遊戯王MinDMAterial   作:さんこのれい

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あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。


また、今回は既存のOCGルールとは一部異なる変則的なデュエルとなっております。
予めご了承頂いた上でお読み頂けますと幸いです。


03 神が残したもの-A

 

アスファルトがタイヤを切り付け、晴天の下を走り抜ける。

猛スピードで後ろに過ぎ去っていく風景と身体にぶつかる冷えた風は自分自身が高速で移動している何よりの証拠だ。

その傍ではドレミコード・クーリアが何の道具も使う事なく浮遊し、並走していた。

 

「クーリアでダイレクトアタック!」

 

 

ムジカ・デ・デュロ!

 

 

音符の波が立体映像(ソリッドビジョン)で作られた対戦相手を貫き、画面に勝利の文字が浮かび上がる。消え行くジングルに引きずられるようにDホイールのスピードも徐々に落ち、オートパイロット機能がピットに導いていった。

 

完全に停車した事を確認してからハンドルから手を離す。

そして瀬野尾海音(セノオカイネ)は愛馬を労うように、走行中に付着した土埃を祓うようにDホイールのヘッドを撫でた。

 

 

Dホイール。遊戯王5Dsに登場したこのマシーンもまた、決闘盤(デュエルディスク)を追う形で実現されていた。

デュエルディスクをDホイールに接続する事でスピードの中で進化したデュエル、決闘疾走(ライディングデュエル)の世界へとデュエリストを誘う。

 

それがデュエルモンスターズの聖地、童実野(どみの)市で流行らない理由はなかった。

アニメのように公道を使ったデュエルは余程のことがなければ認められないものの今海音がいるようなライディングデュエル用のサーキットは童実野市の各地に設けられている。

 

 

「よしもう一回」

独り言のような宣言に、背後から歓声と悲鳴が上がる。

 

順番待ちを無視された人間の声ではない。それは海音以外の誰にも聞き取れない声、海音のデッキにいるドレミコード達の、カードの精霊の声だ。

その声の、歓声だけを受け取って海音はハンドルを捻る。エンジンが激しく回転し気筒が甲高い音を立てて震えた。

 

はっきり言って海音のデッキはライディングデュエルには不向きだ。

しかし権利が無いわけではないし、海音にも走りたくなる時はある。最近は今まで以上にその欲求は強くなっているまであった。

それもやはり精霊の存在が見えるようになったからだろう。

 

Dホイールのスピードは夏の暑い日も冬の寒い日も、等しく冷たい風をぶつけてくる。

 

 

「マスター!CPU戦だしもうちょっとこのままでいていい?」

海音はソリッドビジョンとして場に出たファンシアの提案に頷きハンドルを強く握る。視界の先には積み上げられたソフトブロックの壁がここで曲がれと言わんばかりに立ち塞がっている。

 

速度を落とさずコーナーに突撃したDホイールが一気に傾き、触れたものを一瞬で削り落とすヤスリとなった地面が迫る。

まるで今にも壁を走るとばかりに側面に突き出したタイヤが高速回転し、コーナーを突破する。

その一連の流れにファンシアが歓喜の声を上げた。

 

Dホイールに紐付けされたソリッドビジョンを依代にしている彼女にかかる負担はデュエリスト以上のはずだ。遠心力によって弾き飛ばされるかのような感覚にも物怖じせずに歓喜の声を上げるファンシアは、ある意味想像通りだったが『そっち系』のようだ。

 

このように、ライディングデュエルには普通のデュエルでは味わえないものがある。カードの精霊達も人間と同じようにそれを感じ取っているのだ。

人間と同じようにそれぞれの感性を持ち合わせ、スリルに恐怖し、スリルに喜ぶ。そして風が心の汚れを振り落とす。

 

その感性は人間と全く同じだ。

意思伝達ができて、価値観を共有でき、互いを思いやることができる。多くの人に見えないだけで彼女達カードの精霊とは人間そのものなのだ。

 

 

そして人間と同じように、死ぬ。

人間と同じように、強い悪意によって簡単に死ぬ。

 

 

海音は以前、精霊の死を見た。

己のカードを破られ身体が引き千切れた《宣告者の神巫(デクレアラー・ディヴァイナー)》。カードだった紙片が踏み躙られ、ただの肉塊になるまで叩き潰された《宣告者の神巫》。

そしてクーリアから告げられた精霊の理。

 

カードと精霊は一心同体。

自分を宿したカードが破損したら精霊は死ぬ。

 

考えてみればそうなるのも当たり前なのかもしれない。

そうでなければ彼女達が『カードの精霊』である意味がない。カードに影響を受けないならそれは『ただの霊』だ。

 

今まで気付かなかったその当たり前が問題を掘り起こす。

ここには破られたカードはあまりにも多い。海音が使うペンデュラムモンスターカードやそれに関係するカードは特に多い。

 

 

デュエルディスクの実現によって遊戯王デュエルモンスターズは世界中で爆発的な人気を得た。

競技人口の増加は既存のデュエリスト達が持っている価値観がそのまま全世界に拡散された事と同義だ。

つまり、遊戯王アークファイブへの嫌悪感もそのまま拡散された。

 

曰く史上最低のカードアニメ、曰く遊戯王へのヘイト創作等等等。その作品に対する好評は指で数える程度もないが悪評は星の数ほどある。

そして遊戯王アークファイブがペンデュラム召喚を大々的に販促する作品だったが故に、人はペンデュラムからそれを連想する。

 

和歌を詠むためにあらゆる詩を嗜むように、そしてドイツの幼児にナチスとヒトラーへの憎悪を叩き込むように、彼らは『嫌悪』を『教養』に昇華させた。

そしてその透明な教養は、最後にこの世で最も大きい『愛』によって言語化された。

 

 

「アークファイブとかいうクソアニメを我々は認めない。ペンデュラム召喚もまた生まれてくるべきではなかった」

 

「過去の作品を愚弄し遊戯王を貶めたアークファイブ」

「かつて遊戯王を終わらせかけたリンクショックも元はと言えばペンデュラム召喚が引き金になったものだ」

「あのクソアニメさえなければ、リンクショックも起こらずに遊戯王はもっと早く、今よりも、いいものになっていた」

 

「我々は反省の意を示す。今の遊戯王に携わる者として」

「我々は反省の意を求める。古くから遊戯王を愛する者として」

 

 

その言葉を受けて遂に教養ある知識人達は行動を開始した。

楽園となったこの世界をより良くする為に。過去の過ちを繰り返さない為に。

 

 

それが正しいとされる世の中になった。

そしてカードが破られると精霊が死ぬ。

それはつまり、ペンデュラム召喚を使う海音の側にいる精霊達は他の誰よりも命の危険に晒されているということだ。

 

思い返せばクーリア達と出会った初めのデュエルも危ない戦いだった。確か『サレンダーするならカードを全て破れ』だとか言っていたか。

カードが破損したら精霊は死ぬ。言いつけ通りにカードを破っていたらそこで彼女達は死んでいた。

 

そう言われた時は当然無視したが、もしそのまま負けていたら海音がやらずともカードを奪われて破られていたのだろう。

それで彼女達は死んでいた。彼女達の事を知る前に真っ先にその死に様を知る事になっていたかもしれない。

 

 

 

逃げた方がいいのか?

そんな考えまで頭を擡げる。

負けた時のリスクが大きすぎる。

気心の知れた友人相手のデュエルでもなければいつでも他人の命を背負いながら戦わなければいけない。

 

いやしかし、それは他人には何と説明すればいいのだろうか。

『自分のおもちゃが壊されそうだから引っ越します』なんて言ったら引っ越す方の正気が疑われる。まして『カードの精霊が…』なんて正直に言い出した日には即、病院送りだ。

そんなものは他の人には見えていない。正直に話しても頭のおかしい人にしか見られないだろう。

 

 

いやそもそも自分の頭はもうおかしくなっているのではないか?

だからありもしない、カードの精霊なんてものが見えているのではないか?

 

自分の感覚が世間一般と違う事はペンデュラムを握った代償として十二分に思い知らされている。

世間一般の感覚からズレているからトラブルが起こり、世間一般の感覚からズレているから辛い思いをする。

今ペンデュラムを握っているのも、周囲の人間が言うように自分の頭がおかしいからで、頭がおかしいから常人には見えないものが見えているように感じているのか?

 

しかしそれでは以前、人を助けた時の力は何だったのか説明がつかない。

であればこの世界自体がよくアニメを貶す時に何の根拠もなく語られ支持されているようなもの、今自分が見聞きしているものは実は植物人間や統合失調になっている自分の妄想でしかないとか…

 

 

そこまで考えて、馬鹿馬鹿しいと中断した。

いちいち疑いだしたらきりがない。世界がどうこうと証明のしようがない事を考える以前に目の前のことを対処しよう。

今自分が採れる選択肢と改めて向かい合う。

 

 

全くデュエルをしない。

それも選択肢にはあるが、論外だ。

精霊はデュエルをするために生まれてきた。デュエルをしないというのは生きる理由を剥奪する事に等しい。

しかしデュエルには死が伴う。

 

 

カードを破くのはやめてくれと懇願してみる。

それも選択肢にはあるが、無意味だ。

説得というのは所詮言葉に過ぎない。言葉の受け取り方、使い方で何とでも曲解できてしまう。

 

『人の嫌がることはやめよう』等の小学生が学ぶような言葉を投げかけたとしても、『ペンデュラムを振り翳して先に人の嫌がることをしてきたのはそちらだ』と言われて簡単に破綻する。

快楽殺人鬼が人を殺してはいけないなどと言ってもその言葉に説得力が無いのと同じ。大袈裟で馬鹿馬鹿しいと思うが大抵のデュエリストの思考がそうなっているのが現実だ。

 

力で訴えかける選択をしないのであれば言葉を投げかけるしか出来なくなる。

言葉で投げかけることしかできなければ受け手の逃げ道は無数にある。

世界がこうなった時点で相容れない他人を言葉で納得させる事は不可能だ。

そもそも言葉で動く程度ならば世界は、こうはなっていない。

 

 

「勝つしかないのかな」

一番安易で幼稚な答えがそれだ。精霊を認識し始めてから引きが強くなったのもその為の力と考えれば納得がいく。

勝つことは楽しい。それは次のデュエルに繋がる。

負けたら死ぬのならば勝てばいい。勝てば次のデュエルに繋がる。

何であれ勝利は次のデュエルに繋がる。だから精霊は持ち主を勝たせようと力を使う。動機として自然だろう。

 

 

カードは使われてこそ、と以前クーリアは語っていた。

デュエルこそが彼女達の存在意義だ。彼女達の事を思うのであれば尚更自分はデュエルを楽しまなければならない。例え彼女達の命がかかっていようとも勝って楽しまなければならない。

 

 

そこまでの答えを引き出し、ひと段落ついたと盤面に視線を落とす。すると今度はその盤面が急に消滅した。

Dホイールのモニタに映るCPUの盤面も消滅し見知らぬ誰かの情報が代わりに画面を埋めると同時に聴覚も上書きされていく。

自分の意思では操作できない排気音が背景に加わる。今まであった他の音を全て弾き飛ばすかのように甲高く掻き鳴らしながら響く。

 

誰かのDホイールが接近してきている事を海音は知覚した。

 

 

 

「まだこんなところにペンデュラムの生き残りがいたか。せっかく気持ち良く走ってたのに一気に台無しだ」

 

 

所謂『乱入』だ。あらゆるゲームに搭載されているCPU戦より対人戦が優先され、進行中のゲームを途中で切り上げてでも対人戦を始める機能。当然それによるペナルティなど発生する事もないしこちらに拒否権もない。

 

 

「潰してやる」

「フィールド魔法《トゥルース・スピードワールド》セットオン!」

 

無になった盤面にカードが生成されフィールド魔法ゾーンに一人でに置かれる。

真なる速さの世界。まるで以前偽物のそれがあったかのような名前のカードが文字通り世界を形作る。

これこそライディングデュエルの最大の特徴でありペンデュラムがライディングデュエルに不向きとされる原因でもある。

 

乱入者のDホイールが海音のDホイールに追い付き並走する。否、Dホイール同士がお互いの速度と位置を合わせた。

乱入の意思を受け取り、画面の情報がリセットされた時点で最早デュエルは避けられなかった。

 

 

「「ライディングデュエル!アクセラレーション!!」」

 

 

瀬野尾海音 LP:8000 SPC:1

対戦相手 LP:8000 SPC:1

 

 

「こっちのターン!ドロー!」

 

瀬野尾海音 LP:8000 SPC:1→2

対戦相手 LP:8000 SPC:1→2

 

海音がデッキからカードを抜き取るとカウンターの表示が一つ増え、その数に応じるように二人のDホイールがスピードを上げる。スピードカウンター(SPC)とはその名の通り速さに直結しているのだ。

 

 

「手札から《魔界劇団カーテン・ライザー》をPスケールにセット!」

 

粗末な光の玉がフィールドに現れる。Pスケールの数値とそこにカードがある事だけ伝える投げやりな演出。

しかし変化はそれだけではない。

 

 

瀬野尾海音:LP 8000→7000

 

 

聞き慣れた、ライフを失う小気味良い音が慣れないタイミングで鳴り響いた。

これはライディングデュエルの性質に起因するものだ。

 

遊戯王5Dsに登場するフィールド魔法《スピードワールド》。先ほど実際に海音達がやったように、これがライディングデュエルが始まると同時に自動的にセットされる。

そのフィールド魔法の一番の特徴は『スピードスペル』という特別な魔法以外の魔法カードを使用した時にライフが失われる事。

実現したライディングデュエルも当然これを再現している。

 

そしてペンデュラムモンスターはスケールにセットする時には魔法カードとして扱われる。

つまりペンデュラムは展開するだけでライフを失い、ただそれだけしかしていないにも関わらず圧倒的に不利な状況に追い込まれるのだ。

 

 

ペンデュラムカードに適したライディングデュエルフィールドとして魔法カードを使ってもライフを失わない《スピード・ワールド-ネオ》と《クロス・オーバー・アクセル》があるにはあるが、それが実装される事は未来永劫無い。

 

何故ならそれらはアークファイブのカードだからだ。

魔法カードになるペンデュラムを使う都合上、既存のスピードワールドが使えない為に生み出された、言わば販促上の都合で生み出されたのが上記二種の新たなフィールドだ。

 

そんな事は知った事ではない。ライディングデュエルとは5Dsのものであるべきであり、再現されるのも当然そちらであるべきなのだ。

アークファイブの偽物のライディングデュエルではない。

わざわざペンデュラムに気を使う意味がわからない。

ゴミから生まれたゴミに気を使う必要はない。

それが大衆と製作者の考えだった。

 

 

とは言うものの、ライディングデュエルを現実に落とし込むにあたっての調整で全く戦えない状況にまでは追い込まれていない。

これは慈悲ではない。魔法カードに厳しい制約をかけてしまうと機能不全に陥るのはペンデュラムに限った話では無いからだ。

 

例えば単独でのアニメ化すら果たした超人気テーマ『閃刀姫』を始めとした魔法主体のテーマ、そして捲り札として重宝されている《禁じられた一雫》や《三戦の号》等等等。

人々はライディングデュエルによってこれらが失われるのは大きな損失と考えた。

そこでOCGルールから大きく逸れない形での新たな《スピードワールド》を作り上げることとなった。

 

 

まず速攻魔法は例外とされた。

次に毎ターン溜まるSPCを消費する事で魔法を『スピードスペル化』させるルールを制定した。

それによってライフの損失無しでも魔法が使用できるようになると同時にライディングデュエル専用の構築を組まなくて済む。

 

この仕様によって後攻は2枚までライフを失わずとも魔法が使える。先行制圧が有利とされているデュエルモンスターズにおいてそのメリットは普段のデュエルにはない特別な体験に繋がる。

 

その他諸々の調整の上、出来上がったのが新たなフィールド魔法《トゥルース・スピードワールド》だ。

ペンデュラムはその『おこぼれ』を啜る形で何とか息を繋げている。

 

 

だからこそペンデュラムでも工夫すれば戦えない事はない。それに『ドレミコード』のペンデュラム効果は永続効果、つまりセット後に発動してライフを失うという事もない。

しかも今手札には《宣告者の神巫(デクレアラー・ディヴァイナー)》がいる。彼女は海音のデッキの中で最高の初動札だ。《トリアス・ヒエラルキア》とのコンボが決まれば大型モンスターの召喚に繋げられる。

何より彼女はモンスターカード故にスピードワールドの効果を受けず最大展開が狙える。

 

海音にはカードに描かれた《宣告者の神巫》がこちらの視線に応じるように頷いたかに見えた。

その顔形は海音に死の記憶を想起させるが、あの個体とはまた別の個体。そして彼女もまた海音と共にする精霊の一人だ。海音の考えを汲んだ上で来てくれたのだろう。

 

 

「SPCを消費してカーテンライザーのペンデュラム効果を発動!デュエル中一回だけ自身を特殊召喚できる!」

 

瀬野尾海音 LP:7000 SPC:2→1

魔界劇団カーテン・ライザー ⭐︎4 ATK:1100

 

 

5。

モンスターが場に出ると同時に海音のDホイールが減速する。速度に差がつき相手のDホイールの背面が見えてくる。

SPCを消費した事で速度も失われ、デュエルでありレースでもあるライディングデュエル特有の敗北条件である『周回遅れ』へのカウントダウンが始まった。

相手のデッキが魔法を使わない罠デッキやフルモンスターだった場合、どんどん速度の差を付けられて相手の手が自分の背中に届きかねない。

 

 

「《宣告者の神巫》を通常召喚!そこから一気に展開*1する!」

 

「リンク召喚! リンク2! ヘビーメタルフォーゼ・エレクトラム!」

 

 

ヘビーメタルフォーゼ・エレクトラム L2 ATK:1800

 

 

4・3・2・1。

展開の要となるエレクトラムの召喚に成功した。リンクモンスターではあるが、『メタルフォーゼ』というペンデュラム召喚を用いたテーマでもある彼女はそれをサポートすることに特化している。

下二方向を差したリンクマーカーによって、スケールを揃える事が出来れば素材としてEXデッキに送られたキューティアやカーテンライザーの召喚も可能となる。

 

「手札の《ソドレミコード・グレーシア》をPスケールにセットしてエレクトラムの効果で破壊!代わりにエレクトラムがEXデッキに送っていたアストログラフを手札に加える!」

「またペンデュラムを出したな!ライフを減らせ!」

 

 

瀬野尾海音 LP:7000→6000

 

 

ペンデュラムスケールへのセットでまたライフが失われる。しかし手を止めている暇は無い。時間をかければかけるほど相手が自分の背中に迫ってくる。

小気味の良い音を聞き流しながら《アストログラフ・マジシャン》を場にセットした。

 

 

「現れろ!時空操りし魔術師よ!」

 

 

アストログラフ・マジシャン ⭐︎7 ATK:2500

 

 

0。

このターンで可能な限り妨害を立て、次の自分のターンでデュエルを終わらせる。短期決着こそ今自分が採れる最善手だ。

アストログラフの効果で今破壊したグレーシアを、エレクトラムの効果でランダムに1枚デッキから手札に加えてこの盤面を更に強化する。

 

「アストログラフとエレクトラムの効果でデッキからカードを2枚手札に加える!」

 

 

 

「ここだな?」

 

 

 

エンジン音が響くサーキットでもその言葉が嫌にはっきりと海音の耳に届いた。

それと同時に視界が赤く染まる。否、赤く光る何かにサーキットが照らされ出した。それが何なのかを確認する為に海音は視線を上に向けた。

 

空に漂う黒光りする巨大な隕石が摩擦熱で赤く輝きながら、その切先をこちらに向けながら、徐々に巨大化していく。

 

違う。巨大化しているように見えるのは遠近法による錯覚だ。この隕石が宇宙というはるか彼方から地上に近付く事でようやくその本来の大きさを人間が知覚し始めたというだけだ。

そしてその情報は、このまま地上に直撃するという事に他ならない。

 

上空の隕石が出す威圧感は、それが地表に直撃した時に起こりえる惨劇を何一つの間違いもなく予感させる。

太古に存在したと言われる生命体群を絶滅に追いやったと言われる一撃、実際に体験したことがなくともそれを予感させるのは先祖から受け継がれた本能という記憶があるからだろうか。

 

 

「手札から効果発動!お前の場にいる全てのモンスターをリリースして特殊召喚!」

 

手札に視線を移す。あれを止める方法が今の自分にあるかどうかを一瞬で模索する。

《抹殺の指名者》、あるいは効果を無効にするカード。特殊召喚だけでも無効にできるカード。そんなものは今の手札には無い。

 

 

駄目だ、止められない!

 

 

「傲慢なる者どもを消し飛ばし君臨せよ!原始生命態ニビル!!」

 

 

その言葉を引き金に、遂に巨大な隕石、ニビルがサーキットに突き刺さった。

 

*1
神巫効果トリアス墓地→神巫リリース、トリアスSS→神巫効果キューティアSS→キューティア効果→キューティア&カーテンライザーリリース、エレクトラムSS

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