あれから暫くして、ユメ...いや、ユメ先輩に
「私は外に用事があるから、これやっといて!」
書類を押し付けられ、それらを1人で黙々と捌いていた。
すると急にガラララと休憩室のスライドドアが開く音がする。
「あの...」
「ん...あ、ホシノか」
捌き終えた書類の角を揃えて引き出しにしまい、体を伸ばす。
ポキポキと凝り固まった関節が鳴る音が響いた。
「流石に殴り倒すのはやり過ぎたと思っています、仲直りをしませんか?」
(恐らくユメ先輩の助言もあるだろうが...ホシノはなんだかんだで優しいなぁ)
そんなふうに思いながらも、僕はつい、いつもの癖で口を滑らせてしまう。
「そうだよね、だって僕何もしてないし...」
その瞬間、ホシノが持つショットガンは"ガチャッ"と、コッキング音を響かせた。
その音は、僕の背筋を凍てつかせる。
「...その挑発を訂正する、それか──」
「えっ」
空調機器の風により靡くホシノの前髪、その隙間から見える瞳は、光が無いと共に怒りに満ちていた。
目前の恐怖そのものに、僕は正直弱音を吐きそうになった。
──否、なんとか晒さずに済みそうだった弱音は、直後、部屋に大公開されたが。
「──お前の脳みそを、今ここにブチ撒けるか...どっちがいいですか?」
ホシノはトリガーに指をかけ、じりじりと近づいてくる。
頭脳は自分に迫る危険度を即座に判断し、両手を挙げて叫んだ。
「ほ、本当にごめん! いつか何でもするから許して!」
ホシノは少しだけ輝きを取り戻した目で僕をじっと見つめた後、静かに拳を解き、口を開く。
「いつかって何ですか一体...はぁ」「怯えた姿、こんな感じなんですね...」
なにか言葉が聞こえた気がしたが、とにかく僕はホッと息を吸い、そして長く吐き出した。
どうやら"命の危機だけ"は回避できたようだ。
「許してくれたんだよ、な? ありが...」
ショットガンを未だにしまっていない事にふと疑問を持つも、感謝の言葉を伝えようとした瞬間。
僕が入学直後に張っていた帳が、侵入者を検知する。
数は...6人だ。
「...襲撃が来た、校門行くよ」
「...えぇ、もうボケたんですか?」
「ヘイローがないとはいえ早えよ...窓を見てから言ってくれ」
ホシノは"ヘイローは関係ないですよ..."と事実を交えた文句を言いながら、窓に手を伸ばし顔を出す。
「...え、ほんとに居るじゃな──ッ!?」
直後、休憩室の空気を揺るがす火薬の破裂音。
そして、飛んできた一線の弾丸、恐らく大口径のスナイパーライフル弾だ。
──その光に手を翳し、指先に軽く力を入れた。
ホシノに拡張術式の要領でニュートラルな無下限呪術を付与。
彼女に肉薄する弾丸は当たることはなく、目にも止まらず静止した。
「...ごめん、"窓を見てくれ"は軽率だったな」
背もたれの上部に手をかけながらゆっくりと椅子から立ち上がる。
休憩室に手をかけ、開く。
(...さて、一捻りしてやろうかな)
「はぁ...──えぇ?」
ホシノは僕の背後から引きつった顔で、無下限を解除しその場に落ちた銃弾と、"早く行くよー"と言う僕を交互に見る。
...正直、推しにその顔で見られると辛いのは僕だけじゃないだろう。
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「あの!手伝ってください!正直数が多いんですよ」
半分、この学校のことなんて、もう諦めてたし、これは冗談のつもりだった。
ヘイローも持っていない人間。
そして...明らかに無能な生徒会長。
一体、何ができると言うのだろうか?
「えー...しゃーないな」
けれど、返ってきたのは面倒くさそうな声色を含んだ、まさかの承諾。
「え、いや冗談ですよ!?死にたくないなら引っ込んでてください!」
半ば脅しのような叫び。
私が入学しようと思う前から、時折一人でいるユメ先輩の校舎に攻撃してきていたカタカタヘルメット団。
彼女らも、人を殺す...という行為に手を染める気は毛頭ないだろう。
何故ならここキヴォトスで、人を殺すことはとても重い罪に問われる。
「大丈夫さ、そんな簡単に死んだら、ヘルメット団も可愛そうだしね?」
でも、彼はヘイローのない男子を見て驚いているヘルメット団と私の思考を読んだかのように言う。
英一は一歩、二歩と前線に近づいているが、私も流石に、人が死ぬのは見たくない。
傍から見たら完全にお調子者の枯れを後方に退避させるため、銃弾を浴びてでも駆け寄ろうとしたその時。
───彼は、いつの間にか私の眼の前に居た。
「ホシノも心配、ありがとな」
「え、なっ...!?」
理解が追いつかない、何が起こったのだろうか。
「どういう__」
説明を求める暇も与えてくれず、英一は私の小柄な体を片手で抱き寄せる。
「ひゃっ!?」
「僕から離れないで」
突然の出来事に、彼の胴から感じる温もりに顔がふやけそうになるも...幸い、今彼に絶賛抱きしめられている、そのセクハラに私はこっちを何故か"心配そうに"見る碧眼を睨んだ。
「っ...セクハラもいい加減に───」
その怒りと言葉は、彼の発するたった二言に上書きされていた。
「───領域展開、無量空所」
意味の分からない言葉を、冷たい口調で告げた次の瞬間、黒い光、漆黒の球体らしきモノが私たちと不良たちを包み込む。
「えっ───」
一秒後、暗い空間内に煌めく星々と共に、空気が冷えた。
二秒後、流れ星のように、線を描いて後ろに吸い込まれていく光の粒。
ほぼ同時刻、ガラスの球体が砕けるように、景色が元に戻る。
「───」
「...まってマズイ、出血がっ──」
唖然とする私の傍で、気づけば彼は何故か自分の頭を押さえながら、何かを呟いていた。
追いつかない理解と同時に、溢れてくる、さっきの景色。
凄く、綺麗だった。
まるで私が、実際に宇宙の中心にいるような感覚。
「...え、す、凄───」
視点を、不良と彼に左往右往させて二回目。
彼は、静かに倒れていた。
「...え、英一さん?」
かがんで、揺さぶる。
「寝てます...?さっきのどうやったんですか。教えて下さいよ、ねぇねぇ」
更に揺さぶったし、頬をつねった。
でも、ピクリとも動かない。
「まさか、驚かす気ですか?...まったく、早く起きてください!」
なにかおかしい、何か違和感があるまま、続ける。
「...そろそろ起きないと蹴りますよ?さっきのセクハラの件も───
びちゃ。
彼の口から、何かが飛び散った。
背筋が凍ると共に、靴、そして靴下らへんに。
赤い何かが、ついた。
「...えっ、あの、あのっ」
血だ。
それも、とっても多くの。
「まって、血が...と、止まってください」
ポケットからハンカチを取り出し、口に当てる。
何秒経っても、止まらず、ゆっくりと出続ける。
彼の死を、ゆっくりと見せつけられるように。
「うそ...だ。じ、冗談...とか、ですよね」
血が、ずっと出てきて、もう。
止まれ
止まれ止まれ
止まれ止まれ止まれ止まれ
止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ
───私の冗談が、彼を殺した?
────なんで、なんでそんな、事が。
─────もうやめて、私から彼を奪わないで。
──────初めて私に本心で接してくれて、離れないでいてくれたのに。
下らないエゴを唱えていると、ようやく血が止まった。
でも、私の、手も思考も、止まっ、た。
か、彼の、息の根も、止まったみたい、だっ、た。
「...せめて、説明──して下さいよ」
私の涙は。
ユメ先輩が帰ってくるその時まで、終ぞ止まることはなかった。
次回「死の淵」
-追記-
この世界の過去ホシノは、原作の高圧的な性格と毒舌によって友達がいなかった設定です。
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