よりにもよってキノックかよ!   作:キノック老師

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プロローグ

 キノックという男をご存じだろうか。たぶん、ほとんどの人は知らないよな。

 

 小太りの一見温和そうな顔をしているが、原作ではその笑顔が胡散臭く見える絶妙な演技力で、画面に映る度お前裏でなんか企んでるだろ感が漂う、まぁ脇役ってやつだな。

 

 脇役だけど実は役職がエボン教の四老師。つまり、スピラという世界における超巨大宗教の中枢にいるエリートな訳で、実は結構な権力を持っているキャラではあるんだよ。

 

 元はあのアーロンと交友関係を持っていたってのもポイント高いんだけど、残念な事に彼は権力を持つことで人が変わり、自分の地位を守るために他者を蹴落とす残念な悪役になるんだよな。

 

 しかも彼の最後はあまりに呆気ない。シーモアの監視をするといってホイホイついて行っていつの間にか殺されているっていうある意味可哀想なキャラ。

 

 でも、個人的には嫌いになれない。

 なぜなら、キノックは「人間っぽい」からだ。

 

 理想を語っていた若者が、現実に揉まれて擦れていき、保身と出世に逃げる。それって、よくある話だ。

 

 ある意味スピラの闇を“象徴”する存在とも言える。

 

 理想だけでは生きていけない。かといって、現実に流されるばかりでは堕ちていくだけ。キノックはその“中間地点”で揺れていた男なんだと思う。

 

 ……とはいえ、ほいじゃお前怪しいから監視するねってついて行ったら殺されて終わりってのは、どうなんだ。

 いや、せめて何かこう、最期に゛自分の行いを悔いてアーロンに一言”くらいあってもよかったじゃないか。

 

 なのに彼は気づいたらシーモアの策略に嵌められて何もできずに死んでいく。ただの使い捨てポジション。ぶっちゃけ、ちょっと哀れ。

 

 まぁでも――

 

 そんな奴に、俺は憑依しちゃったんだよね。

 

 しかも時代はブラスカたちもまだ旅に出ていない。つまり、原作が始まる遥か前、すべてが“始まる前”の世界だ。

 

 そして何より驚いたのは、自分の体質だった。

 

 幻光虫が見えるだけじゃない。まるで、呼吸するたびに幻光虫が寄ってくるような……そんな感覚。

 

 最初は気のせいだと思った。でも祈祷の場で、俺の周囲だけ妙に光が強く、他の者の魔法とは明らかに質が違っていた。

 

 

 どうやら、俺の体質は“幻光虫との親和性が異常に高い”らしい。

 

 

 おかしな話だ。何故なら原作キノックにそのような能力はない。直接的な戦闘はなかったけどティーダ達に銃を向けるぐらいしかなかったしな。恐らく戦闘能力はないに等しい。

 

 グアド族が幻光虫を自在に操ることで知られているけど、俺はその彼らをも上回る制御力を持っていた。

 

 霊的な波長が極めて合っているのか、幻光虫たちが俺の意思に自然と反応して動いてくれる。

 

 その影響か魔法もやたら強い。 見習いの祈祷士が1日かけてやっと放てる中級魔法を俺は感覚だけで発動できた。

 

 属性操作の応用や、幻光虫を利用した空間感知なんかも直感で使える。

 

 まるで俺自身が、異界と繋がってるみたいだった。

 

 だが、それが何を意味するかはまだ分からない。ただの“現代日本人”だったはずの俺がこんな力を持っているのは、きっと何か理由がある。

 

 この力で運命を変えられるんじゃないか――そう思った俺は、勝手に“使命感”のようなものに燃えていた。己の努力次第でなんとか出来ると。

 

 しかし現実は甘くなかった。

 

 エボン寺院の内部を少しずつ見て回るうちに、想像以上の腐敗に直面したからだ。

 

 金と地位にまみれた僧たち。表向きには信仰に満ちた表情を見せながら、裏では誰がどの派閥に属し誰を出世させるかで陰口と根回しが飛び交っていた。

 

 ある日、上官の使いで儀式の調整役として議事堂に赴いた俺は、その場の空気に戦慄した。

 

 神聖なはずのエボンの場でまるで市場のように罵声が飛び交い、どの長老にどれだけ寄進したか"誰の召喚士が今注目株か”といった、信仰とは無縁の話題ばかりが繰り返されていたのだ。

 

 

 ここまで腐敗が進んでいるのかと頭を抱えたくなったわ。まじで。

 

 

 祈りと信仰の象徴であるはずの寺院が、実態は金と権力にまみれた旧態依然の組織だった。

 

 しかもそれが誰の目にも明らかなのに誰一人として本気で変えようとしていない。祈りとは本来人を救うためにあるものじゃないのか?

 

 それが今じゃ地位を守るための道具にされている。

 

 このままではダメだ。ブラスカが命を賭けて究極召喚を使い、その娘のユウナが同じ道を歩む未来。ティーダがすべてを知ってなお消えていく結末。原作のあの展開は悲しくも美しい物語ではあった。

 

 だがそれじゃいけないんだ。

 

 この世界は現実でゲームではない。

 そう現実なんだ。残酷なまでに。

 

 僧として修行の為にいった寺院からそう遠くない村がシンに襲われたんだ。

 

 酷いものだった。ゲームにあったように悲惨な破壊痕に罪のないスピラの住民たちの無惨な死体、生き残った人々の絶望と怒りの慟哭。

 

 俺は幻光虫との親和性が高いからなのか死者の無念の声、理不尽に殺された怒りの声がダイレクトに伝わり、苦しくて悲しくて頭がどうにかなりそうだった。

 

 それでも俺はなにか出来ないかと感覚的に幻光虫を操った時、召喚士だけが出来る異界送りを自然とやっていたんだ。

 

 その光景を見た高官の反応は驚愕というより畏怖に近かった。

 

 見習いのくせに正式な儀式も経ずに異界送りを成し遂げた――そう思われたのだろう。

 

 だが、俺としては必死だった。ただ、目の前の苦しむ魂をどうにか救いたかった。それだけだ。

 

 ……だがこの出来事が、皮肉にも寺院内で俺の存在を“異端視”させる引き金になった。

 

「キノックという若者は、何か奇妙な力を持っている」

「異端かもしれない」

 

 そんな話が、壁の向こうから聞こえてきた……ような気がした。

 

 いや、気のせいじゃなかった。廊下を歩いてる時、上官とその取り巻きが俺の名前を出して話してたんだよ。

 

 声はひそひそだったけど、あの空気のピリつき方は絶対に“歓迎”じゃなかった。むしろ“要注意人物”完全にマークされてるって感じだった。

 

 ──異端。

 

 エボン教でこの言葉が出たら終わりってレベル。「お前、教えに背いたよね? じゃあ異界送りね!」ってノリになるのがこの世界のこわいところだ。

 

 ほんと、冗談じゃないっての。

 

 だけどさ、だからって黙って見てられるかって話なんだよ。

 

 自分の立場守るために知らん顔するのが“正しい”わけ? 俺が見たのは村を襲われた人たちの叫びだ。

 家族を失って泣いてる子供、親を亡くして呆然としてる人、助けを求める声と消えていく命。

 

 俺は……それを“なかったこと”にできない。

 

 そりゃ、今の俺にできることは多くない。力も地位も経験もない。ただの見習い僧だよ? しかも憑依してきた身だから、中身はただの元リーマン。やってることも全部手探り。

 

 でも、それでも、何かしなきゃって思うんだ。

 

 放っておいたら、また誰かが死ぬ。あの絶望の輪が回り続ける。それを止められる可能性がほんのわずかでもあるなら、無視なんてできるはずない。

 

 変えるよ、この世界を。腐りきった寺院も、自己保身しか考えてない坊主どもも、そして何より“死ぬしかない”って刷り込まれてるこの構造も。

 

 どれだけ時間がかかっても、どれだけ面倒でもどれだけ反感を買ってもやってやるさ。

 

 たとえそれが寺院まるごと敵に回す道だったとしても、俺は絶対に止まらない。

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