悠二はアビドス校舎玄関を通過し、あたりを軽く見渡す。
ただ、それは何も意味を為さない。
何故なら──以前見た景色と、色一つ変わらなかったからだ。
「...ただいま」
黒を基調とした立ち襟ジャケット、そのポケットに手を入れ悠二は言う。
──おかえりっ!もう、待ったんだよ~?
──遅いですよ、どこで道草食ってたんですか?
悠二の耳には、そのように聞こえた気がした。
だけど彼の胸元には、もうアビドスの校章は刻まれておらず、数年前には揺れていた筈の学生証も見当たらなかった。
悠二はそのまま、静かにすまたを超え、階段へ向かう。
「──か─り─!?」
「う──!?─っ!──の────て────誰!?」
二階まで登った頃、耳を澄ませば騒がしい声が聞こえた。
「?」
少しずつ登る速度を早め、登り終えるとその音源先へと少し急いで向かう。
(...先生が何かやらかしたか?)
部屋の眼の前で彼は予想するが、それなら尚更その愚行を止めに入らなければいけない。
そう考えた後の悠二は速かった。
「先生ッ!何かあったなら...先......に.........」
開け放った扉を手で抑え、彼が叫んだその先では。
"や、やぁ...悠二"
「ん、さっきぶりだね...こっち来て。」
「あら、お客さんですか?」
「だ、だれっ!?」
「え、えっ?」
多種多様な目線を悠二に向けられる。
先生は苦笑いをしながら、手で後頭部を掻く。
シロコは純粋な笑顔を向けながら、座ってほしそうに膝の上を開ける。
ノノミは口に手を当て、正にお嬢様のような仕草で疑問を向ける。
セリカは耳をぴんと立て、警戒と驚愕を混ぜたような表情をする。
アヤネは大きく肩を震わせ、手に持っていたタブレットを落としかける。
「...ッ!?」
ホシノは悠二の立ち姿を見た瞬間、自身の顔から血の気が引いていくを感じ取った。
理由は單純で、かつて自分を取り残し、消えてしまった同級生に酷似しているからだった。
「...」
無言ながらも、ホシノの拳は机の下で固く握られた。
(...うん、髪の色は違う。でも、変装の為に染めた可能性もあるよね...)
そう考えた彼女は素早く、自身の元同級生の情報を眼の前にいる"蒼き最強の後継者"と照らし合わせる。
ただ、その素早く行われた思考はたった一つの違和感によって止めざるを得なかった。
────腕が、欠損してない...?
一年前、砂漠を捜索した途中の記憶が突然、ホシノの希望を突き放し、拒絶した。
現代のキヴォトス、数多の最新技術を用いたとしても、腕を丸ごと再生することなんて不可能だ。
その事実が、目の前に居る男が同級生とは別人であると結論づけてしまった。
「ッ───!!」
まるで、世界の色が失われたような錯覚にホシノは囚われる。
だが彼女は、そこから出たいとは思わなかった。
「...」
もう、一緒に出る相手は居ないからだ。