【WR】ハイキュー!! 『烏の三冠』獲得RTA 烏野(二年目)チャート 作:いる科
春高全国ベスト8の効果は目覚ましく、烏野高校排球部の校内でのヒエラルキーは格段に上昇していた。
実際の恩恵として、貸し出される部室が一つ増えたのである。
今では、片方の部室は専ら作戦室として利用されている。
練習終わりの夕暮れ、その作戦室で烏養コーチと武田監督が話しこんでいた。
議題は、レギュラーの選抜について。
「次で十人目か。氷見 冷だな」
「彼は……なんというか、凄かったですね。流麗というか、しなやかというか」
新たに入部した十人の一年生の中で、一際異彩を放つ男。
武田はバレーの経験こそないが、一年間烏野高校排球部に帯同し、選手の実力をアバウトに感じられるようになっていた。
「ああ。先生も感じただろうが、完っ全に即戦力級だ。練習への意欲もあるし、スタメン入りはほぼ決定だな。でもなあ、あれで『バレーをやるのが初めて』ってのは……にわかには信じ難いな」
頭を掻きながら氷見への疑念を口にする烏養に、武田は首を傾げた。
「でも、日向くんも歴は浅いんですよね? 確か中学生の頃は、バレー部は彼一人で、まともな試合は一回きりしかしていなかったと聞いています。それでも最初からレギュラーを取り、他にはない存在感を放っていた。今となっては全国でも、影山くんと並んで彼の名前を覚えている人も多いでしょうし……」
「違うんだよ先生。日向のやつは生まれ持った”天性のバネ”、”影山のセッティングを疑わない性格的資質”、”野性的な本能と、それをアウトプットするための反射”……要するに、能力的にはこの上ない才能ってやつを持ってる」
「ははあ、なるほど……。日向くんは低身長故に”恵まれなかった者”として見られることが多いように感じますが……それはバレーが高さを求める球技であるから……という事ですね。視点を変えれば、彼も紛うことなき”天才”……」
「そうだ。低身長ってボトルネックをものともしない程の他の才能を持っている、と言いかえてもいい。影山っつー唯一無二のセッターの存在もあるけどな……。でもそれは決して、”日向が最初からバレーボールが上手い”って事じゃないんだ。全国行って以降はそれも随分上手くなってきたけどな。アイツは成長スピードもすげぇ」
そこまで聞いて、武田は烏養の言わんとすることを理解した。
「つまり、運動能力といったセンスや才能ではなく──”経験を伴う技術を最初から持っていること”が、彼が未経験であると信じられない理由、ということですか?」
「まぁ、平たく言やその通りだ。バレーのスキルってのはバレーでしか身につかねえし、ゲーム中の適切な思考の流れってのも、実践で得た経験で徐々に形を掴むもんだ。日向みたいにな。どんだけ才能があろうが、一朝一夕で上手くなるもんじゃない。原石ってのは磨かなきゃ光らねえ。……ところが、だ。氷見──あいつは。あいつの動きは──俺の目には、バレーを隅々まで知っているように見えた」
「そこまで……ですか?」
「あぁ。サーブとスパイクがすげぇ、レシーブうめぇ、トス完璧──それだけならまだ、まだなんとか”天才”って事で済ませられる。苦しいがな。……だがアイツには、オフ・ザ・ボールの時の動きにぎこちなさが全く感じられなかった。有り得るか? バレーってのは広いコートを六人で守るスポーツだ。動き続ける状況の中で情報を捌き、”タスクフォーカス”……自分の役割を瞬時に見極めていく必要がある。氷見はそれを、涼しい顔して当然のようにやっていたんだ」
「ゲーム理解度の高さと、それを実践する経験値……ですか」
「そういうこった。ありゃ”センスまかせ”とは対極に位置するプレイスタイルだ。まぁ、多分以前にバレーをやってた、ってことを言いたくないんだろう。本人がそう言ってるもんをわざわざつつくこたぁねえから、わざわざ聞かねえけどな」
「それがいいと思います。完全にそうだと決まったわけでもありませんし、仮にそうだとして、経歴を隠すことにはなにか意味があると思いますから。……もし彼が今後思い詰めているような雰囲気を感じたら、その時には力になってあげてください。無論、僕も出来ることは精一杯にします」
「ああ、いつも助かってるよ、先生」
「い、いえ! こちらこそです、烏養くん」
武田への感謝を口にしながら、烏養は悩む。
無論、今しがた議論対象となっていた氷見の件についてだ。
ポジション希望未定と申告していた彼だったが──先日の練習中、とんだ爆弾を落としていった。
……曰く。
「そういえばコーチ。ポジションなんですけど、オポジットって奴がやりたいですねー。セッターと対角になるやつ」
理由を聞いた烏養に、彼はただ一言、「え。楽しそうなので。……それ以外に理由あります……?」と答えた。
如何にもな天才仕草。
(そんな曖昧な理由で主将のポジションを譲らせるってのはな……。だが、氷見がオポジットに適性があるのは間違いねぇ。……それを感覚で理解してるって事なのか?)
オポジットの役割は、二つに一つ。
一つはスーパーエース。
白鳥沢のウシワカのように、サーブレシーブに参加せず、攻撃に全特化するスタイル。
もう一つは、ユニバーサル。
烏野の澤村のように守備の上手い選手を配置したり、稲荷崎の宮治のように、セッターの代役をつとめられる万能選手を置く。
氷見がオポジットになったとしたら、求められる役割は後者だ。
身長には不安が残るが、セッティングの技量は確かで、ウィングスパイカーとしての攻撃力も申し分ない。
たとえば影山がファーストタッチのとき、今の烏野では、どうしても慣れない二段トスになってしまう。
皆練習を重ねているから、レフトへのトスの精度は申し分ないのだが──。
烏野の強みである、多彩な攻撃手段へのアクセスは失われる。
仮に、稲荷崎の宮治のように──氷見が影山を補完できるとしたら。
実質的なツーセッターの構図。
烏野の攻撃力はどのローテでも衰えることなく、躍動し続けることになる。
更に氷見のあの、リベロ顔負けのレシーブ力。
三年生の離脱によって表面化していた課題が、あるいは丸ごと解決するのではないか。
(次の音駒との練習試合で、やらせてみるか)
こういった、可能性を探ることも練習試合の意義の一つだ。
だが──氷見の能力について、烏養は完全には理解していなかった。
烏養が評価していた氷見の能力は、氷山の一角に過ぎなかったのだ。
■ ■ ■
「今からレギュラー発表すんぞー。そんでユニフォームも配るから、失くすなよ」
レギュラーの発表──しばらく部員数の少なかった烏野にとっては、新鮮なイベントだ。
今の烏野の部員数は、三年生が五人、二年生が四人、そして一年生が十人の合計十九名。
レギュラーとして選ばれるのは、その中の十二名だ。
「一番、主将、縁下!」
「はいっ!!」
縁下 力。
プレーこそまだ全国レベルには届かないが、チームを率いる三年生として堅実な統率力を持つ。
チームのサーブ力を強化するため、ジャンフロを練習中。
「二番、田中!」
「ウッス!!」
田中 龍之介。
木兎を真似た超インナーとキレキレのストレートを軸に、性格に似合わぬ冷静なプレーで攻撃の中核を担うエース。
調子にムラがあるジャンプサーブの安定化と、守備力の強化が課題。
「三番、木下!」
「は、はいっ……!!」
(よ、呼ばれた〜……よかった……!)
木下 久志。
スパイカーとしての能力は凡庸だが、狙ったコースに撃つことが得意で、大崩れしない。
昨年から習得をはじめたジャンフロも、安定感が素晴らしい。
スパイクの威力強化、守備力の強化が課題。
「四番、副主将、西谷!」
「オーッス!!」
西谷 夕。
烏野が誇るスーパーリベロ。
苦手だったオーバーを克服し、目下の課題はないが、本人の向上心は留まるところを知らない。
「五番、成田!」
「はい!!」
成田 一仁。
月島や日向に比べれば凡庸なミドルブロッカーだが、常に”普段通り”を実践できる、本番への耐性を持つ──いざという時に頼れる男。
課題は山積みだが、今はジャンプサーブを練習している。
「六番、影山!」
「はい」
影山 飛雄。
ユースにも選出された、言わずと知れた妖怪セッター。
”コート上の王様”。
目下の課題は、ジャンプサーブの更なる威力強化。
「七番、月島!」
「はい」
「ぐぬっ……!? 月島に抜かされた!?」
「言うと思った……あんまそういうの関係ないでしょ」
月島 蛍。
烏野のブロックシステムの中核にして防御の司令塔。
トータルディフェンスを可能にするには欠かせない、リードブロックの達人。
目下の課題はサーブとレシーブの強化。
セッティングも無論、磨き続ける。
「八番、日向!」
「はいっ!!」
日向 翔陽。
マイナステンポの”変人速攻”をはじめとし、コートを縦横無尽に駆け回ることで敵ブロッカーを欺く”最強の囮”。
目下の課題は、サーブの強化。
ジャンフロを習得中であります!!
「九番、山口!」
「はいっ!!」
山口 忠。
ジャンフロで状況を変えるリリーフサーバー。
目下の課題は、更なるサーブの強化とレシーブの強化。
「十番、氷見!」
「は、はい!! やった……!」
「やったなヒャミイ! それ元々俺の番号だったんだぞ!!」
「え、そうなんですか!? やったー!! もしかしてコーチの粋な計らいだったり……!?」
「いや、たまたま」
「じゃあ運命っすね日向センパイ!!」
「おー!!」
「……なんかデジャヴ……」
氷見 冷。
安定したレシーブ、トスワーク、そしてスパイクを自在に打ち分け時にはブロックアウトさえ狙うその技術の高さ。
オポジットとして、果たしてどのような化学反応を烏野と起こすのか。
「十一番、八乙女!」
「ういっす!」
「十二番、時田!」
「はいっ!!」
一年から選ばれたのは、氷見、八乙女、時田の三人だった。
ただし氷見と、セッターとリベロ、育成枠として見据えられた二人とではその意味が違う。
それでも──。
「やったな二人とも!!」
「おう、当然だぜ!!」
「一緒に頑張ろう!!」
同級生の絆は、確かにそこにあった。
「以上だ! 音駒との練習試合に向けてそれぞれ調整しとけよ」
こうして、新生烏野高校排球部のレギュラーは決定された。
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背番号01:縁下 力(WS)/3年/主将
背番号02:田中 龍之介(WS)/3年
背番号03:木下 久志(WS)/3年
背番号04:西谷 夕(Li)/3年/副主将
背番号05:成田 一仁(MB)/3年
背番号06:影山 飛雄(S)/2年
背番号07:月島 蛍(MB)/2年
背番号08:日向 翔陽(MB)/2年
背番号09:山口 忠(MB)/2年
背番号10:氷見 冷(WS/OP)/1年
背番号11:八乙女 泉輔(Li)/1年
背番号12:時田 空(S)/1年
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無論、これは仮のものであり、練習試合などこの後の様子次第では変更されるものだ。
喜ぶのはいいとしても、安心するにはまだ早い。
──氷見は思う。試合に出たい、と。
当然の願望だ。
試合は熱く、楽しく、胸が踊る。
他のチームとの”もう一回がない試合”なら、尚のことだろう。
であれば。
試合に、出たいのであれば。
尊敬する背中と同じ番号を、これからずっと背負いたいのであれば。
(このチャンス。掴んで、放すな)
より多くの鍛錬をし、理論を積みあげて──。
誰よりも長く、誰よりも深く、バレーボールを楽しんでやろう。