【WR】ハイキュー!! 『烏の三冠』獲得RTA 烏野(二年目)チャート   作:いる科

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裏3-2:ゲームの話

「はー、なるほど……日向先輩は自由に助走に入って、そこに影山先輩が合わせてるんですね。すっごいなあ」

 

「凄いんだぞ影山のトスは!! ぎゅるん、って目の前で止まって、落ちるんだ!!」

 

「日向先輩はその一瞬で打ち分けたりブロッカーの手を見たりしてるんですね」

 

「そーそー!! ぐわっ、てブロックが来るから、ずばっ! ってこう……こう!!」

 

「ぐわって来てずばっ! ですね!? かっけぇ〜!!」

 

 一年生が入部してきてから一週間。

 日向と影山に氷見が話しかけに行く構図は、既に珍しいものではなくなっていた。

 

(日本語……聞いてるだけで知能指数が下がりそう。なんで伝わってるんだろアレ)

 

 クールダウンしている月島の疑問が解消されることはない。

 ぐわって来てずばっ! は、ぐわって来てずばっ! 以外の、何物でもないのである。

 

「となると、皆が皆『変人速攻』をやればいい、って訳でもなさそうですね……」

 

「俺は打てるけどな!!」

 

「流石です!!」

 

 日向の「どうだ凄いだろ」、と言わんばかりの仁王立ちに尊敬の限りを尽くしながら、氷見は考える。

 

(その短い時間で、ブロッカーとの駆け引きを十全に行えるのは多分、日向センパイだからだ……でも)

 

 ”楽しい”は、いつだって優先する。

 機会があるのなら、やってみなければ損だ。

 

「日向センパイ、影山センパイ」

 

「ん?」

 

「なんだ」

 

「ちょっと、やってみたい事があるんですけど──」

 

 

 

 ■ ■ ■

 

「氷見さんと沢山話せるレギュラー陣が羨ましいぜ……」

 

 ぼやく一年に、月島が呆れ気味につっこむ。

 

「いや、氷見”さん”って。君らタメでしょ。高嶺の花の女子じゃあるまいし」

 

「月島さん分かってないっすよ!! 高嶺の花の女子みたいなもんなんすよ俺らにとっては!! だって顔かわいいじゃん!? なんかいい匂いするし!! クソ!! 俺は普通だったのに!! 氷見さんのせいで!!」

 

「それなー!? 俺なんか多分二言三言くらいしか話してないぞ……デート誘ったら来てくれっかな……」

 

「俺は谷地センパイ派なんで。一抜けで」

 

「あ、ズリぃぞ!!」

 

「おいそれ谷地さんに失礼だろ!?」

 

 浮つく一年たちの様相に、月島は蔑むようにため息を吐いた。

 

「あほくさ……」

 

「まぁまぁツッキー、俺も気持ちはわかるから……。氷見と話す時はどうしても緊張しちゃうよ。実際可愛いし」

 

「え、山口はああいうのが好きなの?」

 

「そういう意味じゃないよツッキー!!?」

 

 ……とんだとばっちりであった。

 

 

「そういえばツッキー、日向と氷見のアレって──」

 

「……うん。まぁ、あれをやられたブロッカーはさぞ嫌だろうね」

 

「……顔に出てるよツッキー……。俺は楽しみだな、正直。……氷見が入ってきて、なんか皆が必死に埋めようとしてた穴がなくなった気がするんだ」

 

「実際、あれは天才なんじゃない? ……来年もあのレベルのが入ってくるなら、レギュラー争いは更に熾烈になるよね」

 

「んなっ!! 確かに……でも、入ってみせるよ」

 

「……? 当然でしょ」

 

 先の発言とは裏腹に、月島は山口のレギュラー落ちを懸念していない様子だった。

 その”信頼”に──。

 

(応え続けるんだ。俺も)

 

 氷見 冷。超高校級の誰かが入ったから、チームが強くなる──そういう事もあるだろう。

 

(俺にいきなり、あんなバレーはできない。レシーブあんな上手くないし、咄嗟の二段トスだってあんな風には出来ない)

 

 バレーボールをはじめたばかりの天才──氷見 冷は、いとも容易く山口を追い抜き去ってしまった。

 一年生の面々などは、最早氷見を神聖化しており、張り合う気すらないと見える。

 

 だが、チームはチームだ。

 バレーボールは、一人では完結することのない球技。

 チームにとっての、選択肢の一つであり続けたいと、山口は強く思う。

 何故なら、それが山口のプライドだからだ。

 

(──このチームで俺も、戦い続けるんだ)

 

 持った武器はジャンフロ一つ。

 与えられるチャンスは、僅か一度のサーブ権。

 それでもリリーフサーバーには──”一点を取る”だけでは留まらない、試合の行方さえ左右する大きな役目がある。

 

 ”それ”を山口は、実感と共に知っている。

 

(もっと、練習しなきゃな……!!)

 

 成功も失敗も、天才への悔しさも嫉妬も全て、筋肉に変えて──至高の一本に、昇華する。

 武器を磨き続ける。

 

「天才に勝とうなんて思わない。そもそも、部に強い人が増えるのはいい事だしね」

 

 月島の冷静な言葉が、思考に耽っていた山口を現実に引き戻す。

 

「え?」

 

「僕にやれることをやるだけだよ──最後まで」

 

 それは一見クレバーな割り切りのようでいて、そうではない。

 月島の瞳に秘められた静かな闘志に、山口は小さく笑った。

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 梟谷グループ主催の合宿。

 梟谷、烏野、音駒、生川、森然の五つの高校が合同で、練習試合を回す。

 

「烏野に!!! 可愛い子また増えとる!!! 綺麗な上に可愛いしなんだ!!? 無敵か!!? なんでうちにはマネ入らねぇんだ!? ぅっああっ……!!」

 

「うわモヒカンだ、すごーい……」

 

 合宿開始早々、音駒高校──山本 猛虎の魂が爆発四散した。

 目の前で此方を覗き込むようにして見上げる”女子”の破壊力は、常軌を逸している。

 

 ほのかに甘い香りのする空色の髪。

 くりっとした大きな瞳。

 小動物のようにちいさな顔立ち。

 きゅっと結ばれた口元。

 あどけなさの残る輪郭に、涼しげな睫毛がよく映える。

 

「ぐっ……あぁぁっ゛!!!」

 

 もはやこれは悲鳴に近い。

 試合開始のホイッスルよりも甲高い、感情の炸裂音。

 

「どーだ山本ォ!! これが烏野の力……!! これが烏野の美少女軍団……!!」

 

「あの……軍団じゃないですし、俺男ですし、烏野どうこう関係ないですし。どこから突っ込めばいいのかわかんない上に、そもそも恥ずかしいんでやめてください。あ、谷地先輩、マジでこういうの気にしなくていいと思うんで、先行っててください」

 

「う、うん? ありがとね……??」

 

 氷見の返しは淡々と、だが心底うんざりしているようだった。

 だがそんな理性のシャワーも、彼らの暴走を止めるには水圧が足りない。

 そもそも男にとって、こういった蔑みの視線はご褒美なのである。

 

「男……男……!!? じゃあこの胸の高鳴りは一体……!!?」

 

 山本の脳内に雷鳴が走る。

 価値観が根本から揺さぶられていた。

 

「……分かるぜ山本。俺もそうなったから。俺は潔子さん一筋だけどな」

 

 しみじみと呟いた田中の表情は、戦友を見つけた兵士のようだった。

 この数秒で、彼らは同じ地平を共有したのである。

 二人の間に、謎の連帯感が生まれた。

 

 ……そろそろ誰か、笛でも吹いて止めてほしい。

 

「おいほら、行くぞ。あんま大声出すな田中」

 

「山本うるっさい」

 

「あいだっ゛」

 

 混沌を断ち切る主将のチョップが、モヒカンと坊主に炸裂した。

 ありがとう、縁下。そして孤爪。

 

 

 ──さて。

 GW合宿ではチームが発足仕立てということもあり、顔合わせも兼ねて、先んじて基礎練習を皆で行っている。

 効率の良い上達をモノにするため、監督陣も情報を共有し合っていた。

 

 その中で、孤爪 研磨と氷見 冷という異色の組み合わせが実現したのは、日向による紹介があっての事だった。

 

「こっちは研磨! 音駒の三年で今主将やってるおれの友達!」

 

「孤爪 研磨。よろしく……」

 

 孤爪のやる気のなさそうな目線の先で、氷見は爛々と目を輝かせている。

 

(この見た目で男なんだ。うーん……。ゲームに出てくるヒロインみたい。でも、どっちかというとラスボスに攫われる系じゃなくて、一緒に戦う系のやつ。多分武器は格闘……素手で戦う女の子って人気だよね)

 

 氷見はゲーム脳の孤爪の思考など知る由もない。

 日向の友達で、しかも音駒の主将ということは、さぞ凄い選手なのだろう。

 高揚が隠せない。

 

「氷見 冷です! 孤爪センパイ、よろしくお願いします!」

 

「センパイとか、敬語とかいいよ……そういう体育会系の上下関係苦手だし」

 

「じゃあ俺も研磨、って呼んでいい!? トモダチだ、トモダチっ!!」

 

「あ……うん……まぁ、友達かは分かんないけど」

 

「やったー!! 日向センパイ、俺も研磨とトモダチになりました!!」

 

「おー! やったなヒャミィ!!」

 

(……聞いてないし。意外と、ぐいぐい来る……)

 

 陰気で人見知りな孤爪にとって、少し苦手なタイプだ。

 翔陽とは色々あって仲良く出来ているが、彼はどうだろうか。

 

 ──その疑念と心配は、すぐに晴れることとなった。

 

「研磨、ヒャミィもゲーム好きなんだぞ! だよな?」

 

「はい! ダクソとか、後ポケモンとか結構好きです!!」

 

「……!!! 俺も、ゲーム好き……!!」

 

「おお……!!」

 

 途端に、孤爪は食いついた。

 ダークソウル。

 

 明らかに、ライトゲーマーが言う”ゲーム好き”のそれではない。

 奴らはゲームが好きだと宣いながら、やっているゲームを見れば”プロ野球スピリッツ”だの、”パズドラ”だの”モンスト”だの──。

 

 無論、それらも楽しいゲームであることは否定しない。

 この世に存在するありとあらゆるゲームが、研磨の”好き”の対象だ。

 それでも──。

 

 興味を惹かれるのは、友達に欲しいのは、やはりヘビーゲーマー。

 これに限るのだ。

 それなら、きっとポケモンも──。

 

「……厳選とか、してる……!?」

 

 孤爪の、精一杯の勇気を振り絞った一言に──氷見は応えた。

 

「してるしてる!! 乱数調整とかはあんまりやり方分かんないけど」

 

「ゲン……?」

 

 首を傾げる日向を置いて、二人の熱はボルテージを上げる。

 

「……!! 正直やってる人多いと思うけど、結構派閥が別れるとこだよね……固定シンボルはあれ使わないと面倒だし……」

 

「色違いボルトロスとかは多分全部それだよねー」

 

「ボル……??」

 

「間違いないと思うよ……色違いの乱数調整は、時間をかけて頑張った価値があってこそ、って人が多いと思うから……オススメは出来ないけど……」

 

「だよねー!!」

 

「ランスー……???」

 

 二人のゲームの話は日向を完全に置いてけぼりにして、暫くの間白熱することになった。

 ……LINEも、交換した。

 

「研磨、ヒャミィ! おれバレーの話もしたい!!」

 

「勿論、是非!!」

 

「いいよ」

 

 ……バレーの話も、中々に有意義なものであった。

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