゃもうバリバリ元気っすよぉ〜!!」
軽く抱き合うような再会に、日向が疑問を口にする。
「ノヤさんの知り合いですか?」
「おう、俺の中学時代の後輩な!」
西谷の簡潔な説明に、田中が補足をいれる。
「ノヤと同じでベストリベロ賞取ってんだとよ。良かったな日向、来年以降もリベロは安泰だ」
「へへ、任せといてくださいよ〜!」
「へぇ、すげー!」
「つかノヤさん、ここ女子の制服可愛すぎねっすか?」
「……!! そこに気づくとは流石泉輔だぜ!!」
……その後の意味のない会話は省略して。
(並ぶとどっちが先輩だか分かんないな。主に身長のせいで)
月島の、至極失礼な感想も隅に置いておいて。
兎にも角にも、一年の自己紹介は続く。
「泉館中から来ました、時田 空です。空って書いてスカイって読みます。セッターです!」
長身の真面目そうな少年が、緊張気味に一礼した。
現状月島よりかは低いが、将来有望である。
その目は、はっきりと誰かを見据えていた。
「影山さんみたいになりたくて、烏野に来ました。ご指導のほど、よろしくお願いします!」
「……お、おう」
「カゲヤマクン、もっと頑張れとかなんか言ってやれよな〜。おうってなんだよ、おうって」
「後輩の純粋な眼差しにどうすればいいのか分かんなくなってるんじゃない? ホラ王様は人望ないからこういうの慣れてないんだよ」
ここぞとばかりにウザ絡みする日向に、本人に聞こえるように補足を入れる月島。
烏野が誇る太陽と月──ミドルブロッカー二名のコンビネーション煽りさえ頭の中に入らないほど、影山は狼狽していた。
その尋常ならざる様子に、田中と縁下は思わず声を上げて笑った。
「日向に褒められた時とかもたまにああなるよな、アイツ。まじおもしれーわ」
「いやほんとにな」
──そして。
最後に名乗りを上げたのは。
「氷見 冷です! バレー始めたばかりで、ポジションはまだ考えてないです」
その場に立っているだけで注目を集める、異質な存在だった。
涼やかな声と整いすぎた顔立ちに、他の一年がザワつく。
「ここ男子バレー部だよな?」
「あいつあれで男だよ。制服学ランだったし」
「マジか。性癖歪むわ……仲良くなったら女子制服着てくれるかな……?」
「やめたれよ……流石に引くってそれは」
そのざわつきを遮ったのは、烏養コーチの低い声だった。
「あー、自己紹介はこれで全員か。よし、さっそく5人ずつに分かれて紅白戦をしてもらう。二年を一人ずつ入れて6対6だ。雰囲気見るための軽いゲームだ、気楽にやれ」
「よっしゃああああ!!! おっしやるぞ氷見!! 試合だ!!」
さっそく燃え上がったのは日向だった。
目を爛々と輝かせながら、味方ではなく敵チームを志願する。
氷見もそれを後押しするように、熱烈に首を縦に振って承諾する。
「光栄です!! 是非やりましょう!!」
その後、氷見たちのチームに入る二年は、すぐに影山に決まった。
……他にセッターがいないからである。
そうして始まる、初試合。
「ナイサーいっぽォん!」
「氷見一本ナイッサー!」
氷見がトスを上げ、跳んだ瞬間──日向と影山の目が、わずかに見開かれる。
(……跳んだ!?)
(ジャンフロか。……初心者っつってなかったか? ……一応頭守っとくか)
身軽な助走から解き放たれた無回転のボールは、空中で軌道をわずかに逸らしながら鋭く沈み──。
「ア、ウト!!」
一年生WSのジャッジを嘲笑うかのように、ラインキワキワに着弾。
予測できるはずもない変化、完璧なコース。
「よっし!!」
「!?」
「いきなりノータッチエースかよ……!!」
初心者というのはなんだったのか、と。
その場の全員が息を呑む。
続く二本目──。
相手の一年がかろうじてオーバーで触れるも、手元で伸びたボールはそのままワンタッチアウト。
「んなぁっ!?」
「よっしゃあ!!」
「ドンマイ!! 今のは仕方ない!! 切り替えていこう!!」
「ナイサーもう一本!!」
さらに三本目。
自分のところには来るな、と願う一年たちとは裏腹に──日向は、レシーブに飢えていた。
(こいこいこいこいこい……! 来たァッ!!)
獣のような本能と、練習によって培った直感が交わる。
「オーライ!!」
無回転故の規則性のない変化。
鋭く沈んだボールを、日向は完璧に上げてみせ──更に、そのまま勢いよく走り込む。
セッターの時田の選択は、日向のその姿に引っ張られる。
(影山さんならここで、速攻を使う……!! なら僕も……!!)
「おれにもってこーい!!」
「先輩、お願いします!!」
掛け声に呼応し、日向の手元へと吸い込まれるようにしてボールは上がった。
「ブロック跳ぶぞ! タイミング合わせろ! せー、の!!」
「は、はいっ!!」
一年生と影山がブロックに跳んだが、日向は至極冷静だった。
(手と手の隙間、ボール一個分。レシーバーも、いない!!)
抜けるコース、コートの空いている場所にボールを叩く。
決まった──と。日向がそう思った刹那のことだった。
「ここっ!!」
それは、完璧なディグだった。
日向のスパイクに反応できた一年は、他には居ない。
皆一様に硬直していた。
それでも氷見は、まるでそこに打たれることを最初から知っていたかのように、そこに居た。
否。事実として、知っていた。
(今、影山さんともう一人がコースガッチリ塞いでた。だからここしかなかった。でも最初から居たら素直に打ってくれない。これでいい。よし次だ──次は、どこで、何をすればいい?)
バレーの知識などない。
それでも、何故か氷見にはそれが分かった。
直感が、泡立つように溢れ出す。
理屈が、どんどん肉付けされていく。
学んだことなどない。ただ、感じていた。
見えていた。理解していた。
思考が凝縮され、研ぎ澄まされていく。
──そう、“知ってしまった”のだ。
(バレーって、こんなに楽しいのか……!!)
「ナイスレシーブ!!」
「んぎぃ! やるな氷見!!」
「初心者ってのは嘘かよ!! タチ悪いぜあいつ!!」
楽しそうに、かつ悔しそうに賞賛する日向と、氷見を糾弾する一年の様子は、実に対照的だ。
勢いを削がれたボールはネット際へとふわりと浮かび、そこに影山が素早く入る。
(誰を使う影山……!! 俺が止めてやる!!)
リードブロックを徹底すべく、ボールの軌道を注意深く観察する日向だったが──。
一つの可能性が、頭から抜け落ちていた。
前提としてこれは、一年の雰囲気を知るための試合。
当然日向は、一年の誰かがスパイクをするものだと思い込んでいた。
「ぬああっ!!! やられた……!!」
──現実は、その思考を嘲笑うかのような影山のツーだ。
乾いた音と共にボールが床を打ち、無情にも一点が刻まれた。
「ふっ」
「か、げやまァ〜〜っ! やっぱムカつくくらいうめーなお前!!」
ヒートアップする二名に、コーチから軽い叱責が飛ぶ。
「……おいお前ら。分かってると思うが、これ一年のための試合だからな……?」
「う……うっす」
「……すんません」
返事は同時。反射のように揃ったその声に、コーチはため息をつきながらも、少しだけ口元を緩めた。
「まあ、手を抜けって言ってるわけじゃねえ。一人でプレイを完結させず、うまく実力を引き出してやれ」
「はい!!」
試合再開。
氷見のジャンフロ。
今度はコースが甘く、リベロ──八乙女の元へ。
「きたァ!!」
八乙女はそれを、完璧にあげてみせた。
Aパス。攻撃の絶好の機会だ。
「トスくれ〜!!」
「レフトォオ!!」
一年WSが、レフトからサードテンポのスパイクを仕掛ける。
直前の日向の撹乱で、ブロックは1.5枚。
経験の少ない一年に、日向に引っかかるなと言うのは無理な話だ。
余裕は充分。
(あっち打っても拾われる! ならこっちだ……!! MBつってたし、レシーブ苦手だろ!!)
氷見方向に撃つのを避けた強打。
「っぐ……!! 強烈……!! すまん、カバー頼む!!」
狙われた一年MBはなんとか触るも──ボールは後ろへ飛び、コート外へ。
これでは、影山がセットに入れない。
「助走入って!!!」
いつの間にそんな場所にいたのか──ボールを追いかけ、セッティングをする宣言をしたのは氷見だった。
「レフト!!」
「ライト!!」
影山とウィングスパイカーの声が交錯する。
アンダーで堅実にレフトに上げても良い場面。むしろ多くがそうするであろうこの場面。
だがそれでは、つまらない。
折角楽しいことをしているのだから──もっと、遊ぼう。
「もっと、もっと楽しい方へ……!!」
氷見は低く屈み、オーバーの姿勢でボールと地面の間へ体を滑り込ませる。
ライト方向に視線のひとつさえ入れない、完璧なセッティング。
敵を欺き、コート外からアンテナまで大きく伸びる──美しく打ちやすいトス。
「しまっ……」
走り込んだ影山の強烈なスパイクが、地を打った。
「ナイスキー!!」
コート内外から歓声が上がった。
その中心にいた氷見は、満足そうに笑って影山に駆け寄る。
「スパイクも凄いじゃないっすか影山さん!!」
「打ちやすい、良いセットだった。……次はお前が打ってみるか?」
身長158cmに、バックアタックの提案。
”普通”の枠に収まらない資質を持つ影山といえど、通常であればしない選択だ。
影山をそうさせたのは──ある種の予感。
とはいえ、断られたならそこで終わりだ。
打つ気のない人間にあげるほど、影山も酔狂ではない。
氷見の返答は──。
「え、是非!! タイミング取りやすいやつでお願いしますね!!」
(……こいつ、面白ぇな)
ゾクリ、という感覚に、影山の口角が上がる。
そう。
端的に言えば、影山はワクワクしていたのだ。
そしてその予感は程なくして、現実となった。
ジャンプ自体は、日向と比べれば凡庸の範疇におさまるものの。
だが──。
「綺麗……」
試合を外から見ていた谷地が、思わずそう呟いてしまうほどの、流麗なフォーム。
空を踊るかのように、冷見は腕を振りかぶる。
だが、身長差というものは残酷だ。
氷見のバックアタックを阻む壁が、きっちり三枚。
影山は氷見の注文通り、タイミングを合わせやすいサードテンポでトスをあげた。
必然、ブロックもキッチリついてくる。
急速に、氷見の視界が澄んでいく。
頭のてっぺんから指先にかけて──己が体の全てが、自分の思い通りに動く感動に、氷見は浸っていた。
「──あっはは、楽しい……!!」
笑うと同時に氷見は、ボールを”上”に叩いた。
ボールはそのままブロックに飛んだ選手の指先に当たり──そして、勢いよく遥か彼方へ。
影山はそれを見て、獰猛に笑う。
予感の的中。
バレーボールで自由に遊べる強さを──こいつは既に、持っている。
──強さは、心地いい。
「ブロックアウト!?」
「なんでもありかよこいつ!!? バケモンだ!!」
「あ、あれくらいおれだって……ぐぬぬ……」
「よーし、ナイサーもう一本、俺」
ボールを受け取り、再びサーブに入ろうとする氷見を止めたのは、烏養だ。
「あー……悪ぃ、ストップだ。氷見、日向。試合から抜けてくれ。5対5で続ける」
「? 分かりました」
氷見はきょとんとしていたが、その言葉が何を意味するかは──もう、誰の目にも明らかだった。
「え、おれもっと試合出たかった……」
「そもそも一年の試合なんだから我慢しなよ。ホント単細胞だよね、大人げない」
「ぐ……」
(不服そうだなぁ……)
月島に正論で刺されていじける日向に、可哀想だし後で肉まんか何か奢ってやろう──と思う山口であった。