想いは繋がれ、編まれる。
アビドス砂漠、その中核。
かつてそこに広がっていたのは、さまざまな家が並び、視界を埋め尽くすほどの大きな市街地だった。
しかし、幾度となくこの土地を襲った砂嵐によって、今見えるのは砂に埋もれた元住宅の残骸と、その上にわずかに舗装された道路だけだ。
(...ここ、以外にも来たこと無かったんだよなぁ)
そう内心呟く俺と先生は原作通り、アビドス砂漠で遭難していた。
来たことがないのは事実だ。
だけど、"遭難"には原作に沿わせるための建前で、行こうと思えば数秒で向かうことが出来る。
"英一、水持ってない,..?”
「...すまん、持ってない」
俺こと反転術式を使える術師は、回復と同時に無理矢理水分も限度はあるが回復できる。
だが先生は反転術式どころか、呪力すら"まだ"扱えていない。
(だが素質があるし...術式持ちと来た。ポテンシャルは計り知れない。)
そう思う俺には確かな確信と、覚悟が折り重なっていた。
...閑話休題。
(...ゆっくり進んではいるけど、シロコまだかな)
流石に大量の物資と先生を持って飛行することは出来ない。
座標圧縮も便利ではあるが、万能では無いし、視界が届く範囲で行使しないと、物質内に挟まったり圧死してしまう為危険だ。
(...流石に、何でも上手くいくようなチート能力じゃないんだよなぁ)
そんな他愛もないことを心の中で呟く。
直後、ドサッと言う鈍い音とともに先生が倒れた。
「もう無理...」
(...まさか、シロコイベ無いのか?)
溜息と共に言う俺も、この環境で厚着をするのは辛い。
だが六眼が後方に"既視感"のある神秘が検知した。
「えっと...大丈夫?」
カラカラと、ペダルにつながるギアが空回りする音を耳が拾う。
ふと後ろを見やると、眩しい太陽をバックに立つ一人の少女がいた。
砂狼シロコ、アビドス高等学校、その二年生に位置する生徒だ。
「あ、始めまして。」
「...ん。でもなんで、こんな所に?」
俺は心の中でガッツポーズをしながら手をひらひらと振り、挨拶をする。
シロコは質問を返すが、別に内容も、状況としてもおかしいことでもなかった。
まあ、普段アビドス砂漠にわざわざ来ようとする人は少ないだろうし、準備もしっかり行うはずだからだ。
「...実は、アビドス高等学校に俺と先生は用があったんだけど...遭難しちゃって」
「...そっか。じゃあ、久しぶりのお客様だ。あ、名前は?」
シロコは思い出したかのように言った。
「シャーレに所属している五条悠二だ、よろしく」
「!」
何かを思い出したかのように耳をピンと立てるシロコを横目に、俺は物資を呪力で強化した腕で持とうとする。
「...あれ」
持てない。
というより、凄い重たい。
(反転術式の使いすぎで、呪力が枯渇した...?)
やらかしちまった。
そんな気持ちを押し留めて、シロコに頭を下げる。
「...ごめんシロコ、これ持てるか?」
「? 分かった。」
「あと...これとこれとこれとこれと──」
「...」
「あでっ、なんで叩く、いででででっ...やめて、それなりに痛いから...」
叩かれはしたが、結局は持ってくれたことにはとても感謝している。
「そう言えば、私の名前...言ったっけ?」
「...ゆ、有名人だよ、アビドス砂漠の強者ってさ」
「ん...悪くない、気分」
「そっかぁ...」
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「...シロコ、あんだけ荷物あったのに速かったな」
アビドス高等学校、その校門を俺は視界に捉える。
「到着したな、懐かしい...」
校舎自体、砂埃自体はあるが整備されていたり、俺がいたときに剥がれていた塗装も、一部は塗り直されていた。
その事実が、この校舎が今もなお使われているということを感じさせてくれる。
「...ホシノは、元気...いや、そんな訳無いよな」
ふと、思わず出た言葉に、咄嗟に口を塞ぐ。
元気な訳ないのに、俺が元気を無くした原因そのものだと──分かっているのに。
「っ...ごめん──なんて、聞こえてないか」
誰も見ていないし、聞いていない呟きを零す。
気を引き締める俺は、変装に不備がないかを確認した上で、敷地内に足を踏み入れた。
砂地は、たった一人の怪物を迎え入れるように、足踏みと同時に舞い上がった。