ことね「元アイドル志望にVtuberは荷が重いデス……」   作:とるてぃーや

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幕間
第18話 短編集:日々の積み重ね


~色々挑戦中~

 

 春になり、もうすぐ3年生。それでも日によってはまだ寒く、事務所の配信部屋は足の指先が冷たく感じるくらいには冷えていた。

 そんな中、あたしは最近買ったアコースティックギターの弦をたどたどしく押さえながら、ピックで音を鳴らす。

 かろうじて合っているような、ギリ赤点じゃないみたいな和音が部屋に響き、マイクを通してリスナーに届いた。

 

「うん? 押さえ方合ってるよね? なにがいけないのかなぁ」

 

 悩みを口にすると、すかさず有識者による色付きのコメントが返ってくる。

 ふんふん……なるほど、っと指摘通りに押さえ方を直してみる。

 

「おお! さっきよりキレイになった! えーっと……”鳩天狗”さん、ありがとぉ~」

 

 リスナーがなにを求めてコメントしてくれたのかは分かっている。それに応えるべく、あたしはライブのファンサのように愛嬌MAXでその個人に向けてお礼を言う。

 それからしばらく配信上で練習し、簡単なコードなら形になってきたところで少しだけ弾き語りをしてみる。

 

「~~♪ ぁ、間違えた。すぅーー、~~♪」

 

 初心者全開の演奏。歌はかなり改善してきたけど、まだ上手いと言われるほどじゃない。それでも、その全てを配信で流す。

 失敗は恐れずに。過程も全部見せる。それこそが配信のコンテンツとして一番大事だと理解しているから。

 

 あたしが十王先輩に挑戦状を叩きつけてから3ヵ月とちょっと。一刻も早く十王先輩に並べるよう、精力的にVtuber活動に取り組んでいる。

 ゲームは対人系にあまりこだわらずに色々触ってみた。そしたらRPGとか、ホラー系とかがウケることが分かったので、最近はそっちが主軸だ。

 RPGはあたしがストーリーをどう楽しむのかを見るのが好きらしく、難しい操作がないのもあってあたしとしてもありがたかった。

 一方のホラーは、あたしがガチで怖がっているところを見るのが面白いらしい。最初はそれっぽく怖がればいっかくらいに思ってたけど、プレイしたらマジで怖くてガチで叫んだ。

 面白くはない。というかやめたいと思ったことはあったけど、みんなが楽しんでくれてるので、がんばって続けている。薄々分かってたけど、Vtuberって実質バラドルだ。

 まあでも、他にも新規のMVを出したり、グッズやボイスを出したりと、色々と展開をしている。ボイスはほんっとに気が進まなかったけど、利益率の高さを知ってたのでやるしかなかった。

 

 そういった活動のおかげで登録数は順調に伸び、まとまった収入も得られるようになった。このままいけばきっと、借金もすぐに返せるようになると思う。

 

 でも……まだ足りない。詩歌や明美とは並んだけど、それだけだ。緩やかに伸びてはいるけど、詩歌のMVだったり、デビューライブのときのような爆発は起きてない。

 大手事務所のVと比べたら、3人合わせてもまだまだ中小勢力だ。十王星南に挑むってことは100プロに挑むのと同じことだし、今のままじゃ全然足りてない。

 目標は……そうだなぁ、今の10倍を目指したい。途方もない数字だけど、あたしは本気だ。

 だからこうして、また新しいジャンルを開拓すべく楽器に挑戦してるってわけ。弾き語りができたら、ガールズバンドみたいでかっこいいし。

 

 それはそれとして、ギター弾くってのも結構楽しいなぁ。そんなことを考えながら、配信を続けるのであった。

 

***

 

~思わぬ再会~

 

 ある日のこと。明美のメッセージによって通話に参加したあたしと詩歌は、とあるイベントへの参加を誘われていた。

 

「対戦会?」

『そ。時々参加してた対戦会があって。この前は芽衣野を入れたんだけど、今回は初心者も何人か入れてみようってなって』

 

 通話越しに明美が答える。

 なんでも、明美が得意としている格ゲーでは配信者同士で定期的に対戦会をしているらしく、ある種交流会のようになってるらしい。

 その対戦会にあたしも参加してみないかってことだった。聞いた感じ、有名な配信者さんもちょくちょくいるっぽいので、確かにあたしにとってもチャンスではある。

 

「けどさ、詩歌と明美はともかく、あたしも参加してもいいの?」

 

 物は試しって感じで触りはじめただけだから、まだ初心者の中の初心者って感じだし。

 

『大丈夫だと思うよ。他に呼ぶ予定の人も、同じくらいに始めた人が多いらしいから』

 

 詩歌が補足してくれた。なるほど、ほんとに交流会みたいな感じなんだ。

 だったらもう遠慮はいらない。これがきっかけで大会に呼ばれるみたいなこともあるかもしれないし、あたしは参加することに決める。

 

『じゃあ、主催に連絡しておくから』

『ことちゃん、練習するときは言ってね。今は時間たくさんあるから』

 

 通話が終わった。あたしはイヤホンを外して、布団に寝っ転がる。

 気分は高まってるけど、残念ながら格ゲーを遊ぶ環境が家にはないので、練習ができるのは明日からだ。

 対戦会には誰がいるかなぁ。あの人とかいたら、ラッキーだよなぁ。

 まだ誰が参加するかも分からないのに、妄想を展開する。それくらい、対戦会に前向きってことだ。

 

 ところが、いざ参加メンバーを知らされたとき……困ったことになってしまった。

 ピンチってわけじゃないけど……どう対応するか迷う。

 その原因は、経験者ながら初参加となったとある人物にあった。何度見ても、そこにはこう書かれている。初星学園──『葛城リーリヤ』と。

 

 

 みんなの情報はなるべく追ってるから、リーリヤちゃんの近況も知ってる。かなり苦労してたっぽいけど、最近になってようやくSNSで見かけるようになった。

 きっかけはアイドル活動と並行してゲーム配信をしたからみたいで、そのゲームの実力で人を集めて、そのままファンにしていったらしい。元々北欧系の見た目はかなり可愛いし、注目が集まってからはどんどん伸びている。

 そういった理由から今回の対戦会に呼ばれたらしい。

 しかし、どうしたもんか。伏深まいとしては初対面だけど、実際は初対面どころか元クラスメイトだし、それなりに仲良くしていた。

 こういうときって、自分から正体をバラすもんなのか? それとも、別人のフリをしとけばいいのか? 峰岸さんは話してもいいって言ってだけど……やめてから1回も話してないし、難しいな。

 しかし、こうやって悩んでいても時間は止まってくれない。あっという間に対戦会の日がやってきた。

 そのまま時間になったので、仕方なくグループの通話に入る。

 もう……どっちでもいっか。そんな気持ちで、元気よく声を出す。

 

「伏深まいでーす! よろしくお願いしまーす!」

 

挨拶をした瞬間、様々な声で返事が返ってくる。そしてその中には、聞き覚えのある透き通った声が含まれていた。

 

『えっと……葛城、リーリヤです。初めての参加ですごく緊張してるんですけど……誘ってもらえてすごく嬉しいです。よろしくお願いします!』

 

 懐かしさで胸が一杯になった。日本語、元々上手かったけどもっと上手くなってる。それに、思っていた以上に物怖じしなくなってる。

 

 ──う~ん……これは、気づいてないのか? 無反応だと、それはそれで複雑だなぁ。

 

『伏深さんは、格ゲーは初心者なんですか?』

「まいでいいよ。うん、エリカたちに教えてもらってるとこだけど、このゲームは初めて」

『そうなんですね。その……よければですけど、わたしも少しだけ、教えられますので……』

「ほんと!? ありがと~う!」

 

 和やかな雰囲気のまま、そのまま対戦会が始まった。

 リーリヤちゃんのランクは、なんと詩歌と同じだった。ゲームが上手いってのは知ってたけど、実際に自分でやるようになってから、改めてそのすごさを実感する。

 2人が対戦してるところを観戦したけど、全くの互角だった。なんだか、2人ともすごい楽しそうだった。

 あたしもあたしで、初心者組の配信者たちと何回も対戦した。時々経験者組にアドバイスをもらったり、逆にヤジを入れられたりしながら、和気藹々と時間が過ぎていった。

 そして解散になり、気づかれなかったことに安堵してんのか落ち込んでんのかよく分からない気持ちのとき、とあるメッセージが来た。

 それは、リーリヤちゃんからだった。

 

『今日は楽しかったです。それで……少しだけでいいので、ちょっとだけお話しってできますか?』

 

 ──あれ……これってもしかして。

 

 通話を繋いでみる。そしたら、案の定だった。

 

『あの……もし間違ってたら本当にごめんなさい。……それで、あの……もしかして……ことねちゃん……だったりしませんか?』

 

 胸が温かくなった。やっぱ、気づかれたかったんだ、あたし。

 

「あはは~……バレた?」

『っ!? やっぱり……!』

 

 その声には、明らかに喜びの感情がこもっていた。そのことに、少し安心する。

 

「久しぶり、リーリヤちゃん。ごめんね~、言うかどうか迷ったんだけどさぁ」

『ううん。わたしの方こそごめんなさい。Vtuberさんにあまりこういうこと聞いちゃダメだって思ったんだけど……でも、よかった』

 

 よかった?

 

『実はわたし、まいちゃんのこと知ってたんだ。MVのダンス……すごくキラキラしててすごかった』

 

 あれ、見たんだ。まさか初星のときの友達にも見てもらえるなんて。

 ちょっとは名前が売れてきたってことかな?

 

『それがことねちゃんだって分かって……嬉しかった。アイドルじゃないけど……まだ、仲間なんだって』

「リーリヤちゃん……」

 

 そういえば当時は、クラス対抗戦とかもあったからよく一緒に練習してた。最初はクラスの雰囲気は最悪だったけど、最後は割といい感じだった。

 初星を去ってから、もう1年以上経ってる。学年に至ってはもう3年になってる。

 それでも……まだそんな風に思ってくれるんだ。

 

「そうだね。あたしも最初は諦めてたんだけどさぁ……」

 

 初星をやめてからのことを、一つ一つ語っていく。自慢げに、あたしもあんたたちのライバルなんだって主張するように。

 リーリヤちゃんも教えてくれた。途中でプロデューサーがついて、配信の提案をしてくれたこと。ようやくレッスンの成果が出てきて、どんどん外でライブができるようになってきたこと。そしてやっと、1年のクラスメイトたちに追いつけたこと。

 いざ話しだしたら、積もる話が山のようにあった。結局、通話は何時間にも及び、あたしは峰岸さんに家まで送ってもらう羽目になった。

 

 そしてリーリヤとは、『伏深まい』として、ときどき配信でコラボする関係になれたのだった。

 

***

 

~受験勉強~

 

 カリカリカリ。鉛筆を動かす音だけが聞こえる。時々、ページを捲る音も差し込まれる。

 とある休日。あたしたち3人は詩歌の部屋に集まり、参考書を広げて勉強に勤しんでいた。

 

 ──ん~? なにこれ。全然分かんねぇ。

 

 しばらく唸るけど、解決しそうにないので、あたしは文武両道の明美に声をかける。

 明美は問題を見た瞬間、すぐにあたしのノートに図形を描き始めた。

 

「これは、ここに補助線を引いて……こう」

「んん……? なるほど?」

「……分かってないでしょ。ここで躓くと全部分からなくなるから、ちゃんと理解しときなよ」

 

 明美がまた一から説明してくれる。その優しさに感謝しつつ、あたしは図形を見ながらシャーペンのノックで額を叩く。

 志望学部の科目に入ってるからしょーがねーけど、数学……マジでムズイ。

 

「ねえ、明美ちゃん。ここの証明なんだけど……なんでこれだとダメなの?」

「もうそこまで行ったの? あんた不登校だった割には結構できるわね。ここは……そもそも前提が違って……」

 

 詩歌からの質問もスラスラと答える。知ってはいたけど、やっぱめちゃくちゃ頭いいな。この前受けた模試でも名前載ってる科目あったし。

 つーか、詩歌も割と勉強できんだな。ゲームばっかやってたって言うから、あたしと似たようなもんだと思ってたのに。

 家計が安定してきて、両親の勧めもあって大学に行くことを決めたまではよかったし、一応初星時代よりは勉強がんばってたけど……そもそもの借金がデカすぎた。

 一人でやっても分かんないとこだらけだったし、流石に予備校通いはまだちょっとキツイし……明美がいてマジでよかった。ほんと愛してる。

 ちなみに詩歌は、最近になって学校に行くようになったらしいけど、流石に不登校の期間が長すぎて留年したらしい。だからどちらかと言うと、遅れを取り戻す為の勉強をしている。

 けど……近いうちに普通に追い抜かれるカモ。

 

 ──あたしも、もっと気合入れるか。

 

 できることなら学費が安い国公立がいいけど、Vtuberの活動を止めるつもりもない。なら、マジでがんばんねーと。

 本番まであと……9カ月くらいか? それに向けて、あたしはシャーペンを握り直すのであった。

 

***

 

~新事務所~

 

「おお……! けっこー広いですねぇ」

「今後のことも考えて、少し大きめの場所を選んだからな。段階的にレッスン室とかも整備予定だ」

 

 いよいよちゃんとした場所を借りて事務所を構えることになり、一応まだちょっとだけ事務を手伝ってたあたしは、引っ越し予定のオフィスの下見に付き添っていた。

 まだなにも置かれてないからかもしれないけど、マジで広々としている。何人か新人のVもスカウトしたらしいし、これからは本格的に事務所を拡張していくのだろう。

 社員も雇うだろうし、そしたら事務員としてのあたしはいよいよお役御免だ。

 

 引っ越しかぁ……そろそろお父さんも契約が終わって帰ってこれるらしいし、あたしたちもあのアパートを出たいなぁ。ちびたちにも個室あげたいし、このままだといつまで経っても家で配信できないし。

 ……流石にもうちょっとお金貯まってからになりそうだけど。

 

「……ありがとな」

「ほえ? なにがですかぁ?」

 

 急になんだろう? あたしは首を傾げる。

 

「色々とだよ。お前がいなかったら、『古渡かすみ』はあんなに早く伸びなかっただろうし、レッスン代も節約できた。もちろん、ライバーとしてのお前も頼りになってるし」

「ああ、そゆことですか……それを言ったら、あたしだってそうですよぉ」

 

 耳が熱くなるのを感じながら、そう返す。

 新しい夢の形を与えてくれた上に、そのおかげで借金も返せた。一瞬浮気しかけたこともあるけど、峰岸さんにはほんとに感謝している。

 

「……今だから言うけど、お前が十王星南のスカウトを受けたって聞いたとき、こっちを選んでくれたのは意外だったよ」

「うぐっ……確かにめっちゃ揺れましたけどぉ……まあ、明美のおかげです」

「そっか。なら、俺に先見の明があったってことだな」

「最初は逆効果だった気がしますケド……」

 

 思い返せば、よくもまぁ、あそこから仲良くなれたもんだ。転校当初はマジでなんだコイツ……って思ったし。

 そんな感じで当時のことを振り返りながら、下見を終えた。新しい事務所は家から遠いから来る頻度は減るだろうけど……それでも、ちゃんと事務所が大きくなってるって感じられてよかった。

 いつかは都内の中心のでっかいビルを借りましょう! と次なる目標を帰りの車の中で語るのであった。

 

***

 

~ホログラムなライブ会場~

 

 目の前で、『古渡かすみ』が踊っている。画面の前とかじゃなくて、マジでステージに立って踊っている。

 驚きのあまり、口を開いていたことに気づくのにしばらくかかった。

 

「マジか……もうここまで来てんのか」

「その分値段も高いらしいけどね。だけど……これならアイドルにも張り合えるわね」

 

 明美は意味深な笑みであたしを見る。

 ……だから、あのときは悪かったって。あたしが言い返せないの分かってて、ことあるごとにからかってくるんだから、意地が悪い。

 ともかく、あたしたちは次のライブの会場探しをしてるんだけど、今回招待されて見学に来た会場がヤバかった。

 少し前にできたVtuber向けの最新のライブ会場で、広さこそバスケのアリーナくらいだけど、ステージ中央の設備がヤバい。

 なんと、特別な機材なしにARみたいに3Dを映し出せるのだ。しかも、ほとんど違和感がない。

 エフェクトまで表示できるみたいで、今も『古渡かすみ』の周囲はキラキラと光っている。

 

「ここ、予約できると思う?」

「さあね。できても、当分先じゃない?」

 

 そうだよなぁ……うちもだいぶでっかくなったけど、まだ大手ほどじゃないし。そっちが先に使うだろうなぁ。

 

「でも、やりたいよなぁ」

「……まあ、そうね」

 

 いつになるかは分からない。もしかしたら、高校生の内には順番は回ってこないかもしれない。

 それでも……いつかは。いつかは、絶対にやってやる。

 このステージに立てたら……きっとほんとの意味で、十王星南と競える立場になれると思うから。

 もしその日が来たら……あいつらもライブに呼びたいなぁ。

 

 詩歌が踊り終わったら、あたしも体験してみようかななんて考えながら、かつての仲間たちを思い浮かべるのであった。

 

 

 

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