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家を出てすぐに、大した苦労もする事なく目的のものは見つかった。
街の一角に人だかりができている。人々が顔を向けている先から光が溢れ、漏れ出した波が身体にぶつかってきた。
何度も、何度も、何度も、何度も波に打たれる。それが一体何の光で何の波なのか、
人だかりをかき分けて最前列に、中央に到達した時、海音はその感覚が正しい事を思い知る。
《
その神に近しい天使の傍で、守られるように
彼の姿を認識したと同時に、海音の心臓にどろりとしたものが刺さるような痛みが走る。
何が起こったのか、ここにいる誰よりも海音は理解してしまった。
心が折れたのだ。それも最悪の形で。
対戦相手が悲鳴を上げながら逃げるように海音に走り寄り、海音を突き飛ばしながら遠くまで消えて行く。
一瞬見えたその顔は悔しさと恐怖の色で染まり、それが湧き起こす怒りで目を血張らせていた。
「ふざけんな!ふざけんな!二度とやるかこんなクソゲー!!」
「死ね!死ねーーーーーーーー!!!」
狂人のように、或いは狂人である証拠の喚き声が響く。
負け犬の遠吠えは羽塚の耳に入らない。
否、その声は届いてはいたが彼はそれを賞賛として受け取っていた。
羽塚は覚えている。今走り去っていた男は以前自分を何度も何度も蹴っていた男だ。
散々宣告者を恐れ、喚き、使われないとわかった途端に気を大きくして舐められたと怒り何度も、何度も腹に蹴りを入れてきたあの男だ。
あの時のご希望通りに宣告者を使ってやった。
これで満足だろう?
お前は鼻水を垂らして子供のように喚きながらそうやって無様に駆けずり回りたかったのだろう?
望み通りにしてやった。
オレは大満足だ。
自分は強い。強くなった。もう誰にも馬鹿にされないし殴られもしない。
負け犬の遠吠えが羽塚にそれを実感させる。鼓膜に響く怨嗟の声と周囲の殺意の視線が彼の尊厳を回復していく。
しかし彼はその視線を一身に浴びるその中で、唯一違う視線に気付きそちらに顔を向けた。
瀬乃尾海音。この町で良くしてくれた数少ない人物。
「海音くん。君の言った通りだよ。あれだけ怖かった奴らがゴミみたいに弱くなった」
「何で宣告者に手を出したの」
羽塚の物言いを刺すように海音は衝動的に言い放つ。過去に自分が提案した事にも関わらず、咎めるように。
その感情は羽塚に十分伝わり、彼は困惑する。
「何で?何でって何?君が使った方がいいって言ったんじゃないか」
「それでも龍輝巧で勝ちたいって言ってたよね!?なのに何で」
「確かにそう言ったけど、それじゃ勝てなかった。何でだろうね?どう頑張っても、何をしても、どうしても勝てなかったんだ」
「その度に蹴られ、殴られて…もう嫌になった」
「オレは、負けたくなかったんだ。勝ちたかったんだ。勝ちたいから遊んでいたんだ」
「龍輝巧で勝ちたい?それができないなら宣告者を組み込むしかないじゃないか!」
「そうしたらこれだ。不思議だな。散々バカにしてきた奴らが今じゃクソ雑魚に見える」
「宣告者は凄いぞ!こいつらが何をしても無効!無効!無効!」
「無効!無効!無効!無効!無効!無効!無効!無効!無効!」
「無敵だぜ《崇光なる宣告者》様は。オレはこんな雑魚に怯えてたのか?」
それだけではないだろう。彼の傍に佇む《
慈しむように彼を見るその表情は喜びに満ち溢れていた。
羽塚竜司はカードの精霊に愛されている。だから彼女が力を貸していた。
今まではデッキに宣告者を入れていなかったから無力だったが、彼が宣告者を入れた事でその力は彼に行き届いた。
彼の強さは単純なカードの強さだけではない。精霊の力でもあるのだ。
それを把握できているからこそ海音は確信し始めていた。
あの日神巫を見た時に感じた予感は正しかったのだと。
精霊は決闘者に力を与える。
その対価にデュエリストは精霊の望む運命を辿らされるのではないかと。
自分に都合よくドレミコードの精霊達が来てくれたように、彼女達にはそういう素質や内の欲望を見分ける力があるのだろう。
それは自分達を愛し、使ってくれる人間を見つける為の力。
だから力を貸す。
だから支える。
だから愛される事を願う。
現に宣告者を使っていなかった彼も最終的に宣告者の手を取り、宣告者の力を得た。
しかし、その結果がこれだ。
これではいけない。
海音の
それは海音が彼と戦う事を決意した事に他ならない。
「次はこっちと戦ってよ」
凡そ遊びに誘うという目的には不適切な海音の目を羽塚は見据えた。挑戦者の目でも無いが、何かの使命を勝手に感じている傍迷惑な目。
その点では周囲を取り囲む雑魚どもと変わらない目。海音にはして欲しくなかった目だ。
「何だよその目は。気に入らないな」
誰が相手であろうが叩きのめさなければならない。
それを教えてくれたのは海音自身であり、例え海音が相手であろうともそれは変わらない。
「でも、もうそんな目をしたって意味はない。本気になった龍輝巧と宣告者は無敵だ。それを君にもわからせてやる」
「「デュエル!!」」
羽塚竜司:LP 8000
瀬乃尾海音:LP 8000
「先行はオレだ!」
デッキから5枚のカードを引き抜きながら羽塚が宣言する。
相手が誰であろうがやることは変わらない。先行1ターンで盤面を構築しての封殺。
「オレは手札の《竜輝巧-アルζ》の効果発動!《竜輝巧-バンα》を手札からリリースしてこのカードを特殊召喚!」
「更に!アルζの効果でオレはデッキから儀式魔法をサーチする!持ってくるのは当然《
大型の盾を両手に装備した青い機械竜が現れ、青く点滅を始める。その点滅は恐らく信号、何かの申請だ。母艦と交信する事でこの個体は新たな力を求めている。
竜輝巧-アルζ ⭐︎1 ATK:2000
羽塚とアルζが申請したものは《流星輝巧群》。
竜輝巧の儀式魔法であり竜輝巧最大の強みと言っても過言ではないカードだ。それを引き込みに来たという事は既に仕掛ける用意が整ったという事。
そう判断し、手遅れになる前に海音は切れる手札を切った。
「手札から《ドロール&ロックバード》を発動」
「舐めるな!墓地のバンαの効果発動!《崇光なる宣告者》を墓地に送り特殊召喚!」
続いて現れたのは、特段特徴的な装備のない青色の装甲を纏った機械龍。竜輝巧の中でも標準的かつ汎用的な機体としての設計が生み出したフォルムなのだろう。しかし今大事なのはそれではない。
竜輝巧-バンα ⭐︎1 ATK:2000
やはり《崇光なる宣告者》を手札に持っていた。墓地に送られるそれを見送りながら海音は先の先に頭を巡らせる。
本来であればその思考は無駄なものだ。普通は墓地に送られたならばそれを再び手札に引き込む手段が無ければ召喚する事は出来ない。
ましてそれが儀式モンスターであれば尚更だ。
しかし竜輝巧は普通ではない。
「儀式魔法《流星輝巧群》を発動!このカードは攻撃力の合計値が召喚するモンスターの攻撃力以上になるように手札フィールドの機械族モンスターを生贄に捧げて儀式召喚できる!」
「更に儀式召喚可能なモンスターは手札だけはない!墓地のモンスターも儀式召喚が可能!」
「《崇光なる宣告者》の攻撃力は2000!オレは攻撃力2000のアルζを生贄にする!」
何故宣告者と竜輝巧が力を合わせたのか。それはこの唯一無二の儀式魔法にある。墓地に送られた儀式モンスターすら召喚し、その条件に攻撃力を参照する儀式魔法が宣告者と絶妙に嚙み合ったのだ。
《
しかしその攻撃力は2000。《流星輝巧群》であればたった1機の竜輝巧で降臨可能だ。
数十年の歴史を刻み、数万以上のカードプールを維持し続けているデュエルモンスターズでしか成し得ない強力なシナジーという名の奇跡の産物。
しかしその奇跡は誰にも祝福されない呪いと化していた。
アルζが天高く舞い上がり、羽塚が《流星輝巧群》起動コードを読み上げる。
出力を限界まで引き上げたアルζの青白い輝きは空の頂点で黄光となった。機械龍の系譜とは全く違う何かを呼び出した事を証明するように、山吹色の光が地に降り注ぐ。
神の奇跡。文化に触れた人間であればそう感じざるを得ない。光は威圧感を纏いながら海音を温かく抱擁し、それを後光に纏いながら大天使が現れる。
「
「罪を悔い、許しを請うがいい!」
「儀式召喚!降臨せよ!
崇光なる宣告者 ⭐︎12 ATK:2000
「そしてバンαの効果発動!デッキから《サイバー・エンジェル-弁天-》を手札に」
「それは無理だよ」
更にデッキを回そうとする羽塚の発言を海音が遮る。羽塚に従っているはずの竜輝巧はまるで海音の言い分に同意するように沈黙していた。
「《ドロール&ロックバード》が発動したら、そのターンはお互いに、もうこれ以上新しくカードを手札に加える事ができない」
《崇光なる宣告者》の無効化能力は手札にある天使族モンスターを捨てる事で発揮するもの。言い換えれば手札が無ければ力を振るえない。
宣告者・竜輝巧混合デッキの強さとは《崇光なる宣告者》降臨の難易度の低さもさることながら手札に天使族を引き込む手段の多さにも支えられている。その両者が揃って初めて強さを発揮するのだ。
サーチが封じられた今、それらを手に入れることはできない。たった一枚のカードのせいで完全と思われた布陣が崩れた。
「くそ!フィールド魔法《竜輝巧ーファフニール》と《流星輝巧群》のもう一つの効果発動!バンαの攻撃力を下げてこのカードを墓地から手札に戻す!」
「そしてバンα1体で《リンクリボー》をリンク召喚!」
バンαの代わりに一頭身のモンスターが現れる。
初代から代々存在する《クリボー》の一種であるこのモンスターはある意味で一番厄介な能力を持っている。
その召喚条件はレベル1モンスター一体。これも竜輝巧がレベル1だからこそ成立するシナジーだった。
リンクリボー L1 ATK:300
「ターンエンド」
羽塚のフィールドには宣告者とフィールド魔法、そして《リンクリボー》。
手札は2枚。その内1枚は墓地から引き込んだ《流星輝巧群》。最後の1枚が何か次第ではあるが、今わかる範囲で無効回数を1回だけに抑えられていた。
しかし、もし上手くそれを超えられても《リンクリボー》がいる。迂闊に攻めれば、あれの効果でこちらのモンスターの攻撃力が0にされて返り討ちにされるだろう。
《ドロール&ロックバード》の力も失った。ここで崩さなければ次のターンで確実に立て直される。
「こっちのターン!ドロー!」
海音はカードを引き抜き一瞥する。
「罠カード《
「対象は《崇光なる宣告者》」
一見無意味に思える二択。しかし海音は考えた上でカードを切っていた。
羽塚の手札にある未知の一枚が天使族であるとするならば他のカードを出したところで無効化されてしまう。しかも相手が望んだタイミングで、こちらの痛手になるタイミングを狙って無効化できる。
《無限泡影》であれば強制的に手札を切らせられる。
切らなければ無効化能力自体をこのターン封じられてしまうのだから、相手からしたら今ここで能力を使わざるを得ない。
例え捨てられる手札が、墓地に送られた時に手札に天使族を補充する《イーバ》だとしても1回の妨害と不確定要素は潰し込める。
「あんなカードさえ、あんなカードさえ通さなければ」
「どれだけ強いって言っても、こういう事はあるんだよ」
「デュエルモンスターズに無敵なんて無い。どれだけ強そうなカードでも想像もしてなかったようなカードが突き刺さるし手札が悪ければ何もできない」
「自分や相手のカードが強いだの弱いだの言っても肝心な時に使えなきゃ何の意味もない」
海音の言葉はまさに今の状況そのものを説明していた。
無敵の《崇光なる宣告者》がたった一枚のカードの効果に縛られ、続くカードによって動きを強制させられている。
今の状況が羽塚の言葉を否定していた。それを海音はわざわざ言語化して突き付けてくる。
苦労して得た無敵の力が否定されている。
「手札の《宣告者の神巫》を墓地に送り!《無限泡影》を無効にする!」
《崇光なる宣告者》に襲いかかる泡の波が光の結界にぶつかり、いとも容易く弾けて消える。押し返すように膨れ上がった結界が《無限泡影》に叩きつけられると《無限泡影》は砕かれ消滅した。
墓地に送られたカードは《宣告者の神巫》。手札補充の術は羽塚には無い。
「どちらにせよ、もう無効能力は使えない」
あとは《リンクリボー》の対処。それに関してはもう海音の脳内で道標が出来上がっていた。
約束通り一緒に止めよう。
そう呟いて海音は自分のデュエルディスクにカードをセットする。ディスクがカードのデータを読み込み、
現れたのは白の祭服、虹色の翼、紺青のお下げの少女。宣告者の声を聞く少女。
「《
「宣告者!?」
羽塚はこれから現れるであろう自分の守護神の姿まで幻視し、対抗策に頭を巡らせる。
しかしもう1人の少女は主人とは別の視点で物事を見ていた。
「貴方の手引きなの?」
墓地からビジョンが浮かび上がる。現れたのは白の祭服、虹色の翼、紺青のお下げの少女。
「そうだよ。私が海音さんをここに呼び寄せた」
海音の神巫は、主人の名前を出しながらはっきりと答えた。
《宣告者の神巫》と《宣告者の神巫》。同姓・同名・同存在、されど二人が向かい合う。全く違う志を掲げながら。
「なんで邪魔をするの」
「私はあなた達を止めなければいけない」
「どうして?私たちはただ遊んでいるだけ。宣告者様の加護に守られながら生きているだけ!」
「その人は宣告者様を愛していない。宣告者様の力だけを愛している」
「だから何?竜司様は今、守られてなくちゃいけないの!愛とか、そういう事を気にするような状況じゃない!」
「落ち着いたら私を見てくれる!宣告者様を見てくれる!その時まで私がこの人を守る!」
エンジェリアの軽口は案外的外れではなかった。今更ながら海音は心の中で詫びる。
要するに彼女は『好きな人の前でかっこつけて点数を稼ぎたい』のだ。精霊に限らず、ありふれた話だ。羽塚の神巫の言動はその見た目も相まって人間そのもの。
その微笑ましい告白に対し海音の神巫は汚物を見る時と同じ目を向けていた。
「その人、守ってもらう者の顔をしている?」
「守られるに値しないって、そう言いたいの? 私が間違っているって?」
「ただカードを愛しているだけなのに、横からああだこうだと指を指されて、罵倒を浴びせられて、蹴られているんだよ?」
「それにね!これはみんなが望んだことでもあるでしょ!?」
「どいつこいつも宣告者様だ宣告者様だと喚き散らすんだから!望み通り宣告者様の力で潰して何が悪い!?」
「こいつらが騒いでなかったらこの人はずっと竜輝巧使いのまま。私達は出会うことも無かった!違う!?」
「みんなが望んだ宣告者様の力で、この人を守る。それの何が悪いの!?」
「振る舞いが悪い」
畳み掛けるような感情的な言葉の数々を、ここぞというタイミングで切り捨てる。
「酷い目にあったならどこで何してもいいとでも思ってるの?」
「そんな都合なんて他人からしたら知った事じゃない。なのに自分達の都合を押し付けて、暴れる正当化をして何がしたいの?」
「自分が気持ちよくなりたいだけでしょう? それに巻き込まれる他人の都合を考えないで」
嫌悪と軽蔑を露わに、天使に仕えるものとして相応しい潔癖を動機に、海音の神巫は言葉を並べる。
「宣告者様に仕える身として、もう一人の貴方として、私はこんなやり方は認めない。だから貴方達を倒す」
「海音さん。もういいです。続けましょう。そして終わらせましょう。その為ならこの身をどのように使ってくれても構いません」
言い方はともかくその主張には同意している。神巫が最初に説明した通り、同意したからこそ今ここにいるのだから。
それに神巫が海音のデッキに加わってくれた事でようやくやりたかったことができるのだ。
「神巫の効果でデッキから《トリアス・ヒエラルキア》を墓地に送り、墓地のヒエラルキアの効果で神巫をリリースし自身を特殊召喚!」
トリアス・ヒエラルキア ⭐︎9 DEF:2900
「リリースされた神巫の効果発動。このカードがリリースされた時、デッキからレベル2以下の天使族モンスターを特殊召喚する」
「呼び出すのは《ドドレミコード・キューティア》!」
神巫は宣告者の関係者ではあるが、その効果で呼び出せる天使は宣告者に限ったものではない。レベル2以下であれば全ての天使が神巫の祈りで呼び出せる。
今ここで、神巫の祈りは圧倒的な神の力ではなく小さく未熟な音天使を手繰り寄せた。
ドドレミコード・キューティア ⭐︎1 ATK:100
「ちょっと忙しくなるけどしっかり働いてね!」
キューティアがサーチしたカードを引き抜きながら、海音は空中にサーキットを展開する。
神巫を召喚してからの一連の流れで後続を確保しながらフィールドには2体のモンスターを並べられていた。
「現れろ、軌跡を繋ぐサーキット!」
「キューティアとヒエラルキアをリンクマーカーにセット!」
「二色の力持つ魔術師よ、支点となり振り子を導け!」
「リンク召喚! リンク2!
軌跡の魔術師 L2 ATK:1200
サーキットから現れた女性はリンクモンスターであり、ペンデュラムを多く要する『魔術師』の一員でもある。
それはつまり彼女がペンデュラム召喚をサポートする力を持つということに他ならない。
「《軌跡の魔術師》の効果発動。ライフを1200払いデッキからペンデュラムモンスターを一体手札に加える!」
瀬乃尾海音:LP 8000→6800
「手札に加えた《人攻智能
「更に『ドレミコード・エレガンス』とフィールド魔法『ドレミコード・ハルモニア』を発動!Pスケールにデッキから持ってきたキューティアをセット!」
「これでスケールは0と8!」
クーリアでは成し得ないスケール0。メサイヤというドレミコードの世界には似つかわしくない存在のお陰でレベル1モンスター、EXデッキに送られたキューティアすら召喚可能な環境が整った。
海音が覚悟と待望を以て手を高く翳す。
「揺れろ、魂のペンデュラム! 旋律を描け星々のビート!」
「ペンデュラム召喚!!」
「現れて!キューティア!ドリーミア!エンジェリア!」
高く翳された手に反し、光は降り注がれることなく地を這うように集まり出す。
しかしその数は今での召喚の比ではない。光は三つの塊となり、弾けると共に音天使達を場に顕現させる。
ドドレミコード・キューティア ⭐︎1 ATK:100
レドレミコード・ドリーミア ⭐︎2 ATK:600
ラドレミコード・エンジェリア ⭐︎6 ATK:2300
「リンクマーカー先にレベルの異なるモンスターが同時に召喚された瞬間《軌跡の魔術師》の効果が発動!フィールドのカードを2枚破壊する!」
《軌跡の魔術師》が手を前に翳し、握る。それに連動するように《リンクリボー》と戦艦のような竜輝巧、ファフニールが爆破され消し飛んだ。
「更にエンジェリアの効果発動!フィールドにいる『ドレミコード』モンスターをEXデッキに送って、そのモンスターのPスケールを参考に2差があるモンスターをデッキから特殊召喚する!」
エンジェリアがスカートの裾を摘み、一礼した後に後ろに出来上がった階段を駆け上がっていく。
去り際にエンジェリアが場に何かを投げ込んだ。それは重力に圧縮されながら地に伏せた。
「エンジェリアのスケールは3。特殊召喚するドレミコードのPスケールは1」
投げ込まれた赤い布、赤いカーテンがひとりでに立ち上がる。否、その頂点で小さな妖精がカーテンを掴んでいる。
「登壇せよ。音律統べる天界のマエストロ」
「ドドレミコード・クーリア!」
カーテンが取り払われ現れたのは、ピンクブロンドの髪を広げた美女。
ドドレミコードにおける最上位の『ド』、海音が最も信頼するエース・オブ・エースがヒールを鳴らし、二本の足でフィールドに降り立った。
ドドレミコード・クーリア ⭐︎8 ATK:2700
「そして《軌跡の魔術師》、キューティア、ドリーミアをリンクマーカーにセット!」
「剣戟の音を響かせ、世界を切り開け!」
「リンク召喚! リンク4! ヴァレルソード・ドラゴン!」
続いてサーキットから現れたのは、またもドレミコードには似つかわしくない龍。
機械の装甲を身に纏った龍が黄金の翼と左右に分かれた巨大な刃を携え、破壊的な咆哮を上げる。
ヴァレルソード・ドラゴン L4 ATK:3000
「まだだよ!《ドレミコード・ハルモニア》の効果発動!今のリンク召喚でEXに行ったドリーミアを手札に戻し、自身の効果で特殊召喚!」
レドレミコード・ドリーミア ⭐︎2 ATK:600
「大した効果もない攻撃力600が増えたところで!」
「いいや、これが大事!《ヴァレルソード・ドラゴン》の効果で相手モンスターの攻撃力を半分にして、その値分攻撃力をアップさせる!」
「更にドリーミアを守備表示にする事でヴァレルソードは追加攻撃が可能!ヴァレルソードで宣告者とプレイヤーに攻撃!」
レドレミコード・ドリーミア ⭐︎2 DEF:400
崇光なる宣告者 ATK:2000→1000
ヴァレルソード・ドラゴン ATK:3000→4000
総じて行われたのはリンク素材にしたドリーミアを場に戻しつつヴァレルソードの連続攻撃効果を起動する事。《ヴァレルソード・ドラゴン》と《ドレミコード・エレガンス》、そしてドリーミアでなければ実現不可能なコンボだ。
ヴァレルソードの連撃が《崇光なる宣告者》と羽塚本人に突き刺さる。《崇光なる宣告者》は爆風の中で霧散し、跡形もなく消滅した。
羽塚竜司:LP 8000→5000→1000
「やった!アルデクをぶっ殺したあ!」
忌々しい邪神が殺害される光景を目の当たりにした観客が悦びの声を挙げた。
しかし、ここで終わりにしてしまえば次のターンに《流星輝巧群》で再臨される。だから宣言通りこのデュエルはこのターンで終わりにする。
クーリアが指揮棒を羽塚に向けた。
「クーリアでダイレクトアタック」
クーリアのタクトが半月を描き、巻き上げられた風が光の帯として具現化される。光の帯は譜面となり、音と共に羽塚に襲い掛かった。
ムジカ・デ・デュロ!
羽塚竜司:LP 1000→0
ライフが尽きた事を告げる、一段甲高い音を聞きながら海音は息を吐く。
危なかった。
今勝てたのは手札の引きが良かったからだ。《ドロール&ロックバード》に《無限泡影》。あれがなければ手も足も出なかった。
またクーリアや神巫達、精霊に助けられた。自分一人だったら勝てなかった。
その真実を間違いなく把握しているのは海音だけ。周囲にいる人間はこう捉えていた。
「悍ましい《崇光なる宣告者》使いの糞餓鬼についに天罰が降った」
その解釈が、人々を掻き立てる。
その現状を間抜けにも気付けなかったのは海音だけ。周囲にいる人間は解釈のまま行動を開始した。
息を吐く海音の肩に手が置かれ、その細い身体が力任せに後ろに引き倒される。後頭部をアスファルトにぶつけないよう反射的に身体を丸めたが尻餅をつく事だけは避けられない。
「どうだ思い知ったかよこのクソ野郎!」
海音の視界からは海音を引き倒した男の背中が見えている。
そう叫びながら徐々に前に進み、消えていく。
その先にいるのは、羽塚だ。
男は助走を付けながら己の拳を羽塚の顔面にめり込ませた。
「何が無敵だ!調子に乗りやがって!」
「こんなカードを使って負けたんだ!覚悟はできてんだろなぁ!?」
倒れた拍子に散らばった羽塚のカードを数枚乱暴に握る。力任せに握られたカードは数枚折れ曲がり、生意気にもその災禍から逃れたカードの一枚を両手で掴み上げた。
そのカードに描かれているものは白の祭服、虹色の翼、フードからはみ出し垂れ下がる紺青のお下げ。《宣告者の神巫》だ。
それを視認した神巫は悲鳴を上げる。彼女は羽塚に駆け寄ろうと試みた。
「これが罰だ!死ねぇ!」
カードが破られる。
羽塚の神巫の姿が、その身体が上下に引き千切れた。
下半身は押されたように捻った後仰向けに倒れ、上半身は勢いのままに地面に突っ込むように倒れる。
指に力を入れ、逃げるように、救いを求めるように、助けに向かうように、馬乗りされ殴られ続ける羽塚に這って進む。
その道を嘲り祝福するようにばらばらと紙吹雪が舞う。
「竜司様!」
紙片が靴で踏み付けられ踏み躙られる。摩擦で丸まり、削れ、細かな石が引き裂く。
「竜司様」
靴に付着した土や埃が奥深くまで入り込み描かれた物を上書きしていく。
「りゅうじさま」
その度に神巫の身体も刻まれひしゃげる。カードの加工が捲れ上がると彼女の皮膚も剥がれ、その内の筋肉と骨が剥き出しになる。
彼女はそれでも這うことを止めなかった。
「りゅうじ」
人体が曲がってはいけない方向に曲がり、千切れる。
「」
何が起こっている。
何でこんな事に。
目の前に転がっているのは、もう神巫と認識する事すら難しい、そう認識する事を拒否したくなる肉塊だ。
叩かれ、潰され、砕かれ、千切られ、人と同じ肉という物質で作られている以外に何の共通点も見出せない塊だ。
「全部破け!こんな奴にデュエルモンスターズをやる資格はねぇ!」
それに吐き気を堪えつつ海音は困惑した。
認識できるからこそ、前から認識できていたからこそ、そのグロテスクなモノが見えてしまっていた。
何が起こっている。
何でこんな事に。
精霊に一体何が起こった。
クーリアが重々しく耳元で囁く。この事態を説明できるのは同じ精霊である彼女だけだ。
「マスター。私達はカードの精霊、カードに宿る精霊なのです」
「カードと精霊は一心同体。それは文字通りの意味です」
「カードがダメージを負えば精霊もダメージを受け、使用不可能になる程のダメージであれば」
クーリアはその先を言えなかった。しかし海音には彼女の言いたい事が全てが伝わった。
目の前の凄惨な状況こそが彼女が言葉にできない答えそのものなのだから。
死だ。
自らを宿したカードを破られたら、精霊は死ぬ。
決闘中に墓地に送られたり除外されても精霊は死なない。しかし純然たる害意があれば精霊は簡単に死ぬ。
圧倒的な宣告者の力を持ってしても人間の手にかかれば、なすすべもなく死体に変えられてしまう。
更にその情報は、『カードを破られる』という言葉はいくつもの記憶と可能性を思い起こさせる。
童実野市は市区町村の統合の際に遊戯王の地名にあやかって名付けられた土地であり、世界で一番決闘者が集まる場所でもある。
だからこそ、今の決闘者の生理現象であるペンデュラムアレルギーを持っている決闘者も多く、ペンデュラム絶滅政策の下で多くのカードが破り捨てられていく。
そのカードに精霊が宿っていたとしたら?
一体どれだけの精霊が、どれだけの命が消えていった?
あの時あの場所で見た、《スマイルワールド》を破り続ける男のように目を輝かせながら、何人の精霊が殺された?
それはわからない。
童実野市が見えない死体のゴミ捨て場になっているかどうかなど海音には判別ができない。精霊を認識できるようになって以降もそんな場面に直面した事が無かったからだ。
それすらもただ運が良かっただけだったのかもしれないが。
しかし考えなくともわかる事が一つだけある。
今確かにそこにあった一つの命は、《宣告者の神巫》という少女は憎悪と歓喜の渦に掻き消され誰にも見送られる事なく踏み潰され切り刻まれ、跡形も無く消えた。
それだけは確かだった。
今回の召喚口上〜海音のペンデュラム召喚~
元ネタは榊遊矢のペンデュラム召喚口上。
ほぼ遊矢の口上そのままですが、海『音』という名前に従いワードを変更。
ペンデュラムというよりは同じように左右に揺れながらリズムを取るメトロノームをイメージしています。