ことね「元アイドル志望にVtuberは荷が重いデス……」 作:とるてぃーや
12月に入り、冬の気配が本格的になってきた。暖房が必要なほどではないけど、服はすっかり冬仕様だ。
同時に、受験本番も近づいている。今日も詩歌の部屋に集まって、明美に勉強を見てもらってる。もらってるんだけど……あまり捗ってない。
「手、止まってるけど」
「ぇ……ああ、ごめん」
慌てて過去問を解き進める。けど、またしばらくしてペースが落ちる。まるで遅延の電車が発車と停車を繰り返すみたいに。
直後、明美の方から溜め息が聞こえた。慌てて顔を上げる。
「ちょっと」
「うっ……いやだって、しょーがねーじゃん……! 発表、今日だって……」
「だとしても、いいからやりなさいっての。アンタの都合で受験日は変わらないんだっての」
正論を前に、あたしは沈黙する。
仕方なく、勉強を再開する。ノロノロと、文句を言われないギリギリのペースで。
無言の圧は感じるけど、今日ばっかりはどうしようもない。実際、あたしほど勉強で切羽詰まってない詩歌は手を完全に止めてソワソワしている。
どっちかと言うと、なにごともなさそうにしている明美の方がおかしいんだ。部活で大会出てるから、肝が据わってるのか?
そう、今日は最終オーディションの結果の発表日。合否に関わらず結果は通知されるらしく、今はそれを待っている。
オーディションの内容は実際のステージで自由にライブを披露するというものだった。あたしは出たことないけど、N.I.AとかH.I.Fのオーディションとかと同じシステムだと思う。
……自信は、ある。かなりある。
詩歌は長いこと課題だったダンス面を大幅に克服して、激しい動きの中でもその歌唱力を存分に発揮した。
あたしは逆にボーカル面をどうにか改善したし、ダンスに関してはもはや当時の3年が相手だろうとぶっちぎれるだけの自信がある。
そして、そんな真逆の特性のあたしたちを繋いだのが、万能型の明美だ。あたしたちの中でなら、ダンスとボーカルのどっちも2位が取れるだけの実力がある。
そんなあたしたちが一致団結して練習し、オーディションに挑んだのだ。
今回のオーディションは1組だけ選ばれるというものじゃないから、N.I.Aとかより倍率は低い。だから、自信はある。
──つっても、不安なものは不安なんだよぉ~~~。
実際に頭を抱えたらまた明美に怒られるので、恰好だけは勉強をしながら心の中で叫ぶ。
そんなときだった。机に置かれていたあたしたちのスマホが鳴ったのは。
誰よりも速く、飛びつくようにしてスマホを手に取る。峰岸さんからの通話だ。
指先が急に震え始めるのを感じた。深呼吸でどうにかそれを押さえつつ、間違って切らないように気をつけながら、通話を繋いだ。
「もしもし」
「おう、ことね」
弾んだ声が画面向こうから聞こえてきた。
その瞬間、期待が一気にマックスまで跳ね上がった。
そして、その期待は間違ってなかった。叫びたい気持ちを堪えながら、峰岸さんの話を最後まで聞く。
「……はい、了解です。じゃあ、また明日」
電話を切った。
大きく息を吸って……ゆっくりと吐いた。
2人の視線を感じる。なんだかんだ言っても、明美も結果は気になっていたらしい。
普段だったらそれを弄りまくったかもしんないけど、もうあたしの方が我慢できない。
あたしは勢いよく立ち上がり、スマホを突きつける。
「結果は~~~ごうっかっく、ですっ!!」
部屋が歓喜で満たされた。それこそ、近所の家まで届きそうなくらいの勢いだった。
全員で立ち上がり、互いに喜び合う。勉強を放り出し、そのままケーキを買ってきてのお祝いが始まった。
あたしたちはお酒は飲めないけど、大人の飲み会に匹敵するくらいのどんちゃん騒ぎだった。
……後日、勢いのままに告知の為の耐久コラボ配信を始めてしまい、そのあまりの高難易度に幾度もどん底に叩き落とされ、絆が崩壊し、結局クリアまでに丸1日かかってしまうという大ピンチを迎えたのはナイショにしてほしい。
いや、全部アーカイブに載ってるケド。
***
正式に参加が決まったことで、あたしたちのレッスンは本格化した。
特性が色々とばらけてるあたしたちが100%を出すには、お互いを理解してても大変だ。とにかく繰り返し合わせるしかない。
そんな中、あたしたちは事務所に呼ばれて集まる。事務所が大きくなったのはいいけど、前より少し遠いのが玉に瑕だ。
それはさておき、集まってすぐにあたしたちはとある音源を共有された。
初めて聞くメロディーに、もしかしてと高揚感に包まれる。
「これって、もしかして完成したんですか~!?」
前のめりになって聞いてみると、峰岸さんは頷いた。
「ああ、ギリギリな。どうだ、聞いてみた感想は?」
「マジでサイコーです!」
リアルとVのあたしたちがいい感じに歌詞で表現されてるし、単純にメロディーもめっちゃ気持ちいい。
なにより、ユニットとしての初めてのオリ曲ってのがほんとに嬉しい。
「ふーん……まあ、いいんじゃない?」
「んなこと言ってぇ、嬉しいくせにぃ~」
明美の横腹を肘でつつく。うっとうしそうに手で払われるが、それこそが照れ隠しの証拠だった。
「そんでな。お前たちに決めてほしいことがある」
新曲でワイワイとはしゃいでいるあたしたちだが、峰岸さんの言葉に首をかしげる。
「正式なユニットの名前と、この曲のタイトルだ。ちゃんとライブで出るんだから、必要だろ?」
そういえばそうだった。オーディションのときは結局決まらなくて、仮の名前で出たんだよなぁ。
こうしてユニットで合格して、ユニットとしてライブに参加する以上、ちゃんとした名前を今度こそ考えないといけない。
「……どうする?」
2人に聞いてみる。詩歌は俯き、明美は難しい顔をして考え込んでしまった。
流石に今すぐは無理か。
今すぐ出てくるようならオーディションの前にとっくに決まってたわけだし。
「明後日までに提出すれば間に合うから、よろしくな。万一決まんなかったら、こっちで決めるしかなくなるから、そのつもりでな」
──ってか、曲はともかく、ユニット名に関してはもっと早く言ってくれればよかったんじゃ……。
そう思うも、現実は変わらない。あたしも忘れてたし。
残りの2日で、あたしたちはユニット名と曲名を考えることになったのであった。
まあ、歌詞から考えるよりは楽だろうけど。
*
峰岸さんとの話が終わったあと、あたしたちは話す場所を事務所内の会議室に変えた。
備え付けのホワイトボードを使って、あたしたちは案を出し合う。
「やっぱり、なるべく覚えやすい方がいいよね」
「けど、それで印象に残らなかったら意味ないでしょ。合格したとはいえ、参加者の中では明らかな新参なんだから」
「そもそも見た目からしてバラバラだかんなぁ。つか、あたしだけ人外だし」
もっと言えば西洋風のお嬢様の明美に対し、和風な獣耳のあたし。即席のときはそんなに気にならなかったけど、正式なユニットとなるとマジで水と油だ。
あたしたち演者間の仲は改善したけど、そこはどうしたって変わらない。だからこそ、これという名前が出てこない。
実際、ホワイトボードにはいくつか案が出ているけど、しっくりは来てない。
「なんか共通点とか……」
「全員JKとか?」
「身バレすんな」
頭を叩かれる。思いのほか強くて頭を押さえる。
ちくしょ~、ちょっと場を和ませようとしただけじゃん。
「けど実際、見た目とか設定以外の共通点の方がいいかもね」
と、言いますと?
「もっと本質的なとこっていうか……そもそもこうして仲良くできてること自体、少し前まではありえなかったし」
「明美が一方的に突っかかって来ただけだけどな~」
「……そうだけど。あれはちょっと、色々勘違いしてたっていうか」
「でも、そうだよね。わたしも、最初はちょっとことちゃんのこと苦手だったし」
え、マジで?
「だって、いきなり家に来るし……すごい陽キャっぽかったし……」
あれは、連絡に気づかなかった詩歌の自業自得の筈だけど、そんなことはもう忘れているっぽい。
まあ確かに、あたしも詩歌のことを正反対の世界の人間だとは思ったけど。
「でも、すごくダンスが上手で……ずっと励ましてくれて……あのときも助けてくれて。だからそんなの、あっという間になくなったよ?」
次々と出てくる褒め言葉に、あたしは視線を逸らして頬をかく。
褒められるのに弱いあたしもあたしだけど、なんでそんなスラスラ出てくんのかなぁ。
「とにかく、なにかしらが嚙み合ったからこうしてユニットができてるわけでしょ? それを深堀りしてけばいいんじゃない?」
なるほどなぁ。
でも、噛み合いねぇ……なにが噛み合ってるんだ? 結局共通点ってあんまなさそうだしなぁ。
……んん?
「似てない……別々だけど……上手くいく……」
「ことちゃん?」
「……あたしたちってさ、得意なことも性格もバラバラだけど、力を合わせたらラクショーでオーディション突破できたじゃん?」
「……あんなに不安そうにしてたのは、誰だった?」
「うっ……いや、そうだけどさ。でも、実際自信はあったっしょ?」
「まあ……そうかもね」
合否の発表時は確かに不安になったりもしたけど……やっぱり元々自信はかなりあった。
得意も性格も違うあたしたちだけど、それぞれの個性を束ねたときのパフォーマンスは想像を遥かに超えていた。
そう……束ねてた。そして、互いを尊重していた。
あたしは、それとなく自分の三つ編みを摘まみ上げて見つめる。
それから、スマホでいくつかの翻訳を通してみる。
──うん、これなら。
「なあ、だったらこんなのはどう?」
***
会場に、洗練されたコールが鳴り響く。映像越しなのに、会場の空気の震えまで伝わってくるような熱狂だ。
呼応するように、胸の中のワクワクがどんどん大きくなる。
待ちに待った本番当日。心臓はバクバク言いながらも、それがむしろほどよい緊張感で気持ちがいい。
「それでは、そろそろスタンバイお願いします」
スタッフの呼び声に応え、所定の位置に向かう。
あたしたち全員、身に着けてるのはアクタースーツだ。
学校の水着みたいに全身のラインにピッタリと貼りついていて、全身真っ黒だ。ところどころ色の着いたラインとか入ってるけど、全然おしゃれじゃない。
普通の人が思い浮かべるアイドルの衣装と比べたら、華やかさの欠片もない。
──でも、これがいいんだよなぁ。
こんなアクタースーツが、バーチャルを通せば最高の衣装に変わる。
すっかり着慣れたコレは、あたしにとっては一番のアイドル衣装だ。
「二人とも、準備はいい?」
「うん、大丈夫」
「平気だけど……アンタが声掛けするわけ?」
いいじゃん、別に。リーダーとかあるわけじゃねーし。
あたしはわざとらしくしかめっ面を作って抗議する。
「そんなこと言っといて、あんたがヘマしても知らねーからな」
「誰にモノ言ってんの。こちとら大会で慣れてるっての」
ま、最初のライブでもあたしと違って平気そうだったし、大丈夫か。
「詩歌は平気? 手でも握っとく?」
詩歌が返事をする前に、あたしは詩歌の手を両手で包む。
「もう……大丈夫って言ってるのに……」
詩歌は呆れた様子で、やんわりと手を振りほどいてくる。
昔だったら顔真っ赤だったろうに、すっかりと変わっちゃったなぁ。
「ことちゃんはどう? 初星のときのお友達、見に来てるんだよね?」
その言葉を聞いた途端、周りが静かになった気がした。
あたしは大きく息を吐いて、ゆっくりと頷いた。
「うん、そだよ。さっきも少し話したし」
なにをどうやったか分かんないけど、咲季たちは時間を作ってここに来ている。
いきなりメッセージで呼び出されて行ったときはマジでびっくりした。
「ま、あいつらに無様なとこは見せらんねーけどさ」
咲季、手毬、リーリヤちゃん、清夏……1年のときに特に仲がよかったやつらが勢ぞろいだった。
いや……手毬はどうだっけ? ……まあ、いいか。ちょっとだけおまけしよ。
よく集まれたなって思ったけど、ちょっと業界が違うってのと一般的な知名度で言ったらまだまだこれからっていうのがあるらしい。簡単な変装だけで、普通に観客として溶け込めていた。
逆に言えば、この前はちょっと落ち込んだケド、あたしだってまだ追いつけるってことだ。
今日のステージが、その分かれ目だと思う。
「よーーっし! じゃ、ほら!」
気合を入れて、あたしは手を前に突き出す。
明美は部活でやり慣れてるのか、仕方ないという感じで合わせてくれた。
それを見た詩歌も意図に気づいて手を重ねる。
──よしよし。こういうの、ちょっとやってみたかったんだよなぁ~~。
じんわりと手に集まる熱に涙腺が緩みそうになる。それをグッと堪えて、号令をかけた。
「これがあたしたちの最初の大舞台! 気合入れてくぞッ──!」
3人の声が綺麗に重なった。
そのままスタッフの案内に従って、あたしたちのステージに飛び出した。
次の瞬間、全身が歓声に包まれる。
最新の全周囲モニターに、夢見た景色がそのまま映っていた。
「──こんにちは! 『V-CACAO』所属、『Braid』で~す!」
大きく手を振る。
必ずしも全員があたしたちを目当てに来ているイベントじゃないのは分かってるけど、それでも色とりどりのサイリウムが応えてくれる。
──『Braid』
三つ編みの英語を検索したら出てきたその名前は、偶々自分の三つ編みを見て思いついたけど、割といいんじゃないかって思ってる。
一見バラバラの3つの束でもまとめて三つ編みにすれば綺麗に見えるし、簡単には解けない。
シンプル過ぎるかなって思ったりもしたけど、提案してみたら意外にもすんなりと受け入れてくれた。
「盛り上がってるかな~?」
「まだまだこれからですわよー!」
2人も負けじと声を出せば、会場のボルテージが一段と引き上げられる。
モニターで仕切られてる境界が曖昧になって、その熱気を肌で感じる。
自然と、拳に力が入る。
「しっかし、まさかこうして2人と一緒にライブに出れるなんてね~。エリカなんて、最初はあたしの実力めっちゃ疑ってたのに」
邪魔者扱いされてたときのことをそれとなく言う。
「それは致し方ないのでは? まさか神社に居着いて遊んでばかりの狐があんなに踊れると思いませんもの」
打ち合わせ通りの言葉が返ってくる。
あのころは、マジであたしがアイドル舐めてて遊び呆けてると思ってたらしいからな。
とっくに誤解は解けてるけど、思い返すとなんだか面白い。
「かすみちゃんも、最初はライブなんて無理――って感じだったのにね」
あたしがデビューする前、麻央ちゃん先輩も交えてたくさん指導した。
ゲーム以外のことは自信がなさそうだった詩歌も、今や初星にいたとしても不思議じゃないくらいに上達した。
「正体を隠してたときに、諦めずに教えてくれたからだよ。わたしのダンス、最初はこんなだったんだよ」
詩歌が当時の生まれたての小鹿ダンスを再現する。
会場から笑いが漏れる。
「──でも、ずっと隠れて暮らしてたあたしをここに引っ張り出してくれたのは、この2人」
あたしの自信を取り戻してくれて、この新しい道が魅力的だと教えてくれたのがこの2人。
詩歌がいなかったらそもそもデビューなんてしてないし、明美がいなかったら途中でくじけてた。
「この3人だから、ここまで来れた。──だから、見せてあげる」
一瞬だけ間を置いて、一気に宣言する。
「今日の出演者の中で、いっちばんのサイコーのパフォーマンスを!」
拳を突き上げる。
瞬間、歓声が爆発して脳を揺らした。
これは他のユニットへの宣戦布告だけど、あいつらへの宣戦布告でもある。
──見てろ。これが生まれ変わった藤田ことね、『Braid』の『伏深まい』だ!
「では早速1曲目! ノンストップで行くよ~!」
盛り上がりの勢いそのままに、ついにあたしたちのライブが始まった。
手始めに、ユニット用にアレンジしたあたしたちのそれぞれの持ち歌を披露する。
あたしは『伏深まい』の纏う和服の袖や尻尾の流れ方を最大限に活かして舞い踊る。
山奥にひっそりと隠れ住んでいるような神秘性はそのままに、モダンでポップなノリをがっつりとミックス。
舞えば観客は息を呑み、跳ね回れば観客は湧き立つ。
その絶え間ない変化が、楽しくて仕方がない。
2人も負けていない。
アドリブにさらなる幅が出るようになった詩歌の歌声は、どんな曲調だろうと観客を魅了できる。今ならあの手毬とだって、いい勝負ができるかもしれない。
そして、万能さという意味では明美は完全に咲季タイプだ。さすがにあの意味不明なフィジカルは備えてないけど、ステージ上でのパフォーマンスは負けていない。
そんなあたしたちが、ユニットとして同時にステージに立っているのだ。
各々の個性が爆発し、それらを束ねることで生まれる相乗効果は、雨上がりに雲の間から差し込む日差しのように綺麗だった。
その感覚が間違っていないことは、痺れるような歓声や、視界を埋め尽くすサイリウムの光が証明している。
1曲目、2曲目と終わっていく。
そして、いよいよ……。
「よっしゃ! 名残惜しいケド、これで最後! なんとなんと、ユニットとしての新曲1発目だよ!」
限界を突き抜け、会場が割れるような声が響く。
ちょっとびっくりした。モニターにヒビ入ってないよね……?
2人に視線を向ける。激しいパフォーマンスの中、汗が浮かび上がってるけど、その闘志に衰えは感じない。
同じタイミングで、小さく頷いてくれた。
「みんなー! 準備はイイ? ──それでは、ラスト1曲、『狐影ゴシック』! 突っ走っていくぞ~!」
一通りの盛り上がりの後、会場はしんと静まっていく。
あたしたちもポーズを決めて、その瞬間を待つ。
大正を感じさせるような、和洋折衷なメロディーが流れ始めた。
それに合わせて、あたしたちは歌声を重ねる。
『狐影ゴシック』
物語風につづられた歌詞に対して、あたしたち全員で考えた曲名だ。
現代っ子の少女が今どきの漫画みたいに大正にタイムスリップ。
右も左も分からずに彷徨っていたところを、ずっと寂れた神社に隠れ住んでいた妖狐の少女が手を差し伸べる。
他の妖怪のもとを訪ねたりして元の時代に戻る手助けをしていたら、妖を快く思っていない西洋人の令嬢に襲われる。
だけどやがて和解して、少女が知る未来をちょっとだけ良くする為の冒険に出るようになる。
細かいところは色々と違うけど、それでもあたしたちの出会いとすれ違い、そして心を通わせるまでの道筋を、ライバーとしてのあたしたちで再現している。
振り付けもそれに合わせていて、見方によってはミュージカルにも見える。
バラバラの色が混ざり合った結果、奇跡的に綺麗な色になったあたしたちにはピッタリの曲だ。
和笛の音色が華やかに、バイオリンの音色が切なげに。
子供のときのお祭りの盆踊りのような気持ちを思い出しながら、あたしたちは円を描くように位置を変えながら踊り続けた。
……全てを出し切り、曲が終わる。
床に倒れ込みたくなるのを我慢しながら、最後のポーズを決めた。
そして、訪れる静寂。
あれだけ鮮やかに光っていたライトが、嘘みたいに沈黙する。
──どうだった?
確かな手応えと、微かな不安。
そんなあたしに待っていたのは、想像の100倍の熱狂的な歓声。
それは、子供のころに画面越しで憧れていた景色そのものだった。
──あはは…………っ……やっ……たぁ。
……モニター越しのバーチャルライブでよかったと心の底から思った。
最新の設備でも、さすがに涙と鼻水までは読み取れない筈だから。
***
~ライブ振り返り! 応援ありがとー!~
コメント
:お疲れ!
:マジでよかったー!
:現地行きました!すげー迫力でした!
「ありがと~! あたしもすげー楽しかったよ!」
ミルクたっぷりのココアを片手に、のんびりとコメントと雑談する。
楽しんでくれた人がたくさんだってのは、同接とかコメントのスピードを見れば明らかだった。
ライブが終わってからずっと夢心地のふわふわとした感じだったけど、これを見てるとようやく大成功だったんだなって実感が湧く。
やっぱり、こうやってコメントを見ながらの配信って最高だ。
自己肯定感がギュンギュン上がる。
「この場面の振り付けはね~、あたしがずっと人間と関わってない感じを出すためにぃ……」
ライブのことを振り返りながら、次々と飛んでくる質問に答えていく。
ユニット名の由来、振り付けの意図、出ることになったきっかけ。多少の誤魔化しはあったけど、答えられる範囲で全部答えていく。
こういう裏話って、話す方も聞いてる方も楽しいんだなぁ。
コメント
:なんか最近人気の初星のアイドルがいたらしいんだけど、知ってる?
:現地の友だちが言ってた。花海咲季とか月村手毬っぽい人がいたって。
「え、そうなんだ? いよいよ我々もガチアイドルにも注目されるくらいになったかぁ~」
もちろんここはとぼける。けど、嘘ってわけじゃない。
ずっとアイドルが最強だった時代に、合同とはいえこれだけの会場でライブができた。
Vtuber自体が、そしてVtuberとしてのあたしはそれだけの存在になってきた。
「……あたしね、子供のころはアイドルになりたいなぁって思ってたんだよねぇ」
なんとなく言いたくなって、ぽつぽつと語り始める。
「見た目には自信あったし? ダンスとか結構好きだったから、習ったりして」
流石に身バレが怖いので初星のことは伏せておく。
コメント
:やっぱり習ってたんだ。ダンス最初からめっちゃ上手かったし。
:歌は下手だったけど。
「うっさい。最近はちょっと上手くなったっしょ」
そろそろ歌配信でもしてやろうか。
「……まあ結局、アイドルになる夢は全然叶わなかったけど」
コメントを眺めながら、肘をつく。
ゆったりと、ありのままの自分で。
自然と、頬が緩む。
「Vtuberになってほんとによかった。みんな、これからもよろしくね」
この一瞬だけ、『藤田ことね』としての本音を言う。
きっと、誰も気づいてないけど。
──峰岸さんも、詩歌も。誘ってくれてありがとう。
憧れを目指して、挫折した。
人生が終わったと思ってたところに、たくさんの偶然と幸運があった。
そして、もう一度だけ立ち上がってみた。
だから、今ここにいる。
Vtuberとしてはまだまだこれから。
十王先輩の背中はまだうっすらと見えるくらいだし、その前にかつての同期たちと張り合わないといけない。
でも、今度こそはきっと目指した場所に辿り着ける。
だって、諦めなければいいだけだって分かったから。
歩き続ければ、いつか……必ず。
「そういえば、次の配信なにするかまだ決めてないんだよねぇ。なにしよっか?」
だから、今日もいつも通りに配信する。
あともうちょっとだけと……眠気が限界になるまで、グダグダと。