私「それは本当です?」
アロナ「ソカモナ!」
~三人称視点~
「なんで、せんせっ...」
"生徒のピンチに...駆けつけるのが...私の、意味だからさ..."
先生の言葉、容姿がホシノの肩を直接揺さぶっているようだった。
傷___焼けて、所々が血に滲む肌。
疲弊___息を切らし、呼吸も荒くなっていた。
正に満身創痍だ、ホシノは【そんな体では何も出来ないし、自分の身体を大事にして欲しい】と訴えた。
だけど先生の回答はホシノの予想していたものでは全くなかった。
"...私は無能なんだ"
「っ...!?」
突然先生の口をついて出た言葉にホシノは唖然とする。
【あの先生が?】という疑問が頭を埋め尽くした。
"戦闘では...前線の後方で、君達生徒の戦いを見て子供相手に、上から目線で指示を出すことしか出来ない。"
"そんな力なく、権限を与えられただけで生きながらえている汚い大人なん__「そうだ、ようやく分かったか、シャーレの先生」
「っお前は...!」
新たな人影の介入にホシノが声を荒げる。
その影の主は...カイザー理事だった。
「そんな無能の貴様は【アビドス砂漠で遭難し、そのまま衰弱死を遂げた】...そういう手筈になるからなぁ?」
理事は不気味な笑みを浮かべ、勝ち誇った目線で先生を捉える。
"それはどういう意味かな?カイザー理事"
「分かっているのだろう?貴様のような無駄に賢い大人は...これから起きることを」
理事は先生の怒りを孕んだ質問に、嘲笑いながら問い返す。
"う~ん、声が小さくてよく聞こえないな...?"
先生は逆に笑顔を返し、わざとらしく首を傾げ、聞こえなかったフリをする。
それは挑発だ、いつもの理事であれば意にも返さないレベルの。
「なッ!?馬鹿にしているのか...貴様ァ!!」
だが今は違った。
度重なる自慢の部隊に対する壊滅的な被害を目の前に、理事の器は崩壊寸前だった。
そして、その器は今崩れきった。
理事は怒りに身を任せ、先生に頭部に拳を当てた...筈だった。
"...遅いよ、そのご立派な義体のせいかな?"
ドゴォッ!!
その拳は先生の引っ張った"空間"によって伸び、捻じれ、自分の頰に返ってきた。
「がハァっ!?」
鈍い音が実験室に鳴り響き、理事は通路に打ち付けられた。
"...ホシノ、英一は知ってるかい?...実はね、さっき__"
この時、先生は見た。
暗い実験室、そしてホシノの奥にある屍を。
"...は?"
つい乾いた声を零す。
光を失った空色の瞳、失血で白くなった肌。
失われた、呪力。
それら全てが"死"という事実を証明していた。
"...っ!?"
その動揺に駆られ、肝心の敵に気づけなかった先生。
理事の拳に取り付けられたブレードが、先生の胸を切り裂いた。
「先生ッ!!」
ホシノの叫びが空を裂く。
"ッ...ぐぁっ..."
先生は痛みを紛らわすために身を捩らせるが、それは出血を加速させるだけだった。
"...っ私は、まだッ...ホシノに...ぐぅ゙!?"
理事は倒れ込み、傷口を手で塞ごうとする先生の腹部を踏みつける。
嫌な音が響く、骨を砕き、そして内臓がひしゃげる音。
「ククク...まだ終われないか?...だが、貴様の命ぐらい、わざわざ出向いてくれば刈り取るのは容易いことだ」
"..."
「ま、まってっ...せん、せ...?」
ホシノの救いであった先生は、もう喋らなかった。
「...邪魔者は片付いた」
まるで使い捨てた道具に言うような言葉の後、踏みつけた足を離すと、そのシャツは穢れていた。
鮮血に、紫色に、その遙か先には__
「ッ...お前えぇッ!!」
ホシノは発狂し、拳を構え理事に飛びかかるが、自身に取り付けられた拘束具がホシノを取り押さえる。
理事は暗転するホシノを嘲笑い、告げる。
「本当に、何も守れていなかったな!? ましてや同級生を殺すとはなァ!」
「ゔっ...うぅっ...!」
理事は見下し、暴言を浴びせ、軽蔑した。
ホシノの生きがいはもう、何もなくて、どこもかしこもズタボロだった。
もう自分の精神を支えてくれる存在はない。
残ったのは後悔と、壊された心だけだった。
「助けて、助けてよっ...英一...!」
泣きながら死体に祈る。
理事は静かな表情で、先生に近づいた。
先生のオーパーツを回収し、死体を灰すら残さずこの世から消すために。
でも理事は見たのは__
__背後に近づく六眼の光と、掻き消えた空気だけだった。
次回「二人の