【WR】ハイキュー!! 『烏の三冠』獲得RTA 烏野(二年目)チャート   作:いる科

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裏3-3:ダブルマイナス

 烏野と音駒の練習試合。

 一年を加えて発足した、新たなチーム同士──初めての戦いだ。

 

 反対側のコートでは生川と森然の練習試合がはじまり、梟谷の面々は新主将の赤葦を筆頭として、それぞれを観戦している。

 

 音駒側。主将となった孤爪がリーダーシップを発揮するかといえば、当然そんなこともなく。

 

「ええ、やらなきゃダメ……?」

 

「トーゼンだ。大切なんだよ、こういうのも!」

 

 副主将となった山本 猛虎に無理矢理腕を引かれ、仕方なしに”いつもの儀式”を行う。

 

「──俺達は血液だ。滞りなく流れろ! 酸素を回せ!! ”脳”が、正常に働くために!! 行くぞ、根性ォォ゛ッ!!」

 

「オォッ!!」

 

「おー……」

 

 コートに響く掛け声と、それに続く音駒メンバーたちの咆哮。

 それは正に結束の証明であったが、チームの中心である孤爪は、嫌そうな顔で気だるそうにしている。

 

(……恥ずかしい上に、暑苦しい……)

 

 対する烏野側。

 こちらは和気あいあいとしながらも、どこか静かな熱を湛えていた。

 音駒の面々の様子を見て、日向が口を開く。

 

「あっちのレギュラー、新しい一年生いないっぽいですね。全員知ってる顔だ」

 

「そりゃうちに比べれば部員も多いし、なんつったって”守りの音駒”だからな。レシーブは結局、経験と練習した月日がものを言う。一年でスタメンに入れるのは、よっぽどの有望株かつリベロと交代しがちなMB……去年で言うなら犬岡やリエーフくらいのもんだろう」

 

 烏養コーチは、チームの特性を適切に言語化し、端的に言い切る。

 その横顔は、試合を読む棋士のように静かで鋭い。

 

「だからお前ら、特にあの芝山ってリベロには注意しろよ。控えとはいえ、あの音駒で一年の時から”防御の要”を任されてた奴だ。凡庸なはずもねえ」

 

「うっす!!」

 

 若さと老獪さを兼ね備えたこの指導者なしに、烏野の躍進は有り得なかった。

 

「レシーブかあ。ヒャミィは始めたばっかなのにおれよりレシーブ上手いよなー!! ぐぬぬ、負けん……!!」

 

 日向の悔しそうな声が響く。だがその口調に、焦りや嫉妬はない。

 そこにあるのは、純粋な競争心と、楽しさを分かち合える喜び。

 

「えーっ、オレなんかまだまだですよ!! でもありがとうございます!!」

 

 氷見は笑いながらも、謙遜の中に確かな自信を滲ませている。

 その姿は、経験の浅さを感じさせないほど堂々としていた。

 

「おい、試合に集中しろよ」

 

「当たり前だ! そういう影山クンこそ、緊張してるんじゃないのかな?」

 

「ぁ゛?」

 

「ひっ」

 

「おいお前ら、その辺にしとけよー」

 

 影山と日向の”いつも通りの喧嘩”と、縁下による”いつも通りの仲裁”を経て。

 烏野のいつもの光景に、チームの空気が自然と整っていく。

 

 

 ──そして、試合は始まる。

 

 主将、縁下と孤爪のじゃんけんの結果、サーブ権は烏野からとなっている。

 超高校級の威力を持つ影山のジャンプサーブによって、開戦の火蓋が切られることとなった。

 

 影山がルーティンに入ると同時、静寂が訪れ、体育館の空気がきゅっと引き締まった。

 

 助走──そして、跳躍。

 

 空中で構えた右腕が振り抜かれ──ズバァン!! と、衝撃音が体育館に響き渡る。

 

 唸るような球筋で音駒のコートへ──しかし。

 そのボールは、ラインの外に落ちた。

 

「ァ……ウトッ!!」

 

「ナイスジャッジ!!」

 

「スンマセン!!」

 

「ドンマイッ!!」

 

(サーブトスイマイチだったな……修正しねぇと)

 

「ラッキー……でも今のは、仮にインだとして……取れたか怪しいよね」

 

「流石影山って感じだよなァ……負けてらんね」

 

 冷静に分析する孤爪に、周囲も影山のサーブを冷や汗と共に振り返る。

 ”守りの音駒”と言えども、あの殺人サーブを毎度完璧に取る自信はなかった。

 

 だが、ラッキーだろうとなんだろうと得点は得点だ。

 影山サーブによる連続得点の機会を、一本で切る事が出来た意味は非常に大きい。

 

 続いて、音駒のサーブ。

 ボールを手にするのは、長身の二年生──灰羽リエーフだ。

 

「十点取ってこいリエーフ!!」

 

「無理でしょ、リエーフまだサーブへたくそだし。でもなるべく頑張って翔陽狙ってね。まず無理だろうけど、一応」

 

 山本の無茶ぶりに、孤爪が容赦なく水を差す。

 至って冷静にリエーフをディスる孤爪に、リエーフは叫んだ。

 

「んなぁ!? 無理だ無理だって、俺これでもサーブ練習頑張ってるんすよ!? 研磨さん酷いっすよ!!」

 

「練習頑張ってることと、現時点で上手かどうかは関係ないからね……」

 

「酷いっすよー!!」

 

 ──そして事実、リエーフのサーブは平凡だ。

 

「っしゃ、きたきたきたァっ!!」

 

「やっべ! リベロんとこ打っちゃったァ!?」

 

「ほらね……」

 

 リエーフが精一杯に打ったフローターサーブのコースは甘く、リベロ西谷の正面へ。

 本来ならば、日向を狙って『変人速攻』を封じる手筈だが、その作戦を実行するだけの技量が、リエーフにはまだ備わっていない。

 

 対して、西谷。

 ”型破り”を地で行くような迫力のある声出しとは裏腹に、膝をしっかりと曲げ、両腕を綺麗に揃えて構えた──アンダーの基本。

 その教科書のような完璧なフォームで待ち構える。

 

 西谷の目に映るは、飛んでくるボール一つ。ただそれのみ。

 

 それがたとえ、灰羽の平凡なサーブであろうと。

 簡単なボールか、難しいボールかなど一切関係なく、目の前のボールに、真摯に向き合う。

 

 それが西谷なりの、コート上で通す自身の仁義だ。

 

 余計な情報が全てシャットアウトされた研ぎ澄まされた視界の中で、ボールの回転を見極め、ほんのわずかに体を傾ける。

 

 落下点を正確に予測し、半歩分だけ位置を修正。

 そしてボールが腕に当たる瞬間、ほんの僅かに力を抜き。

 美しい放物線を描いたAパスが、影山の手元へと吸い込まれる。

 

「ナイスレシーブ!!」

 

 ──そのすべてが、あまりに丁寧で、静かで、滑らかで。

 観ている者をうならせる、美しいレセプションだった。

 

 だが音駒の前衛メンバー達の目に、西谷のレシーブは入っていない。

 ──見ている場合ではないからだ。

 

 烏野に、影山へのAパスを許し、日向に助走の余裕を与えた。

 この時点でサイドアウトの確率は大幅に高まった。

 だが──このシチュエーションを孤爪は、試合前に正確に予想していたのだ。

 そう。

 

「……もし、リエーフがサーブに失敗して翔陽が”早く高く”を出来るシチュエーションになったら、迷わず翔陽に跳んでね。影山はそういう時、必ず挨拶してくるタイプだから」

 

「相変わらず怖いっす研磨さん!!」

 

 このような会話が、事前にあった。

 

 

 かくして、影山の手元にボールが吸い込まれるのとほぼ同時──日向は跳んだ。

 ──ドンッ!! と、地面を強く蹴る低い音が鳴り響く。

 孤爪のシミュレーション通りに、音駒の前衛は三枚でブロックに跳ぶ。

 

 そして。

 孤爪の顔が、驚愕に歪んだ。

 

「……は?」

 

 この位置。

 このタイミング。

 この角度で。

 

 ──ドンピシャ!!

 

 

 ……コートにボールが打ち下ろされ、得点が烏野に入る。

 

 影山が選択したのは、確かにマイナステンポだった。

 孤爪の予測は合っていた。

 ──ただし。

 

 ”打ったのは、氷見だった”。

 

(え〜……そっちが打つの……?)

 

「な、んだ、そりゃあっ……!!」

 

 孤爪に遅れること数秒、音駒のメンバー達が事態を把握して動揺する。

 

「ダブルマイナス。まぁ……あんなの、初見で止められるわけないよね……!」

 

 山口が、未だに信じられない、といった様子で呟く。

 ダブルマイナス。

 すなわち、日向と氷見が同時に飛び出す、マイナステンポのダブルクイック。

 休日に部活を覗きに来た、菅原による命名だ。

 

 ”変人速攻”の、新たな可能性。

 日向はその名前のカッコ良さにときめいていたが──そこは割愛。

 

「……別にこの一点でどうこうって事じゃない。まだ序盤だし、あの技も完全無欠ってわけじゃないし、それにブレイクですらない。……ただ、この一発で生まれた”揺らぎ”は大きいだろうね。何せ──主将の言うこと聞いた結果、”ブロックが完全にフラれた”んだから──発足仕立てのチームには、こういうの効くんじゃない?」

 

「ツッキーがまた悪い顔してる」

 

 月島が、影山の選択とその効果について山口に伝える。

 そう、これは決してただの──負けず嫌い特有の、挨拶ではない。

 試合の流れを左右しかねない、”チーム全体の構造を揺らす一撃”だ。

 

「烏野高校一年、氷見 冷!!」

 

 自身に注目の集まったタイミングで──追い打ちをかけるように、氷見は涼やかな声を奏で、自己紹介をする。

 

「”二人目の囮”です。どうぞ──よろしく!!」

 

「……いつも、新しいね。──烏野は」

 

 してやられたのにも拘らず。

 孤爪は、未知なる敵との邂逅に──酷く、ワクワクしていた。

 

「鬼が、三人に増えたか。烏野は」

 

 己がチームを見守る猫又監督の頬に、冷や汗が一つ。

 

 氷見 冷の存在が──徐々に、しかし確実に。

 高校バレー界を、侵食していく。

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