ことね「元アイドル志望にVtuberは荷が重いデス……」   作:とるてぃーや

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プロローグ
第1話 夢の終わり


 夢があった。アイドルになって、お金持ちになって、もっと豪華なご飯が食べたいなって思ってた。だからあたしは実家を離れて、アイドルを目指す為の学び舎である初星学園に入学した。

 

 あたしなりに全力で臨んだとは思う。レッスンは入れられるだけ入れたし、学費を賄う為にバイトも頑張った。勉強の方はちょっとアレだったけど。まあ、赤点は取らなくなったし。

 

 それでも、結局最後は夢を叶えられるやつとそうじゃないやつに分かれちゃうわけで。

 

 ――そしてあたしは、大多数の側だったみたい。

 

「はい。ありがとうございました」

 

 審査員の冷ややかな声。ステージでのパフォーマンスを終えたばかりで、まだ呼吸が整っていない中でも、その声はスッと頭に入ってしまう。もはや、結果は明らかだった。

 

 初めて中間試験を突破して、最終審査に進むことができた。クラスメイトの助力もあって、今までで一番調子が良かった。だから、もしかしたら……なんて思った。

 

 でも、そんな甘くはなかったみたい。控室で淡々と結果を告げられ、あたしの最後の挑戦はあっさりと終わった。

 

 残ったのは、あたしのわがままで積みあがった借金と、お父さんが失踪したという最悪の結果だけだった。あまりにも真っ暗な未来に、変な笑いが漏れる。

 

 本当に……どうすればいいんだろ。

 

***

 

 未だひんやりとした空気が漂う4月の朝。教室の窓からはたっぷりと日が差し込み、遠くからカラスの鳴き声が聞こえる。

 

 そんな中、あたしは背中に多くの視線を感じながらもカツカツとチョークで黒板を鳴らす。名簿に書いてんだから黒板にあたしの名前書く必要とかねーだろ、なんて思いつつも担任に促された以上は素直に従うしかない。

 

 あの日から季節が巡り、新学期。高校2年生になったあたしは、服装の指定がなかったが故に私服だった昨年度とは打って変わって、どこにでもありそうな紺色のセーラー服を身に纏っていた。

 

「藤田ことねでーっす! これからよろしくねー!」

 

 自身の名前を刻み終えた黒板の前。そこに立つあたしは、自然かつ明朗な笑顔を振り撒きながら、無難に転校の挨拶を終えた。

 

 こういうとき、大事なのは変に目立ったことを言わず、人当たりの良さそうな感じをアピールすることだ。かつて人脈作りを兼ねて様々な人たちと交流してきたあたしにとっては、それくらい朝飯前だ。まあ、朝ごはんは食べてきたけど。

 

 まばらに拍手が響く。まあ、高校生の転校なんてこんなもんか。新学期だからクラスも変わったばかりだろうし。あたしは担任に促されて、席に戻った。

 

 それにしても、年季の入った教室だ。机はひっかき傷やへこみがちょいちょいあるし、椅子も脚の長さが揃ってなくてガタガタする。すぐ側で並んでいる窓も、金具がかなり古い型だ。

 

 100プロがバックについている私立の初星と、都心部から離れている地元の公立。その差は明らかだった。改めて、あたしはもうアイドルの卵ですらないことを突き付けられた気がする。実際、この学校にはレッスン室なんてものは存在しないのだから。時間割を見ても、アイドルに関連するコマは1ミリも存在しない。

 

 ……ああもう、いい加減忘れろあたし。もう終わったことなんだ。切り替えろって。

 

 進学にしろ、就職にしろ、これからは勉強を頑張んなくちゃいけない。今まで手が回ってなかった分、どうにかして追い上げないといけないんだから。

 

 ……マジで自信ないけど。

 

 こっそり、目線だけで周囲を見渡す。小学校以来の地元だから自信はないけど、知り合いは多分いないっぽい。それを確認できたあたしは、内心ほっとする。可能な限り知り合いを避けたくて、少し離れた高校を選んだ甲斐があった。

 

 当時のクラスメイトなら、あたしがアイドルを目指していたことや、初星に行ったことを知ってるやつはたくさんいる。なにせ、あたし自身が喧伝してたのだから。そんなあたしと地元の高校で顔を合わせるもんなら、めんどくせーことになるのは間違いない。

 

 残りの高校生活くらい、平穏に過ごさせてほしい。だから自分から言うつもりは絶対にないし、先生たちにも口止めをお願いした。

 

 しかし、結局いくら隠したって噂というのはどこからともなく広がるものらしい。

 

 それを実感するのは昼休み、偶々席が近いという理由で仲良くなった子と机を合わせながら一緒に昼食を食べているときのことだった。

 

「ねえ、藤田さんってあの初星学園に通ってたってほんと?」

 

「え、ちょっと待って。どっから聞いたのそれ?」

 

「さっきの選択授業で、藤田さんと同じ小学校だったって子が言いふらしてたよ。平田さんって子なんだけど」

 

 うわ、思い出した。小6でクラスメイトだったやつだ。あんま仲良くはなかったけど、別グループのリーダー格でスポーツが得意なやつだったのは覚えてる。

 

 そりゃ何人かはいるよなぁ。めっちゃ遠いとこにしてたらこんなこともなかったかもしんないけど、それは交通費やら通学時間を考えたら、流石になしだったし。

 

 変に否定したら、逆に浮いちゃうかな。いきなり学校内で孤立するのは避けたいし、仕方ないか。

 

「いやーまあ、実はそうなんだよね。結果は見ての通りなんだけどさ」

 

「えーでも、藤田さん可愛いし、化粧も綺麗だし、全然今でもスカウトされそうだけどなー」

 

「あはは、サンキュー。けどさ、ぶっちゃけそれだけじゃダメだったんだよね。周りだって可愛い子ばっかだったし、しかも歌とかダンスとかめちゃくちゃ上手いし。流石天下の初星学園、って感じでさ」

 

 こちとら勉強時間を犠牲にして、レッスンを詰め込めるだけ詰め込んだってのに、一向に伸びなかったし。方や、高等部からの入学なのにあっという間にライブまで行ったやつもいるし。

 

 不公平とは思わないけど、惨めだった。中等部込みで4年間やったのに、こんな簡単に追い抜かれるものなんだと。

 

「知れ渡っちゃったもんはしょーがないけどさ、それでもあんま言いふらさないでくれると嬉しいな。まだちょっと傷心中だし」

 

「あ、そうだよね。ごめんね、急に聞いちゃって。あの初星にいたんだと思ったら、すごく気になっちゃって」

 

「いいよいいよ。あたしだって同じこと思っただろうし」

 

 不幸中の幸いか、この学校最初の友達には恵まれたらしい。概ね和やかな雰囲気のまま、残りの昼休みを過ごすことができた。

 

 しかし、そんな束の間の平穏はその日の放課後に打ち砕かれることになる。それは、バイトに向かおうと下駄箱に向かったときのことだった。

 

「久しぶりじゃん、藤田」

 

 聞き覚えのある声ではなかった。だけど、その声の主の顔を見たらすぐにピンと来た。

 

「もしかして、平田さん?」

 

「ああ、そうだよ。よく分かったね」

 

「まあ、なんとなく」

 

 当時と違って髪をショートにしているし、染めてるのか過去の記憶と比べると幾分か明るい気がする。

 

 それでも、雰囲気はそんなに変わってないし、彼女のこの特徴的なキツネ目は忘れようがなかった。

 

「それで、どうしたの? 申し訳ないんだけど、この後バイトあって」

 

 部活に向かう前なのか、肩にはエナメルバッグをぶら下げている。それに、平田の背後には同じような恰好をした2人組が立っていた。意地の悪そうな、ニマニマとした視線を向けてくるのがうざったい。

 

「いや別に? ただ、本当にアイドル辞めたんだなって。全然ニュースになってなかったから、まだ続けてんのかと思ったよ」

 

 小馬鹿にしたような言い方。いや、どうせ小馬鹿にしてるんだろうな。最低限の猫かぶりすら面倒になって、嘆息する。

 

「そうだけどさ、それいちいち言いふらす必要あったわけ? アンタに関係ないじゃん」

 

「あんたのこと聞かれたから答えただけじゃん。悪い? アイドルなんて目立ってなんぼなんだから、これくらい慣れてるっしょ?」

 

 なにコイツ。別に仲は良くなかったけど、ここまで嫌なやつでもなかった気がするんだけどなあ。それとも、知らなかっただけなのかな。よりによって昔の知り合いがこんなだとは。

 

 平田のことをどうでもよかったやつから嫌なやつへと格下げしてると、彼女は一歩詰め寄ってくる。その気になれば頭突きをお見舞いできそうなくらいの距離。

 

「で、実際んとこ天下の初星学園はどうだったわけ? やっぱり、ちょっと可愛いくらいじゃどうにもならなかった?」

 

 やっぱりってなんだよ。成績はそりゃマジでヤバかったけど、あたしは初星でもめっちゃ可愛かったっての。

 

 なんだかもう、相手すんのもめんどいな。適当に切り上げて、早くバイト行こ。

 

「そうかもね。んじゃ、マジでバイト遅れるからこれで」

 

 まだなにか言いたげな様子だったが、無視して靴を履き替え、とっとと平田たちから離れる。流石にわざわざ追ってくるほど暇ではなかったようだ。ひとまずは安心だ。

 

 ってか、なにがしたかったんだよアイツ。アイツになんかした覚えなんてねーけど?

 

 なけなしのバイト代で購入した自転車を駐輪場から引っ張り出し、校門を出る。本当はバスの方がいいんだろうけど、定期代を考えたらこっちの方がまだマシだった。

 

 ハンドルを強く握り締め、気持ち速めにペダルを漕ぐ。頬を撫でる風が心地いい。それだけでも、多少は気が紛れる。

 

 アイツの言い方はムカつくけど、言ってることはただの事実だ。実際、なにも言い返すことができなかった。

 

 4年間必死にやって、人気アイドルの登竜門であるN.I.AやH.I.Fどころか、学園内の定期公演の選考すら勝つことができなかった。

 

 ライブらしいライブなんて、寮近くの商店街のイベントで設けられた小さなステージでしかできなかった。そのライブにしたって、観客は数えられる程度のものだった。

 

 地元に帰ると告げた際の、バイト先でもあった商店街のおばさんの顔を思い出す。慰めの言葉も励ましの言葉もなかった。ただ、寂しそうに「元気でね」と言ってくれた。そんな顔をさせてしまったのが申し訳なくて、いたたまれなくて、足早にその場を去ることしかできなかった。

 

 もうちょっとだけ、あたしに才能があれば。もうちょっとだけ、時間があれば。もうちょっとだけ、バイトを頑張っていたら。そしたら、またなにか違ったのかな。

 

 あの日、現実を受け入れたつもりなのに。終わったことなんだと、度々自分に言い聞かせてきたのに。こんなことばっかり思い浮かぶ。

 

「っ……はぁ」

 

 胸が苦しい。歯が軋む。目の奥が熱い。

 

 諦めようとしてんだから、忘れようとしてんだから、ほっといてよ。なんでわざわざ思い出させんだよ。嫌味かよ。いや、嫌味か。なんでこっちのこと嫌ってんのか知らねーけど、こっちだって嫌いだよ。

 

 大きく息を吸い、モヤモヤを一気に吐き出す。それを何度か繰り返せば、次第にかさぶたが傷を覆ってくれる。これで、また痒くなるまでの間は忘れていられる。

 

「雨、降んのかな」

 

 空を見上げれば、一面曇り空だ。それに、先ほどから少し空気が湿ってる気がするし、匂いもそれっぽい。信号待ちの横断歩道の向かいにいる男の人も傘を持っているっぽいし、自転車は失敗だったか。

 

 降ったとしても、バイト終わりまでに止んでるといいけど。

 

 信号が変わったのに合わせてペダルを強めに踏む。一向に渡ろうとしないさっきの男の人を見て、変なの、と思いつつも通り過ぎようとする。

 

 ――そのときだった。

 

「あ、待って、ストーーップ! どうか俺の話を……!」

 

「は? はぁあああああ!?」

 

 目の前に飛び出してきたのは、ちょうど通り過ぎようとした男の人だった。ジャケットを着ていて、少し年上くらいに見える。こちらを静止させたいのか、両手を大きく広げて進路を遮っていた。

 

 反射的にブレーキを握り込む。まだあんまりスピードの乗ってないタイミングでマジでよかった。全身に強い衝撃が走りながらも、ギリギリ男に触れるくらいで止まることができた。

 

「っ……こんの、危ないじゃないですかー!?」

 

「いや、マジで悪い! 最初は普通に声かけたんだけど、全然気づいてくれねーから、仕方なくだな……」

 

「仕方なくで自転車の前に飛び出すやつがいますか普通!? この自転車買ったばっかりの新品なんですからね!?」

 

 それに、ぶつかって怪我でもさせていたら、賠償やらなんやら絶対めんどいことになってたし。

 

「本当に悪かったよ。やっとこさ見つけたもんだから、どうしても我慢できなくってな」

 

「次から気を付けてくださいよ、ほんと。……あれ? えと、見つけた? あたしのことです?」

 

 男は頷く。記憶の中を探るが、見覚えはない。多分、初対面の筈だ。

 

 ……ナンパかぁ? そんぐらいしか思いつかないけど。念の為、すぐに漕ぎ出せるように構えておく。

 

 しかし、そんなあたしの心配はお見通しだったのか、男は苦笑いを浮かべながらジャケットの内側に手を入れている。

 

「こんな状況じゃ疑われてもしょうがないけど、別にナンパじゃねーよ。ほら、これ」

 

 そう言って差し出されたのは、1枚の名刺だった。恐る恐る、摘まむようにしてそれを受け取ってそれを見てみる。

 

「……エ……ト……株式会社、バーチャルサティスファクション? の、社長の峰岸さん?」

 

「まあ、今は俺1人だけの会社だけどな」

 

 ばつが悪いのか、片手を後頭部に回しながらそう告げられる。

 

 うーん、社長かって言われると、ほんとにそうかぁ? と言いたくなるような身だしなみだ。多分ジャケットはそこらで売ってる安物っぽいし、そもそも中に着てるのがTシャツな上に下はくたびれたジーパンだし。

 

 こうして改めて見ても明らかに数歳くらいしか離れていないように見えるけど、1人なら社長ってことも一応あるっちゃあるのか? 初星のプロデューサー科にも、大学生くらいの人が割といるらしいし。

 

「ひとまずは分かりましたケド、なんの用ですか? 実は、今バイトに向かっているとこでしてぇ」

 

「あ、そうだったのか。わりぃわりぃ。なら一旦、手短に用件だけ言わせてもらうわ」

 

 彼は居住まいを正すと、一言だけこう告げるのだった。

 

「お前、Vtuberに興味はない?」

 

「……いや、ないですケド」

 

***

 

 バイトが終わり、外はすっかり暗くなっている。本来なら真っすぐ家に帰るのだが、今日は違う。

 

 肉が焼ける心地いい音。脂の甘い香りと煙が鼻をくすぐり、腹の虫が鳴る。

 

 焼肉なんてどれくらいぶりだろう。しかも、個室のおしゃれなとこだ。周囲に話し声が聞こえないかららしいけど、単純に目の前で焼けている肉から目を離せない。

 

 ……あの後、峰岸さんの誘いを断ってバイトに向かおうとしたのだが、それからも驚異的な粘りを見せて食い下がってきて、本当に遅刻しそうになったので、バイトが終わった後に話を聞くということで解放してもらった。

 

 雨が大降りになって、諦めて帰ってくれてたらいいなぁ、と思っていたけど、残念ながらバイトが終わるころにはすっかり上がっていたし、峰岸さんも普通に待っていた。

 

 すんげー嫌だけど、約束は約束だ。ついでに夕食を奢ってくれるというので、そのまま素直に付いて行ったら、なんと焼肉店だったのだ。

 

「でもぉ、ほんとにいいんですかぁ? 多分、結構しますよねー?」

 

「確かにそんな余裕があるわけじゃねーけど、わざわざバイトの後に時間もらってんだから、これくらいはしないと釣り合わねーよ」

 

 そう言いながら、焼けた肉を何枚か皿に置いてくれる。お礼を言ってから、その中の1枚をタレにつけてから口に運ぶ。

 

 ふぅわぁ~~、おいひぃ~~。口の中で肉がとろけて美味しいで満たされる。バイト終わりの体にこれはマジでやばいって~~。

 

「えへへ、やっぱりこれ、ナンパなんじゃないんですかぁ~?」

 

「だから違うっての。大体、制服の子にナンパとか、マジであぶねーやつだろ」

 

 軽口を叩きつつも、この後に大事な話が待っているのは間違いない。その証拠に、峰岸さんはお酒を一切頼んでない。それに、個室と言っても扉の一部はガラスになっていて外からも様子が窺えるので、そこまで警戒する必要もない。

 

 そうやってしばらくは雑談を交えながら互いに肉をつつく。腹の具合が落ち着いてきたころ、峰岸さんの方から話を切り出してくれた。

 

「一応聞くけど、Vtuberは知ってるよな?」

 

「あの、2Dとか3Dのキャラクターで配信とかするやつですよね? 偶にSNSで見かけたりするくらいはします」

 

 あたし自身はそんなに詳しくないケド、活動内容によってはかなりアイドルに近いこともやるからか、初星の授業でも一例として取り上げられていたのは覚えてる。

 

「なら話は早い。この会社なんだけどよ、要はVtuberの事務所なんだ」

 

 名刺を指でプラプラさせながら言う。

 

「最近作ったばっかでな、ブランドとしての名前は『V-CACAO』って言うんだ。いい名前だろ?」

 

「ええ、まあ……ハイ」

 

 そうかぁ? いや、印象には残るし、覚えやすそうだからこれはこれでいいのかもしれない。

 

「話は分かりましたケド……それがどうしてあたしのスカウトに繋がるんですか? そもそも、あたしのことはどこまで知ってるんですか?」

 

「人伝に聞いてな。とりあえず、お前さんが初星のアイドル科からの転校生だってことは知ってるよ」

 

「うげっ……そんなとこまで広がってるんですか。どの道隠すのは無理だったのかぁ……」

 

 がっくりと肩を落とす。当時の同級生以外にも近所のおばさんたちも知ってることだしなぁ。噂ってこえぇ。

 

「Vtuber事務所をやる以上は、絶対に3Dライブとかもやりてぇじゃん? てか、俺の場合はそれ目的で作ったみたいなとこあるからな。そうなると、踊って歌える必要があるわけだけど、今うちにいる演者はゲームばっかやってたモヤシなんだよな」

 

 随分な言われようだ。なんでも、現在唯一でもあるその演者はいわゆる幼馴染で、設立と同時に巻き込んだらしい。いいのか、最初の人選そんなんで。

 

 とにかく、そういうわけで初星学園で4年間アイドルとして育成されていたあたしは即戦力として大変魅力的らしい。そう、身を乗り出して力説される。それに対して、あたしは愛想笑いを返すことしかできない。

 

「当然機材に関してはこっちから提供する。まだまだ小さい事務所だから、サポートも付きっ切りでやれる。だから、どうだ? な、頼むよ!」

 

 人気アイドルを前にしているかのような、期待の眼差し。無意識に、唇を噛んでいたことに今気づく。

 

 ……そんな期待するようなもんじゃないんだけどなぁ。あたしは、ただの落ちこぼれなのに。

 

「……ごちそうしてもらったのに、こんなこと言うの本当に申し訳ないんですけど、やっぱりお断りします」

 

 丁寧に頭を下げる。対面から動揺を感じる。それがまた、心苦しくはある。

 

「いやいやいや! アイドル目指してたんなら、配信するくらい平気だろ!? どうしてそんなに嫌なんだ?」

 

 なのに、また食い下がってくる。やらないって言ってんじゃん。なんで諦めてくれないのかな。

 

「だって、あの初星を途中でやめたんですよ? 芽がなかったってことくらい、分かりますよね?」

 

「つっても、あの初星だろ? エリートであることには変わんねーだろ」

 

「マジの落第のスレスレだったんですぅ! それも4年間ずぅーーーっと!」

 

 思わず身を乗り出してしまう。

 

 なんにも知らないクセに! 走っても走っても麓にすら辿り着けない苦しみを。周囲にどんどん置いていかれる焦りを。初星だからって、自動的にエリートになるわけじゃない。

 

 それどころか……

 

「……それに、これはほんとに秘密にしてほしいんですけど。うち、チビ共がたくさんいて、それなのにあたしが初星に通ってたから色々厳しいんです。正直、上手くいくかも分からないことに時間使うより、少しでもバイトしたいんですよ」

 

 

 結局の所、これに尽きる。とにかく、お金が必要なのだ。

 

 あたしの学費の為に借金までしたお父さんは、最後には家を出て行ってしまった。

 

 高校生になってからバイトを始めたけど、学費を賄うことができなかった。

 

 お母さんはなにも言わなかったけど、これからチビ共にだってどんどんお金がかかるようになる。

 

 ……これ以上、迷惑をかけたくなかった。あたしのせいで家族をメチャクチャにしてしまった。だからせめて、これからはあたしも家族を支えないといけないんだ。

 

「……ごちそうさまでした、めっちゃ美味しかったです。事務所、頑張ってください。応援してますから」

 

 スマホを確認したらもう結構ヤバい時間だった。一礼してから、席を立とうとする。

 

「なら、バイトとしてならどうだ!?」

 

「……はい?」

 

「一応、断られる可能性が高いとは思ってたんだ。だから代わりに、初星で習ったことをうちのメンバーに教えてやってくれねえか? さっきも言ったけど、基本すら怪しいレベルなんだよ、あいつは」

 

 つまりは、レッスンの講師兼事務員としてバイトをしないかということらしい。基本は平日の放課後で、レッスンは場合によっては土日も担当する。

 

 起業時、機材やらなんやらの初期費用がかなりかかったようで、レッスン代が節約できるならそれだけでもだいぶ違うようだ。

 

 ほぼ未経験の人相手になら、あたしでも基本くらいなら教えられるとは思う。いや、歌の方はあんまり自信ないけど、レッスン内容をそのまま伝えるくらいなら、なんとか。

 

 問題は、既に他のバイトでスケジュールが完全に埋まっていることだけど……

 

「時給はそうだな……1500で、なんとかどうだ?」

 

「はーい! やりま~~す!!」

 

 時給は全てに置いて優先される。こうして、あたしの新しいバイト先が決まったのだった。

 

 

 




基本、週一で投稿になると思います。
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