遊戯王MinDMAterial   作:さんこのれい

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01 始まりの音ドレミコード-A

 

灰色の雲が空を覆いながらも童実野(どみの)市は今日も熱気で満ちている。

歩道を並ぶ商店はプレイヤー、決闘者(デュエリスト)を歓迎するように色とりどりに輝いていた。

 

その街で特に目に入るものは二つ。

一つは道行く人の腕に取り付けられた大きなデバイス。デバイスには簡単な机になりそうな程の大きな板が取り付けられている。

 

決闘盤(デュエルディスク)と呼ばれるそれはかつて世界を大きく変えたものであり今の世界を大きく変えたものでもある。

この天才的発明は世界を二度様変わりさせた。一度目は漫画・アニメの世界を、二度目は現実の世界をだ。

 

かつて想像上の産物だったデュエルディスクは今この世界に実現した。

『遊戯王』という作品とデュエルモンスターズへの熱意が空想そのままの形で現代に現れたのだ。

場所を選ばないゲームプレイ、決闘(デュエル)とそれを彩る立体映像(ソリッドビジョン)、まるで本当にそこでモンスターが戦い魔法が飛び交っているかのような最先端技術は世界中の人々を熱狂させた。

 

 

もう一つはコンビニエンスストアと競わんばかりに点在するカードショップだ。

デュエルディスクが実現した事でカードゲーム人口は爆発的に増加し、その特需に乗ろうとカードショップの数も増加していった。

このビッグバン以前より展開されていたチェーン店のみならず新進気鋭の個人店も数を増やして立ち並ぶ。

 

その両方の、言い換えれば大半のカードショップの入口に共通した貼り紙がされている。

誰から命じられたわけでも金が払われたわけでもなく各々が自主的に自分の意志でそれを示していた。

 

 

「Pendulum, No Life」

 

そう書かれた大きな貼り紙が外からでもわかるように誇示されている。

どこかのフレーズをそのまま引っ張ってきたかのような滅茶苦茶な英文は誰にも指摘される事なく受け入れられていた。

 

それは心意気であり、強い拒絶。

そして何よりも尊い美徳とされていた。

 

 

「ペンデュラムがある人生はあってはいけない」

 

それが昨今の世界の風潮である。

 


 

童実野市の一角で二人の決闘者が向かい合う。

片方の決闘者の前にはデュエルディスクに置かれたカードを反映するように地に伏せられたカードのビジョンが4枚、彼に従い相手に立ち塞がるように2体のモンスターが立つ。

既に彼は手札を切り終え迎え撃つ準備を済ませていた。

 

 

「こっちのターン!ドロー!」

 

向かい合う対戦相手が自分のデュエルディスクに挟まれたデッキからカードを一枚引き抜く。

引き抜いたカードを一暼した後に手札の一枚、緑色の枠で彩られたカードをデュエルディスクに差し込むとそれがビジョンとなって対戦相手の前に現れた。

 

「手札から《おろかな埋葬》を発動!デッキからカードを一枚墓地に送る!」

「カウンタートラップ《神の宣告》!ライフを半分払いその効果を無効にする!」

 

LP 8000 → 4000

 

その宣言と共に二人の間にいきなり現れた神々しい老人が右手を翳す。その手、否身体から発せられた眩い輝きがカードのビジョンを貫き粉々に砕け散らせた。

光量に眩んだ視力が戻るとそこには最初から何も起きていなかったかのように静寂が広がっている。

先程と異なるのは神と呼ばれた老人と、《おろかな埋葬》だけがそこから消え去っている事だけだ。それ以上でもそれ以下でもない。

 

 

「お前はもう終わりだよ」

まさに神の悪戯のような光景を作り上げた男は自分の優位を確信する。

 

「大方あのトカゲでも呼びたかったんだろうけどな、させるわけねぇだろ」

相手のデッキは展開する為に特定のカードを複数枚引き込まなければならない。

高速化したこのゲームにおいてそれはあまりにも負担の大きいハンデであり、かろうじて握れたカードも今のように無効化してしまえばもはや何もできない。

 

 

「ペンデュラムの分際で俺にデュエルを挑んだ事、謝ってサレンダーするなら今のうちだぜ」

「ただし、お前のカード全部破く事が許す最低条件だ」

「俺がやるんじゃない。お前が自分でやるんだ。反省の意を示せ!さもなきゃこのまま嬲り殺しだ!」

 

 

このデュエルは異端審問だ。

自分を省みない犯罪者に第三者の、一般常識の、世間の目を突き付けて裁く。

 

ペンデュラムは弱い。

ペンデュラムはみっともない。

ペンデュラムは愛する価値も無い。

ペンデュラムは自分も周囲も不幸にする。

 

そういう『当たり前の価値観』を証明する為の戦いだ。

心の中で木槌を振り上げる。もう判決は決まっている。あとはこれを振り下ろし『有罪』の二文字を突き付けるだけ。

 

 

「魔法発動《ドレミコード・エレガンス》。チェーンは?」

 

一瞬で目論見が崩れ去った。

『先程は囮でこれが本命』と言わんばかりにカードと目線を突き付けられる。

 

チェーン、つまりこの効果に重ねて何をするか、もっと具体的に言えばこの魔法を妨害する手段があるかが問われている。

今、手札にも場にも手は無い。あくまで《ドレミコード・エレガンス》に差し込む手が、というだけだが。

 

終焉という名の木槌を振り下ろす事は後でもできる。

自己批判を拒否するならせいぜい無駄な足掻きをさせ、自分のみっともなさを理解させた上で総括してやろう。

 

 

「チェーン無し?じゃあ手札の『ドレミコード』をEXデッキに加え、デッキのモンスター二体でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

青髪の少女の絵が描かれたカードを束に差し込むとデッキから2枚のカードが釣銭札のように飛び出した。

それを手に取りデュエルディスクに差し込むと今度は目の前の光景に異物が映り込む。

 

モンスターでも魔法でもない。異物としか言いようのない謎の物体。

伏せられたカードの映像の上に何の飾り気もない、ゴシック体の数字が刻まれた光の玉が浮かんでいた。

 

『1』と『8』と刻まれた玉。《神の宣告》の演出と同じ機械から出たとは思えない程簡素でお粗末な必要最低限の情報だけを伝える演出。

それを見た男が、まるで車に轢かれ臓物を飛び散らせた猫の死体でも見たかのように嫌悪感を露にする。

 

 

「手札から《ドドレミコード・キューティア》を通常召喚!」

続けてデュエルディスクの平面にカードを置く。その為に作られたスペースがしっかりとカードを保持し、情報を読み込んでいく。

 

光の粒子が人を形どり、弾けると同時に少女が場に現れた。

 

 

ドドレミコード・キューティア ⭐︎1 ATK:100

 

 

「キューティアの召喚時効果で『ドレミコード』カードを手札に加える」

その言葉を聞いた少女、キューティアは手に持った指揮棒を振るう。指揮棒の先端がデュエルディスクに向けられ、弧を描くとデッキからカードが一枚頭を出した。

 

彼女は幼いながらマエストロだった。ソリッドビジョンの演出とは思えないほど躍動的に動くタクトが今度は主人の手札を指す。

まるで次の手を本当に指揮するかのように。

 

 

「そして今、場の天使族モンスターが効果を発動した事でこのカードを手札から特殊召喚できる。《守護天霊ロガエス》!」

「それは無効だ!《墓穴ホール》!手札から発動した効果を無効にして2000ダメージを与える!」

 

墓穴を掘るグールの絵が迫り上がるのを見たキューティアの表情が崩れた。想定外の出来事に動揺してるのが見て取れる。

キューティアの主人も同様だ。目を見開き、呼吸が一瞬止まった。

 

電流の演出が飛んだ意識を現実に引きずり戻す。《墓穴ホール》の効果による2000ポイントのダメージ演出だ。

 

 

LP 8000→6000

 

 

ライフポイントが失われる小気味の良い音がデュエルディスクから響くのを聴きながら次の手札に手を伸ばす。妨害を一つ踏んでしまったがまだ展開は止まらない。

 

「今手札に加えた《レドレミコード・ドリーミア》はスケールに『ドレミコード』がセットされている時、特殊召喚できる!」

 

再び光が人を形取る。光が弾けると同時に現れたモンスターはキューティアよりは僅かに年上であると思われる少女。

檸檬を想起させる鮮やかな黄色を基調としたドレスを纏う少女の手にはキューティアと同じく指揮棒が握られていた。

 

 

レドレミコード・ドリーミア ⭐︎2 ATK:600

 

 

「現れろ、軌跡を繋ぐサーキット!」

 

2体のモンスターが場に現れた事を見届けデュエルディスクからポインターを射出する。赤い光の玉は空中で弾け8方向の矢印の内側に取り囲まれた幾何学模様の巨大なゲート、サーキットが展開された。

 

「キューティアとドリーミアをリンクマーカーにセット!」

 

二人は顔を見合わせると再び光となりサーキット外周の矢印に己を叩き付ける。

するとまるで贄が捧げられたかのように二人が激突した箇所、右斜め下と左斜め下を向く矢印が赤く染りサーキットが僅かに輝いた。

 

「リンク召喚! リンク2! ヘビーメタルフォーゼ・エレクトラム!」

 

起動したサーキットの中心から飛び出てきたのは先程の二人とは雰囲気が全く異なる、鉄と機械で武装した女性。

蝶の羽のように広がるバックパックから炎を吹き出し宙返りをすると、主人の側にすとんと降り立った。

 

 

ヘビーメタルフォーゼ・エレクトラム L2 ATK:1800

 

 

「エレクトラムの効果発動!デッキからカードをEXデッキに加え、追加効果で自分の場のカードを破壊しEXデッキ内のカードを一枚手札に加える!スケールを破壊したので一枚ドロー!」

 

回りくどく複雑に見える動きもデュエルディスクは一つずつ淡々と、そして正確に処理を進めていく。昔は時に審判を立てて行われていた効果の処理は今や機械一つで完結していた。

たった今手に取ったカードをくるりと回し、絵柄を相手に見せつけながら口を開く。

 

「《アストログラフ・マジシャン》は場のカードが破壊された時に特殊召喚できる。今はエレクトラムの効果で破壊された直後。だから特殊召喚が可能!」

 

「待てよ!そのカード今お前が手札に加えたやつだろ!?」

「そんな事なんでわかるの?こっちの手札とデッキの中身を知らなければそんなこと言えないと思うけど」

「制限カード*1だろうが…!」

「そんなルール外の都合なんて知った事じゃない!現れろ、時空操りし魔術師よ!」

 

男の異議を無視し、エラーを吐き出す事なくデュエルディスクは動き出す。

闇の渦から人影が浮かぶ。蒼い身体に神秘の回路を走らせた異形の魔術師が波打つ宇宙を引き連れて現れた。

 

 

アストログラフ・マジシャン ⭐︎7 ATK:2500

 

 

「さらにアストログラフの効果で手札に加えたキューティアをスケールに再セット!」

「これで場のペンデュラムスケールが再び揃った!」

 

躊躇も悩みも滞りもなく進めていたがここでようやく止まる。手が無くなったわけではない。ここから先やる事は決まりきっている。

 

覚悟と待望を以て手を高く翳した。

 

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 旋律を描け星々のビート!」

 

「ペンデュラム召喚!!」

 

 

「現れろ!《レドレミコード・ドリーミア》!《ミドレミコード・エリーティア》!《シドレミコード・ビューティア》!そして《守護天霊ロガエス》!!」

 

高く翳された手に反し、光は降り注がれることなく地を這うように集まり出す。今までと何も変わらず光が集まり弾けるだけ。

しかしその数は今までの召喚とは明らかに違う。一度に4体のモンスターが現れフィールドを端まで埋め尽くした。

 

一人は先ほども場に現れたドリーミア。一人は眼鏡をかけた青髪の少女。一人は水色の髪の女性。そして神々しい六枚の羽を広げて現れる金髪の天使。

たった一度の行動で場には4体のモンスターが現れ、合計6体のモンスターが並び立った。

 

 

レドレミコード・ドリーミア ⭐︎2 ATK:600

ミドレミコード・エリーティア ⭐︎3 ATK:1100

シドレミコード・ビューティア ⭐︎7 ATK:2500

守護天霊ロガエス ⭐︎7 ATK:2400

 

 

「馬鹿が!トラップ発動《自業自得》!そして《仕込みマシンガン》!まずお前のフィールドのカードと手札の枚数かける200!次にお前のフィールドのモンスターの数かける500のダメージを喰らえ!!」

「お前のフィールドのモンスターは最大の6体!つまり合計4800のダメージだ!!」

 

 

光が二つのものを形取る。一つは地から迫り上がる機関銃。もう一つは醜く太った男だ。

男は包丁を手に、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら奇声を上げて走り出す。

その横をあっさりと弾幕が追い抜き、男が標的のところに辿り着けたのは機関銃が弾を打ち尽くした後。しかし男は止まらず既に穴だらけの標的の腹に包丁を突き立てる。

 

刃が根元まで入り込んだ。

刺殺を完遂した男の顔が標的の視界いっぱいになるまで近付く。

 

男は泣きながら笑っていた。

その顔は喜であり怒であり哀であり楽。

被害者意識であり優越感。

強迫観念と安堵。

無念と達成感。

 

ありとあらゆる感情が入り混じり心情は読み取れない。

だが唯一、絶対に誰も読み違えないであろう本音が男の顔に貼り付いていた。

 

 

『こうなったのは全部お前のせいだ。俺は一切、何も悪くない』

『俺は間違ってない。お前が全部悪い』

『俺が何しようが俺は絶対悪くない。俺は正義だ。俺が正義だ』

 

 

包丁が身体から引き抜かれる。しかし裂かれたはずの血管から血が吹き出すことはおろか傷すら残っていない。それでも引き抜かれたと同時に力が抜け、その場に座り込んでしまった。

その傷がソリッドビジョンの演出だとしても当事者からしたら不気味な体験以外に他ならない。

 

最先端の映像技術がもたらす臨場感は時に臨場感を凌駕してリアルに影響を及ぼす。

合計30000以上のダメージを受け失神した決闘者がいるという噂もある程だ。今回はそこまででは無いにせよ一種の臨死体験は精神にダメージを負わせる。

 

 

LP 6000→1200

 

 

4800。超有名モンスター《青眼の究極龍(ブルーアイズアルティメットドラゴン)》の一撃を超えるダメージ。ペンデュラム召喚による大量展開が完全に裏目に出た。

 

主人の尋常でない様子にエレクトラムとロガエスが振り向き、ドレミコードの三人が血相を変え、持ち場を離れて寄り添う。ビューティアが抱える赤子のような妖精が泣き始め、その喚き声がまるでライフが危険域に入った事を知らせるサイレンのように耳に突き刺さった。

 

それを他人事として見ている男はまたも勝ちを確信する。

ようやく他のカードを使い切り、木槌を振り下ろせる事に解放感すら覚えている。ようやくこのくだらない茶番を終わらせることができる。

 

 

場に伏せた残り二枚のカード、そのうちの一枚が男の切り札だ。それを使う時が来た。

ペンデュラムを否定し、希望を持たせ、また否定し膝を付かせた。

必死に踊り狂い、無様に転げ回り、挙句に待つ無慈悲な一撃を、たった一枚のカードに手も足も出なくなる滑稽な自分自身を見て相手はどんな顔をするだろうか。

 

 

見たい、早くその顔が見たい。

救いようのない悪に相応しいみっともない様を拝みたい。本当の悪とはどこまでも格好悪く情けなく見苦しいものなのだから。

 

神経自体を直接刺激しているかのような快感に気を取られて彼は重要な事を見逃していた。

目の前の光景の異常さという、デュエルとは全く関係の無い怪奇現状を。

 

 

「お前の考えてる事は全部お見通しだ」

全て読んでいる。だからここまで追い詰める事ができた。裏をかいて大ダメージを叩き込めた。そう言わんばかりに男は語り出す。

男は相手が何を望むかだけでなく相手が何を考えているかも、その豊富な人生経験と目の当たりにしてきた莫大な人生モデル(アニメやゲーム)からプロファイリングしていた。

 

「『なんで僕ばっかりこんな目に~』『何も悪い事なんてしてないのに~』ってな!」

「馬鹿じゃねぇのか!?」

 

「じゃあ聞くが、お前空気を読んだことがあったか?誰かに合わせて、誰かに気を使った事があったか?」

「そんなのねぇよなぁ!だからそんなもんを握ってんだからよ!」

「だからだよ!だからお前らは嫌われるんだ!」

「俺だってなあ、こんなことやりたくねえよ。お前がペンデュラムなんて持ってなけりゃさあ!」

 

「笑わせんじゃねぇよ。こうなったのは全部お前の《自業自得》だ」

「こうなったのは全部お前のせいだ。お前だけのせいだ」

 

歯をむき出しにしたその顔は、怒っているのか、笑っているのか、一見わからない。

ただわかるのは、彼は彼自身が正義だと確信しているという事だ。先ほど包丁を突き立てた醜く肥え太った男のように。

 

「もう一個教えてやる。俺の場にはまだ切り札が残ってる」

「このカードが発動したらお前はもう何もできない。本当ならさっさと使って終わらせることもできたんだけどなぁ、お前の馬鹿騒ぎに付き合ってやったんだよ」

 

「だけどもう飽きた。お前のデュエルはチマチマチマチマ一人で回してるだけで見てて何の面白みもない」

「このカードで詰みにしてやる」

 

 

「俺はライフを半分払い《ダイノルフィア・フレンジー》発動!デッキとEXデッキのモンスターを素材に融合召喚!」

 

 

LP 4000→2000

 

ライフポイントが減少する音を背景に、二つの色が混ざり合うかのような不気味な渦が現れる。

 

「口上ってのはこうやるんだよ!頭スマイルワールド!」

 

 

「適応せし支配者よ!その爪その顎を以て、次なる終焉を愚者にもたらせ!!」

 

「融合召喚!現れよ、ダイノルフィア・レクスターム!!」

 

 

渦が激しく回転し、臨界点を超えた時激しい光を放ち、

ぼん、と桜吹雪が舞った。

 

飛び上がる花びらが何の抵抗もなくひらひらと地に落ちていく。

起こったのはただそれだけだった。現れるはずの巨大な爪と顎を持つモンスターは影も無い。

否、たった一つ先程とは異なるものがある。

 

いつの間にか現れていた妖の少女が一人、状況を理解できず目を見開く男を嘲笑っていた。

 

 

「《灰流(はる)うらら》。その特殊召喚を無効にする」

 

妖の少女、灰流うららは自分・相手ターン問わず手札にあれば発動し妨害をする強力なカード。

 

今召喚を試みた《ダイノルフィア・レクスターム》は相手モンスターの効果を封じるエースカード。攻撃力も《青眼の白龍(ブルーアイズホワイトドラゴン)》と互角の3000。通れば勝ちが確定していた。

しかしあくまで通ればの話だ。現実は《灰流うらら》によって不発に終わっている。

 

「《墓穴ホール》はもう使えない。うららの無効能力は通させてもらう」

 

腹立たしくて仕方が無かった。相手の手札の都合が良すぎる。

《神の宣告》を受けて尚展開に必要な2枚のカードを引いてきた事。

かつ、うららを引いてここぞというタイミングで、唯一うららを無効にできる《墓穴ホール》が無くなった後に使用してきた事。

 

こんな都合の良い手札が巡ってくることなんてあるか。ここまで回ることがあってたまるか。

ふざけるな。ふざけるなよ馬鹿野郎。

こちらの妨害を掻い潜る、相手の手札の都合の良さには理不尽を感じざるを得ない。

 

 

しかしここまでだ。

都合が良い手札とは言ったが最善では無い。

この状況の最善とは《ハーピィの羽箒》等による罠一切破壊だった。《愚かな埋葬》を囮にしてからそれらを発動してから動き出せばこのターンでの決着も可能だっただろう。

 

対戦相手はそれを持っていない。例えデッキに組み込んでいてここで引けたとしたら今度はここまでの展開に繋がらない。

そして自分には最後の罠が残っている。それは相手の攻撃を跳ね返す超有名カード《魔法の筒(マジックシリンダー)》。壁モンスターを破壊しようと戦闘に移れば即発動。攻撃力分のダメージを受けてライフは0だ。

 

そう思えばこれまでの理不尽も報われるというもの。

勝利を確信した瞬間、自分のモンスターにとどめを刺さされる。その無様さ滑稽さ。ペンデュラムが信条としているエンタメデュエルにぴったりな演出だ。

 

展開を妨害する手はもう無いが、それが奴の油断を誘う。ペンデュラムに相応しい間抜けな最期にしてやる。

 

 

「エリーティアの効果発動!魔法罠ゾーンのカードを1枚手札に戻す!」

 

一瞬で目論見が崩れ去った。

エリーティアが指揮棒を振るうと傍の妖精が音を掻き鳴らし音符の波が《魔法の筒》を押し流す。

手の内には戻ったがこのカードは場に無ければ発動する事が出来ない。

最後の罠は発動する機会すら与えられずあっさり潰されてしまったのだ。

 

「そしてロガエスの効果発動!相手の場のモンスター一体を除外してこのカードを守備表示にする!」

 

ロガエスの掲げる杖が突き刺すような光を発する。まるで先ほどの『神の宣告』を思い出すかのような光がモンスターに直撃し、消し飛ばされた。

 

 

「そしてフィールドには、風・水・地・炎、そして光と闇の六属性が揃っている」

「属性!?」

 

レベルでもない、特定のモンスターでもない。属性、しかも六つの異なる属性。その思いもしない条件に男は驚愕した。

一体何をするつもりなのか。

デュエルモンスターズのカードプールは一万を超える。多種多様ありとあらゆる条件があると思っていい。その中からこの盤面を更に捲り返す何かがあるというのだ。

男はそれを完全には把握出来ていない。誰も出来るはずがない。

 

 

「再び現れろ!軌跡を繋ぐサーキット!」

 

「アローヘッド確認!召喚条件は、属性が異なるモンスター三体以上!」

 

「風属性のドリーミア、水属性のエリーティア、地属性のビューティア、炎属性のエレトクラム、光属性のロガエス、闇属性のアストログラフをリンクマーカーにセット!!」

 

 

「サーキットコンバイン!!」

 

「画鋲、糞便、猫の死体! 四肢、銃弾、核兵器!」

 

「心知ったる機械よ学べ! その感情は根源の0、男も聖者も女子供も等しく焼き尽くその名は『悪意』!」

 

 

「失望せよ!リンク6!ジ・アライバル・サイバース@イグニスター!」

 

 

呪詛に近い叫びと共にフィールドに巨人が降り立つ。主人の絶望を代弁するかのように、電子の巨人は声にならない叫びで場を震わせた。

 

 

ジ・アライバル・サイバース@イグニスター L6 ATK:0

 

 

「ジ・アライバルの攻撃力は素材にしたモンスターの数かける1000。よって攻撃力は6000になる」

 

ジ・アライバル・サイバース@イグニスター ATK 0→6000

 

望外に膨れ上がる攻撃力に男は戦慄した。こちらのライフは2000。今の自分を3回キルできる攻撃力を持つ化け物が急に立ち塞がったのだ。

しかもこのモンスターは他のカードの効果を受けない。これを破る手段は手札はおろかデッキの中にも無い。

 

「さらにジ・アライバルの効果でフィールドのモンスターを一枚破壊!」

 

場に残った最後のモンスターがあっけなく爆発四散し、前に立つものが全て消え去った。

 

 

「これで終わりだ」

 

その言葉に応え、巨人が剣を掲げる。

絶望に満ちた巨人の姿が男には死刑執行人のそれに見えた。自分の首を切り落とす為に現れ、抗いようの無い力を振るう殺意の巨人。

ただ作られ設定された映像を流しているだけのはずなのに、その時に限って男はそう感じてしまった。

 

目の前の処刑人がまるで本当に怒っているかのように、本当に今から自分を殺すかのように見えていた。

 

 

ペンデュラムの処刑の筈だったこのデュエル。

処刑されるのは、何故か、いつの間にか、自分にすり替えられている。

 

 

「ジ・アライバルでプレイヤーにダイレクトアタック!」

 

ネガティブ・アトリビューション!!

 

 

剣閃が男の身体を突き抜けた。一瞬、本当に身体の感覚が無くなった。

 

 

LP 4000 → 0

 

 

「対戦ありがとうございました」

 

ジ・アライバルをデッキに収めたデュエリストが近付く。

遊び相手への挨拶は礼儀だ。その行動に何も間違いは無い。しかし今その言葉から感じられたものは義務感と不本意だった。

 

 

目の前の相手の心情を男は感じ取っていた。

 

『どうせお前はこっちに敬意を払わないんだから礼なんて形式ばったもので十分』

『むしろ形式上でも礼をしてやる俺の方がお前より上』

こちらが見下している事を分かりきった故の見下し、皮肉、嫌味だった。

そんな無礼を働く奴に尽くす礼儀は無い。

 

 

「これで勝ったつもりか?」

「こんなデュエルはたまたまだ。たまたま俺が《墓穴ホール》のタイミングをずらしたから勝てた。それすら理解できないのか?」

 

 

男の指摘は正しい。彼は《墓穴ホール》の打ちどころを間違えている。

《灰流うらら》に使うべきだったのだ。それだけで《ダイノルフィア・レクスターム》の融合召喚に成功し以降封殺が可能だった。

 

要するにプレイングミスだ。相手が動き始めたと同時に《ダイノルフィア・フレンジー》を発動するだけで勝てた試合だった。

 

それをしなかった、否できなかったのは男が嬲り殺しを望んだからに他ならない。

一枚のカードで相手の戦意を一気に無くすのではなく、否定に否定を重ねた上で最後の最後、とどめとして使う事を選んでしまったからだ。

 

 

そのプレイングミスが男の自尊心を守っていた。

個々人の自尊心ではない、男が属する社会の自尊心だ。

 

負けたのは『自分が信じる正義』ではない。『自分という一個人だけ』だ。

正義は変わらず正義としてあり続ける。

 

『ペンデュラムがある人生はあってはいけない』という正義が。

 

 

「この世界にお前らの居場所はねぇ!あったとしても、俺たちが全て壊してやる!!」

「俺たちの、デュエリストの誇りに賭けて!!!」

 

「そっか」

瀬乃尾海音(セノオ カイネ)はただ一言そう言って男に背を向けた。

 


 

ペンデュラム使いが生意気だ、と背中に投げかけられる悪態を聞きながら海音はぼんやりと予想する。

 

あの男は明日にはこの事を忘れているだろう。

ペンデュラム使いに負けたとなればプライドが相応に傷付くから無かった事にしたい、そしてそもそもがただのお遊びである事から、間違いなくそうなる。

 

海音にとってもう会う事もない、会った所で今日の事をお互い忘れているだろう人の事よりも今はもっと気になる事があった。

 

 

「これが、君達の力って事?」

 

自分の三歩後ろに立つ人影に向かって振り向き、歩調を合わせて付いてきていた女の子と目を合わせる。

 

鍵盤を模ったリボンに白のトップス、音符で彩られたピンクのスカート、色合いを合わせたかのようなピンクのタイツ。

黒・茶・灰が主体の現代社会の昼下がりにこんな格好の女の子が歩いていたら周囲の目を引くはず。

しかし誰も彼女に見向きもしていない。

 

誰も気付いていないのか。

気付きたくないという可能性も無くはない。

万が一ペンデュラムモンスターが現世に現れたなんて知れ渡ったら今の世の中は大混乱だろう。

嫉妬と、嫌悪と、羨みで本当に人が死にかねない。

 

 

目の前にいるのはペンデュラムモンスター、ドレミコードの最初の『ド』。

《ドドレミコード・キューティア》だ。

 

*1
執筆当時(2025年06月)のルール準拠




ドレミコード新規が来たので見切り発車しました。

当方マスターデュエルではゴールド・ダイヤ帯の腕前ですが宜しくお願いいたします。
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