ことね「元アイドル志望にVtuberは荷が重いデス……」 作:とるてぃーや
第19話 《STAR☆VISIONクリスマスライブショー》
少し前、高校最後の夏休みを利用して、ステージ中央にホログラムが搭載された最新のライブ会場を見学した。
《STAR☆VISIONアリーナ》と呼ばれるそれは、Vtuberが利用することを念頭に置いたアリーナだ。
収容人数は武道館に匹敵するし、もしかしたら将来的にはVtuberにとっての聖地になるかもしれない。
武道館と言えば、アイドルを目指す人間にとっては特別な場所だ。
もちろん、あたしたちもそこでライブがしたいわけだけど……。
「うわぁ……もう1年待ちなんですか……」
肩をガックリと落とす。用事があって数駅先の新しい事務所に寄ったあたしは、峰岸さんから《STAR☆VISIONアリーナ》の予約状況について聞いたら、これだった。
そんなあたしの驚きとも落胆ともとれる声を聞いた峰岸さんは、苦笑を浮かべる。
「大手が率先して予約を入れてるし、実際に評判もいいからな。土日とかのシーズンの人気のタイミングに入れるなら、そんくらい待たないとだな」
そう言って、直近であったライブの無料パートの配信を見せてくれる。
冒頭のほんの一部しか映ってないのに、再生数の桁が違いすぎる。観客も満員だ。
改めて、トップ層の人気の高さを知る。
「でも、今のことねは受験生だろ? ならちょうどよかったんじゃねぇか? 俺たちも、来年のどっかでは予約取れるだろうし」
それもそうだ。ミニライブとか、ダンスのショート動画くらいならやったけど、本格的なライブは休止中だし。
「あとはまあ……一応こういうのもあるけどな」
「ほえ? なんですか、それ」
ホチキスで束ねられた紙の束を受け取る。なんかの企画書かな、と思いながらページをめくる。
「《STAR☆VISIONクリスマスライブショー》? えっと……Vtuberを、選抜?」
「アリーナ主催のクリスマスイベントだ。所属関係なく、オーディションで選ばれたVtuberが出れるライブイベントだな」
なるほど……つまり実力があれば出られるかもしれないってことかぁ。
応募用件を見てみる……えーっと、登録者とかフォローの合計かぁ。そんで、ユニットなら合算でいいと。
……ちょっと厳しいケド、あたしたち3人で組めば応募はできるくらいのラインだ。
「出たいって言うなら出てもいいが……スケジュールがやばいって思ってな」
「うーん……そうですよねぇ」
その通りだ。あたしはぐぬぬと唸る。
もう9月なのに選考がライブまでの年内に3回もある。最終選考まで残ったとして……決まるのが12月の頭。そして合格したらしたらで本番までめっちゃ拘束される。
明美は結局推薦らしいし、詩歌は結果的にまだ受験生じゃないから時間はある。でも、志望校の判定がちょーギリギリのあたしにとっては、この時間のロスは致命的だ。
「ちなみに~、他の2人は?」
「興味は持ってたけど、お前の状況も知ってるからな。新人を入れて無理やり応募するほどではないってところだな」
悩む。すごく悩む。
もし合格できたらものすごいチャンスなのは分かってる。分かってるけど……せっかく普通に進学できる余裕が生まれたんだから、そっちも大事にしたい。
今だって順調に伸びてるし、レッスンの時間も取っている。事務所だってこうして大きくなった。だから……もうそこまで焦らなくていい筈。
ここで受験を犠牲にして合格したとしても、せっかく教えてくれてる明美に失礼だし……。
待ってれば、いつかきっと予約は取れる。
そうやって言い聞かせているけど、なかなか自分を説得できない。天秤が、右へと左へと揺れる。
──出たい。めっちゃ出たい……うう、でもぉ~~っ。
多分、その場で何分も悩んでたんだと思う。あたしが顔を上げたころ、峰岸さんはモニターを見ながら仕事を再開していた。
「……やめときます」
長考の末、あたしは諦めざるを得なかった。
くっそー。せめて受験が終わった後だったらなぁ。はぁ……。
*
ところが、そんなあたしの決断を容易くひっくり返してしまうような情報が目に入ったのは、帰りの電車の中でだった。
到着までの間、なんとはなしにSNSを眺めていたときにとある広告が目に入り、指が止まった。
《初星フレッシュオールスター☆年越しライブin武道館!》と打ち出されたその広告には、あたしがよく見知ったやつらがみんな映っていた。
──咲季、手毬、清夏、佑芽、美鈴ちゃん……。
1年の終わりの時点で頭角を現していた名前がズラリだった。
ドクドクと心臓が強く鳴る。
スマホを握る手に力が入り、目が離せない。
武道館。人気アイドルの登竜門。そこでのライブを、初星を卒業する前に……? 100プロから、相当期待されてる証拠だ。
そう、つまり……めっちゃすごいのだ。全員トップアイドルになることが約束されているのと同じようなものだ。
言い換えれば、十王星南に挑む資格があるってことになる。
──じゃあ、あたしは?
いざ同期たちの立ち位置を知った瞬間、今の自分と比べてしまう。
そりゃ、あたしだって人気は出てきたけど……武道館に立てるレベルかって言われたら……自信がなかった。それだけ、武道館という言葉はあたしにとっても重かった。
実際、例の会場の予約はまだ取れてない。もしあたしのランクがもっと高かったら、なにかしらの優先権とかあったかもしれない。でも、そんなものはなかった。
──っ、悔しい……。
十王先輩の背中を追うどころの話じゃない。まだ、同期たちにすら並んでいないことに気づいた。
それだけじゃない。
ただの勘……なんの根拠もないけど……このままあいつらの武道館ライブを指をくわえて見てたら……もう二度と追いつけない気がしてならなかった。
頭が焦りでいっぱいになる中、メッセージアプリの通知が画面に出た。それは、最近またよく見るようになった名前だった。
──リーリヤちゃん?
それは、最近配信上でよく遊ぶようになったリーリヤちゃんからの連絡だった。一緒にゲームをしないかということだったので、あたしは今も貸してもらっている旧事務所の配信部屋に寄った。
配信の準備をする中、リーリヤちゃんにライブのことを聞くか迷った。
広告には、あたしが仲が良かった人全員の名前が載ってるわけじゃなかった。だからつまり、リーリヤは……。
『そういえば……清夏ちゃんがね、今度武道館でライブをするんだって』
ぎくりと、作業の手が止まった。
「あ、あぁ~あれね。この前SNSで見たわ」
隠しきれない動揺が声に出た。ただ、通話越しだったからかリーリヤちゃんには伝わなかったらしい。声の調子に変化はない。
『それでね、お願いすればチケットが何枚か貰えるんだけど、ことねちゃん……一緒にどうかな?』
一緒に? それは……観客としてって意味だよね?
「……あのさ、それって」
なんとなく、リーリヤちゃんがどうなったのかは察した。それでも、変にそのことだけを避けて話し続ける方がおかしい気がして、切り込んでみた。
短い沈黙。
画面の向こうで、リーリヤちゃんが頷いたような気配を確かに感じた。
『うん、わたしは選ばれなかった。わたしは、最近になってやっと結果が出てきたばかりだから』
答えは予想通りだった。
でも、その声から悲愴感はなかった。むしろ、その逆な気がした。
『でもね、最近は清夏ちゃんたちに少しずつ近づけてる気がするんだ。この前の校内オーディションも、今までで一番みんなに評価が近かったの』
とても嬉しそうにそれを語るリーリヤちゃん。
結果だけを見れば負け続きの筈なのに、めっちゃ前向きだ。
その様子をきっかけに、1年のときのことを思い出した。
「リーリヤちゃんは、昔からそうだよね。結果にめげないで、コツコツがんばってて」
そして、今まさに夢に手が届こうとしてる。
事情があったとはいえ、途中で立ち止まったあたしとは真逆だった。
『……みんなより成長が遅いのは、前提だったから。それに、センパイがずっとわたしのことを信じてくれたから』
「先輩?」
『あっ! えっと、わたしのプロデューサーさんが……!』
マジかよ。先輩呼びさせてんのか、そのプロデューサー。プロデューサー科の人で歳が近いんだろうけど、なんかこう……いや、深くは考えないでおこう。
そういうのは、人それぞれだし。
「なるほどね~。なら、来年あたりはリーリヤちゃんの単独ライブかぁ~?」
『も、もう……! それはちょっと、気が早いよ……!』
その後も配信までの間、他愛もない雑談が続く。
ただ、そんな中であたしは密かに決心を固めていた。
あたしのこの1年間を証明したい。
十王先輩にだけではなく、みんなにも。
***
「はあ? アンタ、本気?」
《STAR☆VISIONクリスマスライブショー》のオーディションに出ようと、詩歌と明美に打ち明けた瞬間に明美から飛び出した言葉がそれだった。
いつもの勉強会で集まっていたので、明美は参考書を開こうとしているところだった。
「マジのガチ。あたしは《STAR☆VISIONクリスマスライブショー》に出たい。だから、3人でユニットを組んでほしい」
「アンタ、今の自分の成績分かってる? 志望校の判定、かなりギリギリだったでしょーが」
それだけで人を殺せそうな視線で睨まれる。
あたしは臆さずに視線をぶつけ、両手を腰に当てる。
「分かってるっての。そっちもちゃんとやるに決まってんじゃん」
これがあたしなりのケジメだ。ずっと勉強を教えてもらってたんだ。今更受験を放棄したりはしない。
「なに言ってんの。そんなの、無理に決まって……」
「できる。あたしは初星にいたときもバイトしながらレッスン受けてたんだから。そんときと比べれば、屁でもないっての」
なにせ、肉体労働じゃないし、接客もないのだ。しかも、生徒会長に絡まれる心配もない。
これくらい楽勝に決まってる。
「大体、明美だって出れるなら出たいんしょ?」
明美は黙り込んでしまう。なにかを言いたそうにしているが、反論の言葉に迷っているらしい。
峰岸さんに聞いてただけだったけど、ほんとはめっちゃ出たいみたいだ。
「ねえ、ことちゃん」
今度は詩歌が口を開く。その顔は心配そうだった。
「わたしはすごい嬉しいけど……本当に平気? 初星であまり上手くいかなかったのって……」
「平気だって。バイトと比べたら、勉強の疲れなんて大したことないって」
「ほんとのほんとに?」
明美と比べれば、詩歌の視線は穏やかだった。だけど、嘘だけは許さないという無言の圧は確かに感じた。
あたしは嘘偽りなく、しっかりと頷く。まだ会ってから1年半くらいだけど、付き合いはかなり濃密だった。
少なくとも、互いに嘘をついてるかはすぐに分かるくらいにはなったと思う。
その証拠に、詩歌は一転して笑顔を咲かせたのだった。
「じゃあ……一緒にがんばろうね。あ、わたし、またことちゃんの振り付けで踊りたいな」
「ええ~? そこまでの余裕あるかなぁ。まあ、がんばってみるケド」
詩歌は同意してくれた。
あとは、明美だけど……まだ難しそうな顔してる。
そうやってあたしのことまで心配してくれるのは嬉しいけど……そこまで気にしなくたっていいのに。
これであたしが失敗したら、それは全部あたしの責任だ。
「ねえ、アンタはなんで急に出たいってなったわけ?」
そういえば、それを話してなかった。
自分たちにとって、大きなチャンスだから。そういう風に答えることもできたけど、それだと不誠実だし、納得してくれないだろう。
「今すぐ追いつきたいやつらがいるの。今追いつかないと、手が届かなくなりそうなやつらが」
初星の同期たちのライブのことを、全て話した。
明美は得心がいったのか、表情から険しさが減っていた。
「そのライブの告知、アタシも見たわ。事務所に入る前に武道館なんて……アンタの同期、とんでもないね」
まぁな、と胸を張る。いろいろと問題あるやつもいたけど、実力は本物だった。
だからこそそれに並び、追い越したい。
詩歌の歌、バランスの良い明美、そしてあたしのダンスが合わされば、大手のユニットとだって戦えると確信している。
「お願い、明美! 3人なら、絶対に合格できると思う!」
両手を合わせる。手を叩いたときの乾いた音が部屋に響いた。
沈黙が続いたけど、しばらくすると溜息が聞こえた。
明美からだ。
「アンタの成績が悪化したら、辞退するから。待ってれば予約取れるんだから、そこまで焦んなくてもいいわけだし」
「……分かった、それでいいよ。……ありがとな」
もっともな条件だった。あたしは素直に頷いた。
明美は鼻を鳴らすと、参考書を閉じる。
「なら、すぐにでもスケジュール立てるから。まだ審査の内容が分からないからなんとも言えないけど……」
明美は普段から持ち歩いてるらしいタブレットを取り出すと、そこにテキパキと審査までのスケジュールを逆算で書き込み始めた。
「ねえ、ユニット用のオリジナル曲って間に合うかな?」
「まあ、すぐに発注すればいけんじゃね? 峰岸さんに連絡しとくわ」
「ユニット名はどうするの? 確か、応募要件に書いてたあったよね?」
「来週までに、案を持ち寄ればいいでしょ。ちなみに、アンタはほんとに振り付けできんの?」
「う~ん……1曲なら、ギリいけると思う」
案を出し合い、どんどんこれからのことを詰めていく。
そんで、最後に勉強会をちょろっとだけやって、今日は解散となった。
2人が賛成してくれて、ほんとによかった。あとは、あたし次第だ。
……あとは、もっかい宣戦布告しないと。
あたしはメッセージアプリを開くと、懐かしの連絡先を表示するのであった。
***
店に入った瞬間、カランコロンとベルが鳴る。同時に、淹れたてのコーヒーの香りに包まれる。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
「えと、待ち合わせを……」
待ち合わせ相手の特徴を伝えると、すぐに理解してくれたようで案内をしてくれた。
案内先の席は半個室になっていて、周囲からは見えづらくなっている。
個室に入る。すると、懐かしの2人が向かい合って座っていた。視線がこちらに向く。
赤みがかった茶髪の勝気な少女と、紺色の長髪の表向きはクールな少女。かつてのクラスメイトの咲季と手毬がそこにはいた。
「おっす。久しぶり、咲季、手毬。武道館ライブおめでと~」
軽く手を上げてから、咲季の隣に座る。
次の瞬間には、両頬を引っ張られていた。
「ことね~……あなたね、元気にしてるならもうちょっと連絡しなさい!」
「いひゃいいひゃい……! ひゃきだって、おひゅってたのさいひょだけじゃん……!」
「それは、そうだけど……色々あったのよ!」
咲季たちとは別に喧嘩別れしたわけじゃない。やめるときに、ささやかだけど送別会をしてくれたし、連絡先も残してた。連絡が来たらちゃんと返事もしてた。
ただ、咲季もきっと忙しかったんだろう。連絡の頻度は次第に減っていった。
あたしはあたしで、もう初星の生徒じゃないって気後れして、自分から連絡することはなかった。
でも、今日は違う。あたしの方から、2人に連絡した。ほんとは清夏やリーリヤちゃんにも送ってたけど、予定が合わなかったからしゃーない。
「で、なんの用? 今、結構忙しいんだけど」
ストローで黙々とカフェオレらしきものを飲んでいた手毬が聞いてくる。
間もなく初星を卒業予定で、100プロ所属が決まっている2人は、武道館ライブ以外にも期待の新人としてバンバン売り出されている。がんばって時間を作ってくれたのは間違いない。
咲季から解放されたあたしは注文したココアで唇を湿らせてから、話を切り出す。
「咲季たちはさ、このイベントについてなにか知ってる?」
まだ事務所から借りたままのノーパソを取り出し、例のイベントの告知サイトを表示する。
手毬は視線を向けるだけだったけど、咲季は顔を寄せてマジマジと確認をしている。
「《STAR☆VISIONクリスマスライブショー》? ……Vtuberの3Dライブイベント? あなたまさか……」
あたしを見て、目を見開いている。
流石咲季というべきか、それだけでもうなにかを察したっぽい。
「Vtuberとか、興味ないんだけど。3Dライブっていうけど、画面の中で動いてるだけじゃん」
「こら手毬! そういう言い方はよくないって言ってるでしょ!? そうやって油断してると、あっという間に追い抜かれるわよ」
一方の手毬は変わらずといった感じだ。まあ実際、今でもことあるごとにプチ炎上してるし。プロデューサーが優秀なのか、どうにか燃え上がる前に消火してるけど。
ただ、手毬の言うことも一理ある。デジタルな以上、そこら辺はどうしたって実物のアイドルと比べると不利だ。
ま、普通の会場なら……の話だけど。
「そう思うじゃん? でもここの会場はちょっと特別でさぁ」
あたしは事前に用意していたリンクから、峰岸さんが見せてくれた無料のライブ配信を映す。
それを見た瞬間、2人の目の色が変わったのが分かった。
「ふっふっふっ……なんとこの会場、最近できたばっかりの3D投影ができるVtuber向けのライブ会場なんよ。しかも、収容人数も武道館並」
今度は手毬も画面に顔を寄せていた。
人気アイドルも同然の2人が、Vtuberのライブに釘付けになっている。
それだけ、この会場のホログラム技術は革新的だ。あたしだって峰岸さんたちと一緒に見に行ったとき、びっくり仰天だったし。
「今さ、それに出るライバーのオーディションが始まってんだよね。そんで今は、2次審査中」
既に1次審査は突破している。
期間内に指定の同接もしくは再生数を達成するというものだったけど、これは3人でのコラボ配信で早々にクリアした。
「……ちょっと待って。まるで、自分がVtuberだって言ってるように聞こえるんだけど」
手毬も気づいたようだ。目元が険しくなる。
あたしはそれに対していたずらっぽく笑い、人差し指を口元で立てる。
「聞こえるもなにも、そゆこと。まあ、それ以上は察しろってことで」
半個室とはいえ、あまり決定的な言葉は出さない方がいい。あたしは軽く口止めをする。
「随分と思い切ったわね。アイドルはもういいの?」
「色々あってさぁ……これはこれで悪くないって思ったんだよね」
それに……と内心呟く。
それに、初星にいたころのあたしは、容姿以外に取り柄なんてないと思ってた。実際に成績も悪かったもんだから、ますますそう思い込んでた。
でも、Vtuberの世界では容姿は意味がなかった。映るのは『伏深まい』だし、モデルはどうせみんな可愛いし。
だから、容姿以外が魅力的じゃないと人気なんて絶対に出ない。今回のオーディションにしても、あたしが可愛いだけじゃ絶対に突破できない。
つまり必要なのはあたし自身の力で積み上げたもの。
そりゃ今でも自分のことは可愛いと思ってるけど、ダンスとかトークとか、そういうので戦えるんだって証明したい。
だから、やっぱりこれがいいんだ。
「あとさ……ぶっちゃけ、ここでライブやれば実質アイドルと変わんねーし?」
あらかじめ用意してた言葉をふっかける。
2人に、あたしは今でもアイドルだって伝える為に。
「つまり~、あたしは2人のライバルってこと。……いや、ライバルになりてーんだ」
2人があたしを見る目が明確に変わったのを感じた。
──そうそう、その顔が見たかったんだ。
初星時代は助けてもらってばっかりだったけど……それはあたしの望みじゃない。十王先輩と同じように、当時の仲間とだって並び立ちたい。
「あたしは絶対にこのライブに出る。だからさ、見に来てとまでは言わないけど……配信もやるらしいから、絶対に見てよ。あたしも武道館ライブ、見に行くから」
リーリヤちゃんに頼んで、チケットは確保してもらった。リーリヤちゃんと一緒に見に行く予定だ。
《STAR☆VISIONクリスマスライブショー》はクリスマスなのでギリ日程がズレてる。配信くらいなら、なんとか見れる筈だ。ほんとは会場に来てほしいけど。
「初星やめたあんたが、Vtuberになったくらいで私たちに追いつくつもり? アイドル、バカににしてるわけ?」
「これ、あたしのVのチャンネルの数字。デビューは1年前ね」
手毬にあたしのチャンネルのページを見せてやる。確かに大手の人気Vにはまだ敵わないけど、それでもV界隈ではちゃんと知名度のある、いわゆる人気のVの1人だ。
その登録者数は既に馬鹿にできるような数字じゃない。
実際、手毬も数字を見た瞬間に目を細めて黙った。
「へえ、1年でこれってやるじゃない。ことねもことねなりに、夢を追い続けてたのね」
あたしは不敵な笑みだけで応じた。
家計が苦しかったとか、バイトで力を発揮できてなかったとか、そういうことはいちいち語らない。
今のあたしが証明できるか、できないか。それだけだ。
「いいわ。その挑戦、受けて立つわ」
咲季が立ち上がり、あたしを指さす。相手の挑戦を真っ向から受ける咲季の性格は、見てて気持ちよかった。
「……言っとくけど、私たちはこの3年間全力でレッスンしてきた。まだ1年のあんたに、負けるわけないから」
ひねくれた言い方だったけど、手毬も一応は受けてくれるらしい。
口はめっちゃ悪いけど、昔からそこまで嫌いにはなれないんだよなぁ、こいつ。
いや、ユニット組みたいとかは思わなかったけど。
「清夏たちにも伝えといてな。そんじゃ、来たばっかだけどもう行くわ」
受験勉強もあるから、スケジュールはマジでカツカツだ。
実際、明美の立てた計画はガチで分刻みになっている。
これで宣戦布告も終わった。もう逃げられない。
突破すべき審査はあと2つ。
ぜーったいに突破してやるぞと、あたしは両手を強く握るのであった。