よりにもよってキノックかよ!   作:キノック老師

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第一話「追放されたんだが?」

 突然だが俺は今孤島にいる。

 もういきなり過ぎて何がなんだがって思うよな。俺もそう思う。

 

 島に送られたのは異端視されてからわずか数日後のことだった。

 名目は療養と休職だが建前なんて意味はない。実質的な左遷ってやつだね。

 

 船で連れてこられたのはエボン教の管轄外にある孤島――バージ=エボン寺院。

 名の通りかつては寺院として機能していたがシンに襲われて廃墟と化した寺院だ。

 

 なぜ知っているかって? この場所に運んだ奴がそれはもう懇切丁寧に教えてくれたからだよ。

 たぶん嫌がらせのつもりなんだろうな。見た感じまじで廃墟しかないし魔物もウロウロしていたりするから安全面は皆無と言ってもいい。

 

 こんな所で休養? まじでふざけてる。

 

 そんなこんなでぽいっと荷物も持たせずこの孤島に置いてかれた訳なんだが。

 ここで思いがけない出会いがあった。

 

 ――小さなシーモアとその母がいた。

 

 もう最初見た時はビックリしすぎて固まってたからな。そのせいでちょっと怖がられたけど。

 それでも俺はこの出会いに感謝したい。

 何故ならあのシーモアの運命を変えられるかも知れないからだ。

 

 シーモアは保守派のグアド族から迫害を受けてこの孤島に追放されたはず。まぁ父親であるジスカルが母子を守るために追放という形でこの島に避難させたってのが実情みたいだが。

 

 でも幼いシーモアからすれば自分と母を見捨てたクズ野郎って感じに思ってそうなんだよな。

 だって大人になったシーモアは父親であるジスカルを殺害し、エボン四老師の座を奪っていた。

 

 それは自分が計画していた事を遂行するのに必要なことでもあっただろうけど、私怨がなかったとは言えないだろうな。

 

 まぁそれ以上にやばいことを物語後半になってやらかしているんだけど。

 取り敢えず今出来ることはただ一つ。

 

 シーモアと仲良くなろう!

 

 

 

 

 

「僕と母様に近づくな!!」

 

 

 全然仲良くなれない件について。

 

 絶賛シーモア君から警戒と拒絶を受けています。

 幸いなのはシーモア君の母君からはそこまで警戒されていないことかな。

 

 一応外の魔物を倒して安全を確保したり、外に出歩けない二人に変わって食べ物なんかも調達しているから、悪い印象は与えていないと思う。

 ただシーモア君は今まで差別や迫害といった悪意に晒され続けたから、母以外信じられる人がいないんだろう。

 

 可哀想な話しだ。

 彼が一体何をしたのか。ただグアドと人間のハーフというだけで幼子を相手にここまでの仕打ち。未来の彼が厄災を振りまくとは言っても、今の彼にその罪はない。

 

 だからお友達第一号になろうと色々手を変え品を変え関わろうとしているんだけど、どれも不発。

 なんなら嫌われてないか? これ。

 

「えぇっと、俺はただこの甘くて美味しい果物をお裾分けしようと思って」

「いらない」

「いやでもこれ本当に美味しいんだ」

「いらないって言ったらいらない!」

 

 取り付く島もない。これじゃあ仲良くなるのは難しいなぁ。

 思わず頭をポリポリ掻いて困っていると、奥の部屋から女性が現れる。

 

「こらシーモア。キノックさんに失礼でしょ」

「で、でも母様」

「でもじゃありません。すみませんキノックさん」

 

 シーモアを叱りつけた後、こちらに頭を下げる母君に俺は慌てて首を振る。

 

「いやいや自分は何も気にしていないので顔を上げてください!」

 

 じゃないとシーモア君の目でも殺せるんじゃないかと言う眼光が収まらんて。

 

「本当にすみません。キノックさんがいなかったら今頃私達だけでは……」

 

 言葉の続きを彼女は濁したが何を言いたいかは察せられた。ここがどれほど過酷な島か住む者でなければ分からない。

 

「いえ、俺は好きでここにいますから。大丈夫です」

 

 少しばかり見栄を張ったがまぁ嘘でもない。俺には俺の目的がある。この世界を変えるっていう大それた目標が。

 

 その日の夕食は俺が用意した。

 干した魚と野菜の煮物、そして例の甘い果実のデザート付きだ。

 シーモアは相変わらず口数が少ないが黙って箸を動かしていた。

 

 それだけでもちょっとは進展だと思いたい。

 

 日々の暮らしは単調だ。

 朝になれば木の実を採りに森へ行き、午後は干物作りや薪割り、母君の体調管理。そして夜は小さな星を眺めて過ごす。

 

 そういう中で少しずつ、ほんの少しずつだけどシーモアも柔らかくなってきた気がする。

 

「……あの木の実、甘いの?」

 

 夕方、焚き火の前で俺が果実を切っていると不意にシーモアが訊いてきた。

 

「ん? ああ、これは前よりちょっと酸味あるけど、焼くと甘くなるタイプだな」

「……ふぅん」

 

 言葉は少ないが、それでも話しかけてくれるだけで進歩だ。

 この調子ならあと一週間もすれば一緒に笑えるかもしれない。

 

 ――なんて思っていた矢先だった。

 

 その日は天気が良くて、母君が久しぶりに外の空気を吸いたいと庭に出た。

 俺は薪を拾いに少し離れた林の奥まで足を運んでいた。

 

 すると――異様な気配が走った。

 

 魔物の気配だ。

 

 幻光虫の反応で察知した俺はすぐさま薪を放り出して神殿跡地へ駆け戻る。

 そこにいたのは牙を剥いた狼のような魔物と、石壁の陰に逃げ込んだ母君の姿だった。

 

「っ……クソッ!」

 

 武器は持っていない。だが、魔法は使える。

 俺は両手を広げ幻光虫を集める。雷のエレメントを引き出し魔物の目前で炸裂させた。

 

 雷撃が魔物を貫き黒煙とともに吹き飛ばす。だが、一発では倒しきれない。

 魔物は咆哮をあげてこちらに飛びかかってきた。

 

「そうだ、こっちに来いっ……!」

 

 俺はとっさに壁を作った。幻光虫を固めて生成した即席の魔法障壁。

 ギンッ! と牙が弾ける音を響かせる。

 魔物が怯んだ隙に今度は氷魔法ブリザドを打ち込む。

 

 ──凍結。

 

 魔物は氷像となり、少しの時間を置くと氷と共に粉々に弾け飛んだ。

 

 ふー……ま~じで焦った。

 

 一度顔を叩いて落ち着かせた俺は呆然と座り込む母君の安否を確認するために駆け寄る。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 彼女は力なく頷く。

 恐怖からか彼女は手を震えながら俺の腕に添え「……助けてくれて、ありがとう」と微笑んだ。

 

 強い人だ。怖かったろうに気丈に振る舞っている。

 不幸中の幸いなのは見たところ傷らしい傷がないことか。

 

 間一髪って所だったな。

 間に合って良かった。思わず深い溜め息を零すと遠くからシーモア君の声が響く。

 

「母様!!!」

 

 その目に涙を堪えながら走り寄る姿に、母君は腕を広げて迎えた。

 

「良かった。本当に良かったよぉ」

「心配を掛けたわね。でもキノックさんが助けてくれたから、もう大丈夫よ」

 

 静かに涙を流すシーモア君に彼女は優しく頭を撫でる。

 

 改めて彼女を救えて良かったと胸を撫で下ろした俺はその場を離れようと踵を返した時、服を引っ張られる。

 なんだろうと振り返ると、涙で目を赤くしたシーモア君がこちらを見つめていた。

 

「母様を助けてくれて、ありがとうぉ」

 

 とても小さな声だったが、俺の耳にちゃんと聞こえた。

 

「どういたしまして。もう大丈夫だからな」

 

 返事をした後、彼は安心したように母の腕の中で眠るように意識を落とした。

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