「綾瀬は女の子なんだからもっと女の子らしくしなさい」
父親に口酸っぱく言われていた気がする。嫌いと言うわけではないがその言葉は昔から好きじゃなかった。スカートを履くし髪は伸ばしてる。胸だって大きく育ってきた。女の子らしいはずだ。恐らく父親が指摘しているのは私の行動に対してだろう。
喧嘩は強かった。男子にだって負けなかった。ガキ大将の異名は私の為にあるんじゃないかと言うくらい強かった。だから彼が喧嘩している時に割って入って実力を見せつけた。私の方が強いんだって。女に守られてると相手は言うが、そんなお前は女に負けているじゃないか。情けない。
その喧嘩が彼との出会いだった。偶然に通りかかった公園で偶然喧嘩しているところを見つけて偶然助けただけなのに、偶然は奇跡に変わったんだなって今は思ってる。高校生となった今では、もう昔みたいに守る立場じゃなくて守られる側になってしまったくらい体格差は生まれてしまったけど。それでも良い。私はそれでも良いと思っている。彼の側に居られるなら。幼馴染みとしてではなくて恋人として側に居たい。そう思う様になった。だから勇気を出して思いをぶつけたかった。私の思いを聞いて欲しい。そして受け入れて欲しい。
でも現実はそんなに甘くなかった。彼の周りには多くの敵がいる。園芸部員、重工のお嬢様、巫女、従妹に実の妹……。何故彼の周りにはこんなにも女の子で溢れているのか。そして彼女達が彼に家族や友達以上の感情を抱いているのを知っている。そんなのは顔を見ればすぐにわかる。簡単には隠せない。
特に実の妹である渚は昔から彼にベッタリだ。2人はもう高校生なのに、実親がいないからって四六時中一緒にいすぎだと思う。登下校から食材の買い物に至るまで単独で行動していることなんてとても珍しい。
そして、次第に彼から引き剥がしたいという感情が芽生えてくるようになった。それは幼馴染みとして、友人として、そして恋人として。
告白はまだしていない。彼なら私のことを受け入れてくれるだろうと思っているけれど、勇気が足りない。断られるのではないかという思いが告白の勇気を邪魔している。でも、卒業までには必ず。
彼とはクラスが違うから下校時間に誤差が生まれてしまう。私の方が早くても何故か彼と下校時に会うことは少ない。稀に会えるけどそこには妹の渚がいる。だから休日に偶然を装って会うようにしているけど、やっぱり渚がいる。ほら、今日だってそう。隣には必ず妹がいる。
「あら、偶然ね」
偶然なんかじゃない。私は狙ってこの時間にこの場所で会えるように調整をした。
「どうも」
妹の渚は少しだけ頭を下げた。
「おはよう綾瀬」
彼はいつも通りに挨拶をしてくれる。
「おはよう二人とも。今日はお出かけ?」
「買い物です。食材とか」
ありきたりな返事が返ってきた。なら話は簡単。
「そうなの。じゃあ、私も買い出しだから一緒に行きましょうよ」
「え…」
渚の顔が少し強張ったように見えた。年を重ねるにつれて渚が私を避けているのではと思うことがあったが、間違いではないように思えてくる。
「一緒に買い物すれば楽しいでしょう?」
私の言葉に2人の距離が近くなったのを感じた。
今日は何かある。そんな気がする。
「どう?」
私は2人に詰め寄った。
「今日は渚と二人で行きたいんだ。ごめん」
「え、いいじゃんいいじゃん。一緒の方が」
「ごめん」
ふーん。そうなんだ。
「……なんかさ、最近付き合い悪くない?」
今日は少し攻めてみようかな。
「デートに誘っても断るしさ、家にも上げてくれなくなったじゃん。何で?」
出会った頃は家族同士で仲が良かった。幼稚園も学校もいつも一緒で、終わったあとはどちらかの家に上がって夕食を共にした。たまにはお風呂だって一緒に入ったこともあった。でも、いつからか。彼は私を少しずつ避けるようになった。家にあげてくれなくなったし、デートの回数が減って、もっと会う機会が減った。両親が他界したのは知っている。それでも会ってくれてもいいじゃない。
「……後で埋め合わせするから」
「埋め合わせって何よ」
私に開いた穴はそんなに小さくないんだからね。
「ごめん」
彼がそう言うと渚の手を引いて歩き出した。
「待って、話終わってないんだけど?」
私先回りをして二人の前に立ち塞がる。
「ねえ、私何か変なことした? やっぱり最近付き合い悪いよね? そんなに私のことが嫌いになったの?」
私は質問を投げ続けた。彼の表情が少しずつ暗くなるように見えた。
「話が終わるまで今日は…」と言いかけた所で電子音が響いた。私のスマートホンに着信だった。
「もしもし、いま手が離せな。ちょっと! え? は?」
私が電話に気を取られている間に兄妹は早足で去ってしまった。
「もう、いったい何よ」
『彼には手を出すな…』
刑事ドラマなどで良く耳にする機械で編集されている声だった。だから相手が誰なのか全くわからない。
「誰」
『誰だと思う?まあ、貴女にはわからないでしょうけどね、ふふ』電話越しの相手は不敵に笑う。
「"彼に手を出すな"ってどういうことか聞きたいのだけれど?」
『言葉通りの意味よ、"彼"は私の物だから』
「…は?私の彼氏なんだけど?」
『彼氏…彼氏って…ふふ』
何がおかしいのよ。確かに告白はしていないけれど彼は私の彼氏みたいな存在なんだから。
『まあいいわ。目的は達成したし、またね』
電話は一方的に切れた。口調や言葉選びを考えると女性だと特定できるが、心当たりがない。
「なんなの、本当に」